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16 ベッティーナさん
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「スクロールして大丈夫」
マリアちゃんに言われ、
「では、お言葉に甘えて」
一番上から、スクロールしていく。
『あの人の名前は?』
『Alessio Pulvirenti アレッシオ・プルヴィレンティ。今がどうだかは知らない』
『何歳?』
『20歳になるはず』
『プルヴィレンティさんの家族とも、仲良かったの?』
『そう。家族ぐるみで』
『えー……元カレ?』
『私のではない』
『誰のって聞いて良い?』
『姉』
『家族に連絡って、お姉さん?』
『そう』
『え、何、追いかけてきたわけ?』
『厳密には違う。けど、その辺は話せない。ストーカーとかではない』
『みつみんに何話したの?』
『伝言頼んだ。姉が来るけど待てるかって。で、待つって』
『お姉さん、いつ来るの?』
『早くて3時間って、本人からは言われた。今日、大学のサークルの関係で、少し遠くにいるんだ』
そこで、終わっていた。
「うん。ちょっと待ってね」
私はメモにサラサラと、私が知っていることを書き、切り取り、テーブルに置いた。
『私が聞いた名前も同じ。アレッシオさんが初めて来店したのは今週の日曜。最初からイタリア語で話してきた。話せる店員のことを誰かから聞いたのかも。で、その日の最後に、流暢な日本語でごちそうさまって。で、その後も、知ってる限り、今日含めて3回ご来店。以上』
そこで、ラファエルさんに呼ばれた。
「ごめん、行くね」
で、明宏さんたちに料理を持っていき、引っ込もうとしたところで、桜ちゃんに呼ばれた。
「お昼注文しようって。いい?」
「もちろん」
桜ちゃんが頼んだのは、ガレットとディアボロ・マント。ディアボロ・マントは、ミントシロップの炭酸割りだ。マリアちゃんはピッカータとディアボロ・フレーズ。フレーズは、いちごのシロップ。ユキさんはキッシュとカフェオレ。アズサさんはラタトゥイユで、飲み物無し。三人の飲み物は先に持ってくる。
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
で、厨房へ伝達。飲み物を作る。持って行く。
「おまたせしました」
3つ置いて、
「あと、何かありますか?」
4人とも無いとのことで、引っ込む。アレッシオさんをちらりと見れば、ラタトゥイユを食べ終えているらしく、頬杖をついて目を閉じている。
「(あの、アレッシオさん)」
控えめに声を掛けると、パチ、と目を開けた。
「(もしよろしければ、ですが。食器を片づけましょうか? あと、お水のおかわりも)」
そしたら、アレッシオさんは、苦笑して。
「(じゃあ、お願いするよ。あと、水も欲しいけど、コーヒーの追加も良いかな)」
「(かしこまりました)」
食器を片付け、伝達、メモ、水とコーヒーを準備する。で、アレッシオさんの所へ持っていく。
「(ありがとう)」
「(いえ、こちらこそ。あと何か、ありますか?)」
アレッシオさんは少し考えてから、
「(いや、大丈夫。ありがとう)」
「(では、御用の際はお声がけください)」
引っ込み、隅に寄り、時計を見る。午後の1時を過ぎたところだ。
早くて3時間。たぶん、まだ、30分くらいしか経ってない。それと、マリアちゃんたちへ料理を持っていった辺りで、昼休憩になりそうだ。
そんなことを思っていたら、予想通りにラファエルさんに呼ばれる。料理を4人の所へ。今は、あとは大丈夫、と言われたので、引っ込む。昼休憩の時間になった。
ここの昼は賄いだ。ラファエルさんが作ってくれたラタトゥイユを、いただきますと食べ、水を飲みつつ、ホールへ耳をそばだてる。私が出れない時はラファエルさんが対応することになってるけど、やっぱり、気になる。
アデルさんの悪阻は、どんどん重くなっているらしい。安定期に入れば落ち着くらしいけど、その安定期まで、まだ1ヶ月はある。なので、今日は、というか、今日も、ほぼ一人で接客だ。
ごちそうさまと食べ終え、食器を流しに置き、顔や服が汚れていないことや、髪の乱れを確認して。
ホールに出る。幸い、聴こえていた通りにお客さんは来ていないらしい。待たせることがなくて良かった。
ぽつぽつ来る常連さんへ接客して、会計して、テーブルを片付けて。そうしてるうちに、いつもの感じを取り戻してきた。
いやぁまぁ、私もまだまだだ。あれくらいで取り乱してどうする。いや、最悪を考えないといけない立場でもあるけれど。
「光海、いいか?」
「うん」
マリアちゃんに呼ばれ、テーブルへ。因みに、マリアちゃんたちはもう食べ終わっており、食器は片付け、飲み物を追加注文され、出してきた。
「(また、伝言、頼む)」
と、スマホを見せられた。
『あと30分くらいでそこに着くらしいから、彼に伝えて。タクシーに乗ってるって』
タクシー、結構飛ばしたんだろうか。まだ、2時半だけど。
「(了解)」
それを、アレッシオさんに伝える。
「(ありがとう。……彼女たちにも、感謝を伝えてくれるかな)」
「(かしこまりました)」
笑顔で応えた。
で、マリアちゃんへ、伝える。
「(分かった。伝えとく)」
マリアちゃんは、苦笑して、言った。
することが無くなり、隅に寄る。今までの情報を整理して、アレッシオさんとマリアちゃんのことについて、考える。
マリアちゃんのお姉さんだから、ベッティーナさんだよね? 2人姉妹って聞いたし、ベッティーナさんにも何度か会ったことあるし。さっきメッセージを見せてもらったその相手も、姉、とあった。
私がベッティーナさんに最後に会ったのは、今年の2月。マリアちゃん家族全員が、お店に来てくれた時だ。
その時のベッティーナさんは、マリアちゃんより濃い金髪を緩く三つ編みにしていて、それでも腰に届きそうだった。で、マリアちゃんの瞳は黒だけど、ベッティーナさんは薄い茶色。マリアちゃんは切れ長タイプの目だけど、ベッティーナさんはアーモンド型だ。ベッティーナさんの背の高さは、マリアちゃんと同じくらい。
などと考え思い出しつつ、アレッシオさんをチラ見する。アレッシオさんはコーヒーを飲みながら、本を読んでいた。テーブルには、四つ葉のクローバーの栞が置いてある。いつも、帰る頃になると、アレッシオさんは本を読んでいた、な、と、思い出して。
ベッティーナさんについても、もう一つ、思い出した。
『これね、お守りなの』
ベッティーナさんも、四つ葉のクローバーの栞を持っていた。
……こ、これは、これは確定なのでは?
時計を見る。あれから15分経っている。けど、15分しか、経っていない。
あと15分、そう思っていたら、店の前に、車が止まった。タクシーだ。え、来た? いや早計だ。別の人かも知れないし、関係ないタクシーかも知れないし。
冷静さを保とうと、色々考えて。降りてきた人がドア越しに見え、その、見覚えしかない女性は、カラン、とドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
店員として、声を掛ける。ベッティーナさんが、アレッシオさんを見て固まっていようとも。そのアレッシオさんも、ベッティーナさんを見て、固まっているけれど。
ベッティーナさんは、ハッとしたように、近くまで来ていた私へ顔を向けた。
「……あ、ごめんね。久しぶり、光海」
「お久しぶりです。お席、どうしますか?」
「(姉さん)」
そこに、マリアちゃんがやってきた。
「(姉さん、アレッシオ。カウンターじゃなくてテーブルで。光海もいい?)」
「(マリアちゃんたちがそれで良いなら)」
「(僕も、それで頼みたい。良いかな、ベティ)」
カウンターの席から降り、安心させるように微笑みながら、アレッシオさんが言う。
ベッティーナさんは無言で、こくりと頷いた。
「(では、どこの席にしますか? ご案内しましょうか?)」
3人の顔を見つつ、聞く。
「(光海、悪い。私が連れてく。2人にカフェオレ頼む)」
「(了解)」
マリアちゃんへ頷いて、アレッシオさんの食器を片付け、伝達、メモ、二人分の水とカフェオレ。
ホールへ戻れば、ベッティーナさんとアレッシオさんは、壁際の席に、横並びで座っていた。マリアちゃんは、元の席だ。
「(おまたせしました)」
水とカフェオレを置く。
「(何か御用の際は、お声がけください)」
と、引っ込み、食器を片付けただけのアレッシオさんのカウンターを、綺麗にする。ベッティーナさんとアレッシオさんが話しているのが聞こえるけど、なるべくスルー。
で、終わり、店内を見回し──二人が手を繋いでいるのが見えたけど、気にしない──することはなさそうだな、と隅に寄る。
「(本当に、来てくれたんだ)」
