4 / 8
4 デートの誘い
しおりを挟む
「メアリー。次の定休日は、何か予定があったりするのだろうか?」
ディアンが惚れ薬を飲んで、一週間。今日も来たな、とメアリーは思いながら、ディアンと畑仕事をして、それを終えて、作業場に入って。
毎日何かしらくれるディアンから、今度はネックレスを貰ってしまったと思っていたメアリーは、
「はい? どういうことです?」
その質問の意図が読めずに、作業台でケースを開け、見つめてしまっていたネックレスから顔を上げて、ディアンへ顔を向け首を傾げた。
「いや、何も予定がなければ、だが。君をデートに誘いたいと思ってな。ああ。ちゃんと休暇の申請はする。予定があるならあるで、それが俺にも手伝えることなら、ぜひ、手伝わせて貰いたいが」
「はあ、そういう……え? デート?」
「そう、デートだ。君を振り向かせるための」
目を丸くしたメアリーに、ディアンは微笑みながら、真剣な眼差しを向けてくる。
デートなど、生まれてこのかた、一度も経験がない。……ではなく。
「……えー……すみませんが、ディアンさん。午前中は予定があります、ので」
ディアンに、着けてくれないかと言われて、しょうがないから、と、髪を一房編んで、貰った髪留めで留めているメアリーは、目を泳がせる。
「どんな予定だろうか。それと、午前中だけなら、午後は空いているのか?」
全く引いてくれないどころか、少し距離を詰めて聞いてくるディアンに、メアリーは狼狽えそうになりながら、
「午前中の、予定はですね……発注した荷物が届く予定なので、それを受け取って、中身を確認して、などの作業です。午後は、……今のところ、空いてますが……」
「なら、午前中はその手伝いをして、午後にデート、というプランはどうだろうか」
「えー……手伝ってくれるのは有り難いですが……その、デート……は、具体的に……?」
オロオロしているメアリーを可愛いと思っているディアンに、そして、午前も午後も一緒に居られるかも知れないという期待に胸を踊らせているディアンに、メアリーは、気付かない。
「デートはな、色々と候補を考えていたんだ。午後ということなら、メアリー。君は劇が好きだと、記憶しているが。劇団に興味は、あるだろうか」
「劇団?」
「ああ。ムルメア劇団という名前なんだがな。今は隣の街にいて、定休日の前日に、その劇団がアンドレアスに来る予定なんだ。劇を観て、お茶をして、というのを考えの一つに入れていたんだが、どうだろうか?」
ディアンが言った通り、メアリーは劇が好きだ。去年も、一度だけだが、別の劇団がアンドレアスに来た時に、観に行った。
「それは、どのような演目で……ぁ」
興味をそそられてしまい、ぽろりと零れたその言葉に、メアリーは、しまったと思う。
「今、演ってるのは『トゥルペの姫騎士物語』らしい。だから、時期からしても、同じものを演ると思う」
その演目は、以前にメアリーが、小さい頃に観て好きになったと、ディアンや周りに話したことのあるもので。
「……では……お言葉に甘えて……」
また観たい、という気持ちに押されて、おずおずと、頷いてしまう。
「良かった」
ディアンは、頷く仕草も愛おしいと思いながら。
「その日が今から待ち遠しいよ、メアリー。君と初めてのデートだからな。しっかりエスコートする」
「ど、どうも……」
◇
「もう、どうすればいいと思いますか?!」
デートの誘いを受けてしまった、その昼。
店のカウンターで頭を抱えるメアリーに、
「デート、普通に楽しめば良いんじゃない?」
椅子に座って、カウンターに頬杖をつきながら、友人のベラは言う。
ベラは、今年で十八歳になる、大衆食堂の一人娘であり、メアリーの友人であり、常連客だ。
「受けてしまったからには! 当日頑張りますけど! それ以前にディアンさんの振る舞いが! 心臓に悪いんですよ! 自分が招いたことですけど!」
「んー……まあねぇ……」
半分当たりで、半分間違いかな、と、ベラは思う。
そんなベラが、この状態のメアリーをどうしようかと軽く頭を振り、その拍子に、後ろで高く結わえている茶色の髪が揺れた。
ベラは、ディアンがメアリーに惚れているのを知っている。惚れ薬を飲む前から、惚れていたのを。
ベラに限らず、店に通う人間は皆、それを把握しているし、アンドレアスの住民たちも、下手をすれば半分以上が知っている。
ディアンが堅物なのは有名な話だったし、そのディアンが一目惚れした、という話は、あっという間に広まった。
