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 屋台で色々と買って、飲食スペースに座って。

「光海、……撮っていいか」

 隣に座っていた涼が、スマホを出した。

「はい」
「じゃあ……」

 涼が私を撮ろうとするから、

「なら、一緒に撮りましょうよ」

 言って、ツーショット。そこからは、お互いに食べながら撮る。
 ホットドッグ、たこ焼き、カップのパフェ。
 涼はそこに追加で、ジャンボソーセージ、お好み焼き、ドーナツと鯛焼きを食べた。

「……どうしました?」

 食べてから難しい顔をしている涼に、聞いてみる。

「や、……市販、ぽい、な、と」
「分かるんですか?」

 熱々だったり、作りたてのものもあるのに?

「なんとなく、な。今、詳細を言うのは野暮だから、やめとく」

 そうだな、うん。

「では、そろそろ2時なので、マリアちゃんのクラスに行きませんか?」
「ん、分かった」

 涼に断りを入れて、一度化粧直しをしてから、Bに行けば。

「マリアちゃん、来たよ」

 受付をしている二人のうちの一人、マリアちゃんに声をかける。

「ああどうも。パンフレットはどうする? 金かかるが」
「私は欲しい」

 マリアちゃんが出てる映画だし。

「なら、俺も」

 そんな訳で、2冊受け取り、お会計。

「じゃ、どうぞ」
「どうもー」

 中に入れば、教室内は薄暗く、エンドロールが流れていた。そろそろ終わりらしい。

「最後まで観て良いですか?」

 イスに座りながら、小声で聞く。

「ああ、まあ、大丈夫だろ」

 涼から承諾をいただいた。
 映画が終わり、スクリーンがパッと明るくなり、また、映画──『君に夢を見て、恋をした』が、始まった。

「……、……」

 終わった…………。
 そうか、そういう、話か。そりゃ、やりごたえのある役だ。

「もっかい観るか?」
「あっいえ、大丈夫です。DVD買っていきます」
「分かった」

 fin、の文字を見てから、席から立ち上がり、教室の外へ。
 と、おおう。ウェルナーさんとヴァルターさんではないですか。マリアちゃんからパンフを受け取ってますよ? ……冷静には、見える。
 待ちつつ見てたら、ウェルナーさんたちもこっちに気付いた。

「(光海、居たのか。……観るのか?)」

 ウェルナーさんに言われる。

「(観てました。これからDVD買います)」
「(そうか。俺はこれから観るから、じゃあ)」

 ウェルナーさんは、流れるように教室に入っていって、

「(悪いね、光海)」

 ヴァルターさんは苦笑して、ウェルナーさんの後を追った。

「えーと。マリアちゃん、DVD下さい」
「はい。1枚?」
「1枚で」

 お会計をして、

「名演技だったね。すごかったよ」
「それなら良かった」

 マリアちゃんが普通に対応してくれたので、ホッとした。
 その後、これからどうするかと、文化祭のパンフレットを涼と見て、オーケストラ部が丁度始まるということで、それを見に行くことにした。
 圧倒されましたね。クラシックからポップまで、有名どころをメドレーにして、40分。そのあと、茶道部でお抹茶と和菓子をいただいていたら。
 エプロンの裏側、そこのポケットに入れていたスマホが震え、切れる。見れば、クラスラインからのSOSだ。

「光海」
「うん」

 涼と二人で、内容を確認。
 スイーツ担当、在庫確認求む、とのこと。

「涼、行こう」
「ああ。……食ってて良いんだぞ」
「涼と行きたいです」
「分かった」

 茶道部の人たちにすみません、と簡単に事情を説明し、部室を出る。そして速歩きしながら、スマホで、涼と向かっていることをクラスラインに送る。家庭科室待機のクラスメイトの一人からの、スイーツが足りなくなるかも、というメッセージを、涼へ伝える。
 その前の部分もスクロールで確認しながら、家庭科室に着くと、

「橋本、成川さん、悪い。見ながら聞いてくれ」

 待機していたクラスメイトが冷蔵庫を開けた。

「前の部分をスクロールして見てました。好評のようで、それは良かったです」

 言えば、

「そうなんだけどさ、今日の分、もうこれだけで」
「分かった。で、喫緊で必要なの、言ってくれ」

 もうマスクを着けた涼が、冷蔵庫を覗きながら言う。

「えーと。今、持ち帰り合わせてのクッキー、抹茶ケーキ、小豆ケーキ、抹茶プリン、いちご大福、シフォンケーキ、いちごケーキ、チョコケーキ、クリームあんみつの順で売れてる。今、追加を持っていってるとこで、残ってんのが、それ」

 それを聞いていたら、2名、スイーツ担当が到着。

「……ケーキの分は今すぐじゃなくても大丈夫だと思う。足りるかは微妙だが。クッキーとプリンと大福、今、追加で作るか。他に情報は?」

 コックコートを着ながら、涼が確認を進めていく。
 そこからは、情報共有と確認をしながら、全員揃ったスイーツ担当たちで作業を開始。
 クッキー、抹茶プリン、いちご大福、シフォンケーキを作っていき、それぞれのケーキのスポンジも、念のためと、追加で作る。
 私はその経過報告を、クラスラインに送る。

「追加注文、来ました」

 それを読み上げる。

「俺、持ってくから。成川さん、悪いけど、代わっててくんない?」
「了解です」

 待機のクラスメイトは、残っているクッキーと抹茶・小豆・いちごのケーキ、シフォンケーキをカートに乗せて持っていった。
 それも報告。
 出来上がってきたスイーツもどんどん報告。

「戻ってきました」

 少し息を切らしながら、先に行っていた待機のクラスメイトが戻ってきた。

「今のところ、追加注文は来てません」
「ありがとう、成川さん」

 ラッピングが済んだお持ち帰りクッキーの個数を報告。

「あ、ごそっと注文来ました。抹茶ケーキ6つ、小豆が4つ、プリン4つ、持ち帰りクッキー10個です」
「さっきの今やん」

 戻ってきたばかりの待機のクラスメイトは、言いながらも、またカートに乗せていく。

「念のため、手が空いてる人がいるか声かけます」

 ラインに『待機の人数、不足。各2名、誰か来て下さい』と送る。電話を鳴らし、切る。それを、2回。
「マジ助かる」と言って、待機のクラスメイトは、カートを押して出ていった。
 私の言葉に合わせてだろう、涼たちがケーキも作り始める。スポンジを焼いておいて正解だった。
 そこに、3名、待機へと向かっていると。それも涼たちに伝える。
 そのうちの2名がこっちに到着。私は状況を説明し、待機していてもらう。
 最終的に、全てのスイーツを追加で作り、初日を乗り切ることが出来た。
 けど、明日以降に向けての、緊急相談会の開催だ。
 家庭科室に集まって、残れる人はそのまま残り、ラインも使い、不足しそうな──ていうか確実に不足する──材料の確保、作っておくスイーツの数、飲み物の補充、待機人数などを相談し、残り2日に向けて、確定させていく。先生の許可もちゃんと取る。
 話し合い、業者に連絡して、なんとか、7時過ぎに終了。

「一応、どうにか、なりましたね……」

 涼と一緒に、帰り道にて。

「ああ、けど、見込みが甘かった。初日なのにここまで人が来るとは思ってなかった。明日も、こういうことを念頭に置いておかないといけない訳か」

 悔しそうな、意外そうな顔と声で、涼が言う。

「改善したんですから、明日は、楽になる筈です。……涼たちスイーツ担当のみんなは、朝、大変でしょうけど」

 スイーツの数は、ざっくり言って、今日の三倍作ることになった。

「それはお前もだろ。明日、あの混む時間帯を担当すんだから」
「それはそうですけど。でも、午前中は空いてる訳ですし」

 話し合いのもと、接客人数はそのままにすることに。
 なので、私の明日の接客時間は、事前に決めた通りの、最後の時間帯、午後3時半から6時半までだ。

「余裕あったら、桜ちゃんたちの白雪姫、一緒に観てくれます?」
「観る」
「即答ですか」
「光海と一緒に居られる時間は、限られてんだから」

 大げさな。

「文化祭が終われば、後夜祭ですよ。ずっと一緒に居られますし、花火も一緒に見てくれますよね?」
「当たり前だわ」


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