竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師

文字の大きさ
上 下
90 / 117
第二章 竜の文化、人の文化

三十九話

しおりを挟む
「言われれば……抱き上げた時など、軽いとは思ったが」

 ヘイルはそう呟き、

「……ごめんなさい、アイリス……今まで気付かなくって……小柄だからとか、人間を見慣れてないからとか、言い訳にしかならないわよね……」

 ブランゼンは愕然としている。
 二竜ふたりとも、アイリスの〈痩せ過ぎ〉な点を、とても気にかけているようだった。

「そっ、そんなお二竜ふたりとも! そんなに気にしないで下さい! 現に、今の食生活を続ければ健康になっていくって、ウェイレ先生も仰っているじゃないですか! そうですよね? ウェイレ先生!」
「うん、そうだね。……でも」

 ウェイレは頷いてから、顎に手をやり真剣な表情になる。

「ボクとしては、これで終わりじゃなくて、定期健診をしたいなぁ。少なくとも隔週か、週一か……痩身な点以外にも、竜とは違うその体が今後どうなっていくか、いかないか。きちんと記録を取るべきだと、ボクは思うよ」

 ウェイレの言葉に、アイリスは納得と共に申し訳無さを感じた。

「そんな、定期健診なんて、……そう仰っしゃられるなら、必要、だとは、思いますが……そこまでお手を煩わせる訳には……」
「いやぁ、ボク自身はいいんだけどね。立場がね。一応これでも、この玻璃の城の侍医を任されてるもんだから、そんなにアイリスちゃんのとこにも行けないし。かと言って、アイリスちゃんにわざわざ来てもらうのも大変だろうし。どうしたもんかねぇ、ヘイル?」

 ウェイレが言いながら顔を向ければ、ヘイルは腕を組み、考え込むように目を細めていた。

「……そうだな。ウェイレの言う通り、定期の健診は必要だろう。……本当なら、もっと早くにこうするべきだった。アイリス、気付いてやれなくて済まなかった」
「いえ?! そんな、全然!」

 本当に済まなそうな顔をするヘイルに、アイリスは慌てて首を振る。

「でも、そうすると、アイリスの健診は誰か別の医師に頼む事になるの? 私は、出来ればウェイレに診てもらうか、……もしくは、ファスティ……そうよ! ファスティがいるじゃない!」

 首をひねっていたブランゼンが、声を張り上げる。

「ねえファスティ。あなたなら、医師の資格も持ってるし、人間の資料を渡しても問題ないでしょうし、なによりアイリスの傍にいられるわ!」

 ブランゼンの言葉に、ファスティは少し微笑んで、

「そうですねぇ。その通りではございましょうが」

 その顔を、ヘイルへと向け、

「坊ちゃま、ブランゼンお嬢様のご提案、如何でございましょう?」
「そうだな。今のところ、それが最良に思える。だが、ファスティの健診だけでなく、やはりウェイレにも、都合をつけて診て貰いたい」

 ヘイルの言葉に、ウェイレはこくんと頷く。

「いいよー。というか、診せてもらえるなら万万歳だよ。けど、その都合、つけるのはヘイルだからね?」
「分かってる」
(み、見る間に……物事が決まっていく……)

 ヘイル達のやりとりに口を挟めなかったアイリスは、その光景にぽかんとしながらも、特に不満もない事もあって、黙って話を聞いていた。

「したら、健診についてだけど。ファスティさんが傍にいられるってことなら、二日にいっぺんの頻度で記録を付けてもらって、ボクが診るのは月一ぐらいのが、城の都合もつけやすいかな?」

 どう? と、周りを見回すウェイレ。アイリスは判断がつけられず黙ったままだったが、ヘイルとブランゼンはそれに頷く。

「そうだな。それがいいと思う。ファスティ、いいか?」
「畏まりました」

 ファスティはそれを受け、改まったように礼をした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

処理中です...