昔々の幼なじみの

山法師

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3 この街は

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 処置のおかげで、一時だろうけど痛みは引いた。
 自分の足で歩きながら、隣のスタィヤさんの説明を聞く。

「先の話と被りますが、ここは王のお膝元の街なのです」

 この地の流れを統べる『王』。そこに集う者達の街。

「王様なんて、遠いお話だと思ってました。私、山あいの村に住んでるもんで」

 スタィヤさんの黄色の瞳が、優しげに細められる。

「王は、どこにでもいらっしゃいます。けれど一つところにもいらっしゃいます」

 なんか壮大な感じだ。

「ここは、迷い子が多く辿り着く場所。その者達と共に昔、昔の昔に王がお造りになった街なのです」

 昔の昔。いつ頃……って分からないくらいの昔?

「迷い子は、様々な所から此処へ辿り着く。辿り着けるだけでも奇跡なのです」

 え。

「そのまま、流れの狭間で彷徨い続けてしまう者もいる。アルマさんは運が良い」

 ……私が運が良いなら、スタィヤさんも同じなハズで。この街のひと達もそうなら。

「……」

 ここに辿り着けなかったひとは、どれくらい居たのだろう。

「ああ、そうだアルマさん。我らの王は先のお方です」
「え、はい?」
「川であなたをお助けになり、私へと預けられた」

 ……あの、きらきらした?

「……え、えええ?! 私王様に助けてもらったんですか?!」
「はい」

 そんなさらりと! 頷かないで!

「どっどう、どうしましょう……?! 何かお詫びした方が……?」

 スタィヤさんの四つの目が、ぱちぱちと瞬かれた。

「大丈夫ですよ、王は気にしておりません」

 そうか? でも偉い人の手を煩わせるのは、何かと怖いと聞いた。

「逆にアルマさんの事を気にかけておられました。……王は、お優しい」
「……?」

 優しいと、言ったのに。スタィヤさんの声は沈んだ。

「あの、スタィヤさん?」
「……! あぁいえ、すみません。あ、ここですよ、アルマさん」

 言われ示されるのは、朽ちた材木が散らばる空き地。

「……ここ、とは」
「ちょうど空いている敷地がここだったもので」

 アルマさんの家はここにしようかと。

「は、家?」

 え、なんで?

「どこかを借りるという手もありますが、どうせ土地があるなら建ててしまいましょう」

 うん待って、ちょっと待って。

「……なにゆえ、家が必要なのでしょうか」
「え? ですので……あ」

 スタィヤさんは口に手を当て、目をまん丸に見開いた。

「すみません、伝え忘れておりました……」

 そして、しゅんっと肩を落とし、

「ここへ辿り着くのが奇跡なように、元の地へ帰るのも、また奇跡に等しいのです」
「え」
「それこそ……いえ、自力では不可能だと。ですので」

 迷い子は皆、この街で暮らすのです。

「……」

 私、帰れないって事?


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