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第二章 竜の文化、人の文化
三話
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「この家初めて入る……!」
「そもそもこの辺自体来ないだろ。金持ちばっかりなんだから」
「でもブランゼンの家は行っただろ」
「……それはまた、別じゃない?」
七つの声がそれほど広くない玄関に木霊し、廊下へ、隣の部屋へ、庭へと広がっていく。
「こら! 勝手にあちこち行かない! また摘ままれたいの?」
ブランゼンの言葉に、子供達は足を止め、
「そうです。アイリスさんとブランゼンさんの温情が無ければ、今こうしていませんよ」
タウネの神妙な声に、渋々といった顔つきで戻って来た。
「いえ、あの、私は別に……」
アイリスはまだ少し狼狽えながら、この竜数にちょうど良い部屋はどこかと考える。
(本当なら応接間が良いんだろうけど……これだけいると、あそこは少し、狭いかしら……?)
「ほんともう、私の家で良かったのに……アイリス、今からでも場所を移しましょうか?」
それに対し、複数の反対の声が上がる。
「せっかくここまで来たのに!」
「だから別に変な事しないってば」
「そーだそーだ」
「シャオン? 怒るわよ?」
どこかおどけた様子の弟に、ブランゼンは睨みを利かせる。それを受け、シャオンは背筋を伸ばし、
「……まあ」
その肩を竦めた。
「何かあっても俺らがいるじゃん? アイリスに及ぶ危険は全て排除って言われてるしね」
両手に鞄を持ったまま、頭の後ろで腕を組み、シャオンは楽しげに子供達を眺める。
「……シャオンさん、別の意味で怖い」
「へ?」
モアの呟きに、当の本竜は間の抜けた声を出した。
「あの……」
そこへアイリスは、なるべくさり気なく口を挟み、
「どの部屋も、全員ゆったりするには今少し、準備が足りないので」
言いながら、窓の外を手で示す。
「お庭でも、良いでしょうか?」
◆
「おおー! なんかでかい!」
「広い!」
子供達はまた走り出し──
「同じ事を繰り返す気かしら?」
かけた足を止めた。
「すみませんブランゼンさん。圧迫感がなくてゆったり出来て、静かにお話を聞ける所を考えたら、ここに」
アイリスはそう言い、苦笑しつつ入り口から庭へと出て来る。
「いえアイリスは……はっ?」
それを見て、ブランゼンは目を瞬いた。
「……アイリス、いつの間に重量軽減を覚えたの?」
アイリスは軽々と、瀟洒ではあるがそれなりの大きさの椅子を二脚抱え持っていた。その小柄さでより大きく見える椅子をその場に置き、アイリスは事も無げに答える。
「あ、昨日練習をしていたら、少しだけ出来るようになりました! まだ全然ですけど」
「え、まじ? ブランゼンが教えたのかと思った」
「自主練習だけで習得したんですか? それは凄い」
続いて出て来たシャオンとタウネが、感心したようにそう零す。そしてそれぞれ四脚ずつ持っていた似た様式の椅子を、先の二脚の近くへ下ろし並べていく。
「いえ全然そんな事は」
「じゃああれも? お前の?」
子供の一竜が、言いながら指を指す。
その先を辿ると、金色の小さな竜が木陰で丸くなっていた。
「え?」
「ああ」
「あれは……?」
大人達が三者三様の反応を見せる中、
「……あ!」
アイリスは小走りで駆け寄り、竜をそっと持ち上げた。
「忘れてました……この子も練習で出したんです」
振り返り、アイリスは腕の中の小竜を一撫でする。ゆらりとその姿は薄まり、崩れ、アイリスへと戻っていった。
「すっげぇ……」
「いえまだまだです」
子供達の方からかけられた声に、アイリスは反射的に首を振る。
「なるほどね。それっぽい感じがしてると思ったら、そういう事だった訳か」
唖然とするブランゼンとタウネの間で、シャオンがうんうんと頷く。
「? ……えっと、それでは、お話を……」
そんな周りの様子に首を傾げながら、アイリスは椅子を示した。
「そもそもこの辺自体来ないだろ。金持ちばっかりなんだから」
「でもブランゼンの家は行っただろ」
「……それはまた、別じゃない?」
七つの声がそれほど広くない玄関に木霊し、廊下へ、隣の部屋へ、庭へと広がっていく。
「こら! 勝手にあちこち行かない! また摘ままれたいの?」
ブランゼンの言葉に、子供達は足を止め、
「そうです。アイリスさんとブランゼンさんの温情が無ければ、今こうしていませんよ」
タウネの神妙な声に、渋々といった顔つきで戻って来た。
「いえ、あの、私は別に……」
アイリスはまだ少し狼狽えながら、この竜数にちょうど良い部屋はどこかと考える。
(本当なら応接間が良いんだろうけど……これだけいると、あそこは少し、狭いかしら……?)
「ほんともう、私の家で良かったのに……アイリス、今からでも場所を移しましょうか?」
それに対し、複数の反対の声が上がる。
「せっかくここまで来たのに!」
「だから別に変な事しないってば」
「そーだそーだ」
「シャオン? 怒るわよ?」
どこかおどけた様子の弟に、ブランゼンは睨みを利かせる。それを受け、シャオンは背筋を伸ばし、
「……まあ」
その肩を竦めた。
「何かあっても俺らがいるじゃん? アイリスに及ぶ危険は全て排除って言われてるしね」
両手に鞄を持ったまま、頭の後ろで腕を組み、シャオンは楽しげに子供達を眺める。
「……シャオンさん、別の意味で怖い」
「へ?」
モアの呟きに、当の本竜は間の抜けた声を出した。
「あの……」
そこへアイリスは、なるべくさり気なく口を挟み、
「どの部屋も、全員ゆったりするには今少し、準備が足りないので」
言いながら、窓の外を手で示す。
「お庭でも、良いでしょうか?」
◆
「おおー! なんかでかい!」
「広い!」
子供達はまた走り出し──
「同じ事を繰り返す気かしら?」
かけた足を止めた。
「すみませんブランゼンさん。圧迫感がなくてゆったり出来て、静かにお話を聞ける所を考えたら、ここに」
アイリスはそう言い、苦笑しつつ入り口から庭へと出て来る。
「いえアイリスは……はっ?」
それを見て、ブランゼンは目を瞬いた。
「……アイリス、いつの間に重量軽減を覚えたの?」
アイリスは軽々と、瀟洒ではあるがそれなりの大きさの椅子を二脚抱え持っていた。その小柄さでより大きく見える椅子をその場に置き、アイリスは事も無げに答える。
「あ、昨日練習をしていたら、少しだけ出来るようになりました! まだ全然ですけど」
「え、まじ? ブランゼンが教えたのかと思った」
「自主練習だけで習得したんですか? それは凄い」
続いて出て来たシャオンとタウネが、感心したようにそう零す。そしてそれぞれ四脚ずつ持っていた似た様式の椅子を、先の二脚の近くへ下ろし並べていく。
「いえ全然そんな事は」
「じゃああれも? お前の?」
子供の一竜が、言いながら指を指す。
その先を辿ると、金色の小さな竜が木陰で丸くなっていた。
「え?」
「ああ」
「あれは……?」
大人達が三者三様の反応を見せる中、
「……あ!」
アイリスは小走りで駆け寄り、竜をそっと持ち上げた。
「忘れてました……この子も練習で出したんです」
振り返り、アイリスは腕の中の小竜を一撫でする。ゆらりとその姿は薄まり、崩れ、アイリスへと戻っていった。
「すっげぇ……」
「いえまだまだです」
子供達の方からかけられた声に、アイリスは反射的に首を振る。
「なるほどね。それっぽい感じがしてると思ったら、そういう事だった訳か」
唖然とするブランゼンとタウネの間で、シャオンがうんうんと頷く。
「? ……えっと、それでは、お話を……」
そんな周りの様子に首を傾げながら、アイリスは椅子を示した。
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