「(それは僕の言葉だよ。来てくれて、会おうとしてくれて、会えて、嬉しい)」
「(栞、クローバー……持っててくれたんだね)」
「(当たり前だよ。君が見つけてくれたんだから。僕が栞にしたんだから)」
やーっぱりかー。
「(私も、持ってる。今も、持ってる)」
「(じゃあ、僕のお願いは、叶った?)」
「(私のお願いも、叶った)」
おめでとうございます、と思ったところで、カラン、とドアが開いた。エマさんとレイさんだった。
「(いらっしゃいませ)」
「(やあ、光海。今日は最初から一緒だよ。適当に座っていいかい?)」
「(かしこまりました。お水をお持ちしますね)」
で、ルーティンをこなし、エマさんはディアボロ・グルナディン──ざくろシロップの炭酸割り──を、レイさんはディアボロ・シトロン──シトロンはレモンシロップだ──を、ご注文。かしこまりました、と引っ込み、飲み物を用意し、テーブルへ。
少しして、マリアちゃんたちに、会計で呼ばれた。
「ありがとう、色々と」
マリアちゃんに言われる。
「いやいや、こちらこそ」
個別会計を終え、4人は、ごちそうさまと言って店をあとにした。
さて、テーブルを片付けよ。
で、その後は、ほぼいつも通り。ベッティーナさんとアレッシオさんは、午後の5時頃まで話して、会計の時、ありがとう、と言ってくれた。こちらこそ、と返した。いつも通りの笑顔で。
そして、時間キッチリまで、仕事をして。帰ってから、スマホを見たら、マリアちゃんと桜ちゃんと橋本から、通知が来てた。
「……」
まず、マリアちゃんから。
『今日は本当、色々ありがとう。光海には何話してるか聞こえただろうけど、あとはあの二人の問題だし、決着付いてから話す。それと、ユキとアズサと桜と光海との、5人のグループ作らないかって。どうする?』
全部了解。グループ作ろう。と送って、今度は、桜ちゃん。
『マリアちゃんから話いくと思うけど、今日の5人でグループ作らない?』
マリアちゃんのを見たことと、OKを送る。
最後に、橋本だ。
『明日、勉強の後で、言うことがある』
……また、前みたいな文になったな。
『それは、勉強の時間内で、ということですか? それとも勉強の時間は確保した上で、ということでしょうか?』
送信。
さて、明日の支度をしましょうか。ノートのコピー、教材、返ってきたテスト、参考書、筆記用具、財布……こんなもんかな。
「で、水筒洗って……」
と、通知。
『後者』
……。はいはい後者ね。
『分かりました』
マリアちゃんに言われ、
「では、お言葉に甘えて」
一番上から、スクロールしていく。
『あの人の名前は?』
『Alessio Pulvirenti アレッシオ・プルヴィレンティ。今がどうだかは知らない』
『何歳?』
『20歳になるはず』
『プルヴィレンティさんの家族とも、仲良かったの?』
『そう。家族ぐるみで』
『えー……元カレ?』
『私のではない』
『誰のって聞いて良い?』
『姉』
『家族に連絡って、お姉さん?』
『そう』
『え、何、追いかけてきたわけ?』
『厳密には違う。けど、その辺は話せない。ストーカーとかではない』
『みつみんに何話したの?』
『伝言頼んだ。姉が来るけど待てるかって。で、待つって』
『お姉さん、いつ来るの?』
『早くて3時間って、本人からは言われた。今日、大学のサークルの関係で、少し遠くにいるんだ』
そこで、終わっていた。
「うん。ちょっと待ってね」
私はメモにサラサラと、私が知っていることを書き、切り取り、テーブルに置いた。
『私が聞いた名前も同じ。アレッシオさんが初めて来店したのは今週の日曜。最初からイタリア語で話してきた。話せる店員のことを誰かから聞いたのかも。で、その日の最後に、流暢な日本語でごちそうさまって。で、その後も、知ってる限り、今日含めて3回ご来店。以上』
そこで、ラファエルさんに呼ばれた。
「ごめん、行くね」
で、明宏さんたちに料理を持っていき、引っ込もうとしたところで、桜ちゃんに呼ばれた。
「お昼注文しようって。いい?」
「もちろん」
桜ちゃんが頼んだのは、ガレットとディアボロ・マント。ディアボロ・マントは、ミントシロップの炭酸割りだ。マリアちゃんはピッカータとディアボロ・フレーズ。フレーズは、いちごのシロップ。ユキさんはキッシュとカフェオレ。アズサさんはラタトゥイユで、飲み物無し。三人の飲み物は先に持ってくる。
