昔々の幼なじみの

山法師

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15 お互い様

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 腕を剥がそうとした動きが止まる。

「その姿の、その口でさ。ずっと呼ばれないから、ホントに嫌われてるのかなって思ったり」
「そんっ……っ」

 ギャリィッって聞こえたのは、歯を食いしばる音かな。

「やっぱり嫌い?」

 無言か。

「私はね、ヨウシアの事好きだよ」

 表情が見えないけど、そのまま話し続ける。

「ずっと好きだし、忘れた事もないし」

 ぴくりともしない。

「約束……ヨウシアは覚えてないかも知れないけど、私は勝手にそれも結んだまま」

 ちょっと不安になってきた。聞こえてる?

「どっかに嫁ぐ気に行くもないしね。おう私重いね?」

 笑う所かと思うんだよ。笑えない?

「あ、ヨウシアが生きてて嬉しい! ってのも本気だよぅおっ?」

 急に頭を上げられてバランスが崩れた。その拍子に外れた腕を、取られる。

「それは、君の知るヨウシアだ」

 腕が腰に回され、固定される。

「昔の、幼い頃の思い出だ。幻だろう」

 鼻が触れそうなほど顔が近付き、バサリと音を立てて辺りが暗くなった。

「今は違う。人ですらない」

 覆われたんだ。ヨウシアの、その背中から生える大きな闇色の翼に、すっぽりと包まれた。

「君を簡単に引き裂ける。化け物だと言ったろう」

 碧と紅に、私が映る。

「この牙で、爪で。その気になれば触れなくとも」

 翠に映る君は、どんな想いを、今まで。

「君を殺せる。……僕は、君の知るヨウシアじゃない」

 ……そう。

「ヨウシアなんてもう居ない。分かった?」
「分かった」

 不意を突かれたように、目が瞬かれた。

「でもそれはお互い様だよ」
「……は」
「九年越しだよ? お互い変わってて当然」

 眉がひそめられる。伝わってない、と顔が言ってる。

「知らない事があって当然。私も大きくなったし」

 周りに比べたら低めだけど。

「顔もそれなりに大人びたでしょ?」

 これも周りとはあれだけど。

「……ちがう、そうじゃない」
「じゃあどう違う? 見た目? 中身?」

 紅と碧が、鋭くなった。

「……君を食べる、と言ったら?」

 口が大きく開けられる。右側は耳まで裂けて、その牙が、額と顎に当たりそうだ。

「どうぞ?」

 また動かなくなって、頭を差し込もうとしてみる。慌てて口が閉じられた。

「……何するんだ」
「食べるって言ったから」
「……食べないよ」

 そうなの。

「ヨウシア、一つ良い?」
「…………なに」
「泣きながら言われると、なんでもしたくなるんだよ」

 その瞳が、今までで一番見開かれた。零れる涙は、両頬を絶え間なく流れている。

「な」

 解いた手を、そこに当てる。

「私が泣かせた訳だし」
「っ?!」

 逃げるように後ろへ弱々しく引かれた頭を、引き寄せる。

「ヨウシア」
「ア、ル」
「私が今、怖いのはね」

 恐ろしくてたまらないのは。

「君が、その存在が。この世界から消え去る事」

 一度消えた。消えたと思った。だからこそ今、より恐ろしい。

「そんな事になったら、私は」

 きっと、狂って死んでしまう。

「私はどうなろうと構わない。ヨウシアが私を嫌いでも、軽蔑しても。……あー、目に入らないように努力するけど」

 白と黒の顔が歪む。ごめん、嫌かな。でも話し終わるまで、このままでいさせて。

「食べられたって良いんだよ。それがヨウシアのためになるなら」

 ……あ、でも。

「ちょっと一緒に居たかったかなーなんて、思っちゃっ「止めて」……た……」
「そんな事しないって言ったろう」

 今度は、こっちが抱き締められた。

「馬鹿だ」

 しかも、頭を撫でられた。

「ヨウシア……?」

 それにどうしてか、気が遠くなってくる。

「君も」

 駄目だ。目を閉じてはいけない。

「僕も」

 駄目。行ってしまう。だめ!

「僕は輪を掛けて。……ごめん」

 まって! いかないで!

「ごめん。終わりにするから」

 待って!!

「戻すから」

 嫌、いやだ!


 ヨウシア!!!


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