16 / 19
16 その景色は
しおりを挟む
「では、おさらいです」
アルニカは、眺めていた外壁の上からコルネリウスへと視線を移し、言う。
「まず、すでに解析して見つけてあるこの墓地の結界の綻び……という名の隙間を、私たちは小動物に変身して通り抜け、中に入ります」
「……ああ」
まだ顔色は悪かったが、もたれていた壁に手をつき体を離して姿勢を正し、コルネリウスは頷く。
「そしてあの人のお墓に一直線です。小動物に変身したまま、飛行魔法を使って素早く移動します」
「ああ」
「で、あらかじめ他のお墓で予習していましたが、あの人のお墓にかかってる防御の魔法を解析して、解いて、墓を暴きます」
暴く、というその言葉に、コルネリウスは息を呑む。
「大丈夫です。墓暴きは私一人でやります。あなたが罪を背負う必要はないと、最初に言ったでしょう?」
「……いや、僕もやる。……背負わせてくれ」
アルニカは、コルネリウスを見つめ、
「……分かりました。手元を狂わせたりしないでくださいね」
「あ、ああ」
「で、私が用意した偽物のあの人の遺体と本物を入れ替えます。あなたはなるべく顔を背けててくださいね」
「……前処する」
「……まあ、はい。で、お墓を直して、防御の魔法を張り直して、痕跡を消して、あの人を生き返らせます」
「ああ……!」
昏かったコルネリウスの目に、光が宿った。
「で、あの人は混乱するでしょうけど、説明もそこそこにまた結界の隙間から出て、転移魔法で私の家まで行きます。いいですか?」
「ああ。……分かった」
「では、始めます」
アルニカがそう言った瞬間、アルニカとコルネリウスを、光の粒子が包む。そしてそれは小さくなり──
「はい。ネズミさんです」
アルニカは赤色のネズミに、コルネリウスは黒色のネズミになっていた。
黒ネズミは外壁を見上げ、
「……結界の隙間が、この上なんだよな?」
赤ネズミがそれに頷く。
「はい。なので、浮き上がりましょう」
「っ……?!」
二人──二匹はふわりと浮き上がり、外壁の上部、そのすぐ近く、中の庭や墓が見える位置まで来ると、停止した。
「そ、それで……その、隙間とやらは……」
「あなたには魔力がほとんどありませんから、見えないと思います。なので、私が通しますね。動かないでください」
「っ……!」
ピキン、と動きを止めた黒ネズミをアルニカが操作し、外壁を、そこに張られた結界の隙間を通り抜けさせる。そして、黒ネズミはそのまま地面に着地した。
「……」
コルネリウスが外壁を見上げると、
「お待たせしました」
赤いネズミが外壁を伝ってトトト、と降りてくる。
「では、ここからは高速移動です。防音と認識阻害と気配察知をかけてはいますが、万が一を考えて動きます」
「わ、分かった」
と、また二匹は浮かび上がり、
「うっ?!」
「静かに」
ピュン、と広い墓地を、ある場所に──フィリベルトの墓に向かって一直線に進む。
「着きましたよ」
ふわり、と地面に着地した二匹のうち、黒い方──コルネリウスはくたりとその場にしゃがみ込んだ。
「……頭が、ぐらぐらする……」
「そのうち治まります。動かないで、ゆっくり深く呼吸しててください。私は防御の魔法の解析に取り掛かります」
赤ネズミから元の姿に戻ったアルニカは、魔力を巡らせた目を凝らし、墓に施された魔力の流れと構造を感知し、その仕組みを理解していく。
(……大丈夫。結構複雑だけど、ブリュンヒルデ様のよりは簡単に作られてる)
ブリュンヒルデの墓廟は別の場所にあるが、この、フィリベルトの隣にある、最初にブリュンヒルデが埋葬された墓も、今現在も残され、管理されている。
これはエーレンフリートの愛の証だと、人々は当たり前のように口にする。
そのブリュンヒルデの墓は、この皇族用の墓地で一番複雑で気合が込められた防御の魔法がかけられていた。
(……そして、二番目に複雑なのが)
