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27 化け物だろうと
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顔の向かって右側は、肌も髪も、そっち側だけ裂けた口から覗く牙も、影すら分からないくらいの闇色で。
頭には、その黒い側から大きく巻いた角が生えてて。
『……君こそ」
しっかり掴んだ左手も、同じ色。爪もつやつやで、鋭く長い。
「恐ろしくないのか」
「別に」
不満そうな顔をされた。
「……どっちかと言えば安心してる。やっと顔を見て話せるし、そこにいるって分かるから」
左手を両手で包……包めないなこれ。思ったよりでかいぞ。
「僕はもう人間じゃない。君の知る『ヨウシア』でもない」
包めないなりに握りなおした手は、細く震えていた。
ヨウシアは頭を俯けて、そこから途切れそうな声が聞こえてくる。
「……化け物なんだ。そう思ってしまう僕こそが」
馬鹿で醜い、穢れたモノ。
「……」
あの夜も、その話をしたけれど。
「君はバカだねぇ」
相当根深いんだねぇ。
十年近く抱えていたんだから、そうもなるか。
「さっき全部、頭に流れてきたんだよ?」
頭を軽く振って、言いながら腕を引く。でも動かない。
ならばと、こっちから近寄る。
「『傍にいられない』とか『何も返せない』とか。私達は、それよりさ」
俯いたままの頭を引き寄せる。
されるがまま、肩にうずまってくれた。
「君に居て欲しいんだ」
今度はぴくりとも動かない。
「醜かろうが穢れてようが化け物だろうか。君が居なくなるのが、悲しくて淋しくて、胸が引き裂かれそうなくらい辛いんだ」
何度でも言おう。
「好きだよ。ヨウシア」
何時までも言おう。
「あれから随分変わった私は、それでもヨウシアが好きなんだよ。大切なの」
君が受け入れてくれるまで。
「消えないで。消えるなんて言わないで。居なくても何も変わらないなんて、言わないで」
言いながら不安になってくる。
何を言おうが、王にこうと決められてしまったら。
私にそれは覆せない。
今、また、離れてしまったら。離されてしまったら。
「……ねぇ」
その手を、掴み直せるか分からない。振りほどかれたら、それっきり──
「ヨウシア」
抱きしめる腕に力を込める。
「いかないで」
私が泣いてどうするんだ、このバカ。
「いかないで。逝かないでよ。やっと会えたのに」
何か、言って。
「また、逝っちゃうの……?」
言ってよ。
「後悔するよ」
…………なんでだよ。
「こんな僕に、そんな事を言って。どうなると思うの」
「どう……?」
「責任取れバカ」
「ばっ? ……」
ぎゅっと、抱きしめ返された。
「馬鹿アルマ……どれだけ僕が……」
「え? なん?」
急にちっちゃい声になるから、聞き返す。
でもそのまま肩口でもごもごと、続きを聞かせてくれる気はないようだった。
頭には、その黒い側から大きく巻いた角が生えてて。
『……君こそ」
しっかり掴んだ左手も、同じ色。爪もつやつやで、鋭く長い。
「恐ろしくないのか」
「別に」
不満そうな顔をされた。
「……どっちかと言えば安心してる。やっと顔を見て話せるし、そこにいるって分かるから」
左手を両手で包……包めないなこれ。思ったよりでかいぞ。
「僕はもう人間じゃない。君の知る『ヨウシア』でもない」
包めないなりに握りなおした手は、細く震えていた。
ヨウシアは頭を俯けて、そこから途切れそうな声が聞こえてくる。
「……化け物なんだ。そう思ってしまう僕こそが」
馬鹿で醜い、穢れたモノ。
「……」
あの夜も、その話をしたけれど。
「君はバカだねぇ」
相当根深いんだねぇ。
十年近く抱えていたんだから、そうもなるか。
「さっき全部、頭に流れてきたんだよ?」
頭を軽く振って、言いながら腕を引く。でも動かない。
ならばと、こっちから近寄る。
「『傍にいられない』とか『何も返せない』とか。私達は、それよりさ」
俯いたままの頭を引き寄せる。
されるがまま、肩にうずまってくれた。
「君に居て欲しいんだ」
今度はぴくりとも動かない。
「醜かろうが穢れてようが化け物だろうか。君が居なくなるのが、悲しくて淋しくて、胸が引き裂かれそうなくらい辛いんだ」
何度でも言おう。
「好きだよ。ヨウシア」
何時までも言おう。
「あれから随分変わった私は、それでもヨウシアが好きなんだよ。大切なの」
君が受け入れてくれるまで。
「消えないで。消えるなんて言わないで。居なくても何も変わらないなんて、言わないで」
言いながら不安になってくる。
何を言おうが、王にこうと決められてしまったら。
私にそれは覆せない。
今、また、離れてしまったら。離されてしまったら。
「……ねぇ」
その手を、掴み直せるか分からない。振りほどかれたら、それっきり──
「ヨウシア」
抱きしめる腕に力を込める。
「いかないで」
私が泣いてどうするんだ、このバカ。
「いかないで。逝かないでよ。やっと会えたのに」
何か、言って。
「また、逝っちゃうの……?」
言ってよ。
「後悔するよ」
…………なんでだよ。
「こんな僕に、そんな事を言って。どうなると思うの」
「どう……?」
「責任取れバカ」
「ばっ? ……」
ぎゅっと、抱きしめ返された。
「馬鹿アルマ……どれだけ僕が……」
「え? なん?」
急にちっちゃい声になるから、聞き返す。
でもそのまま肩口でもごもごと、続きを聞かせてくれる気はないようだった。
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