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
で、厨房へ伝達。飲み物を作る。持って行く。
「おまたせしました」
3つ置いて、
「あと、何かありますか?」
4人とも無いとのことで、引っ込む。アレッシオさんをちらりと見れば、ラタトゥイユを食べ終えているらしく、頬杖をついて目を閉じている。
「(あの、アレッシオさん)」
控えめに声を掛けると、パチ、と目を開けた。
「(もしよろしければ、ですが。食器を片づけましょうか? あと、お水のおかわりも)」
そしたら、アレッシオさんは、苦笑して。
「(じゃあ、お願いするよ。あと、水も欲しいけど、コーヒーの追加も良いかな)」
「(かしこまりました)」
食器を片付け、伝達、メモ、水とコーヒーを準備する。で、アレッシオさんの所へ持っていく。
「(ありがとう)」
「(いえ、こちらこそ。あと何か、ありますか?)」
アレッシオさんは少し考えてから、
「(いや、大丈夫。ありがとう)」
「(では、御用の際はお声がけください)」
引っ込み、隅に寄り、時計を見る。午後の1時を過ぎたところだ。
早くて3時間。たぶん、まだ、30分くらいしか経ってない。それと、マリアちゃんたちへ料理を持っていった辺りで、昼休憩になりそうだ。
そんなことを思っていたら、予想通りにラファエルさんに呼ばれる。料理を4人の所へ。今は、あとは大丈夫、と言われたので、引っ込む。昼休憩の時間になった。
ここの昼は賄いだ。ラファエルさんが作ってくれたラタトゥイユを、いただきますと食べ、水を飲みつつ、ホールへ耳をそばだてる。私が出れない時はラファエルさんが対応することになってるけど、やっぱり、気になる。
アデルさんの悪阻は、どんどん重くなっているらしい。安定期に入れば落ち着くらしいけど、その安定期まで、まだ1ヶ月はある。なので、今日は、というか、今日も、ほぼ一人で接客だ。
ごちそうさまと食べ終え、食器を流しに置き、顔や服が汚れていないことや、髪の乱れを確認して。
ホールに出る。幸い、聴こえていた通りにお客さんは来ていないらしい。待たせることがなくて良かった。
ぽつぽつ来る常連さんへ接客して、会計して、テーブルを片付けて。そうしてるうちに、いつもの感じを取り戻してきた。
いやぁまぁ、私もまだまだだ。あれくらいで取り乱してどうする。いや、最悪を考えないといけない立場でもあるけれど。
「光海、いいか?」
「うん」
マリアちゃんに呼ばれ、テーブルへ。因みに、マリアちゃんたちはもう食べ終わっており、食器は片付け、飲み物を追加注文され、出してきた。
「(また、伝言、頼む)」
と、スマホを見せられた。
『あと30分くらいでそこに着くらしいから、彼に伝えて。タクシーに乗ってるって』
タクシー、結構飛ばしたんだろうか。まだ、2時半だけど。
「(了解)」
それを、アレッシオさんに伝える。
「(ありがとう。……彼女たちにも、感謝を伝えてくれるかな)」
「(かしこまりました)」
笑顔で応えた。
で、マリアちゃんへ、伝える。
「(分かった。伝えとく)」
マリアちゃんは、苦笑して、言った。
することが無くなり、隅に寄る。今までの情報を整理して、アレッシオさんとマリアちゃんのことについて、考える。
マリアちゃんのお姉さんだから、ベッティーナさんだよね? 2人姉妹って聞いたし、ベッティーナさんにも何度か会ったことあるし。さっきメッセージを見せてもらったその相手も、姉、とあった。
私がベッティーナさんに最後に会ったのは、今年の2月。マリアちゃん家族全員が、お店に来てくれた時だ。
その時のベッティーナさんは、マリアちゃんより濃い金髪を緩く三つ編みにしていて、それでも腰に届きそうだった。で、マリアちゃんの瞳は黒だけど、ベッティーナさんは薄い茶色。マリアちゃんは切れ長タイプの目だけど、ベッティーナさんはアーモンド型だ。ベッティーナさんの背の高さは、マリアちゃんと同じくらい。
などと考え思い出しつつ、アレッシオさんをチラ見する。アレッシオさんはコーヒーを飲みながら、本を読んでいた。テーブルには、四つ葉のクローバーの栞が置いてある。いつも、帰る頃になると、アレッシオさんは本を読んでいた、な、と、思い出して。
ベッティーナさんについても、もう一つ、思い出した。
『これね、お守りなの』
ベッティーナさんも、四つ葉のクローバーの栞を持っていた。
……こ、これは、これは確定なのでは?
