上 下
59 / 134

59 二学期

しおりを挟む
 今日から二学期だ。始業式が終わり、教室で先生からの諸注意を受け、これで解散。……だけど。
 文化祭準備のため、涼たちスイーツ担当と、ポスター・チラシデザイン組は、それらを完成させるために、また家庭科室を借りてスイーツを作り、写真を撮り、という作業がある。
 私はまた、食材調達担当の一人に。けど、午後からはバイトなので、最後まで一緒には居られない。
 最後まで見てたかったな、と思いながら、すぐそばのコンビニに寄って、食材を調達。家庭科室へ。

「あんみつ用の缶詰め類、買ってきました」

 と、食材が乗っている調理台にそれらを置く。
 涼は周りと連携しながら、抹茶プリンを作っているらしかった。
 撮影担当組は、少し遠くで、緑のシートを大きめの枠にかけ、複数の照明や反射板のようなものを用意している。シートも何色か用意されている。気合いがすごい。
 私も、残れるクラスメイトたちと一緒に、ちょこちょこと手伝いながら、時間を見極める。
 そろそろ、バイト先へ向かい、あっちで賄いを食べさせてもらってから仕事へ、と、考えていたら。

「光海」
「はい?」

 涼の声に、振り返る。

「お前、これからバイトだろ。これ」

 これ、と差し出されたのは、ラッピングされたバナナカップケーキ。

「他のが間に合えば、とか思ったけど。間に合いそうにないし、これだけ」
「ほ、ほあぁ……! ありがとうございます!」

 まさか、バナナカップケーキを食べられるとは!

「涼、本当にありがとう! それでは、そろそろ時間なので、失礼します! 頑張って!」

 私はバナナカップケーキを受け取り、カバンに仕舞い、家庭科室をあとへ。
 るんるん気分の私は、バイト先で賄いを食べ、バイトを終え、家に帰ってからゆっくりと、バナナカップケーキを味わった。

  ◇

「はい。そろそろ時間なので、終了です」
「どうもでした」

 私の部屋にて。勉強会を終えた私は、涼に言った。

「涼。もうほぼ、一年の範囲は終えました。あとは復習して、脳と体に染み込ませるだけです。あと、課題のほうも、つっかえることがぐんと減りました。このままを維持できれば、次は赤点回避どころか、良い点数を狙える可能性も見えてきます。頑張りましょう」
「マジか。良い点数か。頑張る。……1個、聞いても良いか?」
「なんですか?」
「……もう、勉強見なくていいと思っても、一緒に、やってくれるか?」

 うつむきながら、涼が言う。首から下げたドッグタグが揺れる。

「もちろんです。涼と一緒に勉強するのは楽しいです。勉強じゃなくても、一緒に居られたら、嬉しいです」
「……いいか?」

 手のひらをこちらに向けられる。

「はい。あ、うん」

 言い直しつつ、手のひらを合わせた。そして、指が絡まり、握られる。握り返す。

「文化祭さ、一般公開されるんだよな」
「そうです。あの、仮のポスターとチラシ。とても良い出来だと思いますよ。集客に一役も二役も買うと思います」

 スイーツ類とメイド服、執事服が配置されたそれら。何パターンかあったけど、スイーツが一番美味しそうに見えるものに、投票した。

「ああ、一眼レフとか、フォトショってすげぇんだな。それを使える周りも。……光海のとこは、誰が来る?」
「そうですね……まだ1ヶ月半くらい先なので、なんとも言えませんが……大樹と愛流は、来るんじゃないですかね。放課後とかに。……涼のほうは? どなたかいらっしゃいますか?」
「……分かんねぇ」

 気落ちした声で言われる。

「三人とも、忙しいし。……昼間なら、誰か、来れるかもしんねぇけど」
「……私、お願いしても、良いですか? 文化祭、少しでも良いから、見に来て、涼たちが作ったスイーツを食べてほしいって」

 手を、ぎゅう、と握られる。

「……や、言ってみる。言ってみて、駄目なら駄目で、そん時は、そん時」
「……分かりました。けど、どうだったか、教えて下さい」

 こっちからも、手に力を込める。

「……ああ、うん、分かった。……ありがとう、光海」

  ◇

 さて、今日は土曜で、一日バイトの日だ。
 そして、来月からのクリスマス仕様に向けての、準備などを始めていく時期でもある。まあ、大体は、アデルさんとラファエルさんがやるんだけども。
 私はいつもの仕事をしつつ、テーブルや椅子、カウンターや壁や床やその他諸々の状態を、入念にチェックしていく。いつもしているけれど、その5倍くらいの集中力で、見ていく。

 カラン、と、常連さんが来た。対応して、引っ込む。
 それで、なぜ、状態チェックが必要かと言えば。
 それを報告するのが、今出来る、私のクリスマスに向けての仕事だから。
 直せるものは直して、取り替えるものは替えて。店内を綺麗にしてから、クリスマス仕様にするのだ。
 で、クリスマス仕様にするため、その前日はお店は休業して、入念に掃除して、飾り付けを行う。
 今は、その下準備といったところ。
 また、カラン。弓崎さんだ。

「いらっしゃいませ、弓崎さん。一名様ですか?」
「ああ、はい。今日は僕だけです。席、座ってます」

 かしこまりました、と、ルーティン。弓崎さんもこの店を気に入ってくれたらしく、私がシフトに入っている時にも、ちょいちょい見かける。そして、甘いものが好きなのか、スイーツ系を最低一つは食べていく。何にしろ、有り難いことだ。
 隅に居ながら、周り確認。……やっぱり、天井の照明カバー、少しホコリ被ってるな。
 と、会計に呼ばれ、終え、片付けながら確認して、また隅に。

 今は、昼が一旦収束するあたりだから、比較的ゆっくり出来る。まあでも、お客さんは来るんだけど。
 で、カラン。ご新規さん。日本語だったので、日本語で対応。ルーティンを終えたところで、弓崎さんの頼んだスイーツ2種が出来上がり。持っていく。
 ご新規さんに呼ばれ、メニューの説明。からの、ご注文。厨房へ。飲み物を持っていく。確認して、引っ込む。しばらくして、料理が出来上がり、持っていく。
 今のところ、店内に、目立った傷はない、と思う。
 ゆったり、けれど真剣に仕事をしていると、また、カラン。

「(いらっしゃいませ、ヴァルターさん。ウェルナーさん)」

 対応しつつ、思う。ウェルナーさんが分かりやすくご機嫌で、ヴァルターさんが少し困ったように苦笑している、と。
 話を振られて、案の定。
 ウェルナーさんは勇気を振り絞り、文化祭に行ってもいいかと聞いたらしい。会わないようにする、見かけても近寄らないから、と。
 そしたらマリアちゃんが、

『そこまでは大丈夫です。挨拶くらいなら、返せますから』

 それに、ウェルナーさんは大喜びしたそうだ。
 そんなウェルナーさんが心配で、ヴァルターさんから、アドバイスを求められた。ウェルナーさんへのアドバイスを。

「(そうですね……嬉しい気持ちは、とても分かります。けど、これは私見ですが、あまりに気持ちを前に出しすぎると、相手はその気持ちを受け止めきれずに、引いてしまうことがあったりします。ですから、落ち着いての対応をしたほうが、好印象を持ってくれるかと)」
「(や、分かってる。分かってはいるんだけど、こう、……うん、本人を前にしたら、しっかりすると思う。しっかりしろって思うだろうから。ありがとう、光海)」

 ウェルナーさんは、少し、落ち着いてくれたようだ。良かった良かった。
 良かった、が。ウェルナーさんからも、ヴァルターさんからも、マリアちゃんのクラスの映画の話が出なかった。知らないのか、あえて言ってないのか。……まあ、無事に終わることを祈る。色々と。
 昼休憩になり、賄いを食べつつ、気になった部分を報告。休憩終わり。で、ホールに戻る。
 そのまま何事も無く仕事を終え、報告して、帰宅した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...