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47 自己採点と

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 涼に、小声で「アレは歌わねえぞ」と言われ、頷いた。分かってますって。
 そして、まだお腹の空いているらしい涼に注文を任せ、みんなで歌う。で、涼も歌う。
 マリアちゃんも桜ちゃんも、その上手さと点数に驚いていた。私も驚いたし、涼も驚いていた。
 だって、96点て。
 点数表示をしようと言ったのは私だけど、これほどとは。

「橋本ちゃん、上手いじゃん……」

 呆気にとられた感じの、桜ちゃんの言葉に、

「……こんなにとは、思わなかった」

 涼も驚いたまま、答えた。
 そこから、もう2周して。解散。

「……なんか、今更に疲れが来たな……試験の……」
「そんなもんです」

 電車の座席に座り、手を繋いだまま喋る。

「これからゆっくり休んで、それから自己採点したほうが、心の準備は出来ますよ」
「自己採点……」

 ぎゅう、と、握られる。

「一緒にします? ウチは大丈夫ですけど。涼の家のほうが良いなら、そっちでも」
「家、人、居るか?」
「祖父母のどちらかは居るかと。どちらかはマシュマロと散歩ですね」
「……なら、こっちで良いか」

 俯きがちに言われる。怖いのかな、テストを誰かに見られる可能性があるのが。

「はい。大丈夫ですよ。あ、大丈夫だよ」
「……ありがとう」

 で、涼の家の、涼の部屋に。

「あとで何か持ってくる。先に自己採点したい」

 と、言うので、分かりましたと、問題用紙を出した。
 そこから、自己採点をしてみての、結果。
 私のほうは、目標に入っているのではないか、と。

「………………」

 その横で、涼が、難しい顔をしている。

「……どうでしたか?」
「……や、……俺が採点したからかな……見てくれないか」

 渡されたものを、見る。全てに目を通して──

「……涼」
「……おう……」
「出来ていると、私は思います。それに全部、赤点を回避してる可能性がありますよ!」

 全部、全部だ! 自己採点だけど、でも、全部!

「マジか」
「マジです。涼、抱きしめても良いですか?」
「お? お、おう」

 私は涼に抱きついた。そしてぎゅうっと抱きしめる。

「大丈夫です。涼は全力で取り組みましたから。あとは、果報は寝て待てですよ」
「……そっか」

 涼からも、抱きしめてくれた。

「光海、ありがとう」
「涼が頑張ったんですが……こちらこそ」

 そのまましばらく、抱きしめ合っていた。

「それにするのか?」
「はい」

 カメリアにて、涼と一緒に、商品を選んでいる。
 私はパンナコッタ、涼はアップルパイ。
 会計を済ませ、それを持って、家のキッチンへ。紅茶を2つ用意して、全てを持って涼の部屋へ。

「じゃ……いいか?」
「はい」

 まだ少し緊張している涼へ、笑顔で。

「……。……いただきます」
「いただきます」

 で、パンナコッタを食べる。

「ん、美味しい」

 美味しーなー美味しー。滑らかで、爽やかだけど、深みとコクがあって。と、ぱくついて、すぐに食べ終わってしまった。コクコクと、紅茶を飲む。はあ、温かい。

「ごちそう様でした」

 紅茶を置き、ふぅ、と、息を吐く。隣を見れば、涼はまだ少し、食べていた。
 どうしよっかな。

「涼」
「ん」
「これからどうします? フランス語で話します? ゆっくりします?」

 テスト結果が分かるのは、来週の月曜だ。

「……一回、ゆっくりしたい」
「わかりま、分かった」
「ん゛ん゛っ」

 紅茶を飲んだ時に言い直したからか、涼はくぐもった声を上げた。
 紅茶を飲み終わった涼は、私に顔を向け、

「(……私はあなたが大好きです)」
「……すごいですね。まだ、それ、ちゃんと教えていないのに」
「うるせぇ」
「(あなたと居ると幸せです)これは、日常的に使われる、愛の言葉だそうですよ」
「……おっまえぇ……!」

 涼は、顔をしかめて、

「この、可愛い、この、バカ、この……!」
「涼も可愛いです」
「言ったなこのヤロウ。……するぞ」
「へ、あ、わ、あの、う、……」

 膝の上に乗せられて、頭を固定されて、唇を、ふにふにされる。

「ひょ、ひょう」
「あんだよ」
ほふえんわ、おほおひあふ突然は、驚きます
「するぞっつった」
「ふぇぇ……」

 ふにふにされて、なぞられて、抓まれて、そのまま軽く引っ張られる。
 あれから、時々されていたけど。動きが、どんどん、多彩になっていくんだこれが。
 あう、く、悔しい。悔しいぞ。この、

「?!」

 涼のほっぺを抓んだら、驚いた顔をされた。やーい。
 そのまま軽く引っ張って、両手で挟んで、こねていたら。

「……おい」

 唇から手が離れて、その手が、私の頬を撫でる。

「その気になるぞ」

 顔を寄せて、言われる。

「いいのか?」

 まっすぐ見つめられ、少しずつ近づいてくる顔から、目が、離せなくて。

「なら」

 吐息がかかる。甘いリンゴの香りと、ダージリンの香り。

「するからな」

 柔らかい、ものが、唇に触れて。
 少し押し付けられて、離れた。

「で、どうだ。嫌か」

 さっきよりは遠いけど、まだ近い、赤い顔が、私を睨んでいて。

「……ズルい」
「は?」
「なんか、ズルいです。そんな顔して言われて、嫌だなんて言えません。……嫌でも、なかったですし」
「なら、もう一回、する」
「え、んむっ」

 唇を塞がれて、まっすぐに見つめられて。

「……」

 目が、離せなくて。彷徨いそうになるんだけど、離せなくて。
 フ、て、顔だけで笑われたのが分かった。

「……可愛いな、お前は」

 唇が離れて、顔が離れて、頬に触れていた手で髪を梳かれながら、微笑まれながら、言われる。

「……浮かれてますか?」

 むくれながら言う。

「浮かれてる」
「むう……」
「……(あなタとイるとシアワせです)……また言えるようになったら言うよ」
「充分通じますぅ」
「ちゃんと言いたいから、光海に」
「倒置法ぅ」
「言い直せば良いのか?」
「違いますぅ」
「その言い方も可愛いな」
「んむぅ……」


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