一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
上 下
101 / 105
最終章【一筋の光】

最終章-2 それぞれの時間

しおりを挟む
「へえー!そうなんだ、リオラさんが‥‥」

アガラの町の小さな定食屋。
アドル達の様子を見に、カルトルートとレムズが立ち寄り、アドルとキャンドルの四人でテーブルを囲んでいた。

「それで、リオラさんは?」

カルトルートに聞かれ、

「カシルさんが言うには、偶然シュイアさんが来たらしくて‥‥たぶん、そのまま二人でどこかに行っちゃったみたいなんです」

アドルはそう話す。

「そっか‥‥良かったね、シュイアさんとリオラさんが無事に会えて。でも、お姉さんと‥‥その‥‥」

カルトルートは言いにくそうに俯いて、クリュミケールとリウスのことを言いたいのだろう。
アドルはニコッと笑い、

「リウスは帰って来た。だから、次はクリュミケールさんが帰って来るのを待つだけです。ニキータ村が元の形に戻る頃にはきっと‥‥」

そう、笑顔のまま言った。カルトルートは困ったような顔をしながらも微笑んで頷く。

「‥‥カシルはどうした?」
「あいつ、力があるじゃん?アガラの町でこき使われまくってるよ」

レムズの問いに、キャンドルがおかしそうに笑って答え、

「荷物運びに畑作業、時には爺さん婆さんが経営する店の手伝い‥‥ってか、なんか昔はそういうのしてたらしくて、確かに手際がいいんだよな。ちゃんとバイト代貰えるみたいだし。それにーー‥‥」
「女の子からお姉さん、おばあちゃんにまでモテモテ!」

キャンドルの言葉の続きをアドルが言い、それに、

「確かに、カシルさんカッコいいからね‥‥でも、お姉さん一筋なんでしょ?」

カルトルートは笑って返した。

「あっ、そういえば気になってたんです。二人はずっと旅してたんですよね?これからもなんですか?」

アドルに聞かれ、カルトルートとレムズは横目でお互いを見た後、

「いろいろあってね。偶然、レムズと出会って、腐れ縁で旅してるだけ、かな」

濁すようにカルトルートが言い、

「‥‥俺は、世界で最も綺麗な場所を探して旅をしている」

レムズがそう言うので、アドルとキャンドルは不思議そうに目を丸くする。

「昔‥‥友達がいた‥‥人間の。その人の墓を作る場所を‥‥探して、いる‥‥約束、だから」

レムズの話からして、その友達はすでに故人であることがわかった。それに、人間の友達。
エルフと魚人のハーフというレムズは、差別されて来たと聞いていた。
人間の友達ということは、レムズにとって、とても大切な人だったのだろうとアドルとキャンドルは推測する。

「まあ、僕もそれに付き合ってる感じ。綺麗な場所はたくさんあるけど、レムズが望むような綺麗な場所はないみたいでさ‥‥難しいよね」

カルトルートは苦笑いをした。

「綺麗な場所‥‥かぁ。だったら、いつか再建したニキータ村とかどうですか?絶対に綺麗ですよ!はははっ」

アドルが冗談混じりにそう言うと、

「‥‥考えて、おくよ」

小さく笑い、レムズは返す。

「それに、カルー‥‥もう、何年も付き合わせた。無理に、着いてこなくて、いいんだぞ」
「別に無理なんかじゃないよ。ここまで付き合ったんだ。お前の旅の最終地点まで、最後まで付き合うさ」

コツンと、カルトルートはレムズの胸を拳で軽く小突いた。


◆◆◆◆◆

「じゃあ、カシルさんによろしく伝えておいてよ。ニキータ村が元通りになった頃、また会いに来るね」

アガラの町を発つ際、カルトルートはアドルとキャンドルにそう言い、二人は頷いて、カルトルートとレムズを見送った。
なんだか寂しい気持ちになりながらも、アドルとキャンドルもいつもの日常に帰っていく。
本当に、あの戦いの日々は今思えば夢みたいだ。


