11 / 117
第一章 そこは竜の都
十一話
しおりを挟む
「???」
二人の話が見えず、今度はアイリスが目を瞬く。
「いや、こちらの話だ。後は何が見たい?」
「あ、ええと……あそこの、丸い木の細工物が」
「これね、はい」
下の台ごとひょいと持ち上げ、シャオンが目の前に差し出す。
「っ、ありがとうございます」
勢い良く眼前に出され、アイリスは少々面食らいながらそれを受け取る。
「早いな」
「え? まあ近かったし」
薄い円形の台座を持ち、透かし彫りがされた球体を眺める。
「凄い細かい……え? ……これ、中にも何かあるんですか? あれ? しかも浮いてる?!」
透かし彫りの隙間から、一回り小さな、別の透かし彫りの球体が見える。それがゆったりと回っている事に気付き、アイリスの手が驚きで震えた。
すると、震えが伝わったのか、球がふわりと台座から浮いた。そして柔らかに元の位置に戻る。
「……外側のも浮いてる?!」
「中空で固定してあるからな。球は八層だったか」
「八層?!」
驚きで口調が崩れている事にも気付かず、台座と球の間に目を凝らすアイリス。
「浮いてる……布一枚分くらい浮いてる……あの、球体それぞれに透かし彫りがついてるんですか?」
「ああ、それ毎に違うものが彫られているはずだ」
「凄い……」
凄い凄いと何度も口にしながら、アイリスは台座を斜めにしたり中の球の動きを観察したり。
「新鮮な反応だなあ。ここにあるのはブランゼンの趣味だけど、人間はあまりこういうの作らないの?」
「技術力が違いすぎます……! こんな、浮かんだり光ったり……そうじゃなくとも、ここまでの細工だって出来る人は極僅かです」
恐る恐る台座を逆さまに持ちながらアイリスは言う。逆さにされた球は台から少し離れ、そのままゆるく弾みながら回った。
「へー……じゃ、これは?」
シャオンがまた目の前にものを差し出す。
「? 失礼します……」
球を横に置き、それを受け取る。指くらいの大きさしかないワイングラス、のようなもの。
「これは……?」
ボウルの部分に、内側へ向かって針のようなものが何本も出ている。そのままグラスとして使う訳では無さそうだ。
「そのままさ、魔力を伝わらせるんだよ」
「魔力を…………え、と」
アイリスはヘイルとシャオンを見、おずおずと口を開く。
「私、魔力は殆ど無いので、使うとかした事無くて」
「えっ」
「では、一度見せよう」
ヘイルがアイリスの上からワイングラスを持つ。一拍して、針先の、ボウルの中央に金の粒が現れた。
「ちょ、ヘイル手加減してよ」
金の粒は大きくなり、針先に触れるかという所で打ち上がった。
「えっ」
「わっ」
パァン!
「わっ?!」
天井付近で黄金の華を咲かせ、残滓が煌めきながら落ちてくる。
「……ギリギリ、セーフ……もうちょっと強かったら当たってたよ。天井に」
ホッと息を吐くシャオンと、天井を見つめるヘイル。
「ほんの少しだったんだがな……アイリス?」
「………………」
アイリスは口をぽかんと開けて、天井に目をやったまま固まっていた。
「ほら、威力が凄いから驚いちゃったんだよ」
「すまん、大丈夫か?」
「…………と、飛ん……?!」
ぎこちない動きで姿勢を戻し、やっとの思いで単語を発する。
「ちょっと? 何か響いたんだけど?」
ちょうどその時、扉を開けて、眉をひそめたブランゼンが入ってきた。
扉の側に立って肩を跳ねさせたシャオンと、ベッドの脇に膝をつくヘイルをそれぞれ見やる。ぎこちない動きでこちらに振り返るアイリスに視線を移してから、部屋全体を見て、低く言った。
「……何かやらかしたわね?」
二人の話が見えず、今度はアイリスが目を瞬く。
「いや、こちらの話だ。後は何が見たい?」
「あ、ええと……あそこの、丸い木の細工物が」
「これね、はい」
下の台ごとひょいと持ち上げ、シャオンが目の前に差し出す。
「っ、ありがとうございます」
勢い良く眼前に出され、アイリスは少々面食らいながらそれを受け取る。
「早いな」
「え? まあ近かったし」
薄い円形の台座を持ち、透かし彫りがされた球体を眺める。
「凄い細かい……え? ……これ、中にも何かあるんですか? あれ? しかも浮いてる?!」
透かし彫りの隙間から、一回り小さな、別の透かし彫りの球体が見える。それがゆったりと回っている事に気付き、アイリスの手が驚きで震えた。
すると、震えが伝わったのか、球がふわりと台座から浮いた。そして柔らかに元の位置に戻る。
「……外側のも浮いてる?!」
「中空で固定してあるからな。球は八層だったか」
「八層?!」
驚きで口調が崩れている事にも気付かず、台座と球の間に目を凝らすアイリス。
「浮いてる……布一枚分くらい浮いてる……あの、球体それぞれに透かし彫りがついてるんですか?」
「ああ、それ毎に違うものが彫られているはずだ」
「凄い……」
凄い凄いと何度も口にしながら、アイリスは台座を斜めにしたり中の球の動きを観察したり。
「新鮮な反応だなあ。ここにあるのはブランゼンの趣味だけど、人間はあまりこういうの作らないの?」
「技術力が違いすぎます……! こんな、浮かんだり光ったり……そうじゃなくとも、ここまでの細工だって出来る人は極僅かです」
恐る恐る台座を逆さまに持ちながらアイリスは言う。逆さにされた球は台から少し離れ、そのままゆるく弾みながら回った。
「へー……じゃ、これは?」
シャオンがまた目の前にものを差し出す。
「? 失礼します……」
球を横に置き、それを受け取る。指くらいの大きさしかないワイングラス、のようなもの。
「これは……?」
ボウルの部分に、内側へ向かって針のようなものが何本も出ている。そのままグラスとして使う訳では無さそうだ。
「そのままさ、魔力を伝わらせるんだよ」
「魔力を…………え、と」
アイリスはヘイルとシャオンを見、おずおずと口を開く。
「私、魔力は殆ど無いので、使うとかした事無くて」
「えっ」
「では、一度見せよう」
ヘイルがアイリスの上からワイングラスを持つ。一拍して、針先の、ボウルの中央に金の粒が現れた。
「ちょ、ヘイル手加減してよ」
金の粒は大きくなり、針先に触れるかという所で打ち上がった。
「えっ」
「わっ」
パァン!
「わっ?!」
天井付近で黄金の華を咲かせ、残滓が煌めきながら落ちてくる。
「……ギリギリ、セーフ……もうちょっと強かったら当たってたよ。天井に」
ホッと息を吐くシャオンと、天井を見つめるヘイル。
「ほんの少しだったんだがな……アイリス?」
「………………」
アイリスは口をぽかんと開けて、天井に目をやったまま固まっていた。
「ほら、威力が凄いから驚いちゃったんだよ」
「すまん、大丈夫か?」
「…………と、飛ん……?!」
ぎこちない動きで姿勢を戻し、やっとの思いで単語を発する。
「ちょっと? 何か響いたんだけど?」
ちょうどその時、扉を開けて、眉をひそめたブランゼンが入ってきた。
扉の側に立って肩を跳ねさせたシャオンと、ベッドの脇に膝をつくヘイルをそれぞれ見やる。ぎこちない動きでこちらに振り返るアイリスに視線を移してから、部屋全体を見て、低く言った。
「……何かやらかしたわね?」
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる