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第三章 生誕祭

三話

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「あら、どうかいたしましたか?」

 と、そこへ声がかかる。大きなバスケットを持ったファスティが、家からこちら──庭へ、出てきたところだった。

「アイリスさんのお顔が優れないようですが……」
「いっ、いえ! そんな事ないです、大丈夫です! さっきも竜、えっと、翼有りの練習をしてて、昨日より高く飛べました!」

 アイリスは慌てたように手を振って、「ブランゼンさんに、褒めてもらってたんです」と、はにかんだ。

「そうでしたか。それは良うございました」

 ファスティはゆったりと微笑み、一つ頷くと、

「では、午後の休憩にいたしましょう」
「それは良いわね、ファスティ。アイリスもいい?」
「はい。みんなにも──」

 と、ヘイル達の方へ、アイリスが目を向けると。

「ちょっ、ヘイル?! もっと優しくして欲しいんだけど?!」
「これくらいで何を言う。しごかれていた時はもっと厳しかっただろう」

 ヘイルとシャオンが、組手をしているところだった。

「良し、皆、見てろ。基本の風の斬撃はこうだ」

 二竜ふたりの距離が少し空いたと思ったら、ヘイルはそう言って、

「ちょっと?!」

 文字通り、風で出来た斬撃を放つ。

「なんでそんなノリノリなのさ?!」

 と、言うシャオンも、同じく風の斬撃を放ち、ヘイルのそれを相殺した。

「「「「おぉー!」」」」

 それを見学するゾンプ達は声を上げたり、パチパチパチと手を叩いたり。

「……すごい……」

 自分も間近であれを見たい。そんな思いもありつつ、アイリスは、感嘆の言葉を口にする。

「みんなー! おやつにしましょー!」

 ブランゼンが呼びかけると、

「ほら! おやつだって! 終わり終わり!」

 シャオンがヘイルからさらに距離を取り、追撃に備えて防御の魔法壁を構築しつつ、そう言った。
 それを聞いて、

「おやつ!」

 と、ゾンプは振り返り、

「じゃ、一旦終わりね」

 と、ケルウァズがシャオンに向かって言う。

「一旦なの……? またやんの……? 俺、今日、休みだった筈なんだけど……?」

 シャオンは魔法壁を解きながら、げんなりとそれに応じ、ヘイルへと顔を向けた。

「……まあ、どちらにしろ今は休憩という事だ」
「ねえそれ、また後で組手しろって暗に言ってるよね?」
「さあな」
「もぉーさぁー」

 子竜こども達が、いつもの大きなテーブルへと駆けていくのを眺めながら、ヘイルとシャオンはそんなやり取りをする。

「はいはい、二竜ふたりとも。それはともかく並べるの手伝って」

 ブランゼンは言いながら、ファスティがバスケットから出す皿や器を受け取り、テーブルに並べていく。その皿や器には、木苺やブルーベリー、ラズベリーなどを使ったタルト、様々な色や形のクッキー、パウンドケーキ、マカロン、メレンゲのクッキーにプリンやゼリーまで。それらは色とりどりに、テーブルを飾っていく。

「すごい種類あるね」

 シャオンがちょっとばかり驚いたような、呆れたような声で言う。

「これ、昨日のうちにファスティとアイリスが下準備してくれたのよ?」

 その声音に気付いているブランゼンが、ほんの少し目を眇めた。

「あ、うん。いや、ちょっと驚いただけです。はい」

 それにシャオンは僅かに身を引き、頭を下げて、ブランゼンからマカロンの乗った皿を受け取った。

「……作り過ぎたでしょうか……?」

 アイリスも取り分け皿などを持ちながら、先ほどのシャオンの言葉に不安そうに菓子類を眺める。

「シャオン?」

 凄んだ声のブランゼンに、

「いやっ、アイリス! 全然全然! 食べきれるってこれくらい! な! ヘイル!」
「まあ、成竜おとな四竜よにんに、食べ盛りがこれだけいる。大丈夫だろう」

 ヘイルもファスティからカトラリーを受け取りながら、周りを見渡しそう言った。
 今日は、ゾンプとモア、ダンファにケルウァズに、ドゥンシーとズィンという、アイリスとの勉強会をする竜達が、全員揃っている。成竜も子竜も人間も、合わせて総勢十一名。
 テーブルに、いつものようにめいっぱい置かれたスイーツ達は、綺麗さっぱり無くなるだろうと思われた。

「なら、良かったです」

 安心したようにほっと息を吐くアイリスを見ながら、ヘイルは続ける。

「しかし、大変だったろう。これをほとんど、魔法無しで作ったと聞いたが」


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