◆◆◆◆◆

青空の下、フィレアは花束を抱え、自分を育ててくれた彼女の墓に花を供えていた。
墓に向けて微笑み、ふと顔を上げる。隣の家の二階の窓のカーテンが閉まっていることに顔をひきつらせた。
慣れた手順で家に入り、どすどすと階段を上がる。扉の前で立ち止まり、バンッーーと、勢いよく開けた。

「ラズーー!もう真っ昼間よ!?」
「‥‥うーん‥‥まだ早いよぉ」

フィレアは布団から出ようとしないラズを見てため息を吐き、

(本当にこれが妖精王ってやつなのかしら!)

そう思いながら一階に戻り、一室を覗く。
そこにはベッドに端座位になり、窓の外を見ているラズの母親の姿があった。

『偽りだったんだよ、全部ーー!ははっ‥‥あの母親だって偽物さ!子供の姿をして‥‥創造神も三女神も見つけられずにさ迷っていた私を孤児か何かだと勘違いして、自分の息子だと育て始めた、病弱な女なんだよーー!』

フィレアはあの時のラズの言葉を思い出す。

ーーシュイアに連れられてフォード国に来た、当時十二歳のフィレア。
その時にすでにラズの母親は暮らしていた。
少しずつ思い出す。本来ならその二年後にラズが生まれるはずだが、そうではない。
数年後に、ラズの母親は子供の姿をしてフォードを訪れていたザメシアを見つけ、孤児と思い、彼にラズと名付けて育てた。

しかし、フィレアはそれを全く覚えていない‥‥と言うよりも知らない。ラズが自分になんらかの記憶の操作をしたのかと思い聞いたが、

『君は初めて見た時からやんちゃくちゃで、シュイア様シュイア様と言ってはフォード国を飛び出していたよね。はっきり言うけど‥‥あの頃の君は周りのことなんか全く見てなかったよ。世界の中心はシュイアとアイムさんだけってね』

と、鼻で笑われた。

ラズと共にフォード国ーーレイラフォードに戻ってからも、ラズとラズの母親はいつも通りの生活をしている。
なぜなら、ラズの母親はラズの正体を知らないからだ。ラズも、彼女の前では子供のままでいるからだ。

「あら、フィレアちゃん。あの子、まだ寝ているのね」

ラズの母親が扉の前に立ち尽くしていたフィレアに気づき、柔らかく笑う。

「ーーおばさん。昼食の準備は私がしますね」

ラズの母親は変わらず身体が弱かった。生まれつきだそうで、動きすぎると喘息が出る。
たまに外出はするが、ほとんど家の中での生活だ。
だから、ラズの事情を知ってしまったからでもある。
隣同士ということもあり、フィレアは毎日ラズの家を訪れ、家事の手伝いをしていた。

「フィレアちゃんみたいなお嫁さんが来てくれたらいいのにね」

と、冗談か本気か、ラズの母はいつも言う。

「ふふ。でも、私とラズは歳が離れていますし‥‥」
「うー‥‥おはよー」

話の途中で、まだ眠そうな顔をしたままーー更には寝間着のまま、ラズが目を擦りながら階段を下りてきた。

「‥‥ラズ!なんなのそのだらしのない格好は!」
「わわわっ‥‥フィレアさん来てたの」
「さっき起こしに行ったでしょう!?」

最近では、もう毎日あたりまえとなってしまったこの光景。

ーーラズは思わなかった。
こうして、何にも縛られず、普通に暮らせる日が来るだなんて。

(ケルト‥‥ラリア、皆‥‥見ているかい、今の私を。私は‥‥生きている。君たちに、そしてクリュミケール達に救われたこの命。私は‥‥幸せになれたと思うよ‥‥でも)

ごく普通の日常を見つめて、静かに微笑み、

(でも、いいのだろうか‥‥私だけが‥‥たとえ、この一時としても‥‥)

小さく、ため息が漏れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...