77 / 117
第二章 竜の文化、人の文化
二十六話
しおりを挟む
そのじっくりが上手い具合に行かなかったと少し落ち込みながら、木の陰を抜けて行く。
(家の事も、ヘイルさんの事も。……竜自体の事だって)
まだまだ分かってない事だらけなのに、と声には出さずに口を動かす。
「……」
竜。それに魔法、魔力。
魔力は人にも流れているのに、大多数の人は魔法を使えない。
「……でもそれは、魔力の量が少ないから」
人間でも、元から魔力の多い者──例えば王族などであれば、魔法は使える。
(それに)
今のアイリスのように、魔力を沢山分けてもらえば同じ事が出来るとも知った。
「……うーん」
家の前まで戻ってきたアイリスは、最近ファスティが良く座る椅子に腰掛け、頬杖を突く。
「……そもそも」
幻と言われている竜が実在し、自分達人間のような姿も持つ事。
それ自体驚きな筈だったのだが、一度に様々な事が起こり、またアイリス自身の興味もそちらに寄ってしまい。
(なんだか、程よく忘れてしまうのよね……)
自分で自分に呆れながら、アイリスは腕を組んだ。
「竜の姿……は、二つ……」
彼らはそれを、『翼有り』と『翼無し』などと呼んでいる。
「変身とはまた違うって……言っていたっけ……」
変身は見た目を変える。
しかし、あれは変わっているのではなく、元が同じであるからと……。
「うーん……?」
一つの姿しか持たないアイリスには、その感覚がいまいち掴めない。
頭を捻り、
「んー……ん?」
あるところではた、とその動きが止まった。
「……私」
姿勢を戻し、徐に自分の手を見つめる。
(私の中の、魔力)
今この、見つめている手に、その瞳に、身体の中に流れる魔力。
それは。
「ヘイルさんと、同じ」
(同じ。同質の魔力で)
それを感じ、今は魔法も使える。
そこまで思い至ったアイリスは、またある可能性を思い浮かべる。
(……なら)
今の自分は、これまでより竜に近いとも、言えるかも知れない。
(だとしたら、竜にしか出来る事が)
自分にも、出来る?
例えば、今思い描いていたもの────
「……あ」
その瞬間、身体が軽くなったように感じ、アイリスは自然と瞼を閉じた。
辺りに風が吹き、身を任せる。
ふわりと、
(…………え?)
ふわりと身体が持ち上がり、ぱちりと目を開ける。
広く高い視界が、目の前に広がっていた。
「……え、……えっえぇえ?!」
その叫び声は虚空に溶け、アイリスは地上が遙か下にある事を目で捉える。
「なっなんで、何が……っ?!」
それと共に目に入った、見覚えのある色。
自分の髪と同じ亜麻色の鱗、爪、そして長い尾と翼。
「……まさか」
目を見張り、息を呑む。身体が強張り、途端周りを舞っていた風が止んだ。
「……っえ!」
背中の奇妙な感覚が止まり、身体が傾ぐ。
「──えぇええぇええ!」
翼を動かさなければ、このまま落ちる。
アイリスは即座に、それだけは理解した。
(っでも! どうやって?! どう動かすのが正解なの?! 私どうやってこの高さまで飛んだの?!)
眼下には煌めく玻璃の都が広がっている。その外側には緑深い不還の森。
「っ……景色は! とっても良いけどぉ!」
声を上げても落ちる速度は変わらない。
(ど、どうすればっ……! 誰か……!!)
真っ白になりかけた思考の端で、その名前が頭に浮かんだ。
「────ヘイルさんッ!!」
(家の事も、ヘイルさんの事も。……竜自体の事だって)
まだまだ分かってない事だらけなのに、と声には出さずに口を動かす。
「……」
竜。それに魔法、魔力。
魔力は人にも流れているのに、大多数の人は魔法を使えない。
「……でもそれは、魔力の量が少ないから」
人間でも、元から魔力の多い者──例えば王族などであれば、魔法は使える。
(それに)
今のアイリスのように、魔力を沢山分けてもらえば同じ事が出来るとも知った。
「……うーん」
家の前まで戻ってきたアイリスは、最近ファスティが良く座る椅子に腰掛け、頬杖を突く。
「……そもそも」
幻と言われている竜が実在し、自分達人間のような姿も持つ事。
それ自体驚きな筈だったのだが、一度に様々な事が起こり、またアイリス自身の興味もそちらに寄ってしまい。
(なんだか、程よく忘れてしまうのよね……)
自分で自分に呆れながら、アイリスは腕を組んだ。
「竜の姿……は、二つ……」
彼らはそれを、『翼有り』と『翼無し』などと呼んでいる。
「変身とはまた違うって……言っていたっけ……」
変身は見た目を変える。
しかし、あれは変わっているのではなく、元が同じであるからと……。
「うーん……?」
一つの姿しか持たないアイリスには、その感覚がいまいち掴めない。
頭を捻り、
「んー……ん?」
あるところではた、とその動きが止まった。
「……私」
姿勢を戻し、徐に自分の手を見つめる。
(私の中の、魔力)
今この、見つめている手に、その瞳に、身体の中に流れる魔力。
それは。
「ヘイルさんと、同じ」
(同じ。同質の魔力で)
それを感じ、今は魔法も使える。
そこまで思い至ったアイリスは、またある可能性を思い浮かべる。
(……なら)
今の自分は、これまでより竜に近いとも、言えるかも知れない。
(だとしたら、竜にしか出来る事が)
自分にも、出来る?
例えば、今思い描いていたもの────
「……あ」
その瞬間、身体が軽くなったように感じ、アイリスは自然と瞼を閉じた。
辺りに風が吹き、身を任せる。
ふわりと、
(…………え?)
ふわりと身体が持ち上がり、ぱちりと目を開ける。
広く高い視界が、目の前に広がっていた。
「……え、……えっえぇえ?!」
その叫び声は虚空に溶け、アイリスは地上が遙か下にある事を目で捉える。
「なっなんで、何が……っ?!」
それと共に目に入った、見覚えのある色。
自分の髪と同じ亜麻色の鱗、爪、そして長い尾と翼。
「……まさか」
目を見張り、息を呑む。身体が強張り、途端周りを舞っていた風が止んだ。
「……っえ!」
背中の奇妙な感覚が止まり、身体が傾ぐ。
「──えぇええぇええ!」
翼を動かさなければ、このまま落ちる。
アイリスは即座に、それだけは理解した。
(っでも! どうやって?! どう動かすのが正解なの?! 私どうやってこの高さまで飛んだの?!)
眼下には煌めく玻璃の都が広がっている。その外側には緑深い不還の森。
「っ……景色は! とっても良いけどぉ!」
声を上げても落ちる速度は変わらない。
(ど、どうすればっ……! 誰か……!!)
真っ白になりかけた思考の端で、その名前が頭に浮かんだ。
「────ヘイルさんッ!!」
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる