一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
上 下
103 / 105
最終章【一筋の光】

最終章-4 変わらないものと変わるもの

しおりを挟む
 
 リュウジには双子の兄のリュウイチがいる。
 ほとんど同じタイミングにてこの世に生を受けたというのに、僅差にて生まれながらに兄と弟という上下関係を押し付けられたリュウジ。
 だがそれは彼の屈辱にまみれた人生のほんのはじまりにすぎなかった。
 兄のリュウイチは容姿端麗で学業も運動も優秀。何ごともそつなくこなす優等生。毎年、バレンタインデーになると、家中がチョコレートのニオイで甘ったるくなるほどの人気者。
 弟のリュウジは容姿その他、すべてが平凡。学校の成績も赤点こそは取らないが、突出することもない。どこまでいっても可もなく不可もなく。バレンタインデー? 母親からの義理チョコしかもらったことがないよ状態。下駄箱にラブレターなんて都市伝説の類だと思っている。
 あまりにも対照的な双子。
 それゆえに周囲からはよく「リュウジはお母さんの腹の中で、リュウイチに栄養をとられすぎたんだ」なんぞとからかわれたものである。
 学年が同じである以上、どうしたってことあるごとに二人は比べられる。
 そしてその度にこう言われるのだ。

「あー、おまえ、ダメな方か」と。

 物心がついた頃から、ずっとみんなからこんなことを言われ続けているうちに、リュウジ自身も「自分は兄とちがって、ぜんぜんダメな奴なのだ」と考えるようになっていく。
 両親や親族たちですらもが、表面上はとりつくろっているものの、そうであったのだから抗うなんていう考えは、はなから思い浮かびもしなかった。
 リュウイチはいい子で、リュウジはふつう。
 光と影ですらない。
 光と道端に落ちてる石ころ。
 ではいつも褒められ期待のまなざしを一身に集めるリュウイチは、どうであったのかというと、これまたよく出来たお兄ちゃんであった。
 驕ることなく、兄として弟をたえず気遣う。
 おそらくは唯一、リュウジを双子の片割れとしてではなく、一人の人間として扱い、ちゃんと向き合い、接していたのが兄のリュウイチ。
 リュウジはそんな兄を尊敬しつつも、妬ましさも感じ、コンプレックスを拗らせつつも、どうしても嫌いになれない。
 対等に扱われるほどに、しんしんと心の内に降り積もり、ぶ厚い層となっていく劣等感。
 こんな、なんともいえない複雑な感情を抱いたまま、リュウジはふつうに成長していくことになる。

 この先もずっとそんな日常が続くのか……。
 絶望にも似た、諦めの心境にあったとき、異世界へと渡り勇者となったリュウジ。
 ギフトはタワーマスター。
 これはタワー型のダンジョンを形成し管理運営できる異能。タワー内限定にて世界を構築できるので、いわば亜空間のグレードダウン版。
 スキルは宝物錬成。
 何でも造れる便利なインチキ錬成とはちがい、金銀財宝のみを造りだせる。しかしこの能力には制約があった、それは自身のタワー内のみで錬成させることが可能というもの。
 神さまに呼ばれた際に、リュウジがこのギフトを選んだ理由は「なんとなくおもしろそう」だったから。ダンジョン経営とか、いかにもファンタジーらしいし。
 スキルに関しては、どうしてこれが発動したのかは当人にもわからない。だが制約があることからして、ギフトとセットだったのかもしれない。

 異世界に行けば、もう兄と比べられることもなく、新たにやり直せる。
 リュウジはそう考えていた。
 だが現実はちがった。
 召喚された先にて待っていたのは、またしても比較。
 同時期に召喚された勇者たちと見比べられて、品定めをされて、吟味の上に選別される。
 ちょうど戦争中であった彼の国にて求められていたのは、戦う術を持つ者。目の前の戦局を左右し、先陣に立って難局を打開できる者。
 設置型のリュウジの異能は、一部に高く評価こそはされたものの、現状の国が求めるチカラではなかった。活用次第では無限の富をもたらす打ち出の小槌だというのに、それを活かす余裕すらもなかったのである。
 戦えないごくつぶし。
 いつしかリュウジは勇者仲間たちからも孤立し、一人でいることが多くなっていく。
 異世界渡りの勇者として、周囲はそれなりに敬意は払ってくれるけれども、その瞳の奥にあったのは、かつて元の世界で自分に向けられていたものと同じであった。
 それを知ったリュウジは、何もかも放り出して逃げた。
 すっかり諦めていたところに提示された新たな世界と可能性。
 なのにそこもやはり同じだったとわかって、ついに彼の魂が悲鳴をあげたのである。
 どこをどう彷徨ったのかも忘れてしまった、ある日のこと。
 リュウジはベリドート国の荒地に流れ着く。
 そこで、ふと、思い出したのは自分のギフトとスキル。

「そういえばノットガルドへ来てから、まだ一度も試していなかったか」

 ずっとため込まれていた魔力や想いに比例するかのようにして、出現したのは千階層をも誇る超大な天空の塔。
 その塔の内部はリュウジの世界。
 タワーマスターの能力にて環境を整える作業に、彼は次第に夢中になって没頭していく。
 これがベリドート中を巻き込んだ試練の塔の誕生秘話である。

 勇者リュウジくんのわりと長いお話。
 これをわたしはグビグビお茶をのみながら聞いていた。
 そして彼の語りもひと段落ついたらしいので、率直な感想を口にした。

「赤点一個もなしで『ボクふつうだから』とかイヤミか? こちとら毎回、ニ三個が当たり前だってぇの。その都度、恥じも外聞もかなぐり捨てて、全力で先生に泣きつき媚びへつらって、追試やレポートや補習でどうにか生きてきたっていうのに……。ぜいたく言ってんじゃねえぞ、この野郎!」

 わたしの発言を受けて、リュウジくん「えー」
 ルーシーは「ふつうってムズカシイですよね」としみじみ。
 まったくもって青い目のお人形さんの言うとおり。
 毎回、テストのたんびに徹夜して頑張っても、ギリギリのわたしからすれば、赤点ゼロの学園生活とか充分に勝ち組。
 わたしだって一度くらい友だち相手に「ねえ、あんたテストどうだった?」「わたし? とりあえず赤点は回避かな」ぐらいの余裕しゃくしゃくな台詞を言いたかったよ。
 だが現実は「ヤッべー、完璧に山をハズしたぁ」だ。それどころか一度なんて「おまえ、もう、いっそカンニングでもしろよ。先生、見逃してやるから」なんて言われたことすらあるというのに。

「マジメに上ばっかり見てっからしんどいんだ。もっと下を見ろ、下を! 足下でにょろにょろしているダメな連中を眺めて、ほくそ笑み、溜飲をさげ、おおいにストレスを解消しろ。それで万事解決する」
「いや、それはさすがに人としてどうかと……」

 せっかく人生をオモチロおかしく過ごすコツを伝授してやったというのに、リュウジが不満を表明した。
 でもルーシーにはウケたらしく、お人形さんはカタカタ肩をふるわせていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...