その相手がメアリーだということも、半分セットのように広まった訳だが。
あのディアンのことだし、下手に手を出すと逆に引っ込むだろうから静観しよう、というのが、皆の意見としてあった。のが、ディアンが惚れ薬を飲む、ということにまで発展した原因の一つでもある。
「ていうか、劇団来るの、知らなかったな。私も誘って観に行こうかな」
ベラには婚約者が居て、今年の秋に挙式を挙げる予定だ。その婚約者は、ベラの食堂で料理人として働いていて、食堂の後を継ぐことになっている。
「それは良いと思います! でも、その、で、デート……! デートって、何をどうすれば良いんですか?! 着ていくものすら分からないんです!」
真っ赤な顔をして、涙目で訴えてくるメアリーに、
「おめかし。めかしこめ。可愛い格好をするの」
「可愛い格好てどんなのですか?!」
こりゃ駄目だ、と思ったベラは、
「私、まだ時間あるし。服とか見繕ってあげる」
と、椅子から立ち上がった。
ディアンが惚れ薬を飲んで、一週間。今日も来たな、とメアリーは思いながら、ディアンと畑仕事をして、それを終えて、作業場に入って。
毎日何かしらくれるディアンから、今度はネックレスを貰ってしまったと思っていたメアリーは、
「はい? どういうことです?」
その質問の意図が読めずに、作業台でケースを開け、見つめてしまっていたネックレスから顔を上げて、ディアンへ顔を向け首を傾げた。
「いや、何も予定がなければ、だが。君をデートに誘いたいと思ってな。ああ。ちゃんと休暇の申請はする。予定があるならあるで、それが俺にも手伝えることなら、ぜひ、手伝わせて貰いたいが」
「はあ、そういう……え? デート?」
「そう、デートだ。君を振り向かせるための」
目を丸くしたメアリーに、ディアンは微笑みながら、真剣な眼差しを向けてくる。
デートなど、生まれてこのかた、一度も経験がない。……ではなく。
「……えー……すみませんが、ディアンさん。午前中は予定があります、ので」
ディアンに、着けてくれないかと言われて、しょうがないから、と、髪を一房編んで、貰った髪留めで留めているメアリーは、目を泳がせる。
「どんな予定だろうか。それと、午前中だけなら、午後は空いているのか?」
全く引いてくれないどころか、少し距離を詰めて聞いてくるディアンに、メアリーは狼狽えそうになりながら、
「午前中の、予定はですね……発注した荷物が届く予定なので、それを受け取って、中身を確認して、などの作業です。午後は、……今のところ、空いてますが……」
「なら、午前中はその手伝いをして、午後にデート、というプランはどうだろうか」
「えー……手伝ってくれるのは有り難いですが……その、デート……は、具体的に……?」
オロオロしているメアリーを可愛いと思っているディアンに、そして、午前も午後も一緒に居られるかも知れないという期待に胸を踊らせているディアンに、メアリーは、気付かない。
「デートはな、色々と候補を考えていたんだ。午後ということなら、メアリー。君は劇が好きだと、記憶しているが。劇団に興味は、あるだろうか」
「劇団?」
「ああ。ムルメア劇団という名前なんだがな。今は隣の街にいて、定休日の前日に、その劇団がアンドレアスに来る予定なんだ。劇を観て、お茶をして、というのを考えの一つに入れていたんだが、どうだろうか?」
ディアンが言った通り、メアリーは劇が好きだ。去年も、一度だけだが、別の劇団がアンドレアスに来た時に、観に行った。
「それは、どのような演目で……ぁ」
興味をそそられてしまい、ぽろりと零れたその言葉に、メアリーは、しまったと思う。
「今、演ってるのは『トゥルペの姫騎士物語』らしい。だから、時期からしても、同じものを演ると思う」
その演目は、以前にメアリーが、小さい頃に観て好きになったと、ディアンや周りに話したことのあるもので。
「……では……お言葉に甘えて……」
また観たい、という気持ちに押されて、おずおずと、頷いてしまう。
「良かった」
ディアンは、頷く仕草も愛おしいと思いながら。
「その日が今から待ち遠しいよ、メアリー。君と初めてのデートだからな。しっかりエスコートする」
「ど、どうも……」
◇
「もう、どうすればいいと思いますか?!」
デートの誘いを受けてしまった、その昼。
店のカウンターで頭を抱えるメアリーに、
「デート、普通に楽しめば良いんじゃない?」
