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生き残ったもの達-3
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朝になり、シックライアを出て再びファイス国へ向かう。
この調子だと、今晩は夜営をして、明日にはつくだろうとクリュミケールは思う。
シックライアの先には、街や村はファイス国まで無いのだ。だから今日は完璧に夜営だろう。それを考えて、シックライアで必要な食品などを購入しておいた。
歩きながらカルトルートとクナイを見るも、カルトルートは上の空、クナイは何を考えているのかわからない‥‥そんな感じで‥‥
確かにクリュミケールもレムズが心配で、一刻も早くどうにかしてやりたいとは思っている。
「カルトルート。私に何ができるかはわからないけれど、必ずなんとかしてやるから。だから、そんならしくない表情するなよ」
あの日々での彼は、いつも明るい表情をしていたものだから。
「うん‥‥でもお姉さん、僕は不安で不安で仕方がない。レムズは相棒で、たった一人の家族だから」
「何を言うんだ。私やアドル、あの日々の仲間は皆、お前の家族だよ。だから、家族である私のことも、クナイのことも信じて。二年前、私はお前とレムズを巻き込んでしまった。だから今度は、私が助ける番だよ」
クリュミケールが言えば、
「勝手に僕も含まないでくれます?」
と、クナイは嫌そうに言う。
「お前はレムズの友達なんだろ?レムズの友達は私達の友達!それでいいじゃないか」
ぽんぽん、とカルトルートの背中を軽く叩けば、
「‥‥お姉さん、ごめんね」
小さく微笑んでカルトルートは言った。
ーークリュミケールの予想通り、やはり今晩は夜営となる。
明日にはファイス国につくであろう。
シックライアで買った簡単な食品を食べて、薪を集めて火を起こして‥‥
シュイアとよく夜営をしたものだから、クリュミケールの手際は良かった。「野生児」なんてクナイに言われてしまったが気にしない。
魔物はもう居はしないが、野党などは居る恐れがあるので交代で見張りをしようと提案するが、
「僕がしておきますから君達は寝て下さい」
と、クナイが言った。それを却下しようとするも、クナイは譲らない素振りを見せて‥‥
仕方なく任せることにしてクリュミケールとカルトルートは休むことにする。
◆◆◆◆◆
何時であろうか。ふと、カルトルートは目が覚めて辺りを見た。
クリュミケールは隣で寝ていて、クナイはしっかりと見張りをしている。
「‥‥寝なくて大丈夫なの?」
カルトルートは小声で聞き、体を起こしてクナイの隣に座ると、
「あんたさ、お姉さんのことどうして嫌いなの?」
そう尋ねた。あからさまに態度に出ている為、よくわかる。
「ロファース君は、サジャエルやクリュミケールのせいで運命に巻き込まれたようなものですから」
「え?」
「だから、僕はサジャエルを憎んでいましたし、今もこうして生きているクリュミケールを嫌悪しています」
そんなクナイの言葉にカルトルートは、
「理由は知らないけど、お姉さんが生きていることは悪くなんかない。だって、僕は途中参戦だったけど、お姉さんの人生だってサジャエルに狂わされて来たんだ。お姉さんは気づいてないけど、みんな知ってる。あの戦いの日々で、お姉さんこそが一番の犠牲者だったんだよ‥‥」
カルトルートは一旦言葉を止めて、
「あんたにとって、そのロファースって人が大事なのはよくわかる。僕だって、レムズが大事だから。でも、お姉さんはようやく人生を手に入れたんだよ、お姉さんは‥‥」
「君は、君達は本当にお父さんにそっくりですね」
落ち着いた声でクナイが言うものだから、カルトルートは目を見開かせる。
「お父さんって‥‥?」
「君の父も母も、僕は知っていますよ。今はもう、いませんけどね」
それからクナイはクリュミケールの方を見て、
