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今すぐにでもアヤトの前に出て邪魔しようか。いや、ダメだ。
今までの経験上、アヤトからトラブルの元を強引に奪おうとしても、正論を言ってねじふせようとしてもダメだ。絶対の絶対に阻止できない。
何千回とトラブルを起こしたトラブル王の力はあまりにも強大すぎる。
私がどう対処しようにも全てこっちが無理やりねじふせられて、結局最後までアヤトに動かれて何かが起こってしまう。
頼みのアルバートは部屋の奥。間が悪いことこの上ない。いやそもそもアルバートがいたとしても、役に立たないか。なんかリッドと同じ感じがしたし。
…さてどうしたものか。何かいい策は講じられないのか。そう思いを巡らせたところで、私の脳内でとある名案が閃いた。これならいけるかもしれない。
早速私は帽子を整えると、杖を両手で構え直した。
声高に会話を交える二人の隣で、私は静かに詠唱を開始する。
「あー、クソ、あとちょっとなのに届かねえ!」
「頑張ってアヤト!!」
「炎の精霊たちよ…音を聞け、色を紡げ」
「うーん、何か台とかがあれば良いんだけど…」
「あっ、ならこれを使えば?」
「この地に宿り戦慄を奏でろ…」
「おー、ありがとなユリ!!」
「頑張れ頑張れアーヤート!」
「我の敵とみなすもの…髄の芯まで焼き尽くせ…」
「ウグッ、もうちょいのところで届かない…あっ、こう言う時こそ勇者の力!」
「あっ、なるほどー!!さすがアヤト!あったま良いー!!」
「轟け閻魔の炎、焼き尽くせ紅蓮の業火…」
「くらえ、勇者の力!あの本をここに持ってこーい!!」
「わー、すごーい!本がひとりでに飛んできたー!」
「闇の魔女テセラが命じる…!」
「よっと!よっしゃ、取れたー!!」
「さっすがアヤト!!見せて見せ」
「レッド・ヘルファイア!!」
「「ぎゃぁあああああ!?」」
ぱっと一筋の煙が上がったかと思えば、次の瞬間、凄まじい勢いで本の表紙が炎上する。
そのまますぐにでも跡形も残さず焼き尽くしてしまうほどの火力だったが、しかしアヤトは持ち前の反射神経とチート能力で、本が灰と化す前に炎を消してしまった。
「チッ、失敗したか!!」
私はプライドも矜持もかなぐり捨て、追い剥ぎのごとくアヤトに襲いかかった。
「おいっ、いきなり何すんだよテセラ!」
「それを寄越せアヤトォ!!」
「ひぃっ!?ちょっ、落ち着けテセラ!?ただのなんか禍々しくて気持ち悪いいやーな感じのする本じゃないか!何も無いってば!」
「そこまでわかってるならどうして手に取ったの?そして開けようとしているの?良い?絶対に開かないでよね」
「えっ?あれだろ、押すなよ押すなよって言って押させる前振りだろ?大丈夫大丈夫、開けるから!それー!」
「なんでだよおおおおおおおお!!」
ーーー刹那、本から凄まじい光粒が噴出した。
開かれた本から眩い光が洪水のごとく湧き出し、噴水のように上方めがけて立ち昇る。噴出した光は古びた天井にあたって弾け、あちらこちらに飛散する。
そこら中を蔓延る影すら覆いつくさんばかりに根を伸ばし、深い闇を落としていた書庫を一気に白い世界で染め上げた。
「こ、このまばゆい光は一体…!? 」
無様に地面にしりもちをついたユリが、両手で光源から庇いながら驚きの声を張り上げる。私もその光景を白く燃え尽き、死んだ目で見た。
なんか…なんだろう。
なんだか、もうクッソどうでも良くなってきた。
疲れた、疲れたなあ。テセラ、疲れたよ。なんだか眠くなってきちゃったよ。もういいや、棒読みで喋ろう。
「こ、この力は…まさか!!」
「コ、コノマガマガシイチカラハー、アノデンセツノー!?」
目紛しく回転し、渦を巻く光の中から、小さな人影が出現する。それは体を綺麗に折りたたみ、淡い光を発する風切羽のような形をした4枚羽を携えた、見るものに美しくも儚い印象を与える小さな生き物だった。
「まさか、これは妖精……………!!」
アッ、なんだ妖精だった。
てっきり魔物かと思ったからまがまがしいとか言っちゃったよ。まあいいや。
ちなみに妖精というのは一応、滅多に人里に降りることのない文献レベルの幻の種族らしいが、誰かさんのせいでもう1000回くらい目にしているため、特に目新しさも感じない。
妖精は体育座りしていた体を開くと、ぴんと背を仰け反らせた。
そしてぱっちりと宝石のように美しい瞳を開き、悲しそうな顔を浮かべると、アヤトに懇願するように啼泣した。
「私は百年前に、ある高名な魔術師によって封印された、銀の鈴の力を授けられしリーンの妖精、伝説のミルクル・フェアリーバード・トワイライトと言うミル…!私の封印を解くほどの力を持った、伝説の勇者であるあなた様にお願いしますミル…この近くにあるほこらを壊して欲しいんだミル!!あのほこらには、今、何者かによって強力な呪力が施されているんだミル。そのせいでモンスターが凶暴化して数を増やし」
…帰ろう。
その後、無事勇者一行はほこらを破壊した。
