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67 2日目も無事に
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「──今のところ、不測の事態は起きていないみたいですね」
体育館を出て、クラスラインを確認しながら言う。
「そうみたいだな。……昼、どうする?」
スマホから顔を上げた涼に言われ、
「あっ……とぉ……。……えぇと、昨日、茶道部のが途中になっちゃったじゃないですか。そこ、もう1回良いですか? あとでそれなりにきちんとしたものも食べますし」
「分かった。なら、移動だな」
という訳で再度、茶道部のお抹茶と和菓子をいただき、1年のカフェ──猫の擬人化カフェだった──で、フルーツサンドとカフェオレをいただき。
「……」
ウチのが美味しいな、と思ってしまったりした。涼は、ミルクレープとフルーツゼリーと、コーヒーを選んでいた。
あと、そのカフェにはチェキを撮るシステムがあったけど、遠慮しました。
「まだ時間ありますけど、どうします?」
「どうしたい?」
「んー、なら、天文部のプラネタリウムを観たいですね」
「じゃあそこ」
行けば、業者なのか個人のなのか、またプラネタリウムがすごくて。ひとしきり眺めて、星座の当てっこなどしたりして。
クラスラインを確認しつつ、もう1ヶ所、と、手芸部の展示を眺め、手のひらサイズのテディベアを買った。茶色の毛がモッフモフで、もう。
「涼は何か買いますか?」
「いや……なんか、欲しいか?」
「生憎買ってしまいました」
「……じゃあ、これ。買ってくる」
涼が手に取ったのは、ちりめんの吊るし飾り。それを2つ、お買い上げ。……て、それぞれに分けてラッピングしてもらっている。
「これ、どっちがいい?」
左右の手で持ったそれらを、見せられる。
「ど、どっちも可愛くて綺麗なので……」
「じゃあこう、あれだ。どちらにしようかな、で、決めろ」
「えぇぇ……」
結局それで決め、左の吊るし飾りを貰った。
「ありがとうございます。では、そろそろ時間なので」
「ああ、俺も一応行く」
そう言ってくれたので、家庭科室まで一緒に行き、靴を履き替え、連絡して待機して貰っていた着付け担当の子と一緒に、衣装を持って更衣室へ。
その子に着付けてもらい、髪をハーフツインテにしてリボンを留めて、メイクをそれ用にして、カバンを持ち、2-Aへ。3時半より少し手前だけど、悪いことでもないし。そう思いつつ、スマホを確認。客入りが予想より少し多い以外、特に異常は無し。ということで、接客を始める。
うん、お持ち帰りクッキー、売れてるな。パーテーションの在庫は、まだどれも大丈夫そうだったけど。数を確認して、そこから補充。
ラインでも確認したけど、それも含めて、やっぱりこの時間、人が多いな。明らかに知らない人も多い。そして、昨日、みんなで分析したのと似た状況──ざっくり言えば、スイーツが売れまくる──が起きている。ある意味予想通りの事態なので、冷静に処理できている。昨日決めて、午前のうちに作りきって、今残ってる在庫数を思い出しながら、待機担当と確認を取り合い、時々追加注文を頼み、接客や会計をして、5時頃。
大樹と愛流と彼方が来た。生憎、私は別のお客さんの対応をしていたので、大樹たちを案内したのは別の人。その対応を終えたら、三人に声をかけられた。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「その衣装、あとで見せて!」
「画像を送るね」
「なあ光海、これ、橋本さんのレシピなんだよな」
「そうだよ。その抹茶ケーキもクリームあんみつもプリンもクッキーもそうだよ」
「これ、お家でも食べたい!」
「持ち帰りのクッキーを買えるよ、彼方。じゃ、お客さん来たから、行くね」
接客に戻り、回し、会計し、列の整理をし。
そんなふうに仕事をしながら、ふと思う。涼のお父さんはもう来たのか、まだ来てないのか。涼の雰囲気的に、来れなくなった、とかはないと思うんだけど……。
