酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。

山法師

文字の大きさ
上 下
59 / 71

58 悪魔除けと悪魔祓い その効果

しおりを挟む
 なんか、嫌な夢を見た気がする。アラームを止めつつ、そう思う。でも、良く覚えていない。
 セイに、おはようスタンプを送って、着替える。洗面所に行って、身支度を整えて。
 台所に行けば、ミクトが居た。取り分けていた肉団子鍋を食べてる。

「ミクト、おはよう」
「ん」

 こっちをちらりとも見ない。……だいぶ、顔色が悪く見える。目の下のクマも、濃い。

「お母さんとお父さんは?」
「寝てんじゃね」
「そっか」

 ミクトの脇を抜けて、流しに向かおうとして。

「いだっ?!」「?!」

 バチン! と何かに弾かれた。ミクトの側から。悲鳴を上げたのは、ミクトだ。

「……なに? 今の」
「知るか。何だよ? ヤバい静電気みたいだったんだけど?」

 睨まれるけど、私にだって分からない。

「ちょっといい?」

 ミクトに手を伸ばす。

「あ? ──だっ?!」

 また、弾かれた。……幽霊は、見当たらないけど……。

「んっだくそ、手品か? アレに習ったのか?」
「いや、習ってないけど……? なに? この現象?」
「知るか! もう近付くな! 食べらんねぇだろ!」
「ご、ごめん……?」

 私は台所から出て、自分の部屋に戻る。

「どうなってんの……?」

 不安になって、ネックレスの石を握った。……温かい。──温かい?

「? ──?!」

 ネックレスを見れば、その菱形の中で、細かい紋様や魔法陣みたいなのが、光って、動いていて。

「……悪魔除け、悪魔祓い、悪霊除け、悪霊祓い……」

 悪霊なら、私にも気付ける筈で。だとしたら、あれは。

「……悪魔が、ミクトに……?」

 ヤバいだろ。それは。
 セイに連絡、電話しなきゃだ。繋がってくれ……!

『ナツキさん?』

 出てくれた!

「おはよう、朝にごめん。聞いて欲しいことがあって」

 私はさっきのことと、見聞きしたミクトの様子、ネックレスについて話した。

『──ナツキさん、冷静に聴いてください』
「う、うん」

 セイの静かな声に、背ずじを伸ばす。

『お話を聞く限り、悪魔が関わっている可能性が、高いです』

 ……やっぱり、そうなのか。

『御三方も、ナツキさんに何かあったと、察知したようです。今からそちらに向かいます。玄関前に、ナツキさんだけに分かるように。良いですか?』
「分かった。ありがとう。けど、仕事は?」
『まだ七時です。仕事は九時半からなので、大丈夫です。それに、ナツキさんの弟さん──ミクトさんに何かあるなら、そちらを優先したいと思っています。──着きました。玄関前です』

 もう着いた?!

「ちょ、ちょっと待ってて?!」

 スマホをそのままに、玄関を出る。

「おはようございます、ナツキさん」

 セイが居た。そして、

『『『にゃあ』』』

 セイに抱えられた子猫たちも居た。

「お、おはよう……? セイ、アオイは分かるとして、スリーキャッツは、なぜ?」

 駆け寄り、聞く。

「自分たちも、と、仰いまして。ケージを構築する前に、まずは、共に、と」

 家を眺めながら、セイが言う。

「じ、地縛霊なのに……? あ、今は守護霊か。……え? だったらこれからは、どこでも連れて行けるの?」
「未確定部分が強いです。要検証、ですね。それで、ナツキさん」

 子猫たちに登られながら、セイが声を厳しくした。

「悪魔、関わってます。けれど今は、ここには居ません。安心して下さい」
「そ、そうなんだ……? ミクトは、兎も角今は、大丈夫なんだね?」
「はい。……ミクトさんに、会っても大丈夫ですか?」
「え、今から? 周りになんて言えばいい?」
「いえ、失礼になってしまいますが、ミクトさんにだけ、会います。それから悪魔の気配を辿って、出処を探ります。あと少し、失礼」

 セイが私の頭に手を乗せ、離す。

「……ミクトさんの近くに居たからか、ナツキさんにも、ほんの少し、悪魔の気配が絡んでいました。今、それを吹き飛ばしました。それで、会えますか?」

 真剣な顔で、セイが、ミクトの部屋のほうを見る。……これは相当に、緊急事態かもしれない。

「分かった。部屋まで案内する。着いてきて」

 玄関に入り、ミクトの部屋へ直行。ドアをノックする。

「ミクト、居る?」
『んだよ』
「居るね。部屋、入るね」
『は?』

 躊躇わず、開ける。中に入る。

「お前マジ何? 朝っぱらからさぁ」

 ミクトはベッドに腰掛けていて、持っていたウサギのぬいぐるみを横に置いた。私がプレゼントしたものだ。
 ミクトは、可愛いものが好きだ。けどそれを、小さい頃に周りに誂われてから、隠すようになった。人を部屋に呼ぶ時に、大掃除をするように──そういうモノたちを、隠すようになった。
 両親にも、極力見せない。私には、見せてくれる。ミクトを誂った奴らをボコボコにしたから、許している、らしい。

