酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。

山法師

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43 恋人である、という状況が

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 買い物を終えて、一旦ものを仕舞って、癒やされようとスマホを出す。

「あ」

 あのあと開き直って、薔薇と一緒に三匹を撮らせてもらって、壁紙にしたそれを見ようとした、んだけど、セイから何か来てる。

『デザイン、了解しました。それと、出来るなら泊まりたいです。あと、泊めていただけるなら、一緒に食べたいです』
「おお、了解了解」

 の、スタンプを送って、料理に取り掛かる。
 一週間分だけど、ちょっとセイのことを考えて、少し多めに買ってみた。ちゃんと、保存が効くものにするけども。
 食材を処理しながら、プレゼントについて考える。セイだってそもそも、会って一回の私のことを考えて、石を作ってくれた。セイから直接好みを聞くのも良いけど、自分なりに、セイへのものを考えたい。

「なんだろー、何がいいんかな。……少しだけ、誰かに知恵をお借りしたい」

 早速折れてしまったけど、まあ、私は私だ。そもそもこういう経験皆無だし。
 一旦手を止め、綺麗にして、スマホを取る。

「誰に聞きゃ良いんだろな」

 いっぺんに何人かに聞くと、訳分かんなくなりそうだし。

「……リミさんかな」

 リミさんは、セイに見せた四人飲み会の、最後の一人。フルネームは根本ねもとリミ。私より二つ年上で、恋人がいる。
 ユイちゃんも副島も、恋人の話は聞かないし。という判断のもと、リミさんへSOSを出した。

「よし、作業再開」

 で、食材の処理を終え、子猫たちと戯れていたら。
 スマホに反応が。
 確認すれば、リミさんで。
 そのまま、何度かやりとりをして、

「……ほ、ほおう……」

 私へのアドバイスとともに、なるほどそういう考えもあるのか、という貴重な意見を頂いた。
 なら、セイに相談だな。
 ありがとうございます、と、まあもう少し丁寧な文章だけど、リミさんにお礼を送り。
 あとちょっとだけと子猫たちに癒やしてもらってから、セイのお泊りの準備に取り掛かった。

 *

「お、邪魔します」
「はいどうぞー」

 緊張しているセイを迎え入れる。緊張されるとこっちも緊張するぞこら。

「仕事、順調だったって感じ?」

 現在時刻二十時十五分。だから、緊張をほぐすためにも、そう聞いてみた。

「ああ、はい。トラブルもほとんどなく、無事に終えられました。なので、何も問題なければ、九時に……あと一時間もなく、一本目が公開されます」
「おーそれは良かった。あ、あとセイ」
「はい」
「お弁当、一緒に食べるんでしょ? 温めておくから、先にくれると嬉しい」
「あ。あ、はい……」

 照れながらも一瞬で弁当を出現させたセイは、「お願いします」と渡してくれた。

「はい。確かに。じゃ、先にリビング行ってるね」
「はい」

 その流れでリビングへ。お弁当を温め直してる間に、セイがやってきた。

「あの、お茶も、ありがとうございました。洗ってあります」

 と、水筒を差し出してくれた。両手で。

「ありがと、セイ。で、飲み物、どうする?」

 受け取りながら、聞く。

「え、あー……ナツキさんと、同じものを」
「じゃ、昼とおんなじになるけど、ほうじ茶でもいい?」
「はい」

 だから笑顔ヤバい。

 *

「でね、セイ。色々相談とか、聞きたいことがあるんだけどさ」
「なんでしょうか」

 お夕飯のお弁当を食べながら、なんとか言葉を組み立てる。

「まず、あの薔薇なんだけど、……加工はしてほしいんだけど、色々調べてたら、色んな加工法があるのを知ってさ」
「如何ようにも出来ますよ」
「……複数方法って、アリ?」
「どのようにですか?」

 うーん。言ってみよ。

「まずね、一本はそのままが良いんだ。で、もう一本はプリザーブドフラワーで、もう一本はドライフラワー。……で、最後の一本を、ハーバリウムっていうのに、してもらえたらなーって」

 贅沢かな、と思ったけど。

「分かりました。全部大丈夫です」

 めっちゃ爽やかに返してくれたよ。

「ハーバリウムなら、どのような容器が良いなどありますか?」
「いや全然分からん」
「では、あとで、どのようなものがいいか、色々出しますね」
「助かるぅ」

 セイが、別の意味で眩しい。

「あとは、なんでしょう?」
「えー、あとはね。まだそれなりにあるんだけど、大丈夫?」
「はい。ナツキさんの話ですから」

 ……君はさぁ……!