最終的に、多めに用意していたスイーツの数も足りて、終了時刻の6時半に。教室を軽く掃除して、着替え、昨日発注して届いた追加の食材たちの確認をみんなでして、下校。
「お客さんは多かったですけど、特に問題も起こらなかったようで良かったです」
「まあ、な。追加の材料も無事に届いたし。客足がこのままなら、足りる筈だし。明日もこんな感じだったら良いと思う。……ま、気を引き締めてはおかねぇと、とは思ってるけど」
「ですね」
◇
『ねえ! 私じゃ駄目?! 駄目なの?!』
マリアが、マリアが演じている女子が、泣きながら叫ぶ。
『……ごめん。君の気持ちには、応えられない』
泣いているマリアに向かって、困ったように、辛そうに、男子が言う。
『僕には──』
『そんなの分かってる! 分かって言ってんの! ……ねぇ……そんなに、あの子が好き……? あの子、あの子はもう……!』
『知ってる。分かってる。分かってるよ。……分かってても、好きなんだ』
真剣な顔をした男子を見て、その言葉を聞いて、マリアは息を呑み、くしゃりと顔を歪めた。
『……うん、だよね。そうだよね。……そんなあなたを、好きになったんだから。…………ごめんね。ありがとう、さようなら』
マリアは歪な笑顔で言って、男子の脇をすり抜け、足早に去っていく。
「……」
ウェルナーは、羨ましい、と、思う。演技でさえも、羨ましい。
マリアに、あんな風に迫られて。迫られたら、自分は大喜びしてマリアを抱きしめるだろう。
この映画は、ある男子生徒が、二人の女子生徒に迫られる、と、言っていた。けれど、マリアじゃないほうの女子生徒に男子生徒は惹かれ、だというのに、彼女は不治の病で死んでしまう。マリアは男子生徒に恋をしたまま、それを知る。そして男子生徒に迫るのだ。一縷の望みを賭けて。
だけど、それは叶わない。男子生徒の心には、亡くなった女子生徒が居るから。
マリアが建物の影で泣いていて、それを見てしまった男子生徒は苦しげな顔で踵を返し、『ごめん』と呟いて、来た道を戻る。
そして、エンドロールが流れ出す。
ウェルナーは、DVDが止まるまで、パソコンの画面を見つめていた。
「……」
そして、再生をかけた。
体育館を出て、クラスラインを確認しながら言う。
「そうみたいだな。……昼、どうする?」
スマホから顔を上げた涼に言われ、
「あっ……とぉ……。……えぇと、昨日、茶道部のが途中になっちゃったじゃないですか。そこ、もう1回良いですか? あとでそれなりにきちんとしたものも食べますし」
「分かった。なら、移動だな」
という訳で再度、茶道部のお抹茶と和菓子をいただき、1年のカフェ──猫の擬人化カフェだった──で、フルーツサンドとカフェオレをいただき。
「……」
ウチのが美味しいな、と思ってしまったりした。涼は、ミルクレープとフルーツゼリーと、コーヒーを選んでいた。
あと、そのカフェにはチェキを撮るシステムがあったけど、遠慮しました。
「まだ時間ありますけど、どうします?」
「どうしたい?」
「んー、なら、天文部のプラネタリウムを観たいですね」
「じゃあそこ」
行けば、業者なのか個人のなのか、またプラネタリウムがすごくて。ひとしきり眺めて、星座の当てっこなどしたりして。
クラスラインを確認しつつ、もう1ヶ所、と、手芸部の展示を眺め、手のひらサイズのテディベアを買った。茶色の毛がモッフモフで、もう。
「涼は何か買いますか?」
「いや……なんか、欲しいか?」
「生憎買ってしまいました」
「……じゃあ、これ。買ってくる」
涼が手に取ったのは、ちりめんの吊るし飾り。それを2つ、お買い上げ。……て、それぞれに分けてラッピングしてもらっている。
「これ、どっちがいい?」
左右の手で持ったそれらを、見せられる。
「ど、どっちも可愛くて綺麗なので……」
「じゃあこう、あれだ。どちらにしようかな、で、決めろ」
「えぇぇ……」
結局それで決め、左の吊るし飾りを貰った。
「ありがとうございます。では、そろそろ時間なので」
「ああ、俺も一応行く」
そう言ってくれたので、家庭科室まで一緒に行き、靴を履き替え、連絡して待機して貰っていた着付け担当の子と一緒に、衣装を持って更衣室へ。