「さてさて、クリュミケールもずっと起きていますし、話はやめにしましょう」
「え!?」
カルトルートが驚いて声を上げれば、
「話を聞くつもりはなかったけど、ついつい癖でな。夜営の時は目が冴えるんだ」
横になり、背中を向けたままクリュミケールは言った。
どうやらクナイと同じく、ずっと起きていたようだ。
「ロファース君って子のことは知らないけれど、サジャエルや私のせいで運命に巻き込まれたと言うのなら‥‥サジャエルの‥‥彼女の娘として、詫びよう」
クリュミケールはそう言う。それにクナイは吐き捨てるように笑い、
「落ち着いた性格になりましたね」
なんて、皮肉げに言ってくる。
「いろいろあったからな‥‥不死鳥の力で年齢は歪んだけれど、私の実年齢は二十六歳だぞ?」
「ーー!そうだよね、僕より年上だもんね、お姉さん」
忘れがちになってしまうなとカルトルートは苦笑いをした。
「まあ‥‥気が向いたら話してくれよな。色々と」
「君に本当に利用価値があって、レムズ君を救えたなら‥‥考えてみましょう」
「利用価値、ね」
やれやれとクリュミケールは笑う。
【利用価値】‥‥かつてサジャエルにリオラの器として、そんな利用価値で見られていたことをクリュミケールは思い出し、息を吐いた。
ーー夜が明けて、再び目的地へと足を進める。
「なんだか、ファイス国に近付くにつれて不安になるよ‥‥レムズが助からなかったらどうしようって‥‥」
道中、カルトルートは顔を青くしてそんなことを言うので、
「‥‥カルトルート。ここ数日、一緒に居て知ったけど、お前って物事を悪く捉えすぎだぞ?」
クリュミケールが笑って言えば「だって‥‥」と、彼は俯く。
「自分がなんとかしなきゃ、自分が大切な人を助けなきゃ‥‥そんな気持ちを忘れてはいけない。強がりでもいい、信じて、そう思って行動するんだ。そうしたら‥‥きっと真っ直ぐに前を向けるよ」
「お姉さん‥‥」
カルトルートは思う。
それはかつてのクリュミケール自身だと。
いや、違う。クリュミケールは今回もレムズの為にそんな気持ちでいてくれるんだと。
「なあ、クナイ。そうだろう?」
「僕に振らないでくれます?」
場を和ませるように同意を求めるクリュミケールに、クナイはため息を吐く。
カルトルートは表情に笑顔を取り戻した。たとえそれが作り笑いだとしても、それでも‥‥
クリュミケールは不思議だった。カルトルートは自分に似ている気がして、そしてどこかアドルにも似ている感じがして、つい気に掛けてしまう。
「神を愛する者」
ふと、クナイがそれを言って思い出した。
「そうか、イラホーが言っていたな。カルトルートはかつて本物の回想する者、イラホーを愛し抜いた英雄が先祖だと‥‥」
「正確に言えば、先祖ではなく、カルトルート君の父のことですよ。イラホーは彼を不安にさせない為、遠回しに言ったのでしょうけれど」
クナイはカルトルートに聞こえないように小さく話す。その言葉にクリュミケールは大きく目を開けて‥‥
「待てよ?確か私が出会ったイラホー‥‥エナンさんは、何百年か前にイラホーになったと‥‥本物のイラホーはそれより前に死んでいるんだろう?そのイラホーを愛した人がカルトルートの父って‥‥あれ?それに、そうだ‥‥【神を愛する者】って‥‥ペンダントが映し出した青年‥‥?サジャエルの‥‥私、の‥‥?」
最後の戦いの日、様々なことが起きすぎて、すっかり過去の人々のことを考えるのを忘れてしまっていた。クリュミケールが不安げにクナイを見るも、彼は少しだけ足を速めて行ってしまう。
『オレも‥‥悲しいよ、皆が、いない。サジャエルが‥‥死んでしまった。子供達に、何もしてあげられない‥‥オレは今も、空間の渦で、ひとりぼっちだ‥‥』
ペンダントが映し出した青年は、そう言っていた。
(子供達‥‥?それに、空間の渦でひとりぼっち‥‥?空間の渦は、世界の心臓が在った場所だ‥‥過去の英雄は、生きているのか?)
