上 下
87 / 134

87 盾役

しおりを挟む
「やっと分かったか現状が」
「お前も高峰もいっつも危ない橋渡りやがって」
「気持ちは分かるけど、今すぐ帰ると、ついて来る可能性あるぞ」
「せめて全員が食べ始めてからにしろ」

 友人たちの小声のそれに、

「お前ら急に頼もしいな……」

 涼は言って、パフェとアイスとソルベ、そして3つある季節限定のケーキを、時間稼ぎも兼ねて一つずつゆっくり食べ始める。

「……」

 こんな状況じゃなきゃ、しっかり分析したいんだがな。
 涼はそう思いながら、けれど無駄にはしたくないしと、デザートへ意識を向けて食べていると、

「そこまで気にしなくても、大丈夫だとは思うけどね。そもそも複数人で牽制しあってるんだから」

 高峰の言葉に、

「わあ、モテ野郎の冷静な分析」
「結託したりしない?」
「5人の気合いの入りようが怖いんだけど」
「分かる。この前と全然違う。凄いこう、こう……食われそうで怖い」

 莉々花たちからの余波は、友人たちへ結構なダメージを与えたようだった。
 莉々花たちは注文を済ませ、

「アイツさ、見た目だけじゃなくて、雰囲気? 変わったよね、なんか」
「分かる。なんていうか、頼もしい感じ」
「2年会ってないもんね。久しぶりだから、まだふわふわしてる」
「ふわふわって。夢見心地みたいな?」
「何その感想かわいー」

 そんな話を、涼たちに聞こえる声量で話している。
 涼は、もう少し遠い席を示せば良かったと若干後悔しながら、

『あの5人、フランス語、分かるか?』

 と、高峰に送った。高峰は苦笑しながら、

『どうだろうね。話せるって聞いたことないけど、話せないとも聞いたことないし』
『じゃあ、試してみる』
『何を?』

 涼は高峰を見て、5人へちらりと目を向けてから、

「(今すぐ帰りたい。つーか、あいつに会いたい。顔を見たい。声を聞きたい。癒されたい)」

 テーブルに頬杖をついて、少し上を向きながら、大きめの声で一気に言った。
 5人は涼へ顔を向け、驚きと困惑の表情を見せる。

「……分かってないっぽいね」

 高峰の言葉に、

「もうさ、言っちまったほうが良いかな。この状況、疲れしか生まない」

 涼は言って、最後のケーキを食べ始める。

「修羅場になるって」
「お前、躱しきれんのか」
「もしくは戦争勃発だぞ?」
「てか、今の何語?」

 友人たちが言う中、

「……」

 涼のスマホに、ラインが届いた。アカウント名からして、莉々花だと分かる。
 加えて、開かなくても分かるほどの、短い文章。

『今なんて言ったの?』

 涼はあえて開き、『愚痴』と送った。

「(同窓会って、こんな疲れるもんなのか? 俺、懐かしい顔を見たかっただけなんだけど)」
「あんまり分かってないけど、お疲れ様って言っとくよ」
「ありがとな、高峰。最良の対処法も教えてほしい」
「最良かぁ……言葉を選ばずに言っちゃうと、お前らなんか眼中にないって、思い知らせて諦めさせる、とかかな」

 そこにまた、涼のスマホへ通知。
 莉々花からのそれを開けば、

『ね、高峰からさ、付き合ってる人がいるって聞いたけど。どういうヒト?』

 聞いてどうするつもりだろうな、と、思いながら。

『人間』
『なにそれ』
『なにそれってなん?』
『範囲広すぎない? ってこと。どんな人か全然分かんない』
『分かんなくて大丈夫だから』
『どういうこと? それ』
『そのままの意味』

 涼はそこでスマホを閉じ、呼び出しをかける。

「(もうぶちまけたい。全部ぶちまけたい。今すぐあいつを抱きしめたい)」

 そこに店員が来て、涼はコーヒーゼリーを頼んだ。ケーキはとっくに、食べきってしまっていた。
 店員が下がると、5人がまた、やって来た。
 友人たちが身を固くする中、

「ねえ、橋本。私たちさ、結構、仲良かったと思うんだけど」

 莉々花の、咎めるようなそれに、

「俺もそう思うよ。色々頼ったし。それには感謝してる」
「それにはって、何? それ以外はどうでもいいの?」
「それ以外って? 話が見えないんだけど」
「はあ?」

 莉々花は完全に、苛ついた顔になる。

「高峰には言ったんでしょ? それにさ、この感じ、周りにも言ったんでしょ? なんでこっちには教えてくれないの?」
「なんでそんなに知りてぇの?」

 なんでもないように言った涼の言葉に、莉々花は怯み、

「ちょっと。それ、酷くない?」
「友達じゃん。友達のこと知りたいって思ったらいけないの?」
「会えるの楽しみにしてたのに。そんなふうに言うの?」
「橋本さ、私たちはどうでもいいの?」

