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第一章 そこは竜の都
二十二話
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「え?」
ヘイルと視線が合い、アイリスは呆けたような声を出した。
「え? ……あ」
魔力を渡すのだ、と思い至り、アイリスは縮こまった。そのまま距離を取るように、ソファの左端に寄る。
「いや、あの……」
さっきまでとまた別の、逃げるようなアイリスの仕草。立ち上がりかけたヘイルは思わず動きを止める。
「どうしたの?」
「いえ、その」
ブランゼンに顔を向け、アイリスは言い難そうに口を動かす。
「……嫌になった、とか?」
声を落としたブランゼンの言葉に、ヘイルの身体がぶれた。
「……いえ……領主様、長の方から何かを頂くと思うと……しかも無償で……」
「……なんだ、そんな事か」
一つ息を吐いて、ヘイルはアイリスの傍に寄る。先程のようにしゃがんで、アイリスに右手を差し出した。
「これは慈悲や施しではない。アイリス、お前が生きるための手段に過ぎない」
「……」
目の前の手を見つめ、それでもアイリスの瞳は逡巡するように揺れる。
「……魔法も使えるようになるぞ」
「え! あ!」
アイリスの瞳が一気に輝く。それを見て、ヘイルは僅かに表情を緩めた。
「さて、どうする?」
「う……」
口をほんの少し曲げ、それでもアイリスの手はヘイルに進む。
「失礼、致します……」
恐る恐る乗せられた華奢な右手を、ヘイルは包むように握った。
「ああ、いくぞ」
握った手の間から、煌めきがこぼれ落ち。
「ぁ」
光が溢れる。
「ぅあ?!」
その強烈な煌めきに、アイリスは思わず目を背けた。
「ああ、少し眩しいだけだ。すぐ収まる」
「えっあのっブランゼンさんの時より光が……!」
「魔力を渡す時には、特に最初は多めにやるからな。治癒の時より、視認性は高まる」
アイリスは左手で影を作り、なんとか手元を見ようとする。
「……?!」
同時に、自分の中から何かが漲るような、溢れるような感覚に気付いた。
「え、あの……?!」
「どうした?」
「いえ、何か、なんかごわぁっと……?!」
この感覚をどう表現すべきか、アイリスは言葉を探す。
「ん……? ああ、もうか」
アイリスが言い倦ねるうちに、強烈な光は収まった。
「……早いわね」
ブランゼンの言葉に、ヘイルは頷く。
「種の違いだろう、俺達ほど魔力は納まらないようだな」
言いながら手を解こうとして、抵抗を受ける。
「アイリス、終わったから離して良いぞ」
がっちりと握った手に視線を落とし、アイリスは反応しない。
「アイリス?」
顔の前でヘイルが手を振って幾らかして、ヘーゼル色の瞳が瞬いた。
「……へ……あっすみません!」
ヘイルと視線が合い、アイリスは呆けたような声を出した。
「え? ……あ」
魔力を渡すのだ、と思い至り、アイリスは縮こまった。そのまま距離を取るように、ソファの左端に寄る。
「いや、あの……」
さっきまでとまた別の、逃げるようなアイリスの仕草。立ち上がりかけたヘイルは思わず動きを止める。
「どうしたの?」
「いえ、その」
ブランゼンに顔を向け、アイリスは言い難そうに口を動かす。
「……嫌になった、とか?」
声を落としたブランゼンの言葉に、ヘイルの身体がぶれた。
「……いえ……領主様、長の方から何かを頂くと思うと……しかも無償で……」
「……なんだ、そんな事か」
一つ息を吐いて、ヘイルはアイリスの傍に寄る。先程のようにしゃがんで、アイリスに右手を差し出した。
「これは慈悲や施しではない。アイリス、お前が生きるための手段に過ぎない」
「……」
目の前の手を見つめ、それでもアイリスの瞳は逡巡するように揺れる。
「……魔法も使えるようになるぞ」
「え! あ!」
アイリスの瞳が一気に輝く。それを見て、ヘイルは僅かに表情を緩めた。
「さて、どうする?」
「う……」
口をほんの少し曲げ、それでもアイリスの手はヘイルに進む。
「失礼、致します……」
恐る恐る乗せられた華奢な右手を、ヘイルは包むように握った。
「ああ、いくぞ」
握った手の間から、煌めきがこぼれ落ち。
「ぁ」
光が溢れる。
「ぅあ?!」
その強烈な煌めきに、アイリスは思わず目を背けた。
「ああ、少し眩しいだけだ。すぐ収まる」
「えっあのっブランゼンさんの時より光が……!」
「魔力を渡す時には、特に最初は多めにやるからな。治癒の時より、視認性は高まる」
アイリスは左手で影を作り、なんとか手元を見ようとする。
「……?!」
同時に、自分の中から何かが漲るような、溢れるような感覚に気付いた。
「え、あの……?!」
「どうした?」
「いえ、何か、なんかごわぁっと……?!」
この感覚をどう表現すべきか、アイリスは言葉を探す。
「ん……? ああ、もうか」
アイリスが言い倦ねるうちに、強烈な光は収まった。
「……早いわね」
ブランゼンの言葉に、ヘイルは頷く。
「種の違いだろう、俺達ほど魔力は納まらないようだな」
言いながら手を解こうとして、抵抗を受ける。
「アイリス、終わったから離して良いぞ」
がっちりと握った手に視線を落とし、アイリスは反応しない。
「アイリス?」
顔の前でヘイルが手を振って幾らかして、ヘーゼル色の瞳が瞬いた。
「……へ……あっすみません!」
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