この、フィリベルトの墓なのだと、アルニカは読み取り、理解する。
これも、エーレンフリートの愛ゆえなのだろうか。死してなお、見放されてなお、愛される息子。
(……まあ、今はそれは置いといて)
解析を終えたアルニカはコルネリウスに振り向き、
「終わりまし、た……」
涙をこぼす黒ネズミに、思わず呆気に取られる。
「……気持ちは分かりますが、今は切り替えてください」
「……すまない……」
アルニカがコルネリウスを元の姿に戻すと、彼は指で涙を拭い、
「どうすればいい」
強い眼差しで聞いてきた。
「……私が防御の魔法を解きます。お墓の構造は単純なものですから、あとは楽ちんです」
そう言って、アルニカは墓に手をかざす。
「……はい。終わりました」
「……え、……早いな」
「不備はありませんので、ご心配なさらず」
「あ、いや、……ああ」
「では、墓標ごと墓石をどかしますよ」
アルニカが言うなり、墓石が音もなくふわりと浮かぶ。
「……は」
それを見て、コルネリウスは目を見開いた。
「土もそのまま持ち上げます」
その通りに、土が、四角く被せられた状態を保ったまま浮かび上がる。
「で、棺を取り出します。……向こう向いててください」
コルネリウスに言うアルニカに、
「……いや、大丈夫だ」
コルネリウスは意志のこもった声で言った。
「……そうですか。ここで吐かないでくださいね。痕跡が残ります」
「……」
「では、いきますよ」
アルニカの声とともに、装飾が施された棺が、深く掘られた穴の中から浮かび上がってきた。
「で、このまま開けます」
その言葉通りに、厳重に固められていたはずの蓋が棺から外れる。そして、
「……!」
コルネリウスが息を呑む。
豪華絢爛な死に装束を着せられており、死人の肌の色をしたフィリベルトが、そこから浮かぶようにして出てきて、地面スレスレで停止した。
「ホント、見た時も思ったけど、脱がせるのが面倒くさい衣装……!」
アルニカは悪態をつきながらも、魔力の流れをを様々に操作して、服を脱がせていく。
「……、……」
それを見ているしかできないコルネリウスは、ハッと気付いたように、アルニカに顔を向けた。
「えっと、アルニカ。その、偽物はどこだ……?」
「この中です」
アルニカが言うと同時に、フィリベルトの隣に大きな魔法陣が出現する。そして、その魔法陣から、
「なっ……?!」
フィリベルトに瓜二つの、
「人間じゃないですよ。人形です。材料さえあれば、意外と簡単に作れます」
アルニカの言葉に、コルネリウスは無意識に詰めていた息を吐いた。
「で、このお人形さんに服を着せます。……面倒くさい……!」
また、悪態をつきながらも、アルニカは、最初にフィリベルトが着ていた通りに、人形に服を着せていく。
「この人には一旦布にくるまっててもらいます」
というアルニカの言葉と同時に、魔法陣から大きな布が現れ、フィリベルトを包んだ。
「はぁ……あとは、今やったことの逆再生を行えばいいんです」
アルニカの言葉とともに、死に装束を纏った人形は棺に納められ、蓋はがっちりと固められ、掘られた穴に戻り、土が被せられ、墓石が戻される。
「で、寸分違わず防御の魔法を張り直します」
アルニカは手をかざし、下ろし、ふぅ、と息を吐いた。
「これで、墓暴きはおしまいです。あの人形は腐敗が早いですから、正式なお墓が出来る前に、肉体は土に帰るでしょう。バレる心配も低くなります」
「……結局、僕は、何もやらずじまいだったな……」
「まあ、しょうがありません。あ、この人を支えてください。浮遊の魔法を解きますので」
「えっ、あ、わ、分かった」
アルニカの指示で、コルネリウスが浮いているフィリベルトの背と地面の間に腕を差し込むと、
「つっ……」
「浮遊の魔法を解きました。重いでしょ」
「……いや、問題ない」
コルネリウスは、布にくるまったフィリベルトを抱え直した。
「それで、どうやって魂を戻すんだ」
「肉体に施された防腐の要素を取り除いて、崩れている肉体を再生させて、健康な肉体にしてから魂を戻します。繊細な作業なので、ちょっと時間がかかりますけど。あなたには魂は見えていないでしょうから、作業の見た目はとても地味に映ると思います」
アルニカはフィリベルトに両手をかざし──
「始めます」
静かに、言った。
「……」
「……」
そこから、五分、十分、二十分。
「……なあ、「静かに」……」
両手をかざしたまま動かないアルニカの額に、汗が浮かんでくる。
そして、そこから更に十五分が経過したところで。
「……終わり、ました……」
ハァァ、と大きく息を吐き、アルニカは地面に手をついた。
「……お、終わった……? ……しかし、特に変化は……」
狼狽えるコルネリウスに、息を整えながらアルニカは言う。
「呼吸音、心臓の音。聞こえませんか?」
「?! ……!」
即座にフィリベルトの胸に耳を当てたコルネリウスは、目を見開く。そして、布にくるまれて見えないが顔の方にも耳を寄せ、スゥ、スゥ、という音を聞き取った。
「っ……殿下……!」
「泣かない。まだ終わってません。この人を起こさないと」
「ああ、うん、そうだな……!」
ぐるぐるに巻かれていた布を剥がしていくと、土気色ではなく、血の通った肌の色をしたフィリベルトが現れる。
「起きてください、殿下。至急起きてください」
肩を叩きながらのアルニカの呼びかけと、
「殿下……!」
泣きそうになっているコルネリウスの声に、フィリベルトの眉がピクリと動く。
「………………ぅ、…………ん……?」
「殿下……!!」
薄く開いたその赤い瞳には、命の明かりが灯っており。
「……」
フィリベルトは目を動かし、自分を覗き込んでいるアルニカとコルネリウスを捉えると。
「……私は地獄に落ちるのだと思っていたが、ここはあまり、地獄に見えないな」
不思議そうに、そう言った。
アルニカは、眺めていた外壁の上からコルネリウスへと視線を移し、言う。
「まず、すでに解析して見つけてあるこの墓地の結界の綻び……という名の隙間を、私たちは小動物に変身して通り抜け、中に入ります」
「……ああ」
まだ顔色は悪かったが、もたれていた壁に手をつき体を離して姿勢を正し、コルネリウスは頷く。
「そしてあの人のお墓に一直線です。小動物に変身したまま、飛行魔法を使って素早く移動します」
「ああ」
「で、あらかじめ他のお墓で予習していましたが、あの人のお墓にかかってる防御の魔法を解析して、解いて、墓を暴きます」
暴く、というその言葉に、コルネリウスは息を呑む。
「大丈夫です。墓暴きは私一人でやります。あなたが罪を背負う必要はないと、最初に言ったでしょう?」
「……いや、僕もやる。……背負わせてくれ」
アルニカは、コルネリウスを見つめ、
「……分かりました。手元を狂わせたりしないでくださいね」
「あ、ああ」
「で、私が用意した偽物のあの人の遺体と本物を入れ替えます。あなたはなるべく顔を背けててくださいね」
「……前処する」
「……まあ、はい。で、お墓を直して、防御の魔法を張り直して、痕跡を消して、あの人を生き返らせます」
「ああ……!」
昏かったコルネリウスの目に、光が宿った。
「で、あの人は混乱するでしょうけど、説明もそこそこにまた結界の隙間から出て、転移魔法で私の家まで行きます。いいですか?」
「ああ。……分かった」
「では、始めます」
アルニカがそう言った瞬間、アルニカとコルネリウスを、光の粒子が包む。そしてそれは小さくなり──
「はい。ネズミさんです」
アルニカは赤色のネズミに、コルネリウスは黒色のネズミになっていた。
黒ネズミは外壁を見上げ、
「……結界の隙間が、この上なんだよな?」
赤ネズミがそれに頷く。
「はい。なので、浮き上がりましょう」
「っ……?!」
二人──二匹はふわりと浮き上がり、外壁の上部、そのすぐ近く、中の庭や墓が見える位置まで来ると、停止した。
