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六章【道標】
6-5 赤の他人
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「聞いてもいいかな、二人はなんでファイス国へ向かってるんだい?」
アズナル村から出た道中、ラズがアドルとクリュミケールに聞いた。
「母さんに頼まれて、おれの父さんの遺品をファイス国にいる父さんの家族に届ける為なんです」
アドルがそう答え、
「アドルの母さんは体が弱いんだ。だから、オレが付き添い」
次にクリュミケールが答える。
「そうか‥‥すまないことを聞いたね」
目を閉じながらラズはアドルに謝った。それに対し、大丈夫だとアドルは笑う。
「ラズさんは、リオって人を捜す為ですか?」
続けてアドルがラズに聞くと、彼は頷いた。
「五年間の間でファイス国には来なかったのか?」
クリュミケールの問い掛けにラズは困ったように笑い、
「旅にはお金が必要になるだろう?五年前の若造だった僕は、働いて金を貯めるのに必死でさ。フォード大陸内しか行き来できなかったんだ‥‥だから、他の大陸に行き来できるようになったのは、恥ずかしながら二年前なんだよ」
アドルは悲しそうな顔をしてラズを見つめ、
「そんなに大事な人なんですね‥‥見つかると、いいですね」
「ありがとう」
クリュミケールは二人のやり取りを横目に見ながら歩いていたが、何かに気づいて腰に下げた剣の柄に触れ、ーーザシュッ!!と、素早く剣を抜いて何かを斬った。
そんなクリュミケールのいきなりの行動に、会話に集中していたアドルとラズは驚くように口をぽかんと開けて固まる。
ドサッ‥‥と、重たい音を立てて地面に落ちたのは、狼の姿をした魔物だった。
「‥‥君、強いんだね」
剣に付いた魔物の血を払うクリュミケールの背中にラズがそう声を掛ける。
「オレは弱いよ。今のは下級の魔物だし、スピードもそんなにない」
クリュミケールはラズに背を向けたままそう言った。
「そうなんだー‥‥」
と、あまり村から外には出たことのないアドルは頷く。
「さあ、この先も気をつけて行こう」
そう言ってクリュミケールは歩き出し、アドルはそれに続いた。ラズは何かを考えるようにクリュミケールの後ろ姿を見つめ、しかし、再び歩き出す。
ーーそうして、三人はしばらく草原を歩き続け、
「もうすぐ港町シックライアに着くんだけど、寄ってもいいかな?」
ラズが二人に聞き、
「ああ。そろそろ歩き疲れたし、オレも寄るつもりだったんだ」
クリュミケールが答えた。
「そうか。実はシックライアで仲間と合流する予定なんだよ」
「仲間?ラズさん、てっきり一人で旅してたのかと思ってました」
アドルは不思議そうに言い、
「まあ、別々で行動してるんだけど、二人いてね。一人は仲間と言えるけど、もう一人は神出鬼没で何を考えてるんだか‥‥一応、前に偶然会った時、今日シックライアで落ち合おうと伝えたけど」
ラズはため息混じりに言う。
そんな話をしていると、海岸沿いに面した大きな港町が見えてきた。
町に入ると、まだ明朝のせいであろう。
人の行き来は少ない。
港町特有の冷たい朝の潮風が頬に伝わってくる。
「ラズさん。仲間とはどこで落ち合う予定なの?」
アドルが聞き、
「うーん、明朝にこの港町でとしか言ってないんだよね」
ラズはキョロキョロと辺りを見回し、
「まだ誰も来てないか」
と、肩を竦めた。すると、ーーヒュンッ‥‥と、三人の後ろで風を切るような音がして、
「ごめんねラズ君!待たせちゃったかな」
そこにはいつの間にか、黒く長い髪と白いドレスのようなローブに身を包んだ少女が立っていて、アドルは瞬きを繰り返している。
「ううん。僕も今来た所だよ、ハトネさん」
ラズはそう言って、ハトネと呼んだ少女に微笑んだ。
「こっ、この人が仲間ですか?えっ、あれ?今、どこから現れて‥‥」
アドルが困惑するように聞くと、
「彼女はハトネさんって言うんだ。ハトネさんも。彼らは途中で会った人達で、偶然ファイス国に用があるらしくて一緒に来たんだ」
ラズはお互いのことを簡単に紹介する。
ハトネは不思議そうにアドルを見つめ、少し離れた場所に立つクリュミケールを見つめて絶句した。
「あなた‥‥あなたは‥‥リオ君?」
ラズと同じことを言うハトネにクリュミケールは苦笑し、
「オレはクリュミケールだよ。そのリオって子に似てるらしいけどね」
しかし、ハトネは力なく首を横に振り、
「あなたは‥‥記憶の中の人だわ‥‥私が、私がずっと、捜して来た‥‥」
その目からは大粒の涙がこぼれ出てくる。ラズがハトネに説明しようとしたが、彼女はクリュミケールの前まで走り、
「私にはわかるわ‥‥!リオ君なんでしょう?どうしてそんな格好をしているの!?どうして、幼い頃の私の前に現れたの!?」
そう、興奮気味にクリュミケールの胸元にしがみついて声を上げた。
それに、クリュミケールは何も答えず、代わりに、
「ハトネさん。この人は‥‥似てるけど違うんだよ」
と、ラズがハトネの肩に手を置き、ゆっくりと優しく言い聞かせるように言った。
それに、ハトネは何か言いたげな目をしてクリュミケールを見つめ、ゆっくりと離れる。すると、
「いきなり騒がしいな」
新たに誰のものでもない声がして、四人は声の方に視線を向けた。
金の髪と黒いコートに身を包んだ男。その姿にラズとハトネは目を見開かせる。
「カシル!まさか本当に来るなんて‥‥」
驚くようにラズが言うと、
「お前が来いと言ったんだろ」
と、カシルは面倒臭そうに言った。
「この人が来るかどうかわからないって言ってた人ですか?」
アドルに聞かれ、ラズは頷く。
「じゃあラズ。オレ達は少し休んでから発つよ」
仲間と合流できたラズにクリュミケールが言えば、
「ああ。なんだか、色々とすまなかったね」
ラズは申し訳なさそうに言った。クリュミケールは首を横に振り、
「お互いにファイス国を目指してるなら、また会うかもな。じゃあアドル、行こうか」
「うん!」
それからクリュミケールはハトネに振り向き、
「君も、期待させて悪かったな。そのリオって奴にオレがどれだけ似てるのかはわからないけど‥‥」
「‥‥いっ、いいえ。ごっ、ごめんなさい‥‥勝手なことばかり、言ってしまって‥‥」
謝罪するハトネの声は震えていて、俯いてしまっている。
「じゃあラズさん!捜してる人に会えるといいですね!」
アドルは大きく手を振り、クリュミケールと共に彼らの元から去った。そんな二人を見送り、ラズは、
「ハトネさん、大丈夫かい?」
俯き、涙を拭っているハトネに心配そうに声を掛ける。
「うん‥‥でも、あの人は‥‥カシルさん、カシルさんも見ましたよね。さっきの人、カシルさんはどう思います?」
顔を上げ、涙を溜めたままのハトネはすがるようにカシルに聞いた。彼ならば、何もかも知っているのではと。
「さっきの奴が自分で別人と言っていたならそうなんだろ」
カシルがそれだけしか言ってくれなくて、ハトネはまた俯いてしまう。
「‥‥話してても仕方ないし、準備を整えてファイス国に行こう、ね」
そんな彼女の背中を慰めるようにぽんぽんと叩き、ラズが言った。
◆◆◆◆◆
港町で休息を取ったクリュミケールとアドルは再びファイス国へ向かう為に草原に出る。
「気になるなー」
アドルが急にそんなことを言うので「何が?」と、クリュミケールは聞いた。
「リオさんって人。どれだけクリュミケールさんに似てるのかな?ちょっと会ってみたいなー!」
