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第二章 竜の文化、人の文化
九話
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「お、おぅ……。……じゃやっぱり良いって事だ?!」
「どうなの?」
アイリスと子供達の視線を一身に浴び、
「……そうね」
ブランゼンは微かに溜め息を落とし、
「アイリスがそこまで言うなら、無理には止めないわ」
シャオンもそれに、苦笑しながら頷いた。
「そうだね。ま、やりながら色々見えても来るんじゃない?」
その言葉を受け、七竜は沸き立ち、アイリスはほっと胸を撫で下ろした。
「ただし」
強く響いたブランゼンの声に、皆反射的に背筋を伸ばす。
「私もいるわよ? 今日だって元々は、文字や魔法や竜の事をアイリスへ教えるために来たんだから」
「…………それなら、私たちも魔法、教えてもらえる?」
ドゥンシーの言葉に、残り六竜がはっとしたようにブランゼンを見る。
「より環境が整った」
「俺達にとって良い事しかない」
「……なるほど……そう来るのね……」
ブランゼンは天を仰ぎ、脱力して椅子に凭れた。
「ぶ、ブランゼンさん……すみません……!」
「良いのよ。そのくらいの余裕はあるわ」
逞しさに気が抜けただけ、とブランゼンは呟く。
「なんだかんだ甘いもんな、ブランゼンは」
どこか笑うように言いながら、シャオンはその様子を眺める。
「あ! じゃあシャオンは?! いるの?!」
「!」
「え、そんなら攻撃系教えて」
またもやはっと顔を向けた子供達とアイリスへ、シャオンは一瞬目を瞬かせ、
「……んー、俺は今日来たのも偶然だしなあ。そんな話になってないし、多分そこは無理だね」
「ええー!」
「ケチ」
「ええーって、俺は都守の仕事があるんだけど。ブランゼンみたいに常に待機じゃないの」
露骨に残念がるゾンプやケルウァズへそう返し、シャオンはアイリスへ問い掛ける。
「アイリスも俺に何かあった?」
「えっ」
「残念そーな顔してるからさ」
「え! あ、いえ、その……」
頬に手を当て、視線を彷徨わせるアイリス。そのヘーゼル色は惑った後、再びシャオンを捉えた。
「……竜の体術というものが、どういうものかと……少し……思っていたので……」
怖ず怖ずと口にされ、シャオンはまたきょとんとした後、
「ほお、へえ」
にやりと笑った。
「じゃ、今やる?」
「え?!」
「タウネ、時間ある?」
「え?」
急に振られたタウネは少し俯き、
「ああ、まあ、まだ少しは……」
「じゃ、組み手しようか」
「はぁ……はい?! 私がですか?!」
「だって今、他に相手出来そうなのいないし。ただ演武見せるより、やる気出るじゃんね?」
慌てて身を引くタウネに、シャオンは楽しそうににじり寄っていく。
「私は護衛の経験などありません! そういうのは無理です!」
「前に少し齧ったって言ってたじゃん。俺の腕も鈍ってるだろうしそこまで鋭さはないって」
「おれも見たい!」
「わたしも見たい」
「やるに一票」
「俺も見たいな」
子供達は続々とシャオンの側へつく。アイリスはあわあわと、シャオンとタウネを交互に見やる。
「タウネ頑張って。見届けるから」
「?!」
その一言に、アイリスは思わず勢いをつけてブランゼンへ振り返った。
「あのですね?!」
「よっしブランゼンもこう言ってるし! やろうか!」
シャオンは地を蹴り、タウネに迫る。
「っ! もう何かあったら城へ言いますからね?!」
タウネも叫び、飛び退りながらも構えた。
なんとも雑に突発的に、竜の組み手試合が始まった。
◆
玻璃の都、長の城の一室。全体が暗色に沈んだその場所で、ヘイルは大きな鏡と対面していた。
「……それで?」
長い髪は先まできっちりと、その上装飾的に編まれ纏められている。衣服も身体に沿った形の、けれど凝った意匠のものを身に付けていた。僅かばかりの宝飾品も、だからこそ造りの良さが際立つ。
「会議の内容とは?」
長としての出で立ちで、しかし憮然とした雰囲気を醸し出すヘイル。そこへ鏡の向こうから声が飛ぶ。
『会議の場だぞ。そんな態度で臨むんじゃない』
「事前の説明も無しで、急に呼ばれればこうもなる。そもそも議題が分からなければ話し合いようが無い」
『まあ気持ちは分かるけど。でもヘイル』
鏡の中からまた別の声。魔導具により創り出された、部屋の壁ほどもあるその鏡には、
『大体想像ついてるんじゃない?』