本はオークションで売った。
今までの経験上、アヤトからトラブルの元を強引に奪おうとしても、正論を言ってねじふせようとしてもダメだ。絶対の絶対に阻止できない。
何千回とトラブルを起こしたトラブル王の力はあまりにも強大すぎる。
私がどう対処しようにも全てこっちが無理やりねじふせられて、結局最後までアヤトに動かれて何かが起こってしまう。
頼みのアルバートは部屋の奥。間が悪いことこの上ない。いやそもそもアルバートがいたとしても、役に立たないか。なんかリッドと同じ感じがしたし。
…さてどうしたものか。何かいい策は講じられないのか。そう思いを巡らせたところで、私の脳内でとある名案が閃いた。これならいけるかもしれない。
早速私は帽子を整えると、杖を両手で構え直した。
声高に会話を交える二人の隣で、私は静かに詠唱を開始する。
「あー、クソ、あとちょっとなのに届かねえ!」
「頑張ってアヤト!!」
「炎の精霊たちよ…音を聞け、色を紡げ」
「うーん、何か台とかがあれば良いんだけど…」
「あっ、ならこれを使えば?」
「この地に宿り戦慄を奏でろ…」
「おー、ありがとなユリ!!」
「頑張れ頑張れアーヤート!」
「我の敵とみなすもの…髄の芯まで焼き尽くせ…」
「ウグッ、もうちょいのところで届かない…あっ、こう言う時こそ勇者の力!」
「あっ、なるほどー!!さすがアヤト!あったま良いー!!」
「轟け閻魔の炎、焼き尽くせ紅蓮の業火…」
「くらえ、勇者の力!あの本をここに持ってこーい!!」
「わー、すごーい!本がひとりでに飛んできたー!」
「闇の魔女テセラが命じる…!」
「よっと!よっしゃ、取れたー!!」
「さっすがアヤト!!見せて見せ」
「レッド・ヘルファイア!!」
「「ぎゃぁあああああ!?」」
ぱっと一筋の煙が上がったかと思えば、次の瞬間、凄まじい勢いで本の表紙が炎上する。
そのまますぐにでも跡形も残さず焼き尽くしてしまうほどの火力だったが、しかしアヤトは持ち前の反射神経とチート能力で、本が灰と化す前に炎を消してしまった。
「チッ、失敗したか!!」
私はプライドも矜持もかなぐり捨て、追い剥ぎのごとくアヤトに襲いかかった。
「おいっ、いきなり何すんだよテセラ!」
「それを寄越せアヤトォ!!」
「ひぃっ!?ちょっ、落ち着けテセラ!?ただのなんか禍々しくて気持ち悪いいやーな感じのする本じゃないか!何も無いってば!」
「そこまでわかってるならどうして手に取ったの?そして開けようとしているの?良い?絶対に開かないでよね」
「えっ?あれだろ、押すなよ押すなよって言って押させる前振りだろ?大丈夫大丈夫、開けるから!それー!」
「なんでだよおおおおおおおお!!」
ーーー刹那、本から凄まじい光粒が噴出した。
開かれた本から眩い光が洪水のごとく湧き出し、噴水のように上方めがけて立ち昇る。噴出した光は古びた天井にあたって弾け、あちらこちらに飛散する。
そこら中を蔓延る影すら覆いつくさんばかりに根を伸ばし、深い闇を落としていた書庫を一気に白い世界で染め上げた。
「こ、このまばゆい光は一体…!? 」
無様に地面にしりもちをついたユリが、両手で光源から庇いながら驚きの声を張り上げる。私もその光景を白く燃え尽き、死んだ目で見た。
なんか…なんだろう。
なんだか、もうクッソどうでも良くなってきた。
疲れた、疲れたなあ。テセラ、疲れたよ。なんだか眠くなってきちゃったよ。もういいや、棒読みで喋ろう。
「こ、この力は…まさか!!」
「コ、コノマガマガシイチカラハー、アノデンセツノー!?」
目紛しく回転し、渦を巻く光の中から、小さな人影が出現する。それは体を綺麗に折りたたみ、淡い光を発する風切羽のような形をした4枚羽を携えた、見るものに美しくも儚い印象を与える小さな生き物だった。
「まさか、これは妖精……………!!」
アッ、なんだ妖精だった。
てっきり魔物かと思ったからまがまがしいとか言っちゃったよ。まあいいや。
ちなみに妖精というのは一応、滅多に人里に降りることのない文献レベルの幻の種族らしいが、誰かさんのせいでもう1000回くらい目にしているため、特に目新しさも感じない。
妖精は体育座りしていた体を開くと、ぴんと背を仰け反らせた。
そしてぱっちりと宝石のように美しい瞳を開き、悲しそうな顔を浮かべると、アヤトに懇願するように啼泣した。
「私は百年前に、ある高名な魔術師によって封印された、銀の鈴の力を授けられしリーンの妖精、伝説のミルクル・フェアリーバード・トワイライトと言うミル…!私の封印を解くほどの力を持った、伝説の勇者であるあなた様にお願いしますミル…この近くにあるほこらを壊して欲しいんだミル!!あのほこらには、今、何者かによって強力な呪力が施されているんだミル。そのせいでモンスターが凶暴化して数を増やし」
…帰ろう。
その後、無事勇者一行はほこらを破壊した。
本はオークションで売った。
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