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不意にネロはキッと目を釣り上げると、肩を怒らせながらずんずんとアヤトに歩み寄った。
「なによっ、この!」
ぐいっとアヤトの空いた方の手を乱暴に引っ張り、自分の胸に押し付ける。そんなネロの奇行にアヤトは目を絶句した。
「うぉっ!?ネロ、あんたも何やってんだよ!?」
「別に、ただその女が生意気でうざったらしかっただけだから!新参のくせに調子乗ってんじゃないわよ!」
「あら、光栄ですわ。古参の方に意識してもらえるだなんて」
「なっ、なによムカつくわね!黙ってなさい!」
「ふふふ、承知しました」
「ユリもやる……」
パタパタと駆け出したユリも、ピョンっとアヤトのお腹に巻きついた。
「ぐぼぇっ!?」
腹部に抱きつかれて、アヤトが潰れたカエルのような声を出す。
「ったく、どいつもこいつも…」
そんな地獄絵図のような光景を、微笑ましい戯れだと思っているのか、苦い顔をしながらも柔らかく笑む節穴クソリッドに、私は暗く笑いながらアヤトの背中を指差した。
「リッドもやってみたら?背中空いてるけど」
「やらねェよ!!」
リッドは即座に否定しながらも私の顔を二度見して、ギョッと肩を跳ねあげた。
「つーかお前さん顔がやばいぞ、目が完全に死んでるじゃねえか!」
「ふふふ、なんのこと?うふ、うふ、うふふ」
「気持ち悪い!!」
「そんなことより早く大好きなアヤトに抱きつきなさいよ」
「だーからやらねェっつーの!しっかりしろ!!」
「……まあ、いいか。さあ、アヤトも帰って来たことだし、皆で帰りましょう。新しいゴミ、ではなくて仲間の方針についてもまた色々決めなくちゃいけないことだし」
そう言って、私は円滑に人々に帰還するよう促した。そして、踵を返したところで、後ろに見覚えのない壁がそびえ立っているのに気づく。
まるで来た道をーーー帰り道を塞ぐように。
私は色をなくした顔でリッドを振り返った。
「……………こんな壁さっきまであったっけ?」
私は目を極限まで見開き無表情でリッドに詰め寄ると、彼はブンブンと別の者に怯えた表情で首を横に振った。
…………………………。
「ぐぁあああああああああ!!開けろ開けろ開けろ開けろぉおおおお!こっから出せぇええええ!!」
空気を震わせるほどの大咆哮をとどろかせ、私は壁に縋り付いて硬い壁肌をバンバン叩いた。
「毒ガスがぁああああ!!毒ガスがそこまで迫ってるんだ!頼む開けてくれえええええ!!」
「しっかりしろテセラ!!正気を保つんだ、毒ガスなんて迫って来てねェぞ!」
今にも頭をかきむしらん勢いで喚く私を、またリッドが引き剥がす。
私の大絶叫が、広い遺跡にこだました。
古びた遺跡の深淵を、質の違う6つの足音が踏み越える。私、アヤト、リッド、ユリ、ネロとミルカの6人は先に進んでいた。
「なあテセラー、この道どう行けば良いんだ?昔の建物のくせにやけに入り組んでいるんだな」
アヤトの疑問に、私はため息をついてミルカを指差した。
「そこの機械あぶ…機械少女はこの神殿の守り人なんでしょ?道聞けば良いじゃない」
「いや、なんかミルカさんな、封印が長すぎたせいで、この神殿の間取り忘れちゃったんだってよ」
それどう見ても嘘だよな。絶対嘘だよな。
「つーか皆さんいい加減離れてくれません!?歩きにくいんですけど!」
アヤトが声を張り上げると、ミルカは陶酔したように婀娜っぽい吐息を漏らす。艶めかしく腰を揺らし、アヤトの体に細く白い指を回した。
「ふふ、旦那様、今一気に心拍数が上昇しましたよ。もしかして旦那様、私の痴態にドキドキしなさってるのですか?」
「はいーーー!?」
突然意味の分からない妄言を言い出したクソ女に、アヤトが瞠目して飛び上がる。こいつ壊そうかな。
「なによ、私だってあんたと同じことをアヤトに出来るんだから!!」
「やらなくて良いって!」
間髪を入れずにアヤトが突っ込むと、ネロはぷぅっとふて腐れたように、頬を膨らませて服の裾を掴んだ。ちなみにユリは相も変わらず、無表情でアヤトに張り付いている。
アヤトは嘆息めいた吐息をついた後、ちらりと私に意味ありげな視線を配した。げっ、こっち見んな。
「…なあテセラ、どうにかしてくれよなあ」
「だからなんで私に聞くのよ…」