ヘイルではなく、同じ様に豪奢な椅子に掛けた者が六名、映し出されていた。
「どうなの?」
アイリスと子供達の視線を一身に浴び、
「……そうね」
ブランゼンは微かに溜め息を落とし、
「アイリスがそこまで言うなら、無理には止めないわ」
シャオンもそれに、苦笑しながら頷いた。
「そうだね。ま、やりながら色々見えても来るんじゃない?」
その言葉を受け、七竜は沸き立ち、アイリスはほっと胸を撫で下ろした。
「ただし」
強く響いたブランゼンの声に、皆反射的に背筋を伸ばす。
「私もいるわよ? 今日だって元々は、文字や魔法や竜の事をアイリスへ教えるために来たんだから」
「…………それなら、私たちも魔法、教えてもらえる?」
ドゥンシーの言葉に、残り六竜がはっとしたようにブランゼンを見る。
「より環境が整った」
「俺達にとって良い事しかない」
「……なるほど……そう来るのね……」
ブランゼンは天を仰ぎ、脱力して椅子に凭れた。
「ぶ、ブランゼンさん……すみません……!」
「良いのよ。そのくらいの余裕はあるわ」
逞しさに気が抜けただけ、とブランゼンは呟く。
「なんだかんだ甘いもんな、ブランゼンは」
どこか笑うように言いながら、シャオンはその様子を眺める。
「あ! じゃあシャオンは?! いるの?!」
「!」
「え、そんなら攻撃系教えて」
またもやはっと顔を向けた子供達とアイリスへ、シャオンは一瞬目を瞬かせ、
「……んー、俺は今日来たのも偶然だしなあ。そんな話になってないし、多分そこは無理だね」
「ええー!」
「ケチ」
「ええーって、俺は都守の仕事があるんだけど。ブランゼンみたいに常に待機じゃないの」
露骨に残念がるゾンプやケルウァズへそう返し、シャオンはアイリスへ問い掛ける。
「アイリスも俺に何かあった?」
「えっ」
「残念そーな顔してるからさ」
「え! あ、いえ、その……」
頬に手を当て、視線を彷徨わせるアイリス。そのヘーゼル色は惑った後、再びシャオンを捉えた。
「……竜の体術というものが、どういうものかと……少し……思っていたので……」
怖ず怖ずと口にされ、シャオンはまたきょとんとした後、
「ほお、へえ」
にやりと笑った。
「じゃ、今やる?」
「え?!」
「タウネ、時間ある?」
「え?」
急に振られたタウネは少し俯き、
「ああ、まあ、まだ少しは……」
「じゃ、組み手しようか」
「はぁ……はい?! 私がですか?!」
「だって今、他に相手出来そうなのいないし。ただ演武見せるより、やる気出るじゃんね?」
慌てて身を引くタウネに、シャオンは楽しそうににじり寄っていく。
「私は護衛の経験などありません! そういうのは無理です!」
「前に少し齧ったって言ってたじゃん。俺の腕も鈍ってるだろうしそこまで鋭さはないって」
「おれも見たい!」
「わたしも見たい」
「やるに一票」
「俺も見たいな」
子供達は続々とシャオンの側へつく。アイリスはあわあわと、シャオンとタウネを交互に見やる。
「タウネ頑張って。見届けるから」
「?!」
その一言に、アイリスは思わず勢いをつけてブランゼンへ振り返った。
「あのですね?!」
「よっしブランゼンもこう言ってるし! やろうか!」
シャオンは地を蹴り、タウネに迫る。
「っ! もう何かあったら城へ言いますからね?!」
タウネも叫び、飛び退りながらも構えた。
なんとも雑に突発的に、竜の組み手試合が始まった。
◆
玻璃の都、長の城の一室。全体が暗色に沈んだその場所で、ヘイルは大きな鏡と対面していた。
「……それで?」
長い髪は先まできっちりと、その上装飾的に編まれ纏められている。衣服も身体に沿った形の、けれど凝った意匠のものを身に付けていた。僅かばかりの宝飾品も、だからこそ造りの良さが際立つ。
「会議の内容とは?」
長としての出で立ちで、しかし憮然とした雰囲気を醸し出すヘイル。そこへ鏡の向こうから声が飛ぶ。
『会議の場だぞ。そんな態度で臨むんじゃない』
「事前の説明も無しで、急に呼ばれればこうもなる。そもそも議題が分からなければ話し合いようが無い」
『まあ気持ちは分かるけど。でもヘイル』
鏡の中からまた別の声。魔導具により創り出された、部屋の壁ほどもあるその鏡には、
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ヘイルではなく、同じ様に豪奢な椅子に掛けた者が六名、映し出されていた。
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