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第二章 竜の文化、人の文化
十七話
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光が舞い、炎が飛び、水が意志を持つようにうねる。
『いやーさー、俺も最近運動不足だと思ってたんだよ』
シャオンは笑いながら空を駆け、
『私は違います!』
その鋭い蹴りを半身で躱し、タウネも同様の動きを見せる。
「……なんで昨日のが、撮れてんだ?」
ダンファの呟きに、ややあってから、僅かに震える声が応えた。
「……その、見たものを焼き付けるので無く……その意識や記憶を、焼き付けるならばと……ほんの少し、考えてしまって」
アイリスはこれがいつ壊れやしないかと、映像に目を向けたまま話す。
「それで、記憶ならば……いつの記憶でも、鮮明であれば……もしかして、と……こんな事に……」
壊れはしないが、映像は飛び飛びに切り替わる。
(私の思いが強く出てるんだわ……どの場面も、より詳しく見たかったところ……)
アイリスの言葉に、理解したような、どうにも掴み倦ねるような。周りはそんな表情になる。
「……そんな使い方、初めて、見た……」
「ええ、私もです」
「誰もやった事、というか考えた事ないんじゃないかしら……?」
そんな中、ぽつりと。
「やはり聞くと見るとでは違うな。タウネの動きのキレが、思ったより良い」
ヘイルが面白そうに言うと、ゾンプが「そう、そこ」と頷いた。
「前に聞いちゃいたけどさ、ここまでいってるとは思わなかった」
「おねーちゃんは愛されてる」
モアも頷く。
「え、あ。そういう事だったんですか……?」
美しいとも言える動きを見せていた二竜。シャオンは解るがタウネについて、ただ齧っただけには思えなかったが。
(テイヒさんのためだったの)
「うん。だってさ、普通やるにしても攻撃魔法だけだし。こういう、なんて言ったっけ?」
「対竜近接戦闘、無翼時」
ケルウァズが流暢に答え、ゾンプはまた「そうそれ」と頷いた。
「その対竜近……なんちゃらまでやろうとするのは少数派だし。てか居ないだろ」
これでなー後は度胸なんだけどなーと、ゾンプは腕を組む。
「……少し聞いたが、こういったものにも興味があるのか?」
金剛の瞳がこちらを向いて、アイリスは思わず詰まった。
「ぅ……その、少し……すみません。はしたないのは、理解しているんですが……」
別の意味で俯くアイリスの耳に、ヘイルの声が穏やかに響く。
「いや? 俺でよければ教えられると、思ってな」
「っえ」
「まじ?!」
「ヘイルさん出来るの?!」
顔を上げたアイリスと同時に、ゾンプとケルウァズが声を上げる。
「貴方あれ覚えてるの?」
「それなりにな。息抜きにもなる」
「坊ちゃまはお強いですからねえ」
ふふ、と笑ったファスティの言葉に、幾つかの瞳が煌めく。
「え、じゃ、教えて! 満遍なく!」
「お、おれも! や、ここまでじゃないけど……」
「っ……わ、私も……!」
ケルウァズとゾンプにドゥンシーが、いっぺんにヘイルへ身を乗り出した。
「わっ?!」
「っ、アイリス!」
押されるように体勢を崩しかけたアイリスの腕を、ヘイルが掴んで引き寄せる。
「す、すみません……!」
倒れ込んでしまった身体を離そうと、アイリスは慌てて足に力を込めた。
「ゆっくりでいい。また倒れると良くない」
「は、はい」
声が近い。上を向けない。またやってしまった。
そんな事を考えるアイリスの目に、盤面の緑が見えた。
「……ぇ?」
『いやーさー、俺も最近運動不足だと思ってたんだよ』
シャオンは笑いながら空を駆け、
『私は違います!』
その鋭い蹴りを半身で躱し、タウネも同様の動きを見せる。
「……なんで昨日のが、撮れてんだ?」
ダンファの呟きに、ややあってから、僅かに震える声が応えた。
「……その、見たものを焼き付けるので無く……その意識や記憶を、焼き付けるならばと……ほんの少し、考えてしまって」
アイリスはこれがいつ壊れやしないかと、映像に目を向けたまま話す。
「それで、記憶ならば……いつの記憶でも、鮮明であれば……もしかして、と……こんな事に……」
壊れはしないが、映像は飛び飛びに切り替わる。
(私の思いが強く出てるんだわ……どの場面も、より詳しく見たかったところ……)
アイリスの言葉に、理解したような、どうにも掴み倦ねるような。周りはそんな表情になる。
「……そんな使い方、初めて、見た……」
「ええ、私もです」
「誰もやった事、というか考えた事ないんじゃないかしら……?」
そんな中、ぽつりと。
「やはり聞くと見るとでは違うな。タウネの動きのキレが、思ったより良い」
ヘイルが面白そうに言うと、ゾンプが「そう、そこ」と頷いた。
「前に聞いちゃいたけどさ、ここまでいってるとは思わなかった」
「おねーちゃんは愛されてる」
モアも頷く。
「え、あ。そういう事だったんですか……?」
美しいとも言える動きを見せていた二竜。シャオンは解るがタウネについて、ただ齧っただけには思えなかったが。
(テイヒさんのためだったの)
「うん。だってさ、普通やるにしても攻撃魔法だけだし。こういう、なんて言ったっけ?」
「対竜近接戦闘、無翼時」
ケルウァズが流暢に答え、ゾンプはまた「そうそれ」と頷いた。
「その対竜近……なんちゃらまでやろうとするのは少数派だし。てか居ないだろ」
これでなー後は度胸なんだけどなーと、ゾンプは腕を組む。
「……少し聞いたが、こういったものにも興味があるのか?」
金剛の瞳がこちらを向いて、アイリスは思わず詰まった。
「ぅ……その、少し……すみません。はしたないのは、理解しているんですが……」
別の意味で俯くアイリスの耳に、ヘイルの声が穏やかに響く。
「いや? 俺でよければ教えられると、思ってな」
「っえ」
「まじ?!」
「ヘイルさん出来るの?!」
顔を上げたアイリスと同時に、ゾンプとケルウァズが声を上げる。
「貴方あれ覚えてるの?」
「それなりにな。息抜きにもなる」
「坊ちゃまはお強いですからねえ」
ふふ、と笑ったファスティの言葉に、幾つかの瞳が煌めく。
「え、じゃ、教えて! 満遍なく!」
「お、おれも! や、ここまでじゃないけど……」
「っ……わ、私も……!」
ケルウァズとゾンプにドゥンシーが、いっぺんにヘイルへ身を乗り出した。
「わっ?!」
「っ、アイリス!」
押されるように体勢を崩しかけたアイリスの腕を、ヘイルが掴んで引き寄せる。
「す、すみません……!」
倒れ込んでしまった身体を離そうと、アイリスは慌てて足に力を込めた。
「ゆっくりでいい。また倒れると良くない」
「は、はい」
声が近い。上を向けない。またやってしまった。
そんな事を考えるアイリスの目に、盤面の緑が見えた。
「……ぇ?」
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