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五章【生きる証】
5-3 新たな大陸
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「案外、短い船旅だったね」
船を降りながらリオが言えば、
「そうね、フォード大陸とラタシャ大陸は近隣諸島だから」
フィレアが答えた。
リオは賑わう港町を見回し、
「それでラタシャ王国は?」
「この港から少し進んだ先だよ」
リオの問いに、次はラズが答える。
「そっか。それにしても‥‥暑いね」
船を降りた瞬間から暑さを感じ、リオは手で軽く自分を扇いだ。
「言ったでしょ、ここは砂漠地帯だって。リオちゃん、長袖だから余計暑そうね」
と、フィレアは苦笑する。それにリオも苦笑いしたが、突如、激しい頭痛に襲われ、頭を押さえた。
「リオさん?」
その様子を見たラズが心配そうに尋ねると、
「‥‥いや、なんか頭痛が‥‥暑さでかな?大丈夫だよ」
と、リオはラズを安心させるように笑う。
そうして、港町から出た三人はしばらく砂漠地帯を進み、
「見えてきたわ、あれがラタシャ王国よ」
フィレアが言った。蜃気楼の中にゆらゆらと街が見える。
「もう体中、砂っぽいや」
リオとラズは顔を見合わせて言った。
◆◆◆◆◆
国に入るなり、リオは驚くようにきょろきょろと顔を動かしている。
街中には出店としてたくさんの店が並び、商人達が客寄せをしていた。
フォード国に初めて行った際も驚いたが、また違う賑わいで、確かに交易豊かな国という言葉が似合っている。
「さて。金髪、青眼、黒衣の剣士に、黒髪の少女‥‥ね。ただの可能性の為に来たけど、どこから捜そうかしら?」
フィレアはため息混じりに言った。
「ーー器」
三人の真後ろからぼそりと声がして、三人は驚くように振り返る。
「う‥‥器?なんだ君は?」
ラズが尋ねた。
そこには、茶色いフード服を身にまとった長身の男がいて、フードの下からちらりと赤い目が見える。
その男は、じっとリオを見ていた。
なんだか嫌な感じがして、リオは一歩後ずさる。
すると、
「こらレムズ!!」
と、新たに少年の声がした。
黒から淡い黄色のグラデ色の髪。右側の髪だけ長く伸ばされ、右目は隠れている。
大きな紫色の目に、紫を基調とした服を着た少年がフードの男の側まで走って来た。
「神を愛する者」
フードの男ーーレムズと呼ばれた男はその少年を見てそう言う。
「またお前はそんなわけわかんないことを‥‥何が視えてるか知らないけどさ」
少年はため息を吐いた。
その少年はリオ達が不思議そうにこちらを見ていることに気づき、
「ああ、悪いね。きっとレムズが何か変なこと言ったんでしょ。僕はカルトルート。長いから、省略してカルーって呼ばれることが多いよ」
少年はそう名乗り、
「こっちはレムズ。旅仲間だよ。ただ、ちょっと変わった奴だからさ。未来だのなんだのが視えるらしいけど‥‥気にしないでよ」
そう言って、カルトルートが苦笑する。
「え?未来が‥‥?」
リオ達は当然、驚いた。
「僕もよくわからないんだけどね。僕はよく神を愛する者ってこいつに言われるんだけど‥‥なんのことやら」
「神を‥‥」
カルトルートの言葉に、ラズは何か考えるように俯いている。
「じゃあ、器というのは?」
リオは先程レムズが言ったことを尋ねた。
「よくは、わからない。ただ、あんたを見て‥‥途切れ途切れの言葉が聞こえた。未来なのか、真実の言葉なのか、なんなのかはよくわからないが‥‥」
レムズが言って、
「私を見て‥‥?器って、何?皿か何か?」
リオが尋ねると、レムズはただ、じっとリオを見るのみで。レムズのその視線が、リオには何か引っ掛かった。
「まあ、なんでもいいじゃない?それよりも、ハトネちゃん達を捜さなきゃ」
フィレアに言われ、リオは頷く。
「誰かを捜してるの?」
カルトルートにそう聞かれて、
「うん。君はこの大陸で今日、ドラゴンを倒したという男を知ってる?」
リオが尋ねれば、
「ああ、数時間前の‥‥そりゃあ知ってるさ!って言うかこの目で見たし」
「そうなんだ。その男の名前とかは‥‥わからないよね」
あまり期待せずにリオが聞いてみると、
「‥‥隣にいた女の子が‥‥カシルって呼んでた、気がする」
カルトルートではなく、レムズがボソッと言った。
「ああ、そういえば、女の子もいたね。元気そうな」
思い出すようにカルトルートが頷いていると、リオ達三人は顔を見合わせ、
「そっ、その二人がどこに行ったかわかるかしら?」
息を飲みながらもフィレアが聞く。
「西方面の砂漠に出たから、神の遺跡にでも行くんじゃないかな?」
カルトルートが困ったような顔をして言った。
「神の遺跡?」
「うん。神秘的な場所らしくて、ただそう呼ばれてるだけみたい。魔物の巣窟だから誰も近寄らないけど‥‥旅人は物好きだからね。立ち寄っては戻ってこないっていう事態はよくあるよ」
カルトルートの言葉を聞き、
「なるほど‥‥仰々しい名前だけど‥‥神、か。フォード大陸の遺跡と関係あるのかな」
「‥‥行ってみるしかないわね」
「そう、だね」
三人がそこに行く前提で話をしているので、
「ええ!?まさか、遺跡に行くの!?僕の話、聞いてた!?」
驚くカルトルートにリオ達が頷けば、
「行かない方が、いい」
それまで黙っていたレムズが静かに言う。
「何か、起きるかも、しれない」
やはりレムズは、リオを見て言った。
「わからないけど‥‥でも、捜してる人達かもしれないんだ。気を付けて行ってみるよ、ありがとう」
リオはそう言い、カルトルートとレムズに踵を返す。二人は立ち去るリオ達の背中を不安げに見ていた。
船を降りながらリオが言えば、
「そうね、フォード大陸とラタシャ大陸は近隣諸島だから」
フィレアが答えた。
リオは賑わう港町を見回し、
「それでラタシャ王国は?」
「この港から少し進んだ先だよ」
リオの問いに、次はラズが答える。
「そっか。それにしても‥‥暑いね」
船を降りた瞬間から暑さを感じ、リオは手で軽く自分を扇いだ。
「言ったでしょ、ここは砂漠地帯だって。リオちゃん、長袖だから余計暑そうね」
と、フィレアは苦笑する。それにリオも苦笑いしたが、突如、激しい頭痛に襲われ、頭を押さえた。
「リオさん?」
その様子を見たラズが心配そうに尋ねると、
「‥‥いや、なんか頭痛が‥‥暑さでかな?大丈夫だよ」
と、リオはラズを安心させるように笑う。
そうして、港町から出た三人はしばらく砂漠地帯を進み、
「見えてきたわ、あれがラタシャ王国よ」
フィレアが言った。蜃気楼の中にゆらゆらと街が見える。
「もう体中、砂っぽいや」
リオとラズは顔を見合わせて言った。
◆◆◆◆◆
国に入るなり、リオは驚くようにきょろきょろと顔を動かしている。
街中には出店としてたくさんの店が並び、商人達が客寄せをしていた。
フォード国に初めて行った際も驚いたが、また違う賑わいで、確かに交易豊かな国という言葉が似合っている。
「さて。金髪、青眼、黒衣の剣士に、黒髪の少女‥‥ね。ただの可能性の為に来たけど、どこから捜そうかしら?」
フィレアはため息混じりに言った。
「ーー器」
三人の真後ろからぼそりと声がして、三人は驚くように振り返る。
「う‥‥器?なんだ君は?」
ラズが尋ねた。
そこには、茶色いフード服を身にまとった長身の男がいて、フードの下からちらりと赤い目が見える。
その男は、じっとリオを見ていた。