ため息交じりを私の返答に、なぜか二人が揃って肩を揺らして反応する。ギギ、とブリキめいた軋んだ動作で振り返ると、あからさまな嫌悪をにじませた顔で私を睨め付けた。
無論、勇者からは見えない角度で。
「この私が隣にいてやってるんだから、私だけを見なさいよ。他のやつなんか見ないで」
「マスター、今この女は貴方にとって害であるという分析結果が出ました。間違いありません。貴方にとって、この女は将来必ず重大な悪影響を及ぼすことになるでしょう」
「いやなんでそうなるんですか!」
随分ひどい言い草だなぁ。
「ていうか、なんでいっつもアヤトはあいつばっかり頼るのよ。なんかムカつくんだけど」
「え?そりゃネロや皆は大切な仲間だし、あんまり手を煩わせたくないんだ。俺なんかのためにな。その点テセラはあれだ、どんどん迷惑かけてもOK」
うざ!!意味がわからん。
実際散々迷惑かけられているので、思わずイラっとしたら、なぜかアヤトはしてやったりという風に不敵に笑った。アヤトは実は私のことが好きだから、なんて生易しいものではなく、多分こいつは本気で私になら迷惑をかけても良いと思っている。私も私で今まで散々な目に合わされているので、本気でムカつく。
ムッとアヤトを睥睨すると、アヤトの横二人に睨み返された。
「なによなによなによなに!あいつにはあんなに砕けた態度で、どうして私たちにはこんな堅っ苦しい対応なの!?なに、私のこと嫌いなの!?」
涙目で目を吊り上げるネロにガクガクと揺さぶられ、アヤトと腰に巻きつくミルカの首がブンブン揺れる。
「え!?いやそういうことが言いたいんじゃなくて…」
「私は旦那様のしもべであり、お嫁さんなのです。主人のは妻の手を煩わせるものなのです」
「あいつばっかり特別扱いして!!私にも迷惑かけなさいよ!!
「ハア!?何言ってんだよ、皆揃って!」
「仕方がありませんね、ここはご主人様を体で誘惑するしかありません」
「わ、私だって!!ほら、アヤトもこうされると嬉しいんでしょ!」
「ちょっ、わっ!何やってんだよ2人とも!!」
とはいえ、流石にこのままでは平行線を辿るだけだとアヤトも悟ったらしい。
ひとつ大仰な咳払いをした後、
「とーにーかーく!先に進むぞ、皆!!」
「なによっ、この!」
ぐいっとアヤトの空いた方の手を乱暴に引っ張り、自分の胸に押し付ける。そんなネロの奇行にアヤトは目を絶句した。
「うぉっ!?ネロ、あんたも何やってんだよ!?」
「別に、ただその女が生意気でうざったらしかっただけだから!新参のくせに調子乗ってんじゃないわよ!」
「あら、光栄ですわ。古参の方に意識してもらえるだなんて」
「なっ、なによムカつくわね!黙ってなさい!」
「ふふふ、承知しました」
「ユリもやる……」
パタパタと駆け出したユリも、ピョンっとアヤトのお腹に巻きついた。
「ぐぼぇっ!?」
腹部に抱きつかれて、アヤトが潰れたカエルのような声を出す。
「ったく、どいつもこいつも…」
そんな地獄絵図のような光景を、微笑ましい戯れだと思っているのか、苦い顔をしながらも柔らかく笑む節穴クソリッドに、私は暗く笑いながらアヤトの背中を指差した。
「リッドもやってみたら?背中空いてるけど」
「やらねェよ!!」
リッドは即座に否定しながらも私の顔を二度見して、ギョッと肩を跳ねあげた。
「つーかお前さん顔がやばいぞ、目が完全に死んでるじゃねえか!」
「ふふふ、なんのこと?うふ、うふ、うふふ」
「気持ち悪い!!」
「そんなことより早く大好きなアヤトに抱きつきなさいよ」
「だーからやらねェっつーの!しっかりしろ!!」
「……まあ、いいか。さあ、アヤトも帰って来たことだし、皆で帰りましょう。新しいゴミ、ではなくて仲間の方針についてもまた色々決めなくちゃいけないことだし」
そう言って、私は円滑に人々に帰還するよう促した。そして、踵を返したところで、後ろに見覚えのない壁がそびえ立っているのに気づく。
まるで来た道をーーー帰り道を塞ぐように。
私は色をなくした顔でリッドを振り返った。
「……………こんな壁さっきまであったっけ?」
私は目を極限まで見開き無表情でリッドに詰め寄ると、彼はブンブンと別の者に怯えた表情で首を横に振った。
…………………………。
「ぐぁあああああああああ!!開けろ開けろ開けろ開けろぉおおおお!こっから出せぇええええ!!」