椅子に座って、カウンターに頬杖をつきながら、友人のベラは言う。
ベラは、今年で十八歳になる、大衆食堂の一人娘であり、メアリーの友人であり、常連客だ。
「受けてしまったからには! 当日頑張りますけど! それ以前にディアンさんの振る舞いが! 心臓に悪いんですよ! 自分が招いたことですけど!」
「んー……まあねぇ……」
半分当たりで、半分間違いかな、と、ベラは思う。
そんなベラが、この状態のメアリーをどうしようかと軽く頭を振り、その拍子に、後ろで高く結わえている茶色の髪が揺れた。
ベラは、ディアンがメアリーに惚れているのを知っている。惚れ薬を飲む前から、惚れていたのを。
ベラに限らず、店に通う人間は皆、それを把握しているし、アンドレアスの住民たちも、下手をすれば半分以上が知っている。
ディアンが堅物なのは有名な話だったし、そのディアンが一目惚れした、という話は、あっという間に広まった。
その相手がメアリーだということも、半分セットのように広まった訳だが。
あのディアンのことだし、下手に手を出すと逆に引っ込むだろうから静観しよう、というのが、皆の意見としてあった。のが、ディアンが惚れ薬を飲む、ということにまで発展した原因の一つでもある。
「ていうか、劇団来るの、知らなかったな。私も誘って観に行こうかな」
ベラには婚約者が居て、今年の秋に挙式を挙げる予定だ。その婚約者は、ベラの食堂で料理人として働いていて、食堂の後を継ぐことになっている。
「それは良いと思います! でも、その、で、デート……! デートって、何をどうすれば良いんですか?! 着ていくものすら分からないんです!」
真っ赤な顔をして、涙目で訴えてくるメアリーに、
「おめかし。めかしこめ。可愛い格好をするの」
「可愛い格好てどんなのですか?!」
こりゃ駄目だ、と思ったベラは、
「私、まだ時間あるし。服とか見繕ってあげる」
と、椅子から立ち上がった。
49
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪皇女が幸せになる方法
春野オカリナ
恋愛
ブルーネオ帝国には、『極悪皇女』と呼ばれる我儘で暴虐無人な皇女がいる。
名をグレーテル・ブルーネオ。
生まれた時は、両親とたった一人の兄に大切に愛されていたが、皇后アリージェンナが突然原因不明の病で亡くなり、混乱の中で見せた闇魔法が原因でグレーテルは呪われた存在に変わった。
それでも幼いグレーテルは父や兄の愛情を求めてやまない。しかし、残酷にも母が亡くなって3年後に乳母も急逝してしまい皇宮での味方はいなくなってしまう。
そんな中、兄の将来の側近として挙がっていたエドモンド・グラッセ小公子だけは、グレーテルに優しかった。次第にグレーテルは、エドモンドに異常な執着をする様になり、彼に近付く令嬢に嫌がらせや暴行を加える様になる。
彼女の度を超えた言動に怒りを覚えたエドモンドは、守る気のない約束をして雨の中、グレーテルを庭園に待ちぼうけさせたのだった。
発見された時には高熱を出し、生死を彷徨ったが意識を取り戻した数日後にある変化が生まれた。
皇女グレーテルは、皇女宮の一部の使用人以外の人間の記憶が無くなっていた。勿論、その中には皇帝である父や皇太子である兄…そしてエドモンドに関しても…。
彼女は雨の日に何もかも諦めて、記憶と共に全てを捨て去ったのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。
下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。
リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。
櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。
生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。
このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。
運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。
ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる