昔々の幼なじみの

山法師

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23 忘れている事

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「ッ! ……あなたですか、リパ」

 スタィヤ、さま? は、溜め息を吐きながら扉をくぐりきって真っ直ぐに立つ。

「この方を、どうやってここまで? 無理やり連れてきたのですか?」

 厳しい声に、蔦さん、じゃなくて、リパ? さんが唇を噛んだ。

「もう決まった事なのです、リパ。王がお決めになられたのです」
「だっ……でも! アルマは!」

 この二人は何の話をしてるんだろう。
 こんな、言い争う二人なんて見た事無い。

「……?」

 え、何? そりゃそうでしょう? 会った事も無い筈のひと達──

「……ぅ、」

 ……? また、頭が……?

「アルマ?!」「大丈夫?!」「あたま?!」
「ふぉっ」

 忘れてた! 緑のひと達もいたんだった!

「サナ達も落ち着きなさい、これは王のお力です。それに抗っているために、アルマさんは不調を訴えているのです」

 え? この頭痛、ここの王様が原因?

「ならそれこそ! 御前に、もう一度!」

 スタィヤさまは首を振る。
 リパさんはぐっと堪えるように顔をしかめ、ぐるっとこっちに顔を向けた。

「っ……アルマ!」
「エッハイッ!」

 何ですか?!

「王を、……あなたの大切な方をどうかお救いして!」
「ハイ?!」

 大切な方?!

「このままではあの方は『王』、じゃなくって! ああもう! えと、とにかく! あの方でなくなるの!」
「???」

 リパさんは大きく身振り手振りで言ってくるけど、もう、さっぱり何がなにやら。
 頭痛と合わせて、余計に頭が働かない。
 周りのひと達のざわめきも、さっきより大きく聞こえてくる。

「……リパ」

 スタィヤさまが声をかけるけど、リパさんは私の方を向いたまま。

「お願いアルマ! ごめんなさい!」

 とても必死に、こっちが辛くなるくらいに必死に、泣きながら言葉を重ねる。

「私達のせいでこんな事になった! あの方が王に成られる、王でなくなる!」
「……え、と」

 頭痛のためか、その声や周りの音が、どんどん遠のいてく。
 けど、頭の片隅の思考だけ、妙に明瞭になってゆく。

「ごめんなさいアルマ……!」

 ……ここの、王様が? そのひとが、何か大変で。
 そのひとは、私の大切な存在で?

「リパ!」
「だって王は! これを望んでるけど望んでない!」

 大切な存在ったって。そんなの、もういない。
 だって、それはあの子で。
 あの子は。
 死んだんだ………………
 …………………………本当に?

「「「道通れた! 王が呼んだからでしょ!」」」
「……!」

 サナと呼ばれた緑のひと達の言葉に、スタィヤさまが息を呑む。

「……」

 ねえ、アルマ。私は何かを忘れてない?

「……ゎたし、」

 忘れてるよ。私は、森で彷徨った筈の三日間を──それ以上の事を忘れている。
 それは記憶の奥底に、閉じ込められている。
 それは、ここの事。今横で喋っている彼らの事。館の事。
 王様の、事。

「そうよ通れたんだもの! ここに来れたんだもの!」

 リパさんが、また叫ぶ。

「……だとしても……」

 それにスタィヤさまが、目を伏せる。

「……私達が、無理にお連れして……事が転じると思いますか……?」

 スタィヤさまは苦しげに言って、リパさん達は何かを堪えるように黙ってしまった。

「……っ……」

 あぁ、私達のために、彼らは苦しんでいる。
 私達? ……私達、わたしと、だれ。

「……」

 忘れていろと、頭の中で誰かが叫ぶ。
 同じ声で、忘れないでとも叫ばれる。
 この声。そう、この声は。

「……ヨウシア」

〈──────!!!〉


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