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131 体育祭、閉幕
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全ての競技が終わりました。順位も決まりました。
その、順位が。
青と緑、同率1位。という結果に。
最終結果にどよめきが起こったけど、3色の代表が壇上に上がると、どよめきはざわめきに。
はい。涼が言った通りに、高峰さんが注目されまくってます。あれが噂の高峰先輩? などと聞こえてきます。高峰さんの苦労が窺い知れる。
金のトロフィーを青と緑で受け取って、赤は銀と銅のトロフィーを片手持ちにして。
グラッとよろめきかけた赤の代表の女子を高峰さんが支える、という瞬間があり、またどよめきが起こったり黄色いのかなんなのか悲鳴が上がったりしたけど。
高峰さん、マジ苦労してそうだな、とか思ったけど。
そんな感じで表彰式は終わり、校長がたのお言葉が終わり、校歌が流れ。
体育祭は閉幕。
教室に戻って、お菓子を取って、やって来たカメラマンさんに写真を撮ってもらって。
着替えて、打ち上げです。
「まさかの同率1位という結果。トロフィーを受け取った時の気持ちを、どうぞ」
クラスメイトの一人が、高峰さんにマイク代わりのお手拭きを向ける。
「それ、教室でもやったよね。受け取った時の気持ちっていうか、用意する側の慌ただしさのほうが記憶に残ってるね」
涼の左隣に座る高峰さんは苦笑しながら、それでもちゃんと答えている。
「次から伊緒奈くんだけじゃなくて、高峰っち目当ての子も教室に来そうだね」
私の右側に座っている、桜ちゃんのそれに、
「あー、なりそう」
答えながら、ナムルを食べる。
「来るだろうな。去年と一昨年は知らねぇけど、中学の時は3年間ずっと、高峰目当ての女子が休み時間毎に顔見に来てたし」
私の左に座ってる涼のそれに、
「高峰、すげぇな」
「モテる奴は違うな」
「苦労もしてそうだけど」
「今お前、フリーだもんな。橋本は成川さんがいるけど」
などなど、周りが口々に言う。
「橋本。橋本はさ、ホントに今は成川さんがいるから良いけど。中学の時、橋本目当ての人もいたんだよ? まだ分かってない?」
ほぉう?
「なんとなく分かったからやめてくれ。俺は光海一筋なんだよ」
ちょい、涼。
「言うようになったな、橋本」
「去年の今頃が懐かしい」
「それ、直に見てはいないけど、分かりやすいほどに成川さんにくっついてたって話?」
そんな話は知らないよ? 思い返せば、涼の態度は分かりやすかったけど。
「俺、そんな分かりやすかったか?」
唐揚げを飲み込んだ涼が、私に顔を向ける。
「えーと……思い返せば分かりやすかったかな、と。ですけど、その時は私も分かってませんでしたし」
「めっちゃ分かりやすかったぜ、二人ともが」
桜ちゃん?
「僕の耳にも噂程度に届いてたしね。もしかして、みたいな」
高峰さん?
「そんなだったか。分かりやすいだろうなとは思ってたけど」
涼? なんでそんなサラッと受け流せるの? そしてそのまま何事もなかったように食事を再開するのはなんなの?