時計を見る。あれから15分経っている。けど、15分しか、経っていない。
あと15分、そう思っていたら、店の前に、車が止まった。タクシーだ。え、来た? いや早計だ。別の人かも知れないし、関係ないタクシーかも知れないし。
冷静さを保とうと、色々考えて。降りてきた人がドア越しに見え、その、見覚えしかない女性は、カラン、とドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
店員として、声を掛ける。ベッティーナさんが、アレッシオさんを見て固まっていようとも。そのアレッシオさんも、ベッティーナさんを見て、固まっているけれど。
ベッティーナさんは、ハッとしたように、近くまで来ていた私へ顔を向けた。
「……あ、ごめんね。久しぶり、光海」
「お久しぶりです。お席、どうしますか?」
「(姉さん)」
そこに、マリアちゃんがやってきた。
「(姉さん、アレッシオ。カウンターじゃなくてテーブルで。光海もいい?)」
「(マリアちゃんたちがそれで良いなら)」
「(僕も、それで頼みたい。良いかな、ベティ)」
カウンターの席から降り、安心させるように微笑みながら、アレッシオさんが言う。
ベッティーナさんは無言で、こくりと頷いた。
「(では、どこの席にしますか? ご案内しましょうか?)」
3人の顔を見つつ、聞く。
「(光海、悪い。私が連れてく。2人にカフェオレ頼む)」
「(了解)」
マリアちゃんへ頷いて、アレッシオさんの食器を片付け、伝達、メモ、二人分の水とカフェオレ。
ホールへ戻れば、ベッティーナさんとアレッシオさんは、壁際の席に、横並びで座っていた。マリアちゃんは、元の席だ。
「(おまたせしました)」
水とカフェオレを置く。
「(何か御用の際は、お声がけください)」
と、引っ込み、食器を片付けただけのアレッシオさんのカウンターを、綺麗にする。ベッティーナさんとアレッシオさんが話しているのが聞こえるけど、なるべくスルー。
で、終わり、店内を見回し──二人が手を繋いでいるのが見えたけど、気にしない──することはなさそうだな、と隅に寄る。
「(本当に、来てくれたんだ)」
「(それは僕の言葉だよ。来てくれて、会おうとしてくれて、会えて、嬉しい)」
「(栞、クローバー……持っててくれたんだね)」
「(当たり前だよ。君が見つけてくれたんだから。僕が栞にしたんだから)」
やーっぱりかー。
「(私も、持ってる。今も、持ってる)」
「(じゃあ、僕のお願いは、叶った?)」
「(私のお願いも、叶った)」
おめでとうございます、と思ったところで、カラン、とドアが開いた。エマさんとレイさんだった。
「(いらっしゃいませ)」
「(やあ、光海。今日は最初から一緒だよ。適当に座っていいかい?)」
「(かしこまりました。お水をお持ちしますね)」
で、ルーティンをこなし、エマさんはディアボロ・グルナディン──ざくろシロップの炭酸割り──を、レイさんはディアボロ・シトロン──シトロンはレモンシロップだ──を、ご注文。かしこまりました、と引っ込み、飲み物を用意し、テーブルへ。
少しして、マリアちゃんたちに、会計で呼ばれた。
「ありがとう、色々と」
マリアちゃんに言われる。
「いやいや、こちらこそ」
個別会計を終え、4人は、ごちそうさまと言って店をあとにした。
さて、テーブルを片付けよ。
で、その後は、ほぼいつも通り。ベッティーナさんとアレッシオさんは、午後の5時頃まで話して、会計の時、ありがとう、と言ってくれた。こちらこそ、と返した。いつも通りの笑顔で。
そして、時間キッチリまで、仕事をして。帰ってから、スマホを見たら、マリアちゃんと桜ちゃんと橋本から、通知が来てた。
「……」
まず、マリアちゃんから。
『今日は本当、色々ありがとう。光海には何話してるか聞こえただろうけど、あとはあの二人の問題だし、決着付いてから話す。それと、ユキとアズサと桜と光海との、5人のグループ作らないかって。どうする?』
全部了解。グループ作ろう。と送って、今度は、桜ちゃん。
『マリアちゃんから話いくと思うけど、今日の5人でグループ作らない?』
マリアちゃんのを見たことと、OKを送る。
最後に、橋本だ。
『明日、勉強の後で、言うことがある』
……また、前みたいな文になったな。
『それは、勉強の時間内で、ということですか? それとも勉強の時間は確保した上で、ということでしょうか?』
送信。
さて、明日の支度をしましょうか。ノートのコピー、教材、返ってきたテスト、参考書、筆記用具、財布……こんなもんかな。
「で、水筒洗って……」
と、通知。
『後者』
……。はいはい後者ね。
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