一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
上 下
55 / 105
五章【生きる証】

5-3 新たな大陸

しおりを挟む
「案外、短い船旅だったね」

船を降りながらリオが言えば、

「そうね、フォード大陸とラタシャ大陸は近隣諸島だから」

フィレアが答えた。
リオは賑わう港町を見回し、

「それでラタシャ王国は?」
「この港から少し進んだ先だよ」

リオの問いに、次はラズが答える。

「そっか。それにしても‥‥暑いね」

船を降りた瞬間から暑さを感じ、リオは手で軽く自分を扇いだ。

「言ったでしょ、ここは砂漠地帯だって。リオちゃん、長袖だから余計暑そうね」

と、フィレアは苦笑する。それにリオも苦笑いしたが、突如、激しい頭痛に襲われ、頭を押さえた。

「リオさん?」

その様子を見たラズが心配そうに尋ねると、

「‥‥いや、なんか頭痛が‥‥暑さでかな?大丈夫だよ」

と、リオはラズを安心させるように笑う。

そうして、港町から出た三人はしばらく砂漠地帯を進み、

「見えてきたわ、あれがラタシャ王国よ」

フィレアが言った。蜃気楼の中にゆらゆらと街が見える。

「もう体中、砂っぽいや」

リオとラズは顔を見合わせて言った。


◆◆◆◆◆

国に入るなり、リオは驚くようにきょろきょろと顔を動かしている。
街中には出店としてたくさんの店が並び、商人達が客寄せをしていた。
フォード国に初めて行った際も驚いたが、また違う賑わいで、確かに交易豊かな国という言葉が似合っている。

「さて。金髪、青眼、黒衣の剣士に、黒髪の少女‥‥ね。ただの可能性の為に来たけど、どこから捜そうかしら?」

フィレアはため息混じりに言った。

「ーー器」

三人の真後ろからぼそりと声がして、三人は驚くように振り返る。

「う‥‥器?なんだ君は?」

ラズが尋ねた。
そこには、茶色いフード服を身にまとった長身の男がいて、フードの下からちらりと赤い目が見える。
その男は、じっとリオを見ていた。
なんだか嫌な感じがして、リオは一歩後ずさる。
すると、

「こらレムズ!!」

と、新たに少年の声がした。
黒から淡い黄色のグラデ色の髪。右側の髪だけ長く伸ばされ、右目は隠れている。
大きな紫色の目に、紫を基調とした服を着た少年がフードの男の側まで走って来た。

「神を愛する者」

フードの男ーーレムズと呼ばれた男はその少年を見てそう言う。

「またお前はそんなわけわかんないことを‥‥何が視えてるか知らないけどさ」

少年はため息を吐いた。
その少年はリオ達が不思議そうにこちらを見ていることに気づき、

「ああ、悪いね。きっとレムズが何か変なこと言ったんでしょ。僕はカルトルート。長いから、省略してカルーって呼ばれることが多いよ」

少年はそう名乗り、

「こっちはレムズ。旅仲間だよ。ただ、ちょっと変わった奴だからさ。未来だのなんだのが視えるらしいけど‥‥気にしないでよ」

そう言って、カルトルートが苦笑する。

「え?未来が‥‥?」

リオ達は当然、驚いた。

「僕もよくわからないんだけどね。僕はよく神を愛する者ってこいつに言われるんだけど‥‥なんのことやら」
「神を‥‥」

カルトルートの言葉に、ラズは何か考えるように俯いている。

「じゃあ、器というのは?」

リオは先程レムズが言ったことを尋ねた。

「よくは、わからない。ただ、あんたを見て‥‥途切れ途切れの言葉が聞こえた。未来なのか、真実の言葉なのか、なんなのかはよくわからないが‥‥」

レムズが言って、

「私を見て‥‥?器って、何?皿か何か?」

リオが尋ねると、レムズはただ、じっとリオを見るのみで。レムズのその視線が、リオには何か引っ掛かった。

「まあ、なんでもいいじゃない?それよりも、ハトネちゃん達を捜さなきゃ」

フィレアに言われ、リオは頷く。

「誰かを捜してるの?」

カルトルートにそう聞かれて、

「うん。君はこの大陸で今日、ドラゴンを倒したという男を知ってる?」

リオが尋ねれば、

「ああ、数時間前の‥‥そりゃあ知ってるさ!って言うかこの目で見たし」
「そうなんだ。その男の名前とかは‥‥わからないよね」

あまり期待せずにリオが聞いてみると、

「‥‥隣にいた女の子が‥‥カシルって呼んでた、気がする」

カルトルートではなく、レムズがボソッと言った。

「ああ、そういえば、女の子もいたね。元気そうな」

思い出すようにカルトルートが頷いていると、リオ達三人は顔を見合わせ、

「そっ、その二人がどこに行ったかわかるかしら?」

息を飲みながらもフィレアが聞く。

「西方面の砂漠に出たから、神の遺跡にでも行くんじゃないかな?」

カルトルートが困ったような顔をして言った。

「神の遺跡?」
「うん。神秘的な場所らしくて、ただそう呼ばれてるだけみたい。魔物の巣窟だから誰も近寄らないけど‥‥旅人は物好きだからね。立ち寄っては戻ってこないっていう事態はよくあるよ」

カルトルートの言葉を聞き、

「なるほど‥‥仰々しい名前だけど‥‥神、か。フォード大陸の遺跡と関係あるのかな」
「‥‥行ってみるしかないわね」
「そう、だね」

三人がそこに行く前提で話をしているので、

「ええ!?まさか、遺跡に行くの!?僕の話、聞いてた!?」

驚くカルトルートにリオ達が頷けば、

「行かない方が、いい」

それまで黙っていたレムズが静かに言う。

「何か、起きるかも、しれない」

やはりレムズは、リオを見て言った。

「わからないけど‥‥でも、捜してる人達かもしれないんだ。気を付けて行ってみるよ、ありがとう」

リオはそう言い、カルトルートとレムズに踵を返す。二人は立ち去るリオ達の背中を不安げに見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

処理中です...