竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師

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第二章 竜の文化、人の文化

十一話

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 プツェンに良く似た、けれど年齢を重ねた顔が、厳しい声を発する。

『そもそもの議題も、保護し移住する人間について、では何が問題か訳が分かりません。もっとしっかり設定して下さい金華の長』

 紫紺が混じる碧の瞳は、すぐ隣の金華の長を鋭く見据えた。

『……や、その……しかし、シュネイ……』
『しかし、何です?』
『……いや……』

 対して、金華の長ヘイルの父は口ごもる。

「……補佐殿の言う通りだな。結局の所、何を議題としているのか不明瞭だ」

 ヘイルは顎に手をやり、やられた、と呟いた。

『玻璃の長、貴方もです。私に指摘される前に、もっと早くにそれに気付くべきでした』
「……」

 シュネイに言われ、ヘイルもその口を閉じる。

『では、議題はどう設定し直しますか?』

 会議直後にマーガントを諭した切れ長の碧の瞳が、場を見渡す。

『私は……そうですね……不確定要素の多い人間という種は、みやこの住民を混乱させ、あるいは危険を及ぼす可能性がある。それについての具体的な対策案……を議題として再提案します』
瑪瑙の長めのうのおさ以外の意見は?』

 シュネイの声に、

『私は特に問題無いと考えてます』
「私もだ」

 プツェンとヘイルだけが応じる。

『……では、その〈問題無い〉点も議論に加えるとして、瑪瑙の長の案を、議題として取り上げましょう。良いですね?』

 シュネイがぐるりと視線を巡らせる。異を唱える者はいない。

『では、私はここまで。皆さんで議論を進めて下さい』 

 シュネイは口を閉じ、全体を眺めるように椅子に掛け直した。

『……では、案を出した私から』

 瑪瑙の長が口を開く。

『未成年であろうと、短命非力で私達へ及ぼす影響が少なかろうと、人間は人間です。一定期間、監視態勢を取るべきかと』
『監視ぃ?』

 プツェンが非難の声を上げ、ヘイルはまた眉を顰めた。

『良いんじゃないか? ヘイルは登録を消す気が全くない、どころか竜と同等に扱う勢いだ』

 マーガントはヘイルを見やり、その銀の瞳で睨み付ける。

『ならばその人間を、こちらが適切に管理する必要がある』
「その提案は、各々の都の独立性を根本から揺るがしかねない。断固拒否する」

 語気を強めたヘイルの言葉に、マーガントはまた声を荒げる。

『お前が! 竜全体を危険に晒していると言っているんだ……! 人間は何をしでかすか分からない!』
「その発言、短慮な思考に基づくものとは考えないのか? マーガント」
『お前……!』
『はい二竜ふたりとも一旦止め! また母さんに怒られるよ?!』

 見かねたプツェンが割って入った。マーガントとヘイルは、仕方なしに、といった様子で口を閉じる。

『姉さん、じゃない、レーゲ。瑪瑙の長。あなたは今聞いた、都を跨ぐ監視を付けると。そういう意味で発言したんですか?』

 瑪瑙の長レーゲは首を横に振り、

『いいえ、そこまでは。ヘイルの言うようにそれぞれの独立性を脅かしますし、玻璃の都の誰かを傍に、という考えで発言しました』
「その監視自体にも否を唱える。危険かも知れない・・・・・・からとそんな措置を執れば、相手が不信感を抱くだろう事は明白だ」

 ヘイルの言葉に、レーゲは視線を落とし閉口する。

『なら、こう考えるのはどうだろうか?』

 シュツラが静かに、声を発した。

『監視の結果如何によって、その人間は危険ではないと。そう我々に示せる根拠を作り出せる。そういった見方も、出来るのでは?』


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