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68 後夜祭

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 最終日です! やっとという思いと、もうか、という思いと。やあ、複雑ですね。
 そんな私は第2陣の、12時半から4時までの接客を担当。なので、午前中にある程度食べておかねば。

「そんで、橋本ちゃんはいつ頃合流なの?」
「昨日の時間くらいだと思う」
「なら、もうそろそろか?」

 今は、桜ちゃんとマリアちゃんとの三人で、写真部の展示を見ている。マリアちゃんは昨日の昼過ぎにやっと、色紙のノルマを終えたという。
 一周見終えて、それぞれ、どれが好きかを選ぶことになった。
 桜ちゃんは、トイプードルが跳ねている写真を。
 マリアちゃんは、夜の雨空の風景写真。
 私は、一切れ分欠けている、ピザの写真を選んだ。
 そこに、通知。涼からで。

『向かってる』
『了解です』
「向かってるって」
「なら、ご飯、食べないとね」
「写真、どれか買ったりするか?」

 マリアちゃんが言う。

「さっきの買うの?」

 桜ちゃんの問いかけに、「いや」とマリアちゃんは首を振った。

「これを、と、思ってな」

 マリアちゃんが示したのは、モノクロの、人通りの多い交差点の写真。信号の青の部分だけ、色がそのままだ。
「ちょっと予約してくる」と、マリアちゃんは行ってしまった。ここの写真は、前払いの予約注文で、ポストカードになったものを買うことが出来る。

「……桜ちゃんは?」
「んー、いいかな。みつみんは? 買う?」
「どうしよっか……」

 涼に、昨日は吊るし飾りを買ってもらった。それのお返しに、なら。

「なら、買おうかな」
「どれ?」
「これ」

 それは、ライオンの子供の写真。なんとなく、涼っぽいなと思ったので。

「じゃあ、私も予約してくるね」

 受付に行って、予約してお金を払う。

「……光海」

 そこに、涼が来た。

「涼」
「で、……まだここ、見るか?」
「私たちは見ました。けど、涼が見たいなら、私は一緒に見ますよ」
「私のことも気にしなくていいよぉ」
「こちらもだ」

 私たちの言葉に。

「あ……いや、いい。大丈夫だ」

 涼はそう言ったので、写真部から出る。

「で、どうする?」
「もう少しあとでいいんですが、ご飯を食べたいな、と。シフトの時間が完全にお昼と被るので」
「はい! 私、行きたいとこある!」

 桜ちゃんの行きたい所は、3年のクラスのカフェ。みんな異論は無いとのことで、そこへ。

「わあぉ」

 そこは、男装女装喫茶だった。
 私は、いちごのショートケーキと紅茶を。
 涼は、エクレアとシュークリームとハーブティーを。
 桜ちゃんは、チョコケーキと紅茶。
 マリアちゃんは、パウンドケーキとコーヒーを、選んだ。
 食べての、感想は。
 やっぱりウチのが美味しいな、だった。
 食べ終わって、桜ちゃんは、時間だということで抜けて。マリアちゃんも、もう一度、自分のクラスのものを観たいからと、抜けて。

「……なら、ご飯、食べます?」
「食う」

 そして、手っ取り早くと、運動場へ。また色々と買って、飲食スペースに座る。

「エクレアとシュークリーム、どうでした?」

 チーズの大判焼きを食べながら、聞いてみると。

「……まあ、美味かった。けど、少しパサついてたのが気になったな。あと、エクレアのカスタードクリームの味と、シュークリームのクリームの味。俺ならもう少し、エクレアのカスタードはあっさりさせて、シュークリームのほうはディプロマットクリームにしたい」

 涼はそう言って、ハンバーガーを食べる。

「ディプロ……? あ、前に見せてもらった……あ、すみません。今のナシで」
「ん、大丈夫だよ。今ので伝わったし。他の人には伝わんねぇし」
「……なら、良かったです」

 ホッとして、アメリカンドッグを食べる。

「お前、覚えてんだな、アレ」
「大体覚えてますよ。だから記憶を消すべきだと言ったんです」
「物騒なこと言うんじゃねぇよ」
「分かってます。では、そろそろ時間なので」
「ああ。行くか」
「涼は食べてて良いんですよ?」
「行く」

 ……。

「分かりました」

 そして、支度を終えて、さあ接客だ。
 ちょいちょいクラスラインを見ていたけど、昨日のこの時間と、同じくらいの客入りだそうで。
 ならまあ、在庫は大丈夫だろう。そう思いつつ、接客をしていく。
 満席なくらい、混んでるな。昨日もこんなだった訳か。そう思っていたら。

「……」

 涼のお父さんの隆さんと、十九川さんと、歩さんが来た。三並び! 涼に教えてあげたい。三人とも来てくれたって。
 けど、私は別の人の接客へ。順番なんだもん、しょうがない。けど、気になってしまって、接客をしたり、会計をしたりしながら、御三方をちらちらと見ていたら。
 ……全種類食べてるね? 一種類を三人で分けて。
 涼の腕前を確認してるのかな、とか、考えながら、在庫確認をしたり、お持ち帰りクッキーの補充をしたり、いやぁ、お持ち帰りクッキー、ホントに好評だわー。
 そして、三人は食べ終わったかと思ったら、それぞれ個別に追加で注文。わー嬉しいやら怖いやら。
 御三方はそれらを食べ終えて、最後に、一人1つずつお持ち帰りクッキーを手に取り、お会計。そうして、カフェをあとにしました。
 私は接客に集中し直し、少し波が引いてきた教室内を確認し、対応し、接客メンバーや待機の人たちと情報共有したり。そして、また2時半くらいから混み始めたのを報告し、4時まで接客して。

「休憩です」

 抜けていくメンバーとともに教室から出て。

「光海」

 また待っててくれましたよ。

「涼、来てくれたんですね」
「ああ。大丈夫そうだったから。どこ行く?」
「涼はどこに行きたいですか?」
「お前が楽しめそうな所」

 ……ぐぅ……。

「なら、えーと」

 パンフレットで、確認。

「演劇部、観に行きます? 美女と野獣だそうですが」
「行く」

 即答され、観に行くことに。観に行けば、その美女と野獣は、ボーモン夫人のほうではなく、ヴィルヌーヴ夫人の、オリジナルのほうで。
 これをやるんか。と、思いつつ、ボカすとこは上手くボカしてるな、という、感想を持った。

 終われば、6時半に近かった。ので、着替え、家庭科室に戻って、靴を履き替え、家庭科室の片付けを簡単に手伝い、教室に行って、情報共有して、まだ居るお客さんに、6時半終了です、と、伝えて。合わせて、今のうちに出来る片付けをしていると。
 文化祭終了の、6時半のアナウンス。お客さんが完全に捌ける。簡単な掃除、在庫を家庭科室へ持って行く、収支のチェック、借りているものの傷や汚れのチェック、などを、分担して行う。先生が見守る中で。
 そのあと全員で集まり、先生からのお言葉を貰い、数少ない残りのスイーツや食材はそのまま家庭科室に置くこととして。解散。
 そして涼と一緒に、第一体育館へ。2つ並んで空いている席を見つけ、そこに二人で座り、7時を待つ。

「去年も、こんなに人、居たのか?」

 隣に座る涼に、小声で聞かれる。席はほぼ、満席で。立ち見の人もいる。

「こんなもんでしたね。マリアちゃんと桜ちゃんも、どこかに居るかも」

 始まりのアナウンス。飛び入り参加OKなので、一グループ毎に、紹介されていく。
 ソロ歌唱、バンド演奏、漫才、マジック、弦楽器のアンサンブル、などなど。まあ、音楽系が多い。
 そんなこんなで、そろそろ〆かな、という頃。
 飛び入りだという紹介で、高峰が出てきた。手にはギターを持っている。
 涼と握っていた手に、力が込められ──というより、強張りを感じて──涼を見る。

「………………」

 とても、険しい顔をしていた。
 どうしたのかと問う前に、高峰の演奏が始まる。
 バッキバキにハードなロックだった。周りをぽかんとさせるくらいには。高峰の噂で、こんなの、聞いたこと無い。
 そして、演奏が終わり。高峰は舞台袖へ。
 そんでもって、高峰が最後だったらしく、終了のアナウンス。

「涼、終わりましたよ。花火、観ましょう?」
「……ああ」

 まだ少し険しい顔のままだったけど、手を握れば、少し弱めに握り返してくれた。

「……人、多いんだな」

 運動場で、打ち上げ花火のセットが設置されている屋上を見上げながら、涼がぽつりと呟く。

「去年もこのくらいでしたよ。マリアちゃんと桜ちゃんと一緒に観ました。花火、綺麗でしたよ」

 そして、花火が上がる。夜空に、沢山の輝く花が咲く。
 綺麗だな、と思いながら、涼へと顔を向ければ。

「…………」

 物悲しいような、複雑そうな顔で、花火を眺めていた。
 涼はそのまま、ずっと無言で。
 一つの仮説を立ててしまった私は、電車の中で、聞いてみた。

「涼。もしかして、ですが。高峰さんと、お知り合いですか?」
「……どうしてそう思う」
「高峰さんへの涼の反応と、もう一つ。昨日、マリアちゃんの色紙を待っている時にですね」

『あ、成川さん。ちょっといいかな』
『え? はい』
『橋本くん、どうしてる?』
『スイーツを作ってます』
『そっか。ありがとう』

「と、いうようなやり取りがあって。何かしら繋がりがあるのかな、と」

 涼が長く重く、ため息を吐いた。顔を見れば、諦めたような顔で。

「……高峰の中学、知ってるか」
「え? 知りませんけど……え、もしかして……?」
「墨ノ目。1年と3年の時は同級生」

 ええええええ…………。

「今、これ以上話すとこんがらがりそうだから、また、あとで話す」

 あとって、あとっていつ? 同級生って、なんで今まで。
 頭の中に疑問が湧く。ぶくぶく湧いてぐるぐる回る。

「……分かりました。けど、明日は後片付けの日です。準備の日と同じくらいの時間に、終わります。そのあと、私の家か涼の家、どちらかで話してください。お願いします」

 握る手に、力を込める。

「お願いします、涼」

 見つめて、声に力を込めて言う。
 涼は、少しだけ私のほうを向いて、

「……、……分かった」
「ありがとうございます」

 片手で握っていたその手に、もう片方の手を重ねて、そう言った。


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