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六章【道標】
6-7 父のこと
しおりを挟むギャバナ国での華々しい成果を引っ提げてのリスターナへの凱旋帰国。
治安が守られ、食い物と経済が回ってきたおかげで、主都の中もずいぶんと活気が戻っている。
おかげで正門から城まで見物客にてごった返し、ちょっとしたお祭りパレード。
主役はもちろんリリアちゃん。
皮肉なことにダメな兄貴の悪名のおかげで、妹の彼女が当たり前のことをしただけで民衆は拍手喝采。いいことをしようものならば、狂喜乱舞の大フィーバー。
ましてや若い身空にて、今回の大国との交渉締結までまとめあげた功績によって、その人気は不動のものに。いまやトップアイドルへと成長。
彼女は着々と女王へと道を歩んでいる。そろそろグッズ販売に乗り出すべきか。いちおうブロマイドとポスターは用意してあるけれども。千部ずつでは足りなさそうだ。よし、追加発注をかけておこう。
なお、彼女の人気の裏でせっせと働いているわたしのことは公然の秘密。「なんか王さまに手を貸してるヘンな女がいるらしい」ぐらいの認識。
だから一般には顔をほとんど知られていないので、堂々と街中を闊歩できるというわけさ。
都民の視線がリリアちゃんの凱旋パレードへと向いているのを尻目に、わたしはルーシーとひさしぶりに街ブラ。
最初に来たときとは雲泥の活気だけれども、大通りの商店の開店率はようやく七割といったところか。一等地だというのに、まだまだ閉じてるところや空き店舗が目立つ。
商人たちは利に敏く、用心深い。いちど裏切ったリスターナをそうやすやすとは許してくれないから、こんなもんだろう。
ノットガルドには冒険者ギルドはないけれども商業ギルドっぽいものはあるらしいので、そのうち接触を試みるのも悪くない。当方が誇る「っぽいモノシリーズ」をちらつかせれば、きっとパクリと喰いついてくるにちがいあるまいて。
今後の展望なんぞを思案しながらトテトテ歩く。
路地裏に腹を空かせた子どもたちの姿はない。
じゃんじゃん収穫される小麦で、バンバン食い物をこしらえて、どんどん配布しまくっているからね。日持ちのするカチコチのパンだけでなく、白くふわふわのパン、あとパスタ類も好評だ。乾麺を優先して開発させたのは正解であった。インスタント麺もすでに試食段階に入っている。充分に国内にゆき渡ったら、今後は輸出にまわすとしよう。
くくく、我ながらおそろしい開発スピードである。他の追随を許さぬぶっちぎり。
ルーシー、えらい! 知識チート、万歳!
喰いっぱぐれていた連中もまとめて雇い入れ、畑の管理、収穫から保管、物流、製造、その他もろもろにて従事させ、とりあえず生活の基盤は確保したから、当面はだいじょうぶだろう。
もちっと国が安定して落ち着いたら、各々が好きな生き方を模索するといいよ。
人形を抱いた若い女が、あえて寂しい裏通りを選んでトボトボ歩く。
だが、ちょっかいをかけてくる不心得者はいない。
先の賊狩りの効果が十分に発揮されているようだ。
綱紀粛正のため、問答無用で殺処分にて、さらし首が効いたみたい。
聞くところによると、巷では子どもがイタズラをすると、お母さんが「そんな悪い子は、王さまに首をちょん切られても知らないから」と言うらしい。
するととたんに子どもは「ごめんなさーい」と本気泣きにてワビを入れてくるという、家庭内恐怖政治がまかり通っているのだとか。
裏では密かに「首狩り王」と呼ばれ、恐れられているらしいシルト・ル・リスターナ。
ごめんよ、美中年。
そんなつもりはなかったんだけど、世間一般にはモロモロすべてが王さま主導ってことになってるから、いい評判もわるい評判もぜんぶ彼のところに押し寄せる。当人は「これぐらいへっちゃらだよ。責任ある立場とはそういうものさ」とか大人の余裕だったけど、たぶん表に出てるのなんて氷山の一角。裏の裏で何を言われてることやら。
この分だと後世の歴史家とかに「中興の祖シルト王は、我が子に裏切られて変わられた。それまでの聡明さと果敢さに加えて、残酷さをも兼ね備えた恐ろしくも賢い王に」なんて、きっと書かれちゃうんだ。
やんごとなきご身分だと、ひとのウワサも七十五日の法則は当てはまらない。
リスターナの国が続くかぎり、いいや、それどころか滅んでも、たぶん他国経由にて長く語り継がれるんだから、たまったものじゃないね。
せいぜい悪名はシルト王に背負ってもらい、リリアちゃんにはいい評判だけを残すように注意しないと。
「それにしてもギャバナから帰ったばっかりのせいかもしれないけど、リスターナってまだまだだねえ」
「そうですね、リンネさま」
あちらの毎日お祭り騒ぎ状態を見てしまうと、こちらは完全に祭りの後にしか見えない。それも町内会レベルの。
環境さえ整えれば、あとは勝手に隆盛するものかと安易に考えていたけれども、街づくりのシュミレーションゲームのようにはいかないか。
国の運営や政治ってむずかしいね。独裁でもないかぎり、ちっとも物事がスムーズに運ばない。
内側の苦労をのぞき見してしまったら、もう、安易に「職務怠慢だ」「仕事しろ! 税金ドロボウ」「やめちまえ! くそバーコード」とかとても言えやしないよ。
そしてつくづく思うのは……。
「ダイクさんやゴードンさんもよくやってるけれども、やっぱり人不足が否めない」
「はい。騒動の折りに嫌気がさして優秀な人材ほど、早々に国に見切りをつけて出て行ってしまいましたから。残ってくれた人たちも主都より遠ざけられて散り散りにて、ほとんどが消息不明らしいですし。いずれ国がまともになったことを知れば、姿をあらわしてくれるかもしれませんが」
「でも、それだと時間がかかるよね? ならいっそのことコッチから探し出して、迎えに行くとか」
「狩りですか……、いいですね。各地の復興具合を見学がてら、ちょっと漁ってみますか。おもわぬ掘り出し物もあるかもしれませんし。ついでにあちこちに潜伏しているであろう膿も出し切ってしまいましょう」
「そうと決まればお城にいって王さまたちに相談だ」
善は急げと、城へと向かって歩き出したわたしたち。
次から国内行脚のぶらり旅編がはじまるよ。
こうご期待。
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