上 下
11 / 25

11

しおりを挟む
 ようこそ、わが勇者のパ―ティ―へ!私の名前はテセラと言います。

 今回はなんのご入用でしょうか、依頼ですか、それとも用心棒のご相談?私の元に来たということは、ご依頼ですよね。

 困ったことや解決していただきたいことがあれば、何でもどしどしお申し付けください。

 どんな難関クエスト過酷な試練でも解決しますし、厄介な聖獣でも女神でも魔神でも魔王でも、なんでも討伐してみせましょう。

 他にもこの前お受けしたものをあげると、無能な天使の代わりに聖教会で天使長への昇格試験を代理で受け、合格するといった例がございました。天界から苦言を呈されても大丈夫、ご安心ください。そこのところは織り込み済みなので、なにか言われてもこちらがすべて暴力にものを言わせて、黙らせて差し上げます。心配の必要はございません。我々のバックにはあの最強勇者が着いておりますので!お客様に危害は及びません!

 他にも、目障りな奴らも種族問わず跡形も塵も残さず消しつくすことも可能です。

 報酬次第では護り神だって抹消してみせましょう。それをあなたが望むなら。事実、これまでも魔族の方に何度か依頼を受け、達成した実績もございます。世の中金金、金なんです。

 その他の例としては、悪魔の業火の炎とやらで燃やし尽くされた森や、永遠に解けない封印を施された遺跡の封印解呪も承っております。そんなのおちゃのこさいさいです。赤子の手をひねるようなものです。ぜひともお近くの昔の神殿も、封印を解いて荒らしまくってあげてください。

 そういえば魔神と女神の戦争が勃発した際、勇者の力で一瞬で両国の将軍を暗殺し、双方を黙らせ沈静化することもありましたね。もちろんとんでもないブ―イングを受けましたが、文句言うやつはぜ―んぶ力で消し炭にしました。

 これも全て皆さまがわたくし共にお金を積んでくださった善行のおかげです。ね、お金の力って素晴らしいでしょう?お金様様、万々歳です。

 …ん?

 いかがなされましたお客様?

 えっ、依頼をしに来たのではないと?それはそれは大変失礼いたしました。

 ならばギルドの勧誘でしょうか、まさか警吏団体の取り締まり?

 それなら生きて返すわけには行きませんが。



 ………………………え?



 ………………………仲間になりたい?

 あァ、それはそれは。



 ご存知の通り、わたし達は勇者のパ―ティ―です。

 毎日のように命に係わる案件は発生しますし、辛い思いをすることも当然ありますので、あまりお勧めはしませ……

 エ?なに?アヤトが守ってくれるから大丈夫?

 だから戦わなくても平気だし、アヤトの隣にいるだけでいい?

 どうせあなたもそうなんでしょって?今、そう言いましたか?

 …ええ、はい、そうですか。よく分かりました。

 ならちょっとこちらに来ていただきましょうか。

 ナ―ニ、チョットチクットスルダケデスカラ、ナニモコワイオモイヲスルコトモアリマセン。アンシンシテクダサイ。デハ、サヨナラ。



「…デスフリ―ザ―」

「こぉら―――――ッ!!何をしておるテセラ!!お主なに隠れて普通の一般人を氷像にしようとしておるのだ!さあ、お主もさっさと路地裏から逃げるのだ!すまぬが今後絶対テセラと二人きりになるでは無いぞ!」

「チッ、出たかリッドと同じお邪魔虫!!」

 部外者の登場に私が歯軋りすると、アルバ―トはいやいやいやと手と首を振った。

「いやいやいや、お邪魔虫もなにも、我輩一応祈祷師という職業なのだが!」

「逆に祈祷師って何するの?あれでしょ?どうせ暗闇でお祈りと言う名のゴキブリ退治してるんでしょ?あじしおの代わりにゴキブリスプレ―まいてるんでしょ?」

「何故そうなるのだ!まあ、我輩も最近はゴキブリに手をこまねいて…って違う!そんな話では無い!なぜ罪なき少女たちに、このようなことをしておるのだ!まさか常日頃から、こんな惨殺を繰り返していたわけではあるまいな!?貴様も勇者の仲間だろう!」

 私はやれやれと呆れて首を振ってみせる。

「面倒ダメ、ゼッタイ。害悪、タネから、むしり取る。アヤトの力借りれば、トラブル消滅、証拠も隠滅、少女も消滅。これで問題起きない、すなわち一石二鳥。オ―ケイ?」

「ほほう、なるほど…ではなくて。我輩、新参者の身の故リッドという男にはまだあったことが無いのだが…奴の苦労が分かった気がする。逆に聞きたいのだが、何故テセラはそこまで過激に仲間を作りたがらぬ?新参者の我輩がいうのも癪だが、何故そこまで聖少女を毛嫌いするのだ?」