空気を震わせるほどの大咆哮をとどろかせ、私は壁に縋り付いて硬い壁肌をバンバン叩いた。
「毒ガスがぁああああ!!毒ガスがそこまで迫ってるんだ!頼む開けてくれえええええ!!」
「しっかりしろテセラ!!正気を保つんだ、毒ガスなんて迫って来てねェぞ!」
今にも頭をかきむしらん勢いで喚く私を、またリッドが引き剥がす。
私の大絶叫が、広い遺跡にこだました。
古びた遺跡の深淵を、質の違う6つの足音が踏み越える。私、アヤト、リッド、ユリ、ネロとミルカの6人は先に進んでいた。
「なあテセラー、この道どう行けば良いんだ?昔の建物のくせにやけに入り組んでいるんだな」
アヤトの疑問に、私はため息をついてミルカを指差した。
「そこの機械あぶ…機械少女はこの神殿の守り人なんでしょ?道聞けば良いじゃない」
「いや、なんかミルカさんな、封印が長すぎたせいで、この神殿の間取り忘れちゃったんだってよ」
それどう見ても嘘だよな。絶対嘘だよな。
「つーか皆さんいい加減離れてくれません!?歩きにくいんですけど!」
アヤトが声を張り上げると、ミルカは陶酔したように婀娜っぽい吐息を漏らす。艶めかしく腰を揺らし、アヤトの体に細く白い指を回した。
「ふふ、旦那様、今一気に心拍数が上昇しましたよ。もしかして旦那様、私の痴態にドキドキしなさってるのですか?」
「はいーーー!?」
突然意味の分からない妄言を言い出したクソ女に、アヤトが瞠目して飛び上がる。こいつ壊そうかな。
「なによ、私だってあんたと同じことをアヤトに出来るんだから!!」
「やらなくて良いって!」
間髪を入れずにアヤトが突っ込むと、ネロはぷぅっとふて腐れたように、頬を膨らませて服の裾を掴んだ。ちなみにユリは相も変わらず、無表情でアヤトに張り付いている。
アヤトは嘆息めいた吐息をついた後、ちらりと私に意味ありげな視線を配した。げっ、こっち見んな。
「…なあテセラ、どうにかしてくれよなあ」
「だからなんで私に聞くのよ…」
ため息交じりを私の返答に、なぜか二人が揃って肩を揺らして反応する。ギギ、とブリキめいた軋んだ動作で振り返ると、あからさまな嫌悪をにじませた顔で私を睨め付けた。
無論、勇者からは見えない角度で。
「この私が隣にいてやってるんだから、私だけを見なさいよ。他のやつなんか見ないで」
「マスター、今この女は貴方にとって害であるという分析結果が出ました。間違いありません。貴方にとって、この女は将来必ず重大な悪影響を及ぼすことになるでしょう」
「いやなんでそうなるんですか!」
随分ひどい言い草だなぁ。
「ていうか、なんでいっつもアヤトはあいつばっかり頼るのよ。なんかムカつくんだけど」
「え?そりゃネロや皆は大切な仲間だし、あんまり手を煩わせたくないんだ。俺なんかのためにな。その点テセラはあれだ、どんどん迷惑かけてもOK」
うざ!!意味がわからん。
実際散々迷惑かけられているので、思わずイラっとしたら、なぜかアヤトはしてやったりという風に不敵に笑った。アヤトは実は私のことが好きだから、なんて生易しいものではなく、多分こいつは本気で私になら迷惑をかけても良いと思っている。私も私で今まで散々な目に合わされているので、本気でムカつく。
ムッとアヤトを睥睨すると、アヤトの横二人に睨み返された。
「なによなによなによなに!あいつにはあんなに砕けた態度で、どうして私たちにはこんな堅っ苦しい対応なの!?なに、私のこと嫌いなの!?」
涙目で目を吊り上げるネロにガクガクと揺さぶられ、アヤトと腰に巻きつくミルカの首がブンブン揺れる。
「え!?いやそういうことが言いたいんじゃなくて…」
「私は旦那様のしもべであり、お嫁さんなのです。主人のは妻の手を煩わせるものなのです」
「あいつばっかり特別扱いして!!私にも迷惑かけなさいよ!!
「ハア!?何言ってんだよ、皆揃って!」
「仕方がありませんね、ここはご主人様を体で誘惑するしかありません」
「わ、私だって!!ほら、アヤトもこうされると嬉しいんでしょ!」
「ちょっ、わっ!何やってんだよ2人とも!!」
とはいえ、流石にこのままでは平行線を辿るだけだとアヤトも悟ったらしい。
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