昔々の幼なじみの

山法師

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25 王の間

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 靄がかかったような道を行き、館に着いて、中に入る。
 そして迷う事なく通路を歩く。
 どこをどう行けばいいか分かる。来るなと言われている方へ行けばいい。

「ヨウシア」

 でもちょっと遠いか。

「王様?」

 私の声だけが反響する。響かない声が静かに返る。

「……やだよ。……行くから」

 それに私も返事を返す。



 そしてたどり着いたのは、大きくて厚そうな木の扉。
 此処に居る。

「……ヨウシ、」

 扉を叩くために手を上げて、

「ア……っ?」

 空振りして、目を見開いた。
 目の前に、ノックをしようとした扉。それが、ゆっくりと閉まっていく。

「え」

 さっきまで外から見ていた扉の内側にいると、頭で理解する前に、本能が教えてくる。
 招かれた。入ろうとしたから。

「……ヨ、ウ……」

 ここは、『王の間』。
 王の間? なにそれ?

「シ、ア……?」

 何も見えない。明るいのに。
 ゆっくりと、首だけで辺りを見回す。

「……は、っ?!」

 途端、轟々唸る何かと、総てが消え失せる感覚が頭の中に入り込んで来んできた。
 なにこれ、ナニコレ?! 違っこれ、全部……っ!

 『王』だ。

「ぅ、……ヨウシア!!」

 口が勝手に叫んでた。
 真っ白で真っ黒な空間に向かって。
 そうだ。本来闇に色はない。

「王、さ……ヨウシ、ア……、」

 頭の中に流れ込んでくる、様々な事柄。
 私の知ってる事、知らない事。ヨウシアの事、『王』の事。
 今までの事。

「………………!」


 河に落ちたヨウシアは、命と一緒に王の力を継いだんだ。


「…………そっか……!」

 なんとか声を出す。

「がんばったんだね……!」

 止めようもなく流れてくる、『王』と『ヨウシア』の欠片達。それに、押し流されないように。

「ねえ、ヨウシア……!」

 王はいつでも王として在る。宿主ヨウシアの精神ですら、浸食するようにそれは起こる。ヨウシアは、それが恐ろしかった。
 そりゃそうだ。自分が自分でなくなるなんて怖いに決まってる。
 でも王を慕うスタィヤさん達や、前の王様の意志を無視なんて出来なくて。

「怖かったよね。でも頑張って、とっても頑張ってたんだね。──今も、」

 幼くて柔らかい心は、頼る事すら恐ろしくなった。
 独りで堪えて。独りじゃなかったら縋って折れてしまいそうで。
 そんな所に私が来た。
 想いが溢れた。それを抑えるために、今。

「今もさ……! でも!」

 ヨウシアは自分を潰そうとしてる。

「でも、そこまでしなくていいんじゃないかなぁ?!」

 皆のために、私のために、自分のために。
 でもそれで苦しんでどうするよ?!

「聞こえてるよね?!」

 『王』という機構だけが、彼らの全てじゃない。
 『ヨウシア』と『皆』の絆だって、確かにそこにはあるんだから。
 あんなに辛そうな彼らは、今のコレを、望んじゃいない。

 「ねぇえ?!」

 静かな筈の室内が、何故かとってもやかましい。あぁ、喧しいのは脳内だ。

 ──何が分かる。 ──だって君を。

 私の中の何かが軋む。壊れそうな気分になってくる。

「……ッ!」

 でも、そんな暇はない。
 眠るように『王』と馴染んでいるヨウシア。
 潰える前に、その目を覚ます。


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