クリュミケールがぐるぐる考えていると、
「つきましたよ、ファイス国に」
と、クナイが言って、
「‥‥あ、ああ。まあ、この前もアドルのお婆さんに挨拶しに来たんだけどな」
クリュミケールが世話になったアドルの父ーーカイナ。そして母、アスヤ。
そのカイナの母ーーアドルの祖母である女性、ルア。
時折、アドル達と共にルアに会いに来る。
ルアは孫であるアドル、そしてクリュミケールやキャンドル、カシルのこともまるで孫のように可愛がってくれているのだ。彼女は長い間、一人で生きた為、人と接するのが嬉しいのだろう。
「じゃあ、早く港の方に行こうか」
とんっ‥‥と、カルトルートの背を叩いてクリュミケールは言い、
「うん!行こう!」
カルトルートも力強く言った。
そんな光景を、クナイは静かに見つめる。
懐かしい二人だ。
懐かしい面影を宿した二人だ。
自分の過去の業が、思い出される。
しかし、今はーー‥‥
(レムズ君‥‥そして、ロファース君。もうすぐです、きっと、もうすぐ‥‥)
~ 生き残ったもの達〈終〉~
この調子だと、今晩は夜営をして、明日にはつくだろうとクリュミケールは思う。
シックライアの先には、街や村はファイス国まで無いのだ。だから今日は完璧に夜営だろう。それを考えて、シックライアで必要な食品などを購入しておいた。
歩きながらカルトルートとクナイを見るも、カルトルートは上の空、クナイは何を考えているのかわからない‥‥そんな感じで‥‥
確かにクリュミケールもレムズが心配で、一刻も早くどうにかしてやりたいとは思っている。
「カルトルート。私に何ができるかはわからないけれど、必ずなんとかしてやるから。だから、そんならしくない表情するなよ」
あの日々での彼は、いつも明るい表情をしていたものだから。
「うん‥‥でもお姉さん、僕は不安で不安で仕方がない。レムズは相棒で、たった一人の家族だから」
「何を言うんだ。私やアドル、あの日々の仲間は皆、お前の家族だよ。だから、家族である私のことも、クナイのことも信じて。二年前、私はお前とレムズを巻き込んでしまった。だから今度は、私が助ける番だよ」
クリュミケールが言えば、
「勝手に僕も含まないでくれます?」
と、クナイは嫌そうに言う。
「お前はレムズの友達なんだろ?レムズの友達は私達の友達!それでいいじゃないか」
ぽんぽん、とカルトルートの背中を軽く叩けば、
「‥‥お姉さん、ごめんね」
小さく微笑んでカルトルートは言った。
ーークリュミケールの予想通り、やはり今晩は夜営となる。
明日にはファイス国につくであろう。
シックライアで買った簡単な食品を食べて、薪を集めて火を起こして‥‥
シュイアとよく夜営をしたものだから、クリュミケールの手際は良かった。「野生児」なんてクナイに言われてしまったが気にしない。
魔物はもう居はしないが、野党などは居る恐れがあるので交代で見張りをしようと提案するが、
「僕がしておきますから君達は寝て下さい」
と、クナイが言った。それを却下しようとするも、クナイは譲らない素振りを見せて‥‥
仕方なく任せることにしてクリュミケールとカルトルートは休むことにする。
◆◆◆◆◆
何時であろうか。ふと、カルトルートは目が覚めて辺りを見た。
クリュミケールは隣で寝ていて、クナイはしっかりと見張りをしている。
「‥‥寝なくて大丈夫なの?」
カルトルートは小声で聞き、体を起こしてクナイの隣に座ると、
「あんたさ、お姉さんのことどうして嫌いなの?」
そう尋ねた。あからさまに態度に出ている為、よくわかる。
「ロファース君は、サジャエルやクリュミケールのせいで運命に巻き込まれたようなものですから」
「え?」
「だから、僕はサジャエルを憎んでいましたし、今もこうして生きているクリュミケールを嫌悪しています」
そんなクナイの言葉にカルトルートは、
「理由は知らないけど、お姉さんが生きていることは悪くなんかない。だって、僕は途中参戦だったけど、お姉さんの人生だってサジャエルに狂わされて来たんだ。お姉さんは気づいてないけど、みんな知ってる。あの戦いの日々で、お姉さんこそが一番の犠牲者だったんだよ‥‥」
カルトルートは一旦言葉を止めて、
「あんたにとって、そのロファースって人が大事なのはよくわかる。僕だって、レムズが大事だから。でも、お姉さんはようやく人生を手に入れたんだよ、お姉さんは‥‥」
「君は、君達は本当にお父さんにそっくりですね」
落ち着いた声でクナイが言うものだから、カルトルートは目を見開かせる。
「お父さんって‥‥?」
「君の父も母も、僕は知っていますよ。今はもう、いませんけどね」
それからクナイはクリュミケールの方を見て、
「さてさて、クリュミケールもずっと起きていますし、話はやめにしましょう」
「え!?」
カルトルートが驚いて声を上げれば、
「話を聞くつもりはなかったけど、ついつい癖でな。夜営の時は目が冴えるんだ」