「緊急事態です。車崎アオイさんに来てもらっています。今、目、瞑ってもらってる。そのまま部屋に入ってもらうよ。詳細はあとで説明する」
「はあ?」
「入って、アオイ」

 失礼します、と入って来たアオイに、ミクトは固まった。

「こんな形ですみません。車崎アオイと言います。神永ミクトさんですね」

 目を瞑ったままミクトの前まで来て、セイは片膝をつき、顔をミクトに向ける。目を、閉じたまま。

「ナツキさんの言う通り、詳細は、後日、お話します。……ありがとうございます。大丈夫です。失礼しました」
「……アンタ、目、見えない人?」

 立ち上がるセイに、ミクトが、恐る恐る聞く。

「いえ、見えます。プライバシー保護として、目を閉じているように、と、ナツキさんに言われましたので、こうしています。あなたの生命は保証します。あとこれを、持っていて下さい。優れない体調を、少しですが緩和するものです」

 セイはジャケットのポケットに手を入れ、固まったままの、ミクトの膝の上に、そこ──に繋がる空間からだろうけど──から出した石を複数置く。

「これから、調べ物がありまして、すみません。体調不良の原因は、判明次第、ナツキさんにお伝えします。こんな形での挨拶となってしまいましたが、ご了承を。では、失礼します」

 セイは一礼して、消えた。

「……ファンタジーかよ」

 ミクトが、不機嫌そうに言う。

「ナツキ、お前、詐欺とかよりヤバいもんに引っかかってねぇ? てか、これ、何?」

 ミクトは、膝の上の石たち──青と緑と紫だ──から、紫を抓み、照明に翳す。

「引っかかってはない。それは保証する。アオイはね、朝の謎の件について、調べてもらうために来てもらった」

 そのままの位置で、話す。また弾かれないように。

「あの意味不明な? ビリビリショックのあれ?」
「そう。で、ミクト。気分、どう?」
「驚いてる」
「そうじゃなくて。アオイが言ってたでしょ? 体調不良を緩和するって。緩和されてる?」
「いや、緩和される訳ねぇだろ。ただの石で。……たぶん」

 ミクトが、奇妙な顔をする。効果はあったらしい。

「……ねぇ、ミクト。話せるだけでいいから、最近どうしてたか、教えてくれない? 私もアオイのこと、話せるだけ話すから」

 言っていたら、スマホに通知。

「ごめん、ちょっと待って」

 セイからだ。しかも、

『ミクトさんに関わっている可能性が高い悪魔は、夢魔か淫魔です。ミクトさんから濃密に、その気配を感じました。ミクトさんの周りだけです。だから、ご自宅の写真を見た時も、気付けなかった。すみません。ミクトさんに、最近の生活状況などを、聞いて下さいませんか? 特に、夜の時間帯について。聞ける範囲で構いませんので』

 私は『分かった。ありがとう。聞く』と、送り、スマホを持ったまま、その場に座る。
 夢魔、淫魔。セイが言うなら、間違いないし。ミクトの様子からして、すんごいタチ悪そう、その悪魔。

「今、アオイから連絡があった。調べてくれてるって。で、ミクト。夜、眠れてる?」
「お前もそれかよ。寝てるよ。健康……たい、だし」

 ミクトが顔を背ける。ある意味とても素直だ。

「寝れてるんだね。なら、……夢とか、見てる?」
「夢……。見た気はするけど、あんま、覚えてねぇ」
「なんとなくは、覚えてる? 言える?」
「なんか、良い夢。いつもそう。……帰ってきて、寝て、起きたら、良い夢見たって気分になる。そんな感じ」

 ミクトが、その時の気分を思い出してか、うっとりとしたような表情になる。

「そうなんだね。……良い夢見れるなら、なんであんまり帰らないの?」
「……分かんねぇ。足が向かない。けど、良い夢見たいから、なんとか帰ってる」

 なんか、ドラマとかで見る、ドラッグにハマった人みたいな感じだな。

「そうなんだ、分かった。良い夢見れるようになったのは、いつ頃?」
「……よく、覚えてない。ここ二週くらいは、確実に見れてる、気がする。……なんなん? これ。問診?」

 苛ついてる様子のミクトに「みたないもの」と返す。

「ワケ分かんねぇな。お前もアレ、車崎の話、すんだろ。言えよ」
「分かった。話すね。最初から、話す。アオイとはね、よく行く居酒屋で、偶然会ったんだよ」

 伏せなきゃいけないとこは無理だけど、話せるところは出来るだけ話す。そうしていたら、母に呼ばれた。

「お母さん、呼んでるね。朝の支度、やってもらっちゃった。続きはあとで話すから、下、行こう」

 立ち上がり、言う。

「……先に行ってろ」

 硬い声で言われる。

「分かった。先に行ってるね」

 部屋から出て、自分の部屋へ。行ったら、子猫たちが居て、すり寄ってくれる。

「ありがとう、来てくれて。けど、ちょっと待ってね」

 私はその場でラインを開き、セイに、聞いたことや受けた印象などをなるべく細かく伝え、最後に。

『ミクトのこと、本当にありがとう。でも、セイも危険な感じとかあったら、教えて。無事を知らせて。顔見せて。セイに何かあったら、私、泣くからね』

 心配です、無理しないで、愛してる、LOVE、ハート。使えるスタンプを送りまくって、スマホを閉じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...