「そ、それで……その、隙間とやらは……」
「あなたには魔力がほとんどありませんから、見えないと思います。なので、私が通しますね。動かないでください」
「っ……!」
ピキン、と動きを止めた黒ネズミをアルニカが操作し、外壁を、そこに張られた結界の隙間を通り抜けさせる。そして、黒ネズミはそのまま地面に着地した。
「……」
コルネリウスが外壁を見上げると、
「お待たせしました」
赤いネズミが外壁を伝ってトトト、と降りてくる。
「では、ここからは高速移動です。防音と認識阻害と気配察知をかけてはいますが、万が一を考えて動きます」
「わ、分かった」
と、また二匹は浮かび上がり、
「うっ?!」
「静かに」
ピュン、と広い墓地を、ある場所に──フィリベルトの墓に向かって一直線に進む。
「着きましたよ」
ふわり、と地面に着地した二匹のうち、黒い方──コルネリウスはくたりとその場にしゃがみ込んだ。
「……頭が、ぐらぐらする……」
「そのうち治まります。動かないで、ゆっくり深く呼吸しててください。私は防御の魔法の解析に取り掛かります」
赤ネズミから元の姿に戻ったアルニカは、魔力を巡らせた目を凝らし、墓に施された魔力の流れと構造を感知し、その仕組みを理解していく。
(……大丈夫。結構複雑だけど、ブリュンヒルデ様のよりは簡単に作られてる)
ブリュンヒルデの墓廟は別の場所にあるが、この、フィリベルトの隣にある、最初にブリュンヒルデが埋葬された墓も、今現在も残され、管理されている。
これはエーレンフリートの愛の証だと、人々は当たり前のように口にする。
そのブリュンヒルデの墓は、この皇族用の墓地で一番複雑で気合が込められた防御の魔法がかけられていた。
(……そして、二番目に複雑なのが)
この、フィリベルトの墓なのだと、アルニカは読み取り、理解する。
これも、エーレンフリートの愛ゆえなのだろうか。死してなお、見放されてなお、愛される息子。
(……まあ、今はそれは置いといて)
解析を終えたアルニカはコルネリウスに振り向き、
「終わりまし、た……」
涙をこぼす黒ネズミに、思わず呆気に取られる。
「……気持ちは分かりますが、今は切り替えてください」
「……すまない……」
アルニカがコルネリウスを元の姿に戻すと、彼は指で涙を拭い、
「どうすればいい」
強い眼差しで聞いてきた。
「……私が防御の魔法を解きます。お墓の構造は単純なものですから、あとは楽ちんです」
そう言って、アルニカは墓に手をかざす。
「……はい。終わりました」
「……え、……早いな」
「不備はありませんので、ご心配なさらず」
「あ、いや、……ああ」
「では、墓標ごと墓石をどかしますよ」
アルニカが言うなり、墓石が音もなくふわりと浮かぶ。
「……は」
それを見て、コルネリウスは目を見開いた。
「土もそのまま持ち上げます」
その通りに、土が、四角く被せられた状態を保ったまま浮かび上がる。
「で、棺を取り出します。……向こう向いててください」
コルネリウスに言うアルニカに、
「……いや、大丈夫だ」
コルネリウスは意志のこもった声で言った。
「……そうですか。ここで吐かないでくださいね。痕跡が残ります」
「……」
「では、いきますよ」
アルニカの声とともに、装飾が施された棺が、深く掘られた穴の中から浮かび上がってきた。
「で、このまま開けます」
その言葉通りに、厳重に固められていたはずの蓋が棺から外れる。そして、
「……!」
コルネリウスが息を呑む。
豪華絢爛な死に装束を着せられており、死人の肌の色をしたフィリベルトが、そこから浮かぶようにして出てきて、地面スレスレで停止した。
「ホント、見た時も思ったけど、脱がせるのが面倒くさい衣装……!」
アルニカは悪態をつきながらも、魔力の流れをを様々に操作して、服を脱がせていく。
「……、……」