「ん、じゃ、まず、朝に起こした時にさ、シャツとスラックスとベルトだったじゃん? いつもそうして寝てるの?」
「え、はい」

 キョトンとするな。

「パジャマとかは、着ない派?」
「あ、あー……あー…………」

 セイが困った顔になった。

「ちょっと、ここ数年、……数年? 着た覚えは、ないですね」
「んじゃ、試しに着よう」
「えっ。……も……て、ない、です……」

 うん、そんな気はしてた。

「じゃ、近いうちに買うとして、今日はしょうがないから、できるだけゆったりした服着て。これ、決定事項ね」
「は、はい……」

 なぁんで赤くなるかな?! もう!

「でね、セイに教えてもらったから、当日が無理なのは分かってるけどさ。クリスマス、近くなくても良いから、どっかの日で、一緒に過ごせないかなぁって」
「……一緒に……」

 ちょっと戻った顔色が、また、赤くなった。……赤くなる頻度が高くなってるね?

「……まあ、そこは、追々で。で、私ね、年末年始、実家に帰る予定なんだ。二十九日に出発して三日に帰る。セイは年末年始、どうなるのかなって」
「えっと、その、……多分、予定が沢山入るかと」

 セイが、しゅん、とする。それがすぐ、キリッとする。

「ですけど、顔を見るくらいなら、あ、顔を出すくらいなら、出来るかと。時間、作ります」
「来てくれるの?」

 苦笑してしまう。その、一生懸命さに。

「行きます。絶対」
「そっか。ありがとう、セイ」

 ……顔が赤ぁい。

「まだ、あるんだけど。一旦やめとく?」
「あ、いえ、聞きます。伺います。大丈夫です」

 ホントかな。まあ、言ってみよう。

「あと、一応二つね。一つはね、最初に会った居酒屋でさ、また一緒に呑みたいなって」
「──はい。それは、僕もです」

 ふわっと笑顔になった。こ、こんちくしょう。

「で、最後の一個、セイにさ、プレゼント、何か贈りたいって言ったでしょ?」
「は、はい。あ、でもまだ、具体的には……」
「うん、考えて、教えてくれるのも、嬉しい。私からそう言ったし。けどさ、それとね」

 チャリ、と、ネックレスのチェーンを持つ。

「これさ、まだ会って間もないのに、一生懸命考えて、作ってくれたのかなって、思ってさ。なら私もね、作る、が出来るかは分かんないけど、私自身で、セイのこと一生懸命考えて、何か贈りたいなぁって。どう思う?」

 ネックレスから顔を上げたら、セイはお箸を持ったまま、両手で顔を覆っていた。見える肌全てが赤い。赤っていうか、紅?

「すごく……嬉しい、ので……とても……ありがたい……です……」
「そう? そう言ってくれるなら、お言葉に甘えて、全力で探して良い?」
「はい、もう、はい……」
「……セイ、ご飯、食べれる?」
「た、食べます……食べたいので……」

 ゆるゆると手を外し、目をうろうろさせながら、セイはなんとか食べ始めた。
 あ。

「そうだ、あと一個。聞こうと思ってたんだった」

 セイの体がビクリと揺れた。

「いや、これからのご飯についての話。明日とかさ、最初からもう、二人分作るって決めるなら、こっちも献立とか、予定とか立てやすいからっていう──「あ、あの、僕も、料理、できるようになりたいです……!」

 話していたら、セイが慌てたように言った。
 それを見て、私は、なるべく優しく聞こえるように、話す。

「うん。そう言ってくれるのも、本当に嬉しい。一緒に作りたい気持ちもあるし、ね。それに、また呑みたいって言ったしね。外で一緒に食べたいのもあるし、全部一人でやるつもりでもないから。そこは、大丈夫」
「は、はい……」

 しゅんとしつつ、顔を赤くする。……あぁあもう!

「じゃ、また、これも一旦、保留かな? 明日の分だけ、どうするか、決めようか。一緒に作るかも、含めて。いい?」

 なるべく、負担に聞こえないように、優しくって思いながら、言ったつもりだったんだけど。

「…………」

 セイが、停止した。赤い顔だけが、どんどん赤くなっていく。

「セイ、セイ? 大丈夫?」

 箸を持ってないほう、左手を、セイの目の前で振ってみる。

「……、……あっはい!」
「えっと、話、聞こえてた? てか、私、変だった?」

 手を戻し、聞く。

「あ、いえ、ちが……くて。その、……ナツキさんが、……美しく、て……その……」

 赤い顔で、俯いていきながら、言われた。
 ……うん、よし、オッケーオッケー了解。こっちもキャパがそろそろ危ないぞこんにゃろめ。

「そう言ってくれるの、すごく嬉しい。けど、話、進めなくしちゃったね。ごめんごめん。まずは、食べちゃおう。それで、薔薇のことを決めようか」
「……はい……」


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