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4 約束事
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この地の流れは一定に、不明確に蠢く。
戻ろう帰ろうとまた迷い込めば、今度こそそこから出られず、彷徨い続けるかも知れない。
「そおんなぁ……」
ちょっとショックを受けた私を見て、スタィヤさんは慌てて慰めてくれた。
気持ちはとてもよく分かる。自分もそうだったから。けど今あなたは怪我をしている。心が不安定だと、その身体に余計負担がかかってしまう。
『どうか、気を落とさないで下さい。ここの者は皆優しい。王も気にかけて下さいます。何かあったら私も相談に乗りますから……!』
途中からスタィヤさんの方が、どうにも苦しそうだった。
「何かあったのかな……前に……」
まあ、あるか。
皆、私みたいに迷い込んだんなら。帰れない事を悲観するひともいるだろう。
「それと」
新品、作りたてとも言えそうだ。そのベッドに横になる。
「一日で全部出来るとは」
このベッドも、棚もテーブルも。
家まるまる全体が、あの後建てられたもの。皆で建ててくれたもの。
スタィヤさんが声をかけると周りのひと達はいつものように、実際いつもの事なんだろう。集まって、段取りを始め、地を固め柱を立て、あっという間に家が出来た。
立派な、村のとは比べるのも後込みしそうな家。
「食べ物もくれたしなあ」
どうしてそこまで。そう聞いたら皆きょとんとして、
「そういうもんだったからなあ」
と皆してうんうん頷いて、気にするなと笑顔を見せられた。
「良いひと達だぁ……」
村よりずっと、あたたかい。
「アルマー! こっちもー!」
あれから何日も経って、怪我もだいぶ良くなった。
私は他のひと達の手伝いをして、食べ物やらを分けてもらってる。
「はーい!」
今回はなにやら雪だるまみたいな形の、赤い実の収穫だ。これ、きちんと可愛い顔もついてる。
「甘いんだよねぇ、これ」
分けてもらえたりするかな。聞いてみても良いかな。
「アルマ? どうしたの?」
おっと。動きが止まってた。リパさんが蔦みたいな髪の毛をゆらゆらさせてる。
「あ、すみません。これ甘いよなあって、思いを馳せちゃって」
「甘いよねえ、わたしも好き!」
そして、これだけは守ってくれとスタィヤさんに念を押された事があった。
『王の館には近寄らず、王の容姿は話に出さず、声もかけられた時だけ返すこと。特に夜行性じゃないあなたは、夜は家から出ないように』
王様の館は街の真ん中にあって、館というよりお城……おとぎ話の古城みたいに見えた。
「守っております。問題はありません」
実をもぎ取りながら呟く。だって。
王様のお城なんて、眺めるだけで充分だし。
夜はいつも風が強いみたいで出ていない。出る理由も無い。
それにそもそも、王様をほっとんど見かけないし。
時々朝に、
「川辺にいるけど」
そのお姿を目にするだけ。
……ぃよし、籠いっぱい!
「リパさん! 一旦置いてきますね!」
「はーい!」
戻ろう帰ろうとまた迷い込めば、今度こそそこから出られず、彷徨い続けるかも知れない。
「そおんなぁ……」
ちょっとショックを受けた私を見て、スタィヤさんは慌てて慰めてくれた。
気持ちはとてもよく分かる。自分もそうだったから。けど今あなたは怪我をしている。心が不安定だと、その身体に余計負担がかかってしまう。
『どうか、気を落とさないで下さい。ここの者は皆優しい。王も気にかけて下さいます。何かあったら私も相談に乗りますから……!』
途中からスタィヤさんの方が、どうにも苦しそうだった。
「何かあったのかな……前に……」
まあ、あるか。
皆、私みたいに迷い込んだんなら。帰れない事を悲観するひともいるだろう。
「それと」
新品、作りたてとも言えそうだ。そのベッドに横になる。
「一日で全部出来るとは」
このベッドも、棚もテーブルも。
家まるまる全体が、あの後建てられたもの。皆で建ててくれたもの。
スタィヤさんが声をかけると周りのひと達はいつものように、実際いつもの事なんだろう。集まって、段取りを始め、地を固め柱を立て、あっという間に家が出来た。
立派な、村のとは比べるのも後込みしそうな家。
「食べ物もくれたしなあ」
どうしてそこまで。そう聞いたら皆きょとんとして、
「そういうもんだったからなあ」
と皆してうんうん頷いて、気にするなと笑顔を見せられた。
「良いひと達だぁ……」
村よりずっと、あたたかい。
「アルマー! こっちもー!」
あれから何日も経って、怪我もだいぶ良くなった。
私は他のひと達の手伝いをして、食べ物やらを分けてもらってる。
「はーい!」
今回はなにやら雪だるまみたいな形の、赤い実の収穫だ。これ、きちんと可愛い顔もついてる。
「甘いんだよねぇ、これ」
分けてもらえたりするかな。聞いてみても良いかな。
「アルマ? どうしたの?」
おっと。動きが止まってた。リパさんが蔦みたいな髪の毛をゆらゆらさせてる。
「あ、すみません。これ甘いよなあって、思いを馳せちゃって」
「甘いよねえ、わたしも好き!」
そして、これだけは守ってくれとスタィヤさんに念を押された事があった。
『王の館には近寄らず、王の容姿は話に出さず、声もかけられた時だけ返すこと。特に夜行性じゃないあなたは、夜は家から出ないように』
王様の館は街の真ん中にあって、館というよりお城……おとぎ話の古城みたいに見えた。
「守っております。問題はありません」
実をもぎ取りながら呟く。だって。
王様のお城なんて、眺めるだけで充分だし。
夜はいつも風が強いみたいで出ていない。出る理由も無い。
それにそもそも、王様をほっとんど見かけないし。
時々朝に、
「川辺にいるけど」
そのお姿を目にするだけ。
……ぃよし、籠いっぱい!
「リパさん! 一旦置いてきますね!」
「はーい!」
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