そう、無邪気に笑って言うアドルに、
「はは、そうだな」
と、クリュミケールは静かに笑った。
アズナル村から出た道中、ラズがアドルとクリュミケールに聞いた。
「母さんに頼まれて、おれの父さんの遺品をファイス国にいる父さんの家族に届ける為なんです」
アドルがそう答え、
「アドルの母さんは体が弱いんだ。だから、オレが付き添い」
次にクリュミケールが答える。
「そうか‥‥すまないことを聞いたね」
目を閉じながらラズはアドルに謝った。それに対し、大丈夫だとアドルは笑う。
「ラズさんは、リオって人を捜す為ですか?」
続けてアドルがラズに聞くと、彼は頷いた。
「五年間の間でファイス国には来なかったのか?」
クリュミケールの問い掛けにラズは困ったように笑い、
「旅にはお金が必要になるだろう?五年前の若造だった僕は、働いて金を貯めるのに必死でさ。フォード大陸内しか行き来できなかったんだ‥‥だから、他の大陸に行き来できるようになったのは、恥ずかしながら二年前なんだよ」
アドルは悲しそうな顔をしてラズを見つめ、
「そんなに大事な人なんですね‥‥見つかると、いいですね」
「ありがとう」
クリュミケールは二人のやり取りを横目に見ながら歩いていたが、何かに気づいて腰に下げた剣の柄に触れ、ーーザシュッ!!と、素早く剣を抜いて何かを斬った。
そんなクリュミケールのいきなりの行動に、会話に集中していたアドルとラズは驚くように口をぽかんと開けて固まる。
ドサッ‥‥と、重たい音を立てて地面に落ちたのは、狼の姿をした魔物だった。
「‥‥君、強いんだね」
剣に付いた魔物の血を払うクリュミケールの背中にラズがそう声を掛ける。
「オレは弱いよ。今のは下級の魔物だし、スピードもそんなにない」
クリュミケールはラズに背を向けたままそう言った。
「そうなんだー‥‥」
と、あまり村から外には出たことのないアドルは頷く。
「さあ、この先も気をつけて行こう」
そう言ってクリュミケールは歩き出し、アドルはそれに続いた。ラズは何かを考えるようにクリュミケールの後ろ姿を見つめ、しかし、再び歩き出す。
ーーそうして、三人はしばらく草原を歩き続け、
「もうすぐ港町シックライアに着くんだけど、寄ってもいいかな?」
ラズが二人に聞き、
「ああ。そろそろ歩き疲れたし、オレも寄るつもりだったんだ」
クリュミケールが答えた。
「そうか。実はシックライアで仲間と合流する予定なんだよ」
「仲間?ラズさん、てっきり一人で旅してたのかと思ってました」
アドルは不思議そうに言い、
「まあ、別々で行動してるんだけど、二人いてね。一人は仲間と言えるけど、もう一人は神出鬼没で何を考えてるんだか‥‥一応、前に偶然会った時、今日シックライアで落ち合おうと伝えたけど」
ラズはため息混じりに言う。
そんな話をしていると、海岸沿いに面した大きな港町が見えてきた。
町に入ると、まだ明朝のせいであろう。
人の行き来は少ない。
港町特有の冷たい朝の潮風が頬に伝わってくる。
「ラズさん。仲間とはどこで落ち合う予定なの?」
アドルが聞き、
「うーん、明朝にこの港町でとしか言ってないんだよね」
ラズはキョロキョロと辺りを見回し、
「まだ誰も来てないか」
と、肩を竦めた。すると、ーーヒュンッ‥‥と、三人の後ろで風を切るような音がして、
「ごめんねラズ君!待たせちゃったかな」
そこにはいつの間にか、黒く長い髪と白いドレスのようなローブに身を包んだ少女が立っていて、アドルは瞬きを繰り返している。
「ううん。僕も今来た所だよ、ハトネさん」
ラズはそう言って、ハトネと呼んだ少女に微笑んだ。
「こっ、この人が仲間ですか?えっ、あれ?今、どこから現れて‥‥」
アドルが困惑するように聞くと、
