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12 ざわめき
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森! 着いたけど!
「どこか全然分かんない!」
ざわめきとは?! 全方位ざわめいてます?!
「ヨウシア!」
ざわめきは泣いてるようで、そう聞こえてしまえばもう、夜のあの声に聞こえてくる。
「ヨウシア! ごめん!」
空に雲はないのに。太陽も、どこまでも眩しかったのに。
「酷い事言わせてごめん!」
森の中は暗い。冷たい風は、怯えるように唸る。
「聞こえてる?! ヨウシア!」
穏やかになってきていた筈の川も、轟々と追い立てるようで。
そうか。
「聞こえてるね?!」
姿は見えない。けどいる。私を森から追い出そうとしてる。
「助けてくれたのに! そう! 助けてくれてありがとう!」
葉擦れの音は大きくなり、私の声が押し負ける。
「なのにね! ごめんなさい! ……っ!」
嵐のただ中にいるようで、目を開けていられない。
足も、身体自体が浮き上がりそうで、さっき巻き上げられたばっかりなのに!
「私の事覚えてるんでしょ?! 覚えてない?!」
今、生きていて一番大声を出してる気がする! けどそれもほとんど聞き取れない!
「私は覚えてた! けどっ……けどそうだね! すぐ気付けなかった! そこもごめん!」
謝らなきゃいけない事ばっかりだ!
「ごめんヨウシア……! ……っふぉ?!」
踏ん張ってたせいで、前につんのめって転けた。
嵐が、唐突に止んだ。
「何故?」
「!」
勢い良く振り仰いだ目の前には、無表情の仮面のひと。
しゃがみ込み、こっちを覗き込んで。
「何故君が謝る?」
王様。ヨウシア。
「なんでって! っ?」
立ち上がったら、ふわりと距離を空けられた。
「……苦しんでるのに、余計苦しませた」
真っ直ぐに、向き合う。
「そう?」
半分しか見えない顔は、真冬の氷のように冷たい。
「だとして?」
声も、固くて、冷たくて。でも。
「それは僕の勝手だ。君が」
生きてる。
「謝る……っ?!」
生きてる、生きてる!!
「アル……っ……」
この腕も、胸も背中も触れ合う頬も!
抱き締めてる全て!
「ヨウシアぁ……!」
生きてる! 夢じゃない! 夢でも良い! なんでもいい……!
『離せ』
その声に、全身が凍りついた。……そんな幻覚を覚えた。
「ヨウシアは、居ない」
「……いる。今、ここに」
「……僕は」
肩を掴まれる。
全く敵わない強さで、けれど繊細な細工物でも扱う様に、そっと身体を離された。
「ヨウシアではない。化け物だ」
「どこが」
思わず睨み付けてしまった。
「……なら、確かめると良い。その眼で」
その碧は眇められ、口は可笑しそうに歪んで。
「夜」
よる?
「館に来ると良い。君は……足を運んだ事を、後悔するだろう」
……ほお?
「来なくとも、全く構わないけれどね」
「行く。来るなと言われても行く」
その手を握ろうとして、空を掻く。
「……」
また、消えた。
「……ヨウシア!」
どこか分からないもんで、上を向いて。
「行くからね!」
出来る限りの声で、叫んだ。
「どこか全然分かんない!」
ざわめきとは?! 全方位ざわめいてます?!
「ヨウシア!」
ざわめきは泣いてるようで、そう聞こえてしまえばもう、夜のあの声に聞こえてくる。
「ヨウシア! ごめん!」
空に雲はないのに。太陽も、どこまでも眩しかったのに。
「酷い事言わせてごめん!」
森の中は暗い。冷たい風は、怯えるように唸る。
「聞こえてる?! ヨウシア!」
穏やかになってきていた筈の川も、轟々と追い立てるようで。
そうか。
「聞こえてるね?!」
姿は見えない。けどいる。私を森から追い出そうとしてる。
「助けてくれたのに! そう! 助けてくれてありがとう!」
葉擦れの音は大きくなり、私の声が押し負ける。
「なのにね! ごめんなさい! ……っ!」
嵐のただ中にいるようで、目を開けていられない。
足も、身体自体が浮き上がりそうで、さっき巻き上げられたばっかりなのに!
「私の事覚えてるんでしょ?! 覚えてない?!」
今、生きていて一番大声を出してる気がする! けどそれもほとんど聞き取れない!
「私は覚えてた! けどっ……けどそうだね! すぐ気付けなかった! そこもごめん!」
謝らなきゃいけない事ばっかりだ!
「ごめんヨウシア……! ……っふぉ?!」
踏ん張ってたせいで、前につんのめって転けた。
嵐が、唐突に止んだ。
「何故?」
「!」
勢い良く振り仰いだ目の前には、無表情の仮面のひと。
しゃがみ込み、こっちを覗き込んで。
「何故君が謝る?」
王様。ヨウシア。
「なんでって! っ?」
立ち上がったら、ふわりと距離を空けられた。
「……苦しんでるのに、余計苦しませた」
真っ直ぐに、向き合う。
「そう?」
半分しか見えない顔は、真冬の氷のように冷たい。
「だとして?」
声も、固くて、冷たくて。でも。
「それは僕の勝手だ。君が」
生きてる。
「謝る……っ?!」
生きてる、生きてる!!
「アル……っ……」
この腕も、胸も背中も触れ合う頬も!
抱き締めてる全て!
「ヨウシアぁ……!」
生きてる! 夢じゃない! 夢でも良い! なんでもいい……!
『離せ』
その声に、全身が凍りついた。……そんな幻覚を覚えた。
「ヨウシアは、居ない」
「……いる。今、ここに」
「……僕は」
肩を掴まれる。
全く敵わない強さで、けれど繊細な細工物でも扱う様に、そっと身体を離された。
「ヨウシアではない。化け物だ」
「どこが」
思わず睨み付けてしまった。
「……なら、確かめると良い。その眼で」
その碧は眇められ、口は可笑しそうに歪んで。
「夜」
よる?
「館に来ると良い。君は……足を運んだ事を、後悔するだろう」
……ほお?
「来なくとも、全く構わないけれどね」
「行く。来るなと言われても行く」
その手を握ろうとして、空を掻く。
「……」
また、消えた。
「……ヨウシア!」
どこか分からないもんで、上を向いて。
「行くからね!」
出来る限りの声で、叫んだ。
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