竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師

文字の大きさ
上 下
37 / 117
第一章 そこは竜の都

三十七話

しおりを挟む
(今、のは)
「凄いねえ!」
「え?」

 ぼうっとしたアイリスに、また声がかかった。

「とても綺麗な放射だった!」
「まだ上手く扱えないのかい? しかし力強かったな!」
「え? え?」

 市場にいた竜達は完全に興奮し、止められた質問をよりアイリスに重ねていく。

「皆」

 ヘイルが、先程より張りのある声を響かせる。周りは「おっと」といったように、口を閉じた。

「今のとも関係するんだが、アイリスは竜では無くてな」
「アイリス」
「あ、ブランゼンさん」

 そこでやっと、竜混みひとごみを掻き分け、ブランゼンがアイリス達の元へ辿り着く。

「人間なんだ」

 ヘイルの言葉に、先程の比ではなく、辺りは静まり返る。

「だからあまり、魔法が得意でない。今も俺が補助をしている。先程のような事も、それなりに起こるだろうが──」

 ヘイルは一度アイリスを見、そして市場全体を見渡した。

「新しい玻璃の都ここの仲間だ。良くしてやってくれ。なぁ、アイリス」

 ヘイルに促され、ややあって理解したアイリスは頭を下げた。

「あ、み、皆さんと違う所や分からない部分もあると思いますが、なんとかやっていこうと思っております。宜しくお願い致します……!」
「……ぁ、はぁ……」

 呆けたようになった竜達の中、辛うじてテイヒがそう零す。

「……皆──」

 それを見たブランゼンが、何かを言おうとした時。

「はーい! 出来るだけ動かないでー!」

 そんな言葉が、上空から降ってきた。

「さっきの光は何ですかー? それにこんなに密集しちゃって」

 その聞き覚えのある声に、アイリスは顔を上げる。金と赤とグレーの竜が、廻るように飛んでいた。

「何度か報せが来ていたよー……あ」

 そして金の竜が、動きを止める。

「アイリス?」
「シャオンさん」
「……と、ヘイル。それにブランゼン……」

 シャオンは赤とグレーの竜と何事か合図をし、赤の竜と共に降下する。そして中空で人になり一回転して、ヘイル達と市場の竜達の間に降り立った。

「はいごめん今度は少し空けてくださーい」

 そして軽く周りを誘導し始める。
 昨日とは違い、地が厚い白銀の、しっかりした仕立ての服を身に纏って。動く度、それが陽光で煌めいた。

「ああいった変な降り方は止めろと、何度言ったら分かるんだ」

 いつの間にか見事な赤毛を持った人物が、そう言いながら誘導に加わっていた。

「いやーまー」
(あの方が、さっきの赤い竜……?)

 ヘイルよりは低いけれど長身で、その肩を越える髪の上半分を、後ろで三つ編みにしていた。シャオンと同じ色、同じ型の服を身に付け、それは髪の色と共に、鮮やかに目に映る。
 グレーの竜は待機という事なのだろうか。先程より、高度を少し上げた位置で留まり。こちらに意識を向けつつ、辺りにも気を配っていた。

「それで」

 粗方終えた誘導から外れ、シャオンはくるりと振り返って。

「何がどうしたっていうのさ、これは」

 アイリス達に、そう問いかけた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...