その子に着付けてもらい、髪をハーフツインテにしてリボンを留めて、メイクをそれ用にして、カバンを持ち、2-Aへ。3時半より少し手前だけど、悪いことでもないし。そう思いつつ、スマホを確認。客入りが予想より少し多い以外、特に異常は無し。ということで、接客を始める。
うん、お持ち帰りクッキー、売れてるな。パーテーションの在庫は、まだどれも大丈夫そうだったけど。数を確認して、そこから補充。
ラインでも確認したけど、それも含めて、やっぱりこの時間、人が多いな。明らかに知らない人も多い。そして、昨日、みんなで分析したのと似た状況──ざっくり言えば、スイーツが売れまくる──が起きている。ある意味予想通りの事態なので、冷静に処理できている。昨日決めて、午前のうちに作りきって、今残ってる在庫数を思い出しながら、待機担当と確認を取り合い、時々追加注文を頼み、接客や会計をして、5時頃。
大樹と愛流と彼方が来た。生憎、私は別のお客さんの対応をしていたので、大樹たちを案内したのは別の人。その対応を終えたら、三人に声をかけられた。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「その衣装、あとで見せて!」
「画像を送るね」
「なあ光海、これ、橋本さんのレシピなんだよな」
「そうだよ。その抹茶ケーキもクリームあんみつもプリンもクッキーもそうだよ」
「これ、お家でも食べたい!」
「持ち帰りのクッキーを買えるよ、彼方。じゃ、お客さん来たから、行くね」
接客に戻り、回し、会計し、列の整理をし。
そんなふうに仕事をしながら、ふと思う。涼のお父さんはもう来たのか、まだ来てないのか。涼の雰囲気的に、来れなくなった、とかはないと思うんだけど……。
最終的に、多めに用意していたスイーツの数も足りて、終了時刻の6時半に。教室を軽く掃除して、着替え、昨日発注して届いた追加の食材たちの確認をみんなでして、下校。
「お客さんは多かったですけど、特に問題も起こらなかったようで良かったです」
「まあ、な。追加の材料も無事に届いたし。客足がこのままなら、足りる筈だし。明日もこんな感じだったら良いと思う。……ま、気を引き締めてはおかねぇと、とは思ってるけど」
「ですね」
◇
『ねえ! 私じゃ駄目?! 駄目なの?!』
マリアが、マリアが演じている女子が、泣きながら叫ぶ。
『……ごめん。君の気持ちには、応えられない』
泣いているマリアに向かって、困ったように、辛そうに、男子が言う。
『僕には──』
『そんなの分かってる! 分かって言ってんの! ……ねぇ……そんなに、あの子が好き……? あの子、あの子はもう……!』
『知ってる。分かってる。分かってるよ。……分かってても、好きなんだ』
真剣な顔をした男子を見て、その言葉を聞いて、マリアは息を呑み、くしゃりと顔を歪めた。
『……うん、だよね。そうだよね。……そんなあなたを、好きになったんだから。…………ごめんね。ありがとう、さようなら』
マリアは歪な笑顔で言って、男子の脇をすり抜け、足早に去っていく。
「……」
ウェルナーは、羨ましい、と、思う。演技でさえも、羨ましい。
マリアに、あんな風に迫られて。迫られたら、自分は大喜びしてマリアを抱きしめるだろう。
この映画は、ある男子生徒が、二人の女子生徒に迫られる、と、言っていた。けれど、マリアじゃないほうの女子生徒に男子生徒は惹かれ、だというのに、彼女は不治の病で死んでしまう。マリアは男子生徒に恋をしたまま、それを知る。そして男子生徒に迫るのだ。一縷の望みを賭けて。
だけど、それは叶わない。男子生徒の心には、亡くなった女子生徒が居るから。
マリアが建物の影で泣いていて、それを見てしまった男子生徒は苦しげな顔で踵を返し、『ごめん』と呟いて、来た道を戻る。
そして、エンドロールが流れ出す。
ウェルナーは、DVDが止まるまで、パソコンの画面を見つめていた。
「……」
そして、再生をかけた。
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