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第二章 竜の文化、人の文化

三十三話

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 その威勢の良い声に、思わずアイリスの肩が跳ねる。

「ウェイレ、今は少し静かに喋ってくれ」

 ヘイルが言うと、真っ白な服を身に纏っているウェイレと呼ばれたその女性は「あ、ごめん」と頭に手をやった。鮮やかな紫のそれを、自分でピシリと叩く。

「アイリス、紹介する。彼女はウェイレ・フォーフリゼ。この都で、俺の侍医として働いている。ウェイレ、彼女が、俺がこの都で保護している人間の、アイリス・リストァルだ」
「はじめまして~お噂はかねがね聞いているよ、アイリスちゃん」

 手をひらひらと振るウェイレを見、次にヘイルへと視線を移し、またウェイレへと戻したアイリスの目は、これでもかと見開かれていた。

「どうした? アイリス」
「ウェイレの登場の仕方に驚いたんじゃないの?」
「ブランったら辛辣だねぇ」

 驚いた、というより混乱でもしているような顔つきで、アイリスは口を一旦開け、閉じ、その混乱を収めるように深呼吸をする。そしてとても慎重に、神妙な顔つきで、ウェイレへと顔を向けた。

「あの、はじめまして。アイリス・リストァルと申します。……その、つかぬことをお聞きしますが……、……フォーフリゼさんは、女性、で、あってますか?」
「え、うんそうだよ~。ボクは心も体も女だよ! それと、良かったらウェイレって呼んで欲しいな!」

 ニコッ! と満面の笑みと共に親指を立てるウェイレに、

「あ、えと、では、お言葉に甘えて、ウェイレさん。もう一つ、質問が……」
「うん、なになに?」
「ウェイレさんは、このお城の〈侍医〉でいらっしゃるのですよね?」
「そうだよ~ヘイルに拾ってもらったのさ!」
「えっ? いや、えっと……すると、お医者様、という事ですよね……?」
「そうだね。闇医者とかじゃなくてちゃんとした資格を持つ医師だよ! あ、もしかしてアイリスちゃん、竜の医者は初めてだから不安があるかな?」
「あっいえ! それはっ、全然! 竜なのはっ、全然!」

 アイリスは首を結構な速度で横に振る。

「全然、大丈夫なのですが……」
「ふむん?」

 座るアイリスの目線に合わせ、屈んで首を傾げるウェイレ。ブランゼンも、案じる様子で同じ様に屈む。

「どうしたの? 気になる事はなんでも言っていいのよ、アイリス」
「いえ、あの」

 こちらを気遣う視線のヘイルと、安心させるようなファスティの眼差しと、笑顔のウェイレと心配そうなブランゼンを見て、アイリスは意を決した様に言葉を発した。

「そのっ、こちらには女性のお医者様もいらっしゃるとは聞いてましたが、本当に目にして、驚いて、しまって……それにまさか、〈侍医〉という立場の方まで! 女性が担えるなんてって......! 驚いてしまったんですごめんなさい!!」

 言い切ると同時に、ガバリと頭を下げる。

「あ、そういうことかぁ」

 そんなアイリスをウェイレは気にした様子もなく、納得、といった顔になった。

「……人の世界は、女性の医師がいないのか?」
「……いない、と言いますか、居てはならない、と言いますか……」

 問いかけたヘイルに、顔を上げながら答えるアイリス。

「医療行為は基本、男性の仕事とされるんです。女性も、その〈お手伝い〉くらいならしてもいいんですが……医術はその行為も、学ぶ事も良しとされません」
「こっちもあれだけど、人間の世界も世知辛いんだねぇ」

 しみじみと言うウェイレの言葉に、アイリスは疑問符を頭に浮かべた。

「? 前に、私の家に来てくれる子のご両親がお医者様だと伺いましたが……それに、ウェイレさんはこのお城の侍医でもあるんですよね? なら、竜の世界では女性も医術を修められると、いう、訳では無いのですか?」
「んー……女も学べるし、一応医者にもなれるけど、その門戸は狭いし風当たりは強いねぇ」
「そうなのですか?」
「そうなんですよ」

 うん、と首を縦に振ったウェイレと目を瞬かせるアイリスを見、ヘイルが口を開く。

「当時別の都で医師として働いていたウェイレは、女である事、そしてその若さで腕も立つという理由で、勤め先の医療関係者共から邪険に扱われていた」

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