「彼女はハトネさんって言うんだ。ハトネさんも。彼らは途中で会った人達で、偶然ファイス国に用があるらしくて一緒に来たんだ」
ラズはお互いのことを簡単に紹介する。
ハトネは不思議そうにアドルを見つめ、少し離れた場所に立つクリュミケールを見つめて絶句した。
「あなた‥‥あなたは‥‥リオ君?」
ラズと同じことを言うハトネにクリュミケールは苦笑し、
「オレはクリュミケールだよ。そのリオって子に似てるらしいけどね」
しかし、ハトネは力なく首を横に振り、
「あなたは‥‥記憶の中の人だわ‥‥私が、私がずっと、捜して来た‥‥」
その目からは大粒の涙がこぼれ出てくる。ラズがハトネに説明しようとしたが、彼女はクリュミケールの前まで走り、
「私にはわかるわ‥‥!リオ君なんでしょう?どうしてそんな格好をしているの!?どうして、幼い頃の私の前に現れたの!?」
そう、興奮気味にクリュミケールの胸元にしがみついて声を上げた。
それに、クリュミケールは何も答えず、代わりに、
「ハトネさん。この人は‥‥似てるけど違うんだよ」
と、ラズがハトネの肩に手を置き、ゆっくりと優しく言い聞かせるように言った。
それに、ハトネは何か言いたげな目をしてクリュミケールを見つめ、ゆっくりと離れる。すると、
「いきなり騒がしいな」
新たに誰のものでもない声がして、四人は声の方に視線を向けた。
金の髪と黒いコートに身を包んだ男。その姿にラズとハトネは目を見開かせる。
「カシル!まさか本当に来るなんて‥‥」
驚くようにラズが言うと、
「お前が来いと言ったんだろ」
と、カシルは面倒臭そうに言った。
「この人が来るかどうかわからないって言ってた人ですか?」
アドルに聞かれ、ラズは頷く。
「じゃあラズ。オレ達は少し休んでから発つよ」
仲間と合流できたラズにクリュミケールが言えば、
「ああ。なんだか、色々とすまなかったね」
ラズは申し訳なさそうに言った。クリュミケールは首を横に振り、
「お互いにファイス国を目指してるなら、また会うかもな。じゃあアドル、行こうか」
「うん!」
それからクリュミケールはハトネに振り向き、
「君も、期待させて悪かったな。そのリオって奴にオレがどれだけ似てるのかはわからないけど‥‥」
「‥‥いっ、いいえ。ごっ、ごめんなさい‥‥勝手なことばかり、言ってしまって‥‥」
謝罪するハトネの声は震えていて、俯いてしまっている。
「じゃあラズさん!捜してる人に会えるといいですね!」
アドルは大きく手を振り、クリュミケールと共に彼らの元から去った。そんな二人を見送り、ラズは、
「ハトネさん、大丈夫かい?」
俯き、涙を拭っているハトネに心配そうに声を掛ける。
「うん‥‥でも、あの人は‥‥カシルさん、カシルさんも見ましたよね。さっきの人、カシルさんはどう思います?」
顔を上げ、涙を溜めたままのハトネはすがるようにカシルに聞いた。彼ならば、何もかも知っているのではと。
「さっきの奴が自分で別人と言っていたならそうなんだろ」
カシルがそれだけしか言ってくれなくて、ハトネはまた俯いてしまう。
「‥‥話してても仕方ないし、準備を整えてファイス国に行こう、ね」
そんな彼女の背中を慰めるようにぽんぽんと叩き、ラズが言った。
◆◆◆◆◆
港町で休息を取ったクリュミケールとアドルは再びファイス国へ向かう為に草原に出る。
「気になるなー」
アドルが急にそんなことを言うので「何が?」と、クリュミケールは聞いた。
「リオさんって人。どれだけクリュミケールさんに似てるのかな?ちょっと会ってみたいなー!」
そう、無邪気に笑って言うアドルに、
「はは、そうだな」
と、クリュミケールは静かに笑った。
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