横になり、背中を向けたままクリュミケールは言った。
どうやらクナイと同じく、ずっと起きていたようだ。
「ロファース君って子のことは知らないけれど、サジャエルや私のせいで運命に巻き込まれたと言うのなら‥‥サジャエルの‥‥彼女の娘として、詫びよう」
クリュミケールはそう言う。それにクナイは吐き捨てるように笑い、
「落ち着いた性格になりましたね」
なんて、皮肉げに言ってくる。
「いろいろあったからな‥‥不死鳥の力で年齢は歪んだけれど、私の実年齢は二十六歳だぞ?」
「ーー!そうだよね、僕より年上だもんね、お姉さん」
忘れがちになってしまうなとカルトルートは苦笑いをした。
「まあ‥‥気が向いたら話してくれよな。色々と」
「君に本当に利用価値があって、レムズ君を救えたなら‥‥考えてみましょう」
「利用価値、ね」
やれやれとクリュミケールは笑う。
【利用価値】‥‥かつてサジャエルにリオラの器として、そんな利用価値で見られていたことをクリュミケールは思い出し、息を吐いた。
ーー夜が明けて、再び目的地へと足を進める。
「なんだか、ファイス国に近付くにつれて不安になるよ‥‥レムズが助からなかったらどうしようって‥‥」
道中、カルトルートは顔を青くしてそんなことを言うので、
「‥‥カルトルート。ここ数日、一緒に居て知ったけど、お前って物事を悪く捉えすぎだぞ?」
クリュミケールが笑って言えば「だって‥‥」と、彼は俯く。
「自分がなんとかしなきゃ、自分が大切な人を助けなきゃ‥‥そんな気持ちを忘れてはいけない。強がりでもいい、信じて、そう思って行動するんだ。そうしたら‥‥きっと真っ直ぐに前を向けるよ」
「お姉さん‥‥」
カルトルートは思う。
それはかつてのクリュミケール自身だと。
いや、違う。クリュミケールは今回もレムズの為にそんな気持ちでいてくれるんだと。
「なあ、クナイ。そうだろう?」
「僕に振らないでくれます?」
場を和ませるように同意を求めるクリュミケールに、クナイはため息を吐く。
カルトルートは表情に笑顔を取り戻した。たとえそれが作り笑いだとしても、それでも‥‥
クリュミケールは不思議だった。カルトルートは自分に似ている気がして、そしてどこかアドルにも似ている感じがして、つい気に掛けてしまう。
「神を愛する者」
ふと、クナイがそれを言って思い出した。
「そうか、イラホーが言っていたな。カルトルートはかつて本物の回想する者、イラホーを愛し抜いた英雄が先祖だと‥‥」
「正確に言えば、先祖ではなく、カルトルート君の父のことですよ。イラホーは彼を不安にさせない為、遠回しに言ったのでしょうけれど」
クナイはカルトルートに聞こえないように小さく話す。その言葉にクリュミケールは大きく目を開けて‥‥
「待てよ?確か私が出会ったイラホー‥‥エナンさんは、何百年か前にイラホーになったと‥‥本物のイラホーはそれより前に死んでいるんだろう?そのイラホーを愛した人がカルトルートの父って‥‥あれ?それに、そうだ‥‥【神を愛する者】って‥‥ペンダントが映し出した青年‥‥?サジャエルの‥‥私、の‥‥?」
最後の戦いの日、様々なことが起きすぎて、すっかり過去の人々のことを考えるのを忘れてしまっていた。クリュミケールが不安げにクナイを見るも、彼は少しだけ足を速めて行ってしまう。
『オレも‥‥悲しいよ、皆が、いない。サジャエルが‥‥死んでしまった。子供達に、何もしてあげられない‥‥オレは今も、空間の渦で、ひとりぼっちだ‥‥』
ペンダントが映し出した青年は、そう言っていた。
(子供達‥‥?それに、空間の渦でひとりぼっち‥‥?空間の渦は、世界の心臓が在った場所だ‥‥過去の英雄は、生きているのか?)
クリュミケールがぐるぐる考えていると、
「つきましたよ、ファイス国に」
と、クナイが言って、
「‥‥あ、ああ。まあ、この前もアドルのお婆さんに挨拶しに来たんだけどな」
クリュミケールが世話になったアドルの父ーーカイナ。そして母、アスヤ。
そのカイナの母ーーアドルの祖母である女性、ルア。
時折、アドル達と共にルアに会いに来る。
ルアは孫であるアドル、そしてクリュミケールやキャンドル、カシルのこともまるで孫のように可愛がってくれているのだ。彼女は長い間、一人で生きた為、人と接するのが嬉しいのだろう。
「じゃあ、早く港の方に行こうか」
とんっ‥‥と、カルトルートの背を叩いてクリュミケールは言い、
「うん!行こう!」
カルトルートも力強く言った。
そんな光景を、クナイは静かに見つめる。
懐かしい二人だ。
懐かしい面影を宿した二人だ。
自分の過去の業が、思い出される。
しかし、今はーー‥‥
(レムズ君‥‥そして、ロファース君。もうすぐです、きっと、もうすぐ‥‥)
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