「…借金よ」

 ぶるぶると握った拳を震わせ、血を吐くような声音で睨め付けると、アルバ―トは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

「…借金があるのよ!それも山のように、あの頭すかすかの勇者とか言う脳内お花畑野郎のせいで!!次々仲間を増やすから!」

 そう言って、私がダンと地面に足を叩きつけて睨めば、アルバ―トは意外そうな表情を浮かべた。

「何?借金だと?勇者のパーティなのに借金なんぞしておるのか?」
「えっ、あんた知らなかったの!?そうよ、とんでもない借金があるのよ!」

 そう、借金があるのだ。大国にあるお金を全て集める程度では生温い、恐ろしいほどの額が。それもこれもあれもすべて、どこぞの馬鹿勇者がその身一つでこさえた負債の嵐なのだけれど。

 あの脳みそスポンジの勇者様は、それこそ国家予算なんてくだらないほどの想像できないほどの額を、たった一晩で拵えてきたこともある。あの時は確かに私も未熟だった。

 勇者がまさかそんな悍ましい悪にまみれた疫病神だと、つゆほども思っていなかった、純粋で若い頃の自分である。
 勇者だからお金持ち?
 勇者だから毎日ぜいたく三昧?
 勇者だから全部が全部思いのまま?
 馬鹿馬鹿しい。そんなものはまやかしだ。

 ああ痛い痛い、耳が痛くて仕方がない。

 アヤトが負債を作り、アヤトが連れてきた仲間がまた出費を増やす元になる。まさに逃げ場なき史上最悪の悪循環。これでどうして美女も豪華な料理もいっぱいの、夢のウハウハライフなんて送れるか。

 もっとも、このようなことをアルバートに当たっても仕方がないのだが。この行為が、何の意味も生まないことは分かっている。

 一応はアルバートも、パーティーではかなりの稼ぎ頭で唯一の常識人で、やたらアヤトに甘い以外は色恋沙汰にも興味が無く、その他経理などの点に置いても優れているから、私もある程度、に重きを置いている。信頼を寄せている。

 どうすればあの、美女ときゃっきゃっウフフしてばかりの、頭フラワーガーデンのパーティーピーポーの暴走止めることができるのか。

 本か?本を出せば良いのか?
【勇者の真実~パーリーピーポーの暴走~】という題の書籍なら、皆きっと手に取ってくれるかもしれない。そして勇者も社会的爆死、一滴残らず干されて私は印税ガポガポ一石十鳥。

 それとも、アヤトを鎖に繋いで飼う?

 今度から犬小屋に住まわせて、人間の言葉も聞くのも喋るのも禁止した上で、ご飯もドッグフードドッグだけにして、芸でも仕込めば大繁盛、魔王も倒れず世界はきっと平和になる!…私疲れてるのかな。

 私は真剣な表情でアルバートと向き合った。

「アルバートも分かったでしょう?このままだと、どんどん苦しくなるだけなの。私、もしも自分が死を迎えるなら、餓死と焼死だけは絶対勘弁なんだけど。どうすんの?」

 冒険を始めて最初の方こそ、次々とパーティーに入ってくるうら若き少女たちを渋い面持ちながらも認めていたが、流石にもう我慢の限界だ。そろそろ年貢の納め時ではないか。

 ここで無職達を一人残らず刻んでサラダにしたりしない、寛大で広大な私の心を褒め称えて欲しい。

「そ、そうか………そのようなことがあったとはな……まったくもって理解が及んでおらなんだ。それは悪いことをしたな、すまない。だがなテセラ、だからと言って我輩はかような少女たちに罪があるとは思えんのだ、ただアヤトを信じ、かの光に触発され、聖なる道に歩もうと決意した少女は、むしろ讃えるべきではないのか。この物騒な世の中、自分の我が身可愛さが先走り、悪を憎み、魔を払う勇者についていこうと思うものは少ないのだ。むしろ魔族に身を落とすよりは………おいテセラ。聞いておるか?………テセラ?」
「もしもし、あっ裏社会の帝王デスザダークさん?ちょっと買い取って欲しい美少女がいるんですけど…600人くらい?全員見た目だけは無駄に完璧ですので、いくらぐらいになるでしょうか。全員冷凍便で送るから、受け取った後は好きにしていいですよ。はい、ではそれでお願いします!」
「こらーっ!奴隷商法に手を出すのはやめたまえ!!」




 その後。
 アヤトの基地に帰って来た私とアルバートに、病床に伏せるリッドはポツリと呟いた。

「えっ?………アヤトなら、王国のコロシアムで開催される武闘大会に行ったぞ」
「今晩の夕食はリッドの丸焼きね」
「なんでだよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

処理中です...