それを見ているしかできないコルネリウスは、ハッと気付いたように、アルニカに顔を向けた。
「えっと、アルニカ。その、偽物はどこだ……?」
「この中です」
アルニカが言うと同時に、フィリベルトの隣に大きな魔法陣が出現する。そして、その魔法陣から、
「なっ……?!」
フィリベルトに瓜二つの、
「人間じゃないですよ。人形です。材料さえあれば、意外と簡単に作れます」
アルニカの言葉に、コルネリウスは無意識に詰めていた息を吐いた。
「で、このお人形さんに服を着せます。……面倒くさい……!」
また、悪態をつきながらも、アルニカは、最初にフィリベルトが着ていた通りに、人形に服を着せていく。
「この人には一旦布にくるまっててもらいます」
というアルニカの言葉と同時に、魔法陣から大きな布が現れ、フィリベルトを包んだ。
「はぁ……あとは、今やったことの逆再生を行えばいいんです」
アルニカの言葉とともに、死に装束を纏った人形は棺に納められ、蓋はがっちりと固められ、掘られた穴に戻り、土が被せられ、墓石が戻される。
「で、寸分違わず防御の魔法を張り直します」
アルニカは手をかざし、下ろし、ふぅ、と息を吐いた。
「これで、墓暴きはおしまいです。あの人形は腐敗が早いですから、正式なお墓が出来る前に、肉体は土に帰るでしょう。バレる心配も低くなります」
「……結局、僕は、何もやらずじまいだったな……」
「まあ、しょうがありません。あ、この人を支えてください。浮遊の魔法を解きますので」
「えっ、あ、わ、分かった」
アルニカの指示で、コルネリウスが浮いているフィリベルトの背と地面の間に腕を差し込むと、
「つっ……」
「浮遊の魔法を解きました。重いでしょ」
「……いや、問題ない」
コルネリウスは、布にくるまったフィリベルトを抱え直した。
「それで、どうやって魂を戻すんだ」
「肉体に施された防腐の要素を取り除いて、崩れている肉体を再生させて、健康な肉体にしてから魂を戻します。繊細な作業なので、ちょっと時間がかかりますけど。あなたには魂は見えていないでしょうから、作業の見た目はとても地味に映ると思います」
アルニカはフィリベルトに両手をかざし──
「始めます」
静かに、言った。
「……」
「……」
そこから、五分、十分、二十分。
「……なあ、「静かに」……」
両手をかざしたまま動かないアルニカの額に、汗が浮かんでくる。
そして、そこから更に十五分が経過したところで。
「……終わり、ました……」
ハァァ、と大きく息を吐き、アルニカは地面に手をついた。
「……お、終わった……? ……しかし、特に変化は……」
狼狽えるコルネリウスに、息を整えながらアルニカは言う。
「呼吸音、心臓の音。聞こえませんか?」
「?! ……!」
即座にフィリベルトの胸に耳を当てたコルネリウスは、目を見開く。そして、布にくるまれて見えないが顔の方にも耳を寄せ、スゥ、スゥ、という音を聞き取った。
「っ……殿下……!」
「泣かない。まだ終わってません。この人を起こさないと」
「ああ、うん、そうだな……!」
ぐるぐるに巻かれていた布を剥がしていくと、土気色ではなく、血の通った肌の色をしたフィリベルトが現れる。
「起きてください、殿下。至急起きてください」
肩を叩きながらのアルニカの呼びかけと、
「殿下……!」
泣きそうになっているコルネリウスの声に、フィリベルトの眉がピクリと動く。
「………………ぅ、…………ん……?」
「殿下……!!」
薄く開いたその赤い瞳には、命の明かりが灯っており。
「……」
フィリベルトは目を動かし、自分を覗き込んでいるアルニカとコルネリウスを捉えると。
「……私は地獄に落ちるのだと思っていたが、ここはあまり、地獄に見えないな」
不思議そうに、そう言った。
16
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる