上 下
64 / 112

64 文化祭が始まった

しおりを挟む
 文化祭初日の朝7時過ぎ。場所は更衣室。ただいま私、着替えています。

「成川さん、その髪可愛い。メイクも」

 着付けしてくれているクラスメイトに言われる。

「ありがと。なんとか頑張りました」

 今の私はハーフツインに、服の布で作ったリボンを留めて、少し濃い目の、青紫系メイクをしている。イメージは、アイリスさんと弓崎さんだ。あそこまでバッチリではないけども。
 涼は最終的に、使えるメイク用品を全て買ってくれて。そのおかげで、メイド服に合うだろう、このメイクを施せた。化粧ポーチにもきちんと、それらは入れてある。

「はい。おしまいです」
「了解です。ありがとう」

 私は、荷物を入れた和柄のバッグを持ち、教室へ。
 接客スタッフの中で、私は5番目の到着だった。
 時間を確認すれば、現在7時半過ぎ。私はバッグをパーテーションの荷物置き場に置き、トレーを持ち、昨日も確かめたその重さや硬さ、どれだけ並べられるかなどを考えながら、動線を確認していく。
 そのうちに、メンバーが集まり、家庭科室で支度をしているスイーツ担当たち以外も集まり、8時近くなり。
 クラスラインの通話をタップした実行委員が、スイーツ担当の一人と繋がったことを確認して、スピーカーにし、先生に受け渡す。

「では、そろそろ8時です」

 そして、先生が話し始める。

「正門が開くのは9時から。それまでは自由時間です。何か問題が起きたら、即、人を呼ぶこと。大人を呼ぶこと。文化祭、楽しんでいきましょう」

 はい、とみんなで答えて。スピーカーからもはい、と、数人の──涼の声が、聞こえた。
 9時近くになり、マリアちゃんや桜ちゃん、他数名の生徒たちが、教室の外に集まってきたのを確認。並んでもらうよう誘導する。
 そして、カフェ用に作られたプレイリストのBGMが流れる中、教室内のスピーカーから文化祭開始のアナウンス。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 接客メンバーと話をしていて、まず、チーフである私が最初を担当することになった。
 そして、最初のお客さんは、マリアちゃんたちだ。

「今は二人、あとからユキが来る」

 マリアちゃんが言う。ユキさん、初日の朝から来てくれるのか。

「かしこまりました。お席はどうしますか? ご案内しましょうか」
「案内で」
「かしこまりました」

 そんな感じで、マリアちゃんと桜ちゃんを、窓側のテーブルに案内。ちらっと確認すれば、他のスタッフも動き始めてる。うん、大丈夫そう。

「メニュー表はそちらです。説明も出来ますが、どうしますか?」
「みつみんのオススメは?」
「どれも、と言いたいですけど。抹茶プリンと小豆のケーキなど、如何でしょう?」

 メモの準備をしつつ聞く。

「じゃ、私、抹茶プリンで」

 桜ちゃんが言う。

「私は小豆のケーキ」

 続けて、マリアちゃん。

「お飲み物はどうしますか?」
「んーと、紅茶で」

 と、桜ちゃん。

「私はコーヒーで」

 とマリアちゃん。

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 メモを確認しながらパーテーションに入り、待機担当に報告してから、紅茶とコーヒー、抹茶プリンと小豆のケーキをトレーに乗せて。

「おまたせしました」

 と、それぞれの前に置いていく。

「ありがとー。で、みつみん、ずっとその喋り方?」
「最初はこうで、周りを見ながら徐々にすり合わせていこうかと」
「じゃ、今は普通に喋ろ」
「分かった」
「あと、写真撮ろ?」
「良いよ。今撮る? 後で撮る?」
「なら今は、みつみん単体を」

 ポーズ指定で、何枚かパシャパシャ。

「ありがと。ユキさんが来たら、また一緒に撮ろ?」
「うん」

 テーブルを離れて、周りを確認しながら教室の外へ。
 今は、お客さんは居なさそうだ。で、教室へ戻る。

「光海、ユキが来たみたいなんだか……」
「どしたの?」

 テーブルへ寄れば。

「いとこもついて来たって。良いか?」
「もちろん」
「じゃ、案内してくる」

 マリアちゃんは席を立ち、教室を出ていった。

「ユキさんのいとこって、誰だろね?」
「さあ?」

 弓崎さんか、別の人か。
 一組案内を終えたら、マリアちゃんが戻ってきた。その後ろには、ユキさんと弓崎さん。

「ども、来ました。いとこも連れてきちゃいました」

 マリアちゃんに案内され、ユキさんたちはテーブルに座る。

「どうもです、お二方。メニュー表、ありますけど、説明しますか? ゆっくりご覧になりますか?」
「んっと、マリアたちはもう、これ、頼んだんすよね?」
「そーだよー」
「なら、別のやつで、オススメあります?」

 私はいちごのケーキと抹茶のケーキをオススメした。飲み物は、どちらもカフェオレと確認して。
 用意して、おまたせしました、と、置く。
 用意している間に、桜ちゃんと弓崎さんの自己紹介は終わったらしい。

「ね、5人で写真撮ろ」
「オッケー」

 と、数枚。

「では、ごゆっくり」

 下がり、ぽつぽつ来てくれるお客さんの対応をしたり、会計をしたり、パーテーションの中で待機してるクラスメイトたちと在庫確認をしたり。
 そうしていたら、桜ちゃんがそろそろ行かなきゃ、と言い、お土産にクッキーを一人1つずつ買ってくれて、4人のお会計。そのまま4人で連れ立っていったから、三人で白雪姫、見るのかな。
 私がチーフの接客スタッフグループは、9時から午後1時までの接客。第2陣は12時半から4時まで。第3陣は、3時半から最後まで。

 で、昼に近づくにつれて、人が増えてきた。少し前に頼んだお持ち帰りクッキーと抹茶プリンといちご大福の追加が届く。この感じだと、抹茶と小豆のケーキも追加かな。確認して、それを伝える。
 12時半に近くなり、第二弾スタッフが到着してくる。少し余裕が戻って来たところで、午後の1時だ。

「休憩でーす」

 と、先に決めていた文言で、午前組が続々と捌けていく。
 私もカバンを持って、教室の外へ。

「光海」

 その声のほうへ向けば、廊下の壁に、涼が背中を預けていた。

「涼。もう、来てたんですね」
「ああ。一応、初日分は終わらせたから。……それ、着替えるか?」

 この服?

「そうしようかと思ってましたけど……そのままのほうが良いですか?」
「だと良いなと思う」
「なら、そうします。食べる時だけ気を付けます」

 汚したら大変だ。

「お昼、どこで食べます?」
「なんか、運動場に屋台がえっらいあったろ。そこは?」
「じゃあ、そこで」
「……ん」

 躊躇いがちに手を出され、その感じが久しぶりで。

「はい。どうもです」

 くすぐったく思いながら、その手を握った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな婚約者が浮気していました。大好きだっただけ、気持ち悪くて気持ち悪くて……後悔されても、とにかく気持ち悪いので無理です。

kieiku
恋愛
レティンシアは婚約者の浮気現場を見てしまい、悲しくて悲しくて仕方がなかった。愛しい人の腕も微笑みも、自分のものではなかったのだから。 「ま、待ってくれ! 違うんだ、誤解だ。僕が愛しているのは君だけだ、シア!」 そんなことを言われても、もう無理なのです。気持ちが悪くて仕方がないのです。

天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。 アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。 ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。 あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。 そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……

旦那様のお望みどおり、お飾りの妻になります

Na20
恋愛
「しょ、初夜はどうするのですか…!?」 「…………すまない」 相手から望まれて嫁いだはずなのに、初夜を拒否されてしまった。拒否された理由はなんなのかを考えた時に、ふと以前読んだ小説を思い出した。その小説は貴族男性と平民女性の恋愛を描いたもので、そこに出てくるお飾りの妻に今の自分の状況が似ていることに気がついたのだ。旦那様は私にお飾りの妻になることを望んでいる。だから私はお飾りの妻になることに決めたのだ。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

【完結】私じゃなくてもいいですね?

ユユ
恋愛
子爵家の跡継ぎと伯爵家の長女の婚約は 仲の良い父親同士が決めたものだった。 男は女遊びを繰り返し 婚約者に微塵も興味がなかった…。 一方でビビアン・ガデュエットは人生を変えたいと願った。 婚姻まであと2年。 ※ 作り話です。 ※ 完結保証付き

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

何も出来ない妻なので

cyaru
恋愛
王族の護衛騎士エリオナル様と結婚をして8年目。 お義母様を葬送したわたくしは、伯爵家を出ていきます。 「何も出来なくて申し訳ありませんでした」 短い手紙と離縁書を唯一頂いたオルゴールと共に置いて。 ※そりゃ離縁してくれ言われるわぃ!っと夫に腹の立つ記述があります。 ※チョロインではないので、花畑なお話希望の方は閉じてください ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...