なんだか嫌な感じがして、リオは一歩後ずさる。
すると、
「こらレムズ!!」
と、新たに少年の声がした。
黒から淡い黄色のグラデ色の髪。右側の髪だけ長く伸ばされ、右目は隠れている。
大きな紫色の目に、紫を基調とした服を着た少年がフードの男の側まで走って来た。
「神を愛する者」
フードの男ーーレムズと呼ばれた男はその少年を見てそう言う。
「またお前はそんなわけわかんないことを‥‥何が視えてるか知らないけどさ」
少年はため息を吐いた。
その少年はリオ達が不思議そうにこちらを見ていることに気づき、
「ああ、悪いね。きっとレムズが何か変なこと言ったんでしょ。僕はカルトルート。長いから、省略してカルーって呼ばれることが多いよ」
少年はそう名乗り、
「こっちはレムズ。旅仲間だよ。ただ、ちょっと変わった奴だからさ。未来だのなんだのが視えるらしいけど‥‥気にしないでよ」
そう言って、カルトルートが苦笑する。
「え?未来が‥‥?」
リオ達は当然、驚いた。
「僕もよくわからないんだけどね。僕はよく神を愛する者ってこいつに言われるんだけど‥‥なんのことやら」
「神を‥‥」
カルトルートの言葉に、ラズは何か考えるように俯いている。
「じゃあ、器というのは?」
リオは先程レムズが言ったことを尋ねた。
「よくは、わからない。ただ、あんたを見て‥‥途切れ途切れの言葉が聞こえた。未来なのか、真実の言葉なのか、なんなのかはよくわからないが‥‥」
レムズが言って、
「私を見て‥‥?器って、何?皿か何か?」
リオが尋ねると、レムズはただ、じっとリオを見るのみで。レムズのその視線が、リオには何か引っ掛かった。
「まあ、なんでもいいじゃない?それよりも、ハトネちゃん達を捜さなきゃ」
フィレアに言われ、リオは頷く。
「誰かを捜してるの?」
カルトルートにそう聞かれて、
「うん。君はこの大陸で今日、ドラゴンを倒したという男を知ってる?」
リオが尋ねれば、
「ああ、数時間前の‥‥そりゃあ知ってるさ!って言うかこの目で見たし」
「そうなんだ。その男の名前とかは‥‥わからないよね」
あまり期待せずにリオが聞いてみると、
「‥‥隣にいた女の子が‥‥カシルって呼んでた、気がする」
カルトルートではなく、レムズがボソッと言った。
「ああ、そういえば、女の子もいたね。元気そうな」
思い出すようにカルトルートが頷いていると、リオ達三人は顔を見合わせ、
「そっ、その二人がどこに行ったかわかるかしら?」
息を飲みながらもフィレアが聞く。
「西方面の砂漠に出たから、神の遺跡にでも行くんじゃないかな?」
カルトルートが困ったような顔をして言った。
「神の遺跡?」
「うん。神秘的な場所らしくて、ただそう呼ばれてるだけみたい。魔物の巣窟だから誰も近寄らないけど‥‥旅人は物好きだからね。立ち寄っては戻ってこないっていう事態はよくあるよ」
カルトルートの言葉を聞き、
「なるほど‥‥仰々しい名前だけど‥‥神、か。フォード大陸の遺跡と関係あるのかな」
「‥‥行ってみるしかないわね」
「そう、だね」
三人がそこに行く前提で話をしているので、
「ええ!?まさか、遺跡に行くの!?僕の話、聞いてた!?」
驚くカルトルートにリオ達が頷けば、
「行かない方が、いい」
それまで黙っていたレムズが静かに言う。
「何か、起きるかも、しれない」
やはりレムズは、リオを見て言った。
「わからないけど‥‥でも、捜してる人達かもしれないんだ。気を付けて行ってみるよ、ありがとう」
リオはそう言い、カルトルートとレムズに踵を返す。二人は立ち去るリオ達の背中を不安げに見ていた。
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