48 / 117
第一章 そこは竜の都
ジェーンモンド家の人々 2
しおりを挟む
手にした手紙で口元を隠し、リリィは抑えきれない笑いを零した。
「ですから、ふふ、お父様へのお返事すらも出せないのです。これは致し方ありませんわ」
ころころと鈴の音のように笑う娘へ、その母は呆れたように息を吐いた。
「……では、そのようにしましょうか。けれどリリィ、いつまでもこのままではいけませんよ」
ほんの少し強くなった口調に、リリィは素早く反応する。笑みを止め、真っ直ぐに母を見る。
「この話は外へ出て、広まってゆきます。その際の対応も、きちんと考えていますね?」
「はい」
リリィは頷き、その青の瞳を細めた。
「婚約者とも話を合わせてありますもの。悲しみに暮れるのは得意ですから、心配ありませんわ」
そう前置きして、唄うように自分達の〈事実〉を話し出す。
アイリスは二日前、『ピクニックに行きたい』と言い出した。それも、惑いの森の近くへと。
いつものお転婆、突飛な思想。自分達が気を付ければ大丈夫と、それを了承した。けれど。
『少しだけ、ほんの少しだけで良いのです』
そう言って妹は、惑いの森を見に行った。こちらが止める間もなく、はしたなくも走ってまで。
『アイリス! 危ないわ!』
その姿はすぐに見えなくなる。使用人と、母も森の中を歩き、日が暮れるまで捜したが。
『ああ、アイリス……』
その姿は、どこにも見当たらない。残るは惑いの森の──
『今日はもう、帰りましょう。奥様、お嬢様』
後ろ髪を引かれるように、屋敷に戻った。
そこからは、ただただアイリスの無事を祈るばかり。使用人に捜索をさせてはいるが、良い報せはなく。生きた心地がしない中、ただ日々は過ぎるばかりで……
「ですからルークとのお茶会も取り止めましたし、表には出ておりません。……少しずつ、少しずつ……お父様や皆に迷惑にならないようにと、けれどあの子が心配なのだと」
見える範囲の行動で示しております──
そしてまた、リリィは楽しげに肩を揺らす。
「周りが訝しみ始めたところで、悲壮感をたっぷりと」
それを眺める母の目は細められ、口は薄く笑みを湛え。
「あの子のへんてこさは皆様良く知っていらっしゃいますから、私達の非の無さと悲しみを理解して下さいますわ」
「ええ、その通りね」
そうして、二人で密やかに笑い合う。
「お父様、帰っていらっしゃったらどんなお顔をするかしら。悲しんだりするのかしら? それとも」
──何も思わなかったりするのかしら──
「ふふ、どうでしょうねぇ」
毒を孕む笑い声。それは響き、反響し。二人をまた、その色に染め上げていく。
「ですから、ふふ、お父様へのお返事すらも出せないのです。これは致し方ありませんわ」
ころころと鈴の音のように笑う娘へ、その母は呆れたように息を吐いた。
「……では、そのようにしましょうか。けれどリリィ、いつまでもこのままではいけませんよ」
ほんの少し強くなった口調に、リリィは素早く反応する。笑みを止め、真っ直ぐに母を見る。
「この話は外へ出て、広まってゆきます。その際の対応も、きちんと考えていますね?」
「はい」
リリィは頷き、その青の瞳を細めた。
「婚約者とも話を合わせてありますもの。悲しみに暮れるのは得意ですから、心配ありませんわ」
そう前置きして、唄うように自分達の〈事実〉を話し出す。
アイリスは二日前、『ピクニックに行きたい』と言い出した。それも、惑いの森の近くへと。
いつものお転婆、突飛な思想。自分達が気を付ければ大丈夫と、それを了承した。けれど。
『少しだけ、ほんの少しだけで良いのです』
そう言って妹は、惑いの森を見に行った。こちらが止める間もなく、はしたなくも走ってまで。
『アイリス! 危ないわ!』
その姿はすぐに見えなくなる。使用人と、母も森の中を歩き、日が暮れるまで捜したが。
『ああ、アイリス……』
その姿は、どこにも見当たらない。残るは惑いの森の──
『今日はもう、帰りましょう。奥様、お嬢様』
後ろ髪を引かれるように、屋敷に戻った。
そこからは、ただただアイリスの無事を祈るばかり。使用人に捜索をさせてはいるが、良い報せはなく。生きた心地がしない中、ただ日々は過ぎるばかりで……
「ですからルークとのお茶会も取り止めましたし、表には出ておりません。……少しずつ、少しずつ……お父様や皆に迷惑にならないようにと、けれどあの子が心配なのだと」
見える範囲の行動で示しております──
そしてまた、リリィは楽しげに肩を揺らす。
「周りが訝しみ始めたところで、悲壮感をたっぷりと」
それを眺める母の目は細められ、口は薄く笑みを湛え。
「あの子のへんてこさは皆様良く知っていらっしゃいますから、私達の非の無さと悲しみを理解して下さいますわ」
「ええ、その通りね」
そうして、二人で密やかに笑い合う。
「お父様、帰っていらっしゃったらどんなお顔をするかしら。悲しんだりするのかしら? それとも」
──何も思わなかったりするのかしら──
「ふふ、どうでしょうねぇ」
毒を孕む笑い声。それは響き、反響し。二人をまた、その色に染め上げていく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる