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第一章 そこは竜の都

三十九話

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「え……?」
「いや、市場あそこでの皆、勢いのままに動いちゃってさ」

 テイヒは少し苦い顔になり、肩を竦める。

「よく考えりゃヘイルさんのする事なんだし、何があってもおかしかないんだから。……改めて、歓迎するよ」

 少し申し訳無さそうに笑って、そう続けた。

「え! いえ! 私こそなんだか変な事を……」

 アイリスは慌てて首を振り、また唐突に動きを止めた。そして恐る恐る、口を開く。

「……あの、あの時私は結局、何をしてしまったんですか……?」

 あの、虹色の光はなんだったのか。

「? 放射だろ?」
「放射、とは……」
「放射っていうのはね、まあ所謂いわゆる俗称なんだけど」

 首を傾げるアイリスとテイヒを見て、ブランゼンが口を開く。

「まだ上手く魔力調整や魔法が使えない子とかが、驚いたり感情を高ぶらせたりした時に、体外に魔力や魔法を放出しちゃう現象なの」
「えっ……大丈夫、だったんですか……?」

 今更ではあるがそれを聞いて、アイリスは自分のした事に不安になってくる。あの光は、あの場にいる全員を包むくらい強かった。

「大丈夫だよ、あのくらい。逆にキレイで整ってて、見応えのあるもんだったよ」

 テイヒは笑顔で、何でもないように手を振った。

「そ、そうですか……?」
「ええ、テイヒの言う通りよ。それより私は、放射のせいでアイリスが消耗してないか気になってたけれど……」

 アイリスの顔を見て、ブランゼンは微笑んだ。

「全然大丈夫そうで安心したわ。ヘイルのお陰……なのかしら?」

 その言葉に、アイリスはまた、首を傾ける。そんな事をしていたら、軽く手を叩く音が二度ほど響いた。はっとしてアイリスがそちらを向くと、テイヒがにっこりとこちらを見ている。

「さてお二人さん。そろそろご注文を聞きたいんだがね」
「あっはい」
「今日のオススメは丸鳥の丸焼きだよ。良いのが入ったんだ」

 丸焼きとはまた量が多そうだと、そんな事をアイリスは思う。合わせて、そこ以外にも少し引っかかりを覚えた気がして、腕を組んだ。

(……まるどり? …………丸鳥?!)
「良いわね、それにしようかしら。……あ、アイリスはなるべく、食べ慣れてるものを選んでね」
「は、い……」

 ブランゼンの言葉に頷きながら、おずおずとテイヒに顔を向ける。

「あの……丸鳥って、頭くらいの大きさの、何かあったら身体を丸めて羽根を凄く硬くして危険回避をする……あの、丸鳥、ですか……?」
「うん? ……うん、まあその丸鳥だね」

 少し疑問を顔に出しながら、テイヒは何でもない事のよう頷いた。

(……竜、の食文化って、凄いのね……)
「もしかして丸鳥、苦手かい?」
「あっいえ! そうではなく、ええと、人の世界では丸鳥は高級品だったもので」

 驚いてしまって、と言ったアイリスに、テイヒは目を見開いた。

「こうきゅうぅ?」
「こちらとは違うのねぇ、どうして高級品なの?」
「……装甲と化した時の羽根はとても堅牢で、仕留めるのにとても苦労すると」

 人にとって、それなりに身近な魔物の一種の〈丸鳥まるどり〉。
 普段は柔らかいその羽根は、身の危険を感じると身体を丸くすると共に、石のように硬くなる。そうなった身体は、叩いても投げつけても、崖から落としてもびくともしない。諦めてそのまま檻に入れても、硬いまま体当たりをして檻を壊し、逃げてしまう。
 数はそれなりにいて見つけるのは比較的容易。だが狩猟者にとっては、その後の難易度が高い獲物である。

「堅牢、ねえ……」
「竜と人じゃ、身体能力も色々違うらしいのよ」

 いまいち理解しきれないといった顔のテイヒに、ブランゼンはそう言って

「それじゃあアイリス。改めて、何を食べましょうか?」
「あ! えっと……」

 アイリスは壁にある、沢山の料理名メニューを読もうとし、また固まった。

「……すみません、あの文字……読めません……」


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