上 下
25 / 57
第三章

別れの決意

しおりを挟む
「サラ、これから二人で帝国に行けるよう手配する。少し時間はかかるが、必ず迎えに行く。それまで待っててくれる?」

帰り際、リックさんの提案に私は頷いた。

「さあ、行こう。」

私とリックさんは手を繋いで帰り道を歩いた。彼の手は温かく、私に勇気をくれた。

劇団まではあっという間だった。
リックさんと別れる時、何だかもう会えないような気持ちになり、涙ぐんでしまった。

「頑張れ、サラ。大丈夫、ちゃんと謝ればわかってくれるよ。」

「ありがとう。頑張ってくる。」

ちょうど劇団の前に着いた時、中からエレナが出てきた。

「サラ!帰ってこないから心配したのよ!」

エレナがぎゅっと抱きついてきて、花の香りに包まれた。

「ごめんなさい。」

「この方は?」

「助けてもらったの。」

エレナが離れてリックさんを見た。

「サラがお世話になりました。よかったらお茶でもどうですか?」

そう言ってエレナはリックさんを中へ誘導し、劇場の応接室へ案内した。

「サラは先にみんなに顔を見せてあげて。男性たちは昨日探しに行ってくれたのよ。この方にはお茶をお出しするわ。」

「うん。ありがとう、エレナ。」

私はみんなの元へと向かった。
上演がなくなって各自トレーニングなどをしており、暇を持て余しているようだった。
リハーサル室に行くとみんなが駆け寄ってきた。

「サラ!」

その表情を見て本当に心配をかけていたのだと実感した。

「みんな、心配かけてごめんなさい。そして探してくれてありがとう。」

私は深々と頭を下げた。

「無事でよかったよ。」

みんなはとても優しかった。

「リオネルが一番探してたんだ。顔は見せたかい?」

私が首を横に振ると急いで会いに行くように促された。

リオネルは団長室にいた。
私が中に入るとリオネルが駆け寄ってきた。

「サラ!」

リオネルに抱きしめられた。
リックさんとは違う男性の香り。

「リオネル、心配かけてごめんなさい。」

「帰ってきてよかった。誰かと一緒だったのか?」

リオネルは本当に心配していたようでほっとした表情をしていた。

「リックさんに助けてもらったの。彼のおかげで無事に帰ってこられたのよ。」

「あの酒場の男か。なぜ彼と一緒にいたんだ?」

リオネルの問いに、私は深呼吸してから答えた。

「昨日、あなたに相談したことは覚えてる?考えがまとまらなくて、広場で女神像を見ていたら暗くなってしまったの。その時に、彼が心配して声をかけてくれたの。」

「そうか。彼にはお礼を言わないといけないな。」

リオネルの表情は晴れなかった。

「それで、私、考えたの。上演も中止になってしまったし、ここにいるよりも、私にすべきことを探したいって。だから、ここを辞めようと思うの。」

「そんな!サラがいなくなるなんて考えられない。俺は君が大切だって何度も伝えてきたつもりだ。」

「リオネルには感謝してるの。私の居場所を作ってくれたことに。私には演技しかできないから。」

「だったらなぜ!?今を乗り切れば上演だってできる。少しの我慢なんだ。俺は君の居場所はここだと思ってる。これからも俺たちと一緒にいるべきだ。」

「リオネル、あなたが大切にしている劇団に私を招いてくれたことは感謝しているの。この世界で生きていけるのはあなたのおかげだもの。でも、私は自分の道を進みたいの。」

リオネルは言葉を失い、しばらく沈黙が続いた。
その時、ドアがノックされ、リックさんが入ってきた。

「失礼します。こちらにサラがいると聞いたのですが。」

「リックさん!」

「昨日はサラがお世話になった。お礼を言う。」

礼を言うと言いながらも、リオネルの表情は強張っていて、こんな顔は見たことがなかった。

「泣いてる女性は放っておけない主義なんだ。気にしないでくれ。」

「サラ、泣いたのか?」

私はうつむきながら言った。

「私だって泣きたくなる時もあるわよ。」

リオネルは一瞬言葉を詰まらせた。

「泣きたくなるほど辛かったんだな。俺はそれにも気づかず……。何やってんだろうな。」

「あなたには、あなたの立場があるもの。私はあなたに甘えたりできないの。ルールがあるって知ったあの時から、私の中であなたは大切な仲間であり、団長なの。私はあなたを尊敬してる。でも、今は自分の道を探したいの。」

リックさんが口を開いた。

「サラが決めたことなら、俺も応援するよ。リオネルさん、サラの決意を尊重してあげてくれないか。」

リオネルはしばらく黙っていたが、やがて深く息をついた。

「サラ、君がどこへ行っても俺たちは君の家族だ。いつでも帰ってきていい。」

「ありがとう、リオネル。本当に感謝してる。」


こうして私は劇団を退団することになった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。

いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。 成宮暁彦は独身、サラリーマンだった アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。 なにぶん、素人が書くお話なので 疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。 あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。

処理中です...