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第二章 竜の文化、人の文化

二十六話

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 そのじっくりが上手い具合に行かなかったと少し落ち込みながら、木の陰を抜けて行く。

(家の事も、ヘイルさんの事も。……竜自体の事だって)

 まだまだ分かってない事だらけなのに、と声には出さずに口を動かす。

「……」

 竜。それに魔法、魔力。
 魔力は人にも流れているのに、大多数の人は魔法を使えない。

「……でもそれは、魔力の量が少ないから」

 人間でも、元から魔力の多い者──例えば王族などであれば、魔法は使える。

(それに)

 今のアイリスのように、魔力を沢山分けてもらえば同じ事が出来るとも知った。

「……うーん」

 家の前まで戻ってきたアイリスは、最近ファスティが良く座る椅子に腰掛け、頬杖を突く。

「……そもそも」

 幻と言われている竜が実在し、自分達人間のような姿も持つ事。
 それ自体驚きな筈だったのだが、一度に様々な事が起こり、またアイリス自身の興味もそちらに寄ってしまい。

(なんだか、程よく忘れてしまうのよね……)

 自分で自分に呆れながら、アイリスは腕を組んだ。

「竜の姿……は、二つ……」

 彼らはそれを、『翼有り』と『翼無し』などと呼んでいる。

「変身とはまた違うって……言っていたっけ……」

 変身は見た目を変える。
 しかし、あれは変わっているのではなく、元が同じであるからと……。

「うーん……?」

 一つの姿しか持たないアイリスには、その感覚がいまいち掴めない。
 頭を捻り、

「んー……ん?」

 あるところではた、とその動きが止まった。

「……私」

 姿勢を戻し、おもむろに自分の手を見つめる。

(私の中の、魔力)

 今この、見つめている手に、その瞳に、身体の中に流れる魔力。
 それは。

ヘイルさんと、同じ」
(同じ。同質の魔力で)

 それを感じ、今は魔法も使える。
 そこまで思い至ったアイリスは、またある可能性を思い浮かべる。

(……なら)

 今の自分は、これまでより竜に近いとも、言えるかも知れない。

(だとしたら、竜にしか出来る事が)

 自分にも、出来る?
 例えば、今思い描いていたもの────

「……あ」

 その瞬間、身体が軽くなったように感じ、アイリスは自然と瞼を閉じた。
 辺りに風が吹き、身を任せる。
 ふわりと、

(…………え?)

 ふわりと身体が持ち上がり、ぱちりと目を開ける。
 広く高い視界が、目の前に広がっていた。

「……え、……えっえぇえ?!」

 その叫び声は虚空に溶け、アイリスは地上が遙か下にある事を目で捉える。

「なっなんで、何が……っ?!」

 それと共に目に入った、見覚えのある色。
 自分の髪と同じ亜麻色の鱗、爪、そして長い尾と翼。

「……まさか」

 目を見張り、息を呑む。身体が強張り、途端周りを舞っていた風が止んだ。

「……っえ!」

 背中の奇妙な感覚が止まり、身体が傾ぐ。

「──えぇええぇええ!」

 翼を動かさなければ、このまま落ちる。
 アイリスは即座に、それだけは理解した。

(っでも! どうやって?! どう動かすのが正解なの?!  私どうやってこの高さまで飛んだの?!)

 眼下には煌めく玻璃の都が広がっている。その外側には緑深い不還かえらずの森。

「っ……景色は! とっても良いけどぉ!」

 声を上げても落ちる速度は変わらない。

(ど、どうすればっ……! 誰か……!!)

 真っ白になりかけた思考の端で、その名前が頭に浮かんだ。

「────ヘイルさんッ!!」


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