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第二章 竜の文化、人の文化

ジェーンモンド家の人々 7

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 悲痛な、今にも倒れそうな顔をして、ローガンは言葉を放つ。

「……なぁ、クロエ……! 僕らの娘だろう……?! リリィにとっては、たった一人の妹だ! 心を砕かずにいられるか……!」
「…………ええ……そう、ですね…………」

 クロエは、なんとかそれだけ口を動かした。
 あまりにも。あまりにも当たり前で、しかしこの家では当たり前でないと思っていた事を、この目の前の男が言ったものだから。
 僕らの娘。たった一人の妹。なんという素晴らしい響きだろう。なんという皮肉な言葉だろう。

(あなたは、これまで。どれだけ家族の事を見てきたというの?)

 口をついて出そうになった言葉を、クロエは飲み込む。
 この目の前の男が、自分の夫が、優しい人間である事はよく知っている。けれど、それと同じくらい、仕事人間である事も知っていた。それは、今までずっと、家族よりも仕事を優先していた事からも明らかだった。
 なのに。

(今更、何を。あなたは何を言っているの? アイリスが居なくなって、それで? どうしてそこまで言えるっていうの?)

 あなたはアイリスを、どう思っていたの?
 ああ、「僕らの娘」だと、言っていたのだった。

(けど、私は違う。あなたがあの子を愛していたと今更に知ったけれど、私は。私は、あの子を、持て余していた)

 クロエは下唇を噛む。握っていた両手に、無意識に力を込めた。

「……すまない、クロエ。矢継ぎ早に、言い過ぎた。君も傷ついているというのに……」

 クロエのその動作を、悲しみと受け取ったのだろう。ローガンは、クロエを優しく抱き締めた。

「時間が経ってしまっているのは、仕方がない。けれど、僕はあの子を諦めきれない。……クロエ、君にも、まだ、諦めて欲しくないんだ。……すまない」
(諦める。諦める? あなたはまだ、そう言うの? あなたはこの家について何一つ、分かってはいないというのに?)

 呆れが来て、思わず乾いた笑いが出そうになった。けれど、そんな事をすれば、この男は自分の気が狂ったのではないかと、要らぬ心配をするだろう。
 ……ああ、なんて馬鹿らしい。

「……いいえ、ローガン。謝らないで。あなたが諦めないと言うのなら、私も諦めないと言いましょう。アイリスを、あの子を、全力で探すと、誓います」

 手を解き、ローガンを抱き締め返す。それに呼応するように、ローガンも腕の力を強めた。

「クロエ……すまない……。……ありがとう……」

 とんだ茶番だと、クロエはどこか遠くで思った。
 吐き気がする。頭痛がする。目眩がする。耳鳴りがする。

(あなたの事は、愛しているの。……でもね、ローガン。私は、自分の娘を、……愛する事が出来なかったの)

 愛する夫を抱き締める、その細い指の先は、どこまでも、冷え切っていた。


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