託され行くもの達

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エピローグ

旅の始まり

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別段、何も変わらないなとカルトルートは思う。

一人で旅をすると決めたが、レムズと散々世界を旅した。彼が言っていた、綺麗な場所を探して。
ほとんどの地域は制覇している。

(最初はワクワクしたけど、一人って意外とつまらないな)

十三年間ラミチス村で過ごし、九年間レムズと旅をした。今まで、一人で居ることなんてほとんどなかった。

小さく息を吐いて、カルトルートは故郷と言えるかどうかはわからないが、フォード大陸の北西にあるラミチス村跡を見つめる。

クリュミケールに話したように、ラミチス村はカルトルートが村を出てから二年程経った時に違法行為が発覚し、村の大人達は国によって捕まった。

(はは、綺麗さっぱりだな)

村を出て、初めてこの場所に舞い戻る。村は跡形もなく消え去り、草原だけが広がっていた。

旅をしながら何度も考えた。
あの日、レムズがラミチス村を訪れなくて、カルトルートがレムズと共に行きたいと思わなければ‥‥今頃カルトルートはどこに居たのだろう?

(レムズ。本当に感謝してるよ。お前はたくさん、僕を救ってくれた)

レムズはこのことを知らない。
もしかしたら、再び旅を始めたレムズが何処かでこの噂を耳にする日が来るかもしれないが‥‥
あれから随分と経った。
もう、噂されるようなものではないか‥‥そう思い、カルトルートは苦笑する。

踵を返し、カルトルートは再び歩き出した。

ーーカルトルート。
もう覚えてはいないが、ラミチス村では違う名前を与えられていた。
カルトルートという名前は、レムズに名乗る際に適当に思い付いた名前だった。
本当に適当だったのだろうか。頭の片隅に、残っていた何かだったのだろうか。

『女の子ならリオ、男の子ならカルトルート、なんてどうかな?昔読んだ本の‥‥』

この名前は、本物だったのだから。

(でも、やっぱり信じられない。あのサジャエルが、僕の母親?それは、姉さんも同じだろうな)

カルトルートがサジャエルを見たのは、イラホーに見せられた過去の中と、神の塔での戦いの時だけだった。だから、どんな人物なのか、ほとんど話だけしか知らない。
クリュミケール達の敵だということしか‥‥

だが、サジャエルは死に際、苦しそうにしながらも英雄の‥‥父のペンダントに手を伸ばそうとしていた。
サジャエルは、ザメシアに殺された。

(当たり前だけど、憎くはない。だって、あの時はラズの方が‥‥可哀想に思えたから。今だって‥‥)

そう感じ、ギュッと目を閉じる。
夢の中で見た記憶。
サジャエルが自分を腕に抱き、父と共に名前を考えていた。愛しき子と、呼ばれていた‥‥

「はあ‥‥」

鼻を啜り、いつの間にか滲んできた涙を手で拭う。
一人は孤独だ。なんとなく寂しい。
でも、まだ帰るわけにはいかない。まだ、クリュミケールを頼るわけにはいかない。
お互いに離れて、時間を掛けながら気持ちに整理をつけて、それからまた、会うべきだとカルトルートは思う。
それから相棒の姿を思い浮かべ、

(‥‥レムズ、幸せにな。本当に良かったな、友達が‥‥戻って。お前はたくさん歩いた世界だけど、友達と見る世界はまた、全然違うだろうからさ‥‥だから、時間を大切に、な)

エルフと魚人のハーフは二百年ほど生きるという。
レムズはもうすぐ九十歳になると話していた。
それでも、他の誰よりもまだ生きるだろう。
カルトルートよりも、ロファースよりも、クレスルドよりも。

だから、たくさん思い出をつくってほしい。幸せに生きてほしい。
いつか一人になる日が来るだろう。
だが、その時にまた、新しい誰かがレムズの傍らにいることを願う。

‥‥心配だし、少しだけ寂しい気もするが、レムズと離れる決意をしたのは自分だから。
だから、今は一人で。

帰る場所だってある。
仲間だって、たくさんできた。

(そうだ!遺跡巡りをしてみようかな。過去のことをたくさん調べてみよう。歴史には残されていないことが、何か見つかるかもしれないな)

クレスルドは以前『忘れられた過去は誰も知らない』と言っていた。
ザメシアやクレスルドしか知らない過去があると。

二人に聞けば早いかもしれない。だが、自分で調べる価値もあると思った。
見つかるかは、わからないけれど。

夕空の下、真っ直ぐに腕を伸ばして大きく息を吸う。暗くなる前にどこか街に寄ろう。
風に背中を押されるように、カルトルートは大地を歩く。

その姿を‥‥遠き果ての地から、空間の渦の守人だけが見送ってくれていた。
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