酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。

山法師

文字の大きさ
上 下
19 / 71

19 味見

しおりを挟む
 私は砂糖と酒とみりんと醤油と、さっきとは違う、容器に入った顆粒出汁を取り出して、調理台に並べる。

「これらが基本の調味料です。家にみりんがない場合は、砂糖と酒を多くして代用したりします」
「代用……」
「あ、それは今深く考えなくていいからね。で、まず、調味料を測っておきます」

 神妙な顔になった私に、セイも真剣な顔になる。私はまた中くらいのボウルと、ある物を手に取って、

「これ、なんだか分かる?」

 スプーンのようなそれを、セイに見せ、渡す。

「? ……三つの……? ……その、柄の先が繋がってますね……? 匙の先がそれぞれ違って、大中小とある……あ」

 それを矯めつ眇めつしていたセイの目が、見開かれた。

「十五、五、二・五……これ、あの、言ってた、大さじ小さじってやつですか……?!」
「正解」
「あれ? でも、全部で三つありますよね……?」
「十五が大さじ一で、十五CC。五は小さじ一で、五CC。で、二・五は小さじの半分。二・五のほうはほとんど使わないんだけどね」
「はあ……」
「でね、いつもは調味料も目分量でやっちゃうんだけど、今日は少し丁寧にやります」

 私はそれぞれ、どれがどれだけとか、すりきりとか説明しながら調味料をボウルに入れていく。で、最後に。

「ここに水を入れます」
「へ」
「肉じゃがって煮込むでしょ? そのための水」

 私はラックから計量カップを取って、水を測ってボウルへ入れた。

「で、用意ができたので、深めのフライパンに油を引いて、肉を炒めていきます」

 私はそのフライパンを取り出し、下の棚からサラダ油を取り出して、その蓋を開けようとした時、一瞬頭にあることがよぎり、動きを止めた。

「……セイさ」
「はい」
「知ってたらごめんなんだけど、サラダ油って、知ってる? これなんだけど」

 大きなボトルを見せる。

「………………名前、だけは」
「そっか。よく炒め物とかの料理に使うんだよ、コレ。今はほかにもいろんなオイルがあるから、一概には言えないけどね」

 で、私はまた作業に戻った。
 フライパンにオイルを入れ、温め、フライパンを回し、馴染ませる。

「で、お肉を投入しまーす」

 牛乳パックからドサドサと入れた肉は、すぐにジュウジュウと音を立て始める。私は上の棚に引っ掛けていた菜箸を取り、肉をほぐしながら炒めていく。

「ほらさ、肉の色、変わってきたでしょ? で、これが肉に火が通った合図で、全体がこの色になってきたら」

 ボウルに入れていた玉ねぎを投入。

「で、また炒めます。油が少ないなと思ったら足します。全体に油が回ったな、と思ったところで、人参とじゃがいもを入れます。同じように炒めて、玉ねぎの白い色が少し薄くなったら」

 私は調味料の液が入ったボウルを持って、かき混ぜ、フライパンへ投入。

「で、またこの汁をお肉やじゃがいもとかへ馴染ませていきます。まあ要するに、煮てるんだけど」

 言いながら肉じゃがのフライパンに蓋をして、くつくつさせている間に、シンクのゴミだの調理台の上のものだのを片付ける。

「……そろそろいいかな」

 竹串を一本出し、フライパンの蓋を取り、じゃがいもと人参に刺す。すっと通った。

「うん、火、通ってる。あ、味見する?」

 火を止めながら、セイへ顔を向け、言ってみる。

「……え? あ、はい。してみたいです」

 じ……っとこっちを見ていたらしいセイは、ハッとして頷いた。

「じゃ、ちょっと待っててね」

 私は食器棚から小皿を出し、菜箸がかかっていた場所の隣にぶら下がっているお玉を取って、肉じゃがの汁を少し掬って小皿に入れた。

「はいどうぞ。あ、熱いだろうから気をつけてね」
「い、いただきます……」

 セイが小皿に口をつける。そして口をすぐに離し、私へ顔を向け、

「美味しいです……!」
「良かった」

 その感想にほっと息をついて、なんだか初めてそれを食べたような口ぶりに笑いそうになって、けどそれは流石に失礼だろうなと、軽く微笑むにとどめた。

「じゃ、その小皿、味噌汁の味見にも使うからちょっと返して欲しいな……、? セイ?」

 あれ、固まってる。

「おーい。再起動してくれー」

 セイの手から小皿を抜きながら言うけど、そしてセイの目は私に向くけど、まだ動かない。
 小皿とお玉を調理台に置いて、これなら動くかなと、両頬をムニッと掴んでみた。うわぁ、柔らかぁ。何回も顔合わせたから分かってたけど、肌もすごい綺麗で羨ましい……。
 とか、思っていると。

「……え」
「あ、再起動した」

 ので、手を離した。

「え、……え?」

 セイが後退していく。

「ごめん。痛かったかな」
「い、え、そ、では、なく……え、……と……」

 わあ、セイの顔が真っ赤になってく。

「うん、なんかごめん。休んでていいよ。あとは味噌汁だけだから」
「そ……ですか……では、その、すみませんが、少し……」

 セイは足早にキッチンから出たけど、どこへ行こうかと右往左往している様子だったので、

「ソファ座ってていいよ」

 と声をかけたら、一瞬足を止めたけど、リビングに向かっていってソファに座ってくれた。だけど、なんか気落ちしてる感じで。
 ほっぺを掴むのはやりすぎたかなぁと思いながら、私はワカメと豆腐の味噌汁への作業を始めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...