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玉座に座る子供
しおりを挟む初めて彼を見た時、まるで彼が落とす雷のような衝撃が体を走ったのを覚えている。
自信に満ちた表情。凛と立つ姿。
これから実の父親と戦争をするというのに、強大な力を敵とするのに自分が負けるとかけらも信じていない。そんな王者のような風格を醸し出した少年。
少年の鷹のような金色の瞳が私を捕らえまるで狙われた獲物のような感覚に陥りながら確信した。
嗚呼、クロノス様は負ける。
この少年、ゼウスが王座に就く。
予言の力を使わずとも分かりきった事だった。だから私はゼウスの味方についたのだ。
目論見通り十年に及ぶ親子の覇権争いはゼウスの勝利に終わった。
「プロメテウス、あなたがいたおかげで、先の戦争に勝てた」
そう笑うゼウスは、まだ幼さが残る顔で嗚呼そういえば彼はまだ子供なのだと思う。実の父を蹴落とし王になり神々を統べる者になっても彼は生まれて数十年しか経ってなかった。
「だけど、このゼウスを騙した事、見逃す事は出来ない。罰を受けてもらう」
ゼウスが罰の内容を告げる。それは不死なる神への処刑的な拷問だった。
ゼウスが片手を上げるや否や、クラトスとゼロスの兄弟が私を縛りあげる。
「プロメテウス、何か私に言い残す事はないか?」
聞いてやるぞ。とゼウスは玉座から見下ろす。
その眼差しが先の王に重なり私は目を細めた。
「では、ひとつだけ」
先の未来が見えるこの私を見つめるその瞳の奥に僅かに恐怖の色が浮かんでいるのを知っている。
かわいそうに頂点に君臨してしまった子供。
己の祖父や父親が辿った末路。それを怯えて誤魔化す只の子供。
その子供に私は残酷な一言を告げる。
「私はお前の末路を知っている」
「……なに…?」
ゼウスの瞳が揺らいだ。先をいうように促される。だが私かてホイホイと予言は言わない。まして今のゼウスには。
「知りたいのなら、今一度頭を冷やすがいい」
それきっり私は口をきかなかった。
ゼウスは何か言いたげだったが、私が頑固な事は知っている。互いに知り尽くす程の長い付き合いだ。利口なゼウスは無駄な事はしない。
王者の素質を持ち合わせ、絶大なる支配力を得た我が甥っ子よ。
恐怖に苛まれ力の限り他者を従わせるお前はまさにクロノス様そっくりだ。
私が刑から解放される頃には 成長している事を願おう。
彼方に現れた鷹に私は口角を上げた。
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