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第三章 生誕祭
五話
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(そっか。そういう事も、書いてみていいかもしれない)
あれ以来タウネとは、時々手紙でやり取りをしている。アイリスのアドバイス……になったのかはアイリスには未だ疑問だが、あれからタウネはまた様々な事に挑戦し、少しずつ成果を上げているらしい。
(誰かの力になれる事は、嬉しい)
自然と笑みが零れたアイリスを見て、ヘイルは一瞬、その手を止めた。
「……アイリス」
「? はい」
こちらを見上げたその顔は、純真無垢なそれに見えて。
「……いや、なんでもない」
「……? そう、ですか……?」
左隣のその少女は、こてん、と首を傾けた。
「……まあ、なんだ。もっと食べろ」
「えっ、あっ、いいですいいです。大丈夫です。自分でやりますから……!」
そしてまたアイリスは、ヘイルに世話を焼かれる。
◆
「はいみんなー、いいですかー」
シャオンが庭の真ん中に立ち、その隣にはヘイルが立っている。
「いいから早く」
「続き見せてよ」
「ゾンプ、ケルウァズ、お前らは年上を敬え」
「シャオンに言われてもなぁ」
「ねぇ」
「こら、本気で怒るぞ」
午後休憩の後、充分に食休みを取って、竜の体術の授業が再開される運びとなった。
今度はアイリスもそれに参加する。竜になる練習は、午後の始めから午後休憩までと決めてあった。
見学の子竜達の座る地面には、厚手の敷物が敷かれている。モアとドゥンシーの間に座っているアイリスも、口にはしないが、今か今かと心を弾ませていた。
「で、さっきは組み手を見せたから、今度はちょっと違う事をします」
と、シャオンが言うと。
「えー、もっと組み手見せてよ」
「ケルウァズ、物事には本来順序があんの。組み手だって本当は、基礎をきっちりやってからやるもんなんだからな?」
「……基礎って、どんなのですか?」
そこに、ドゥンシーが質問をする。
「うん。まずはそれを見せようって、ヘイルと話した。から、これからそれを見せるよ」
そう言って、シャオンはヘイルを見る。ヘイルもそれを見返し、一つ頷くと、右手を前に出し、その手のひらを上に向けた。
「まず、翼無しでの体術は、翼有りと同様、魔力と筋力、そして持久力が重要な要素だ」
ヘイルはその低い声と共に、手のひらから水を湧き上がらせる。
「この状態は、ただ魔力を練って、水を作っているだけだ。しかも手の動きの補助付きで、突っ立ったままな。だが、これを動きながら──体術となると激しく動きながら、補助無しで維持しなければならない」
アイリスはヘイルの言葉を、手元のノートにメモしていく。左を見ると、ドゥンシーも同じ事をしていた。
「で、だ。これが、慣れるまで結構難しい。……誰か、やってみるか?」
「はい! おれやりたい!」
「僕もやりたい」
「わ、私も……!」
ゾンプとケルウァズと、ドゥンシーもおずおずと手を上げた。
「分かった。では、こっちに立って、やってみろ」
三竜は手早く靴を履き、タタタッとヘイルの元まで駆けていく。
「じゃ、こっちはカバーしとくね」
シャオンがアイリス達の方へ歩いてきて、ストン、と敷物に座る。
「え、座るの?」
「まあまあ」
ダンファの驚き混じりの顔と声に、シャオンは手をひらひらと振って、「では」と一言。
「えっ」「わ」「ひぇっ」「え」
音もなく、ドーム型の防御壁が、シャオン達を覆うように構築された。
「え、こ、これは……?」
戸惑うアイリスに、シャオンはそちらへと顔を向けながら答える。
「これはね、水跳ね避け」
「み、水跳ね避け……?」
「そ。十中八九、盛大に水が飛び散るからね、あれは」
「水が、飛び散る?」
「そ。まあ見てれば分かるよ。ほら」
モアの問いに、シャオンはヘイル達を指し示す。
そちらではもう既に、ゾンプ達が水を構築しているところだった。
あれ以来タウネとは、時々手紙でやり取りをしている。アイリスのアドバイス……になったのかはアイリスには未だ疑問だが、あれからタウネはまた様々な事に挑戦し、少しずつ成果を上げているらしい。
(誰かの力になれる事は、嬉しい)
自然と笑みが零れたアイリスを見て、ヘイルは一瞬、その手を止めた。
「……アイリス」
「? はい」
こちらを見上げたその顔は、純真無垢なそれに見えて。
「……いや、なんでもない」
「……? そう、ですか……?」
左隣のその少女は、こてん、と首を傾けた。
「……まあ、なんだ。もっと食べろ」
「えっ、あっ、いいですいいです。大丈夫です。自分でやりますから……!」
そしてまたアイリスは、ヘイルに世話を焼かれる。
◆
「はいみんなー、いいですかー」
シャオンが庭の真ん中に立ち、その隣にはヘイルが立っている。
「いいから早く」
「続き見せてよ」
「ゾンプ、ケルウァズ、お前らは年上を敬え」
「シャオンに言われてもなぁ」
「ねぇ」
「こら、本気で怒るぞ」
午後休憩の後、充分に食休みを取って、竜の体術の授業が再開される運びとなった。
今度はアイリスもそれに参加する。竜になる練習は、午後の始めから午後休憩までと決めてあった。
見学の子竜達の座る地面には、厚手の敷物が敷かれている。モアとドゥンシーの間に座っているアイリスも、口にはしないが、今か今かと心を弾ませていた。
「で、さっきは組み手を見せたから、今度はちょっと違う事をします」
と、シャオンが言うと。
「えー、もっと組み手見せてよ」
「ケルウァズ、物事には本来順序があんの。組み手だって本当は、基礎をきっちりやってからやるもんなんだからな?」
「……基礎って、どんなのですか?」
そこに、ドゥンシーが質問をする。
「うん。まずはそれを見せようって、ヘイルと話した。から、これからそれを見せるよ」
そう言って、シャオンはヘイルを見る。ヘイルもそれを見返し、一つ頷くと、右手を前に出し、その手のひらを上に向けた。
「まず、翼無しでの体術は、翼有りと同様、魔力と筋力、そして持久力が重要な要素だ」
ヘイルはその低い声と共に、手のひらから水を湧き上がらせる。
「この状態は、ただ魔力を練って、水を作っているだけだ。しかも手の動きの補助付きで、突っ立ったままな。だが、これを動きながら──体術となると激しく動きながら、補助無しで維持しなければならない」
アイリスはヘイルの言葉を、手元のノートにメモしていく。左を見ると、ドゥンシーも同じ事をしていた。
「で、だ。これが、慣れるまで結構難しい。……誰か、やってみるか?」
「はい! おれやりたい!」
「僕もやりたい」
「わ、私も……!」
ゾンプとケルウァズと、ドゥンシーもおずおずと手を上げた。
「分かった。では、こっちに立って、やってみろ」
三竜は手早く靴を履き、タタタッとヘイルの元まで駆けていく。
「じゃ、こっちはカバーしとくね」
シャオンがアイリス達の方へ歩いてきて、ストン、と敷物に座る。
「え、座るの?」
「まあまあ」
ダンファの驚き混じりの顔と声に、シャオンは手をひらひらと振って、「では」と一言。
「えっ」「わ」「ひぇっ」「え」
音もなく、ドーム型の防御壁が、シャオン達を覆うように構築された。
「え、こ、これは……?」
戸惑うアイリスに、シャオンはそちらへと顔を向けながら答える。
「これはね、水跳ね避け」
「み、水跳ね避け……?」
「そ。十中八九、盛大に水が飛び散るからね、あれは」
「水が、飛び散る?」
「そ。まあ見てれば分かるよ。ほら」
モアの問いに、シャオンはヘイル達を指し示す。
そちらではもう既に、ゾンプ達が水を構築しているところだった。
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