「光海? 食べねぇの?」
「……食べますよ。ええ、食べます」
ふんだ。涼がそういうふうにするなら、私だって食事に集中するもん。
◇
「なあ、光海」
拗ねた光海が可愛かった打ち上げを終え、受験生だからと短めだった二次会も終え、その帰路で。
「なんですか?」
当たり前のように手を繋ぎ、共に夜道を帰ってくれる、その大切な存在が、また、当たり前のように返事をくれる。
涼は、前を向きながら、
「俺さ、やっぱり、何があっても光海と離れたくないし、繋がってたいよ。大学もさ、光海のことだから行けると思うし、応援もしてる。けど、遠距離恋愛の難しさってのも、怖く思ってんだ、俺」
握る手に、力を込めてしまう。心細くて、気温が高くなってきた季節だというのに、その温もりを感じていたくて。
「……涼、ちょっとこっち向いて下さい」
光海が立ち止まり、涼も立ち止まる。言われた通りに顔を向ける。
光海は、真剣な顔で、自分を見上げていて。
まだ青いままの光海の瞳に、夜の街の灯りが映りこむ。幻想的だな、と涼は思う。
幻のように、美しい。どんな姿の彼女も好きだけれど、だからこそ、どんな時でも心を奪われる。
まっすぐに見つめてくれる、ただそれだけで、安心する。そして、より深く、囚われていく。
「遠距離恋愛の難しさ、私も少しは調べましたよ」
「マジか」
その言葉でもう、満足してしまいそうになる。
「マジですよ。特にフランスと日本だと、時差とかありますし。でも、これからどうやってその不安を解消していくか、一緒に考えていけます。そもそも、フランスの大学、合否判定も4月より後のことが多いですし、入学も9月からなので、河南を卒業しても、すぐに日本から離れる訳じゃないですし」
それ、調べたから知ってんだよな。
涼は言いかけて、でも、一生懸命さに甘えていたくて、「そっか」と言った。
「そうなんです。行けるって言ってくれるの、とても嬉しいです。不安を教えてくれるのも、嬉しいです。それに、えぇと、その」
光海が頬を染め、少しだけ目を彷徨わせる。自分の手を握り直してくれて、顔だけでなく体をこちらに向けてくれる。
「ん」
涼も、向き合うように姿勢を変えた。
「その、」
頬を赤くしたまま、視線がまた、自分に向く。
「涼との将来のことも、ちゃんと考えてるんですよ? だから、不安、ちゃんと共有して、一緒に考えていき、いこう。涼」
言い直すの、ホントに可愛すぎるんだよ。
「……ありがとうな、光海。ちょっと抱きしめて良いか?」
「え、あ、はい。どうぞ」
解かれそうになった手を繋ぎ直して、片手で光海を引き寄せ、抱きしめる。
片腕だけなのに、胸の中に収まってくれる光海を、愛しいと思う。手を握り返してくれて、背中に腕を回してくれることを、嬉しく思う。
「ありがとな、光海。大好きだよ」
「私も、好き、あ、大好きです、だよ。涼」
「ほんっとマジお前どこまでも可愛いな」
「ど、どうも……?」
ずっとこうしていたいけど、今は外だし。
涼は、離れ難く思いながらも、「ありがとな」と、体を離す。
「帰るか」
「はい、あ、うん」
微笑みながら答えられて、言い直されて、また、抱きしめたくなったけれど。
流石にな、と、押し留めて、ゆっくり歩き出した。
その、順位が。
青と緑、同率1位。という結果に。
最終結果にどよめきが起こったけど、3色の代表が壇上に上がると、どよめきはざわめきに。
はい。涼が言った通りに、高峰さんが注目されまくってます。あれが噂の高峰先輩? などと聞こえてきます。高峰さんの苦労が窺い知れる。
金のトロフィーを青と緑で受け取って、赤は銀と銅のトロフィーを片手持ちにして。
グラッとよろめきかけた赤の代表の女子を高峰さんが支える、という瞬間があり、またどよめきが起こったり黄色いのかなんなのか悲鳴が上がったりしたけど。
高峰さん、マジ苦労してそうだな、とか思ったけど。
そんな感じで表彰式は終わり、校長がたのお言葉が終わり、校歌が流れ。
体育祭は閉幕。
教室に戻って、お菓子を取って、やって来たカメラマンさんに写真を撮ってもらって。
着替えて、打ち上げです。
「まさかの同率1位という結果。トロフィーを受け取った時の気持ちを、どうぞ」
クラスメイトの一人が、高峰さんにマイク代わりのお手拭きを向ける。
「それ、教室でもやったよね。受け取った時の気持ちっていうか、用意する側の慌ただしさのほうが記憶に残ってるね」
涼の左隣に座る高峰さんは苦笑しながら、それでもちゃんと答えている。
「次から伊緒奈くんだけじゃなくて、高峰っち目当ての子も教室に来そうだね」
私の右側に座っている、桜ちゃんのそれに、
「あー、なりそう」
答えながら、ナムルを食べる。
「来るだろうな。去年と一昨年は知らねぇけど、中学の時は3年間ずっと、高峰目当ての女子が休み時間毎に顔見に来てたし」
私の左に座ってる涼のそれに、
「高峰、すげぇな」
「モテる奴は違うな」
「苦労もしてそうだけど」
「今お前、フリーだもんな。橋本は成川さんがいるけど」
などなど、周りが口々に言う。
「橋本。橋本はさ、ホントに今は成川さんがいるから良いけど。中学の時、橋本目当ての人もいたんだよ? まだ分かってない?」
ほぉう?
「なんとなく分かったからやめてくれ。俺は光海一筋なんだよ」
ちょい、涼。
「言うようになったな、橋本」
「去年の今頃が懐かしい」
「それ、直に見てはいないけど、分かりやすいほどに成川さんにくっついてたって話?」
そんな話は知らないよ? 思い返せば、涼の態度は分かりやすかったけど。
「俺、そんな分かりやすかったか?」
唐揚げを飲み込んだ涼が、私に顔を向ける。
「えーと……思い返せば分かりやすかったかな、と。ですけど、その時は私も分かってませんでしたし」
「めっちゃ分かりやすかったぜ、二人ともが」
桜ちゃん?
「僕の耳にも噂程度に届いてたしね。もしかして、みたいな」
高峰さん?
「そんなだったか。分かりやすいだろうなとは思ってたけど」
涼? なんでそんなサラッと受け流せるの? そしてそのまま何事もなかったように食事を再開するのはなんなの?
「光海? 食べねぇの?」
「……食べますよ。ええ、食べます」
ふんだ。涼がそういうふうにするなら、私だって食事に集中するもん。
◇
「なあ、光海」
拗ねた光海が可愛かった打ち上げを終え、受験生だからと短めだった二次会も終え、その帰路で。
「なんですか?」
当たり前のように手を繋ぎ、共に夜道を帰ってくれる、その大切な存在が、また、当たり前のように返事をくれる。
涼は、前を向きながら、
「俺さ、やっぱり、何があっても光海と離れたくないし、繋がってたいよ。大学もさ、光海のことだから行けると思うし、応援もしてる。けど、遠距離恋愛の難しさってのも、怖く思ってんだ、俺」
握る手に、力を込めてしまう。心細くて、気温が高くなってきた季節だというのに、その温もりを感じていたくて。
「……涼、ちょっとこっち向いて下さい」
光海が立ち止まり、涼も立ち止まる。言われた通りに顔を向ける。
光海は、真剣な顔で、自分を見上げていて。
まだ青いままの光海の瞳に、夜の街の灯りが映りこむ。幻想的だな、と涼は思う。
幻のように、美しい。どんな姿の彼女も好きだけれど、だからこそ、どんな時でも心を奪われる。
まっすぐに見つめてくれる、ただそれだけで、安心する。そして、より深く、囚われていく。
「遠距離恋愛の難しさ、私も少しは調べましたよ」
「マジか」
その言葉でもう、満足してしまいそうになる。
「マジですよ。特にフランスと日本だと、時差とかありますし。でも、これからどうやってその不安を解消していくか、一緒に考えていけます。そもそも、フランスの大学、合否判定も4月より後のことが多いですし、入学も9月からなので、河南を卒業しても、すぐに日本から離れる訳じゃないですし」
それ、調べたから知ってんだよな。
涼は言いかけて、でも、一生懸命さに甘えていたくて、「そっか」と言った。
「そうなんです。行けるって言ってくれるの、とても嬉しいです。不安を教えてくれるのも、嬉しいです。それに、えぇと、その」
光海が頬を染め、少しだけ目を彷徨わせる。自分の手を握り直してくれて、顔だけでなく体をこちらに向けてくれる。
「ん」
涼も、向き合うように姿勢を変えた。
「その、」
頬を赤くしたまま、視線がまた、自分に向く。
「涼との将来のことも、ちゃんと考えてるんですよ? だから、不安、ちゃんと共有して、一緒に考えていき、いこう。涼」
言い直すの、ホントに可愛すぎるんだよ。
「……ありがとうな、光海。ちょっと抱きしめて良いか?」
「え、あ、はい。どうぞ」
解かれそうになった手を繋ぎ直して、片手で光海を引き寄せ、抱きしめる。
片腕だけなのに、胸の中に収まってくれる光海を、愛しいと思う。手を握り返してくれて、背中に腕を回してくれることを、嬉しく思う。
「ありがとな、光海。大好きだよ」
「私も、好き、あ、大好きです、だよ。涼」
「ほんっとマジお前どこまでも可愛いな」
「ど、どうも……?」
ずっとこうしていたいけど、今は外だし。
涼は、離れ難く思いながらも、「ありがとな」と、体を離す。
「帰るか」
「はい、あ、うん」
微笑みながら答えられて、言い直されて、また、抱きしめたくなったけれど。
流石にな、と、押し留めて、ゆっくり歩き出した。
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