 後ろからの援護射撃に、面倒くせぇな、と涼は思う。

「友達だと思ってくれてんならさ、俺、ずっと友達で居たいからさ、それ、約束してくれんなら、話すよ」
「……何? その約束」

 俯いた莉々花が、低い声で言う。

「橋本、分かってるでしょ。私の気持ち。分かっててそう言うんだ? ホント、……酷い……!」

 床に雫が幾つも落ちる。涙だと、一目瞭然なそれに、また、援護射撃。そして4人も、泣き始める。
 目を彷徨わせる友人たちと、ここまで来たらぶちまけるか、と思い始めた涼の横で、

「それは流石に、卑怯じゃないかな」

 高峰が言った。

「5人ともさ、橋本をどうしたいの? そうやって泣いて、けど、明確な言葉にしてないよね。橋本の口から、言わせたいからだって、僕には思えるんだけど」
「何が、言いたい、ワケ……?」

 泣きながら睨んでくる莉々花に、高峰は呆れ顔で。

「好きなら好きって、言えばいいのに。言えるだけの覚悟を持ってないなら、せめてさ、周りに迷惑はかけないでよ。このまま橋本に責任を押し付け続けるなら、店の人に言って、警察呼ぶよ?」

 莉々花たちは驚いた顔をして、その場に固まった。
 そこに、店員が複数人、やってくる。
 一人はコーヒーゼリーを持って。
 他の店員は、泣いていた莉々花たちへ、宥めるように、周りの客への配慮を求めて。
 涼の前にコーヒーゼリーが置かれ、

「ありがとうございます。すいません、色々と」

 涼のそれを聞いて、莉々花たちの顔が歪む。

「……私、帰る」

 一人が言い、5人が4人に。
 そこから次々に減っていき、莉々花だけになり、

「……橋本、1個だけ、教えて」
「なにを?」
「相手、高峰だったりしないよね?」
「は?」

 涼はポカンとし、

「やめてソレ僕が刺されるから」

 高峰が嫌そうに首と手を振るのを見て、

「……あっそ。じゃ、帰る。バイバイ」

 莉々花も店をあとにした。

 ◇

「盾役を全うし過ぎたかな」

 言って、プリンアラモードの残りを食べ始める高峰に、

「……もう、何をどうすんのが正解か分かんねぇよ」

 橋本は放心したように言って、なんとかコーヒーゼリーを口に運ぶ。
 そのスマホに、通知。

「……もう、なに?」

 莉々花からのそれに、涼は頭を抱えそうになった。

『迷惑かけたのは謝る。けど、ブロックはやめて。お願い。橋本と、まだ友達で居たいから』
「日本語なのに読解が出来ねぇ……」
「諦めない宣言だね。まあ、本当に帰ったっぽいし、今日はもう、大丈夫じゃない?」

 高峰が言い、

「お前の胆力が羨ましいわ……」

 涼は深くため息を吐く。

「嵐が去った……」
「事件にならなくて良かった」
「死ぬかと思った」
「もー俺、トラウマになりそう」

 肩の力を抜く面々に、

「なんか、悪い」

 涼がそう言うと、

「でさ、時々話してたの、何語?」

 一人が聞いてきた。

「あ? フランス語だけど」
「フランス語かぁ」
「急にペラペラ喋り始めるから、ビビったわ」
「なんて言ってたん?」
「え? 色々。光海の顔見たいとか」
「とか?」
「なんで食いつく」

 そしてまた、光海についての質問が飛ばされ始める。

「いつからのお付き合い?」
「去年の5月からだけど」
「どっちから告った?」
「俺」
「成川さんもフランス語話せるん?」
「光海に教わったんだけど」
「教わった?」
「そう」
「は? 何? 個人レッスン?」
「みたいなもん」
「うわ肯定された……」
「引くなら聞くな。……高峰、笑うな」

 高峰は肩を震わせながら、

「いや、ごめん。経緯を思い出して……」

 その高峰の言葉に、4人は食いつき。
 涼は、夏休みに光海とパリに行ったことや、パリでどう過ごしたか、光海と定期的に勉強をしていることなどなどを話す羽目になり。

「橋本、お前、彼女さんのこと大好きだな?」
「そーだよ悪いか?」
「揃いのピアスってなんだよバカップルか」
「馬鹿ではない」
「カップルを否定しない」
「つーかなんだもう相思相愛じゃん」
「その店行ってみたい」
「彼女さんに橋本のことを聞きたい」
「分かる。どうやって落としたか聞きたい」

 途中から、友人たちの感想大会になり、そのまま同窓会の終了時刻となり、

「どうする? 二次会」
「カラオケなぁ……橋本は?」
「行っても良いけど、光海の顔見たいから、途中で抜けるぞ」
「ああ、バイト先?」
「そう」
「ならもうさ、連れてってくれよ」
「は?」
「高峰も行ったことあんだろ?」
「うん、あるよ」
「ならさ、俺らだけで行くより、警戒されないだろ」
「次いつこのメンバーで集まれるか分かんねぇし」
「行こうぜ。つーか連れてけ」
「先導は任せた」

 その流れのまま、半分押し切られるようにして、『le goût de la maison』へ。
 店独自の正月飾りを物珍しそうに見る友人たちを横目に、涼は、カラン、とドアを開ける。

「いらっしゃいませ。涼、高峰さん。……6名様ですか?」

 いつもの笑顔をこちらに向ける光海を見て、安心感と愛しさを覚えながら。

「うん、そう。こいつら、同窓会のメンバー」

 涼は、そう答えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...