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四章【何処かで】
4-12 護る
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ーーさ迷いの森。
かつて、リオとシュイアが共に訪れた場所。
ハトネは一人、そこを歩いていた。
(はあ‥‥リオ君、どこかなぁ)
リオとレイラの件から数週間。
ハトネはまた、リオを捜す旅をしていた。
再び、たった一人で。リオは生きていると信じて。
(フィレアさんやラズ君も、リオ君を心配してるんだよー)
フィレアやラズは、フォード国の貧困街の者達を援助してくれているファナの村に残った。
ラズは母の病が心配で、フィレアは歳であるアイムを心配して村に残ることとなったのだ。
それぞれ、家族の為に。
(時の流れって悲しいなぁ‥‥私は歳をとらないから‥‥)
ハトネは目を伏せる。
(リオ君、やっぱり私‥‥一人は寂しいよ。とっても、寒いよ)
悲しみが募り、孤独感が募った。
「‘あの時’みたいに来てくれないかなぁ‥‥」
「おい」
「!!」
誰かに声をかけられ、
「リオ君ーー!?」
と、思わず叫んでしまう。
「お前、その小僧の居場所はわかるか?」
ハトネは沈黙する。沈黙し、しばらくして‥‥
「きっ‥‥きゃあぁあぁぁああぁあぁあ!?」
と、奇声を上げた。
声をかけた男は眉を潜める。
「カシルさん!!!?」
ハトネは男の姿を確認して、その名前を呼んだ。
「あれから小僧はどうした」
カシルに尋ねられ、
「どうって‥‥」
ハトネは俯く。
「生死不明ってところか」
ハトネの様子を見て、カシルはため息を吐いた。
「もっ、元はと言えば、あなたがレイラ王女をたぶらかしたのが悪いんじゃないですか!あなたがいなければ、リオ君とレイラ王女は‥‥きっと、ずっと、友達だったのに‥‥」
ハトネは怒るように言う。
「それはどうだかな。それに、たぶらかした覚えはない。ただ、俺は本気でレイラに世界を見せてやろうとした」
「えっ?」
そのカシルの言葉に、ハトネは疑問の色を顔に浮かべた。
「それに、レイラは似ていた」
「似ていたって?」
「昔の、俺たちに」
「俺‥‥たち?」
カシルが何を言っているのか理解できず、ハトネは首を傾げる。
◆◆◆◆◆
「おはようございます、ルイナ女王」
目覚めた彼女に、リオが軽く微笑んで言った。
「‥‥私‥‥そうだわ、魔物に‥‥」
ルイナは先程のことを思い出す。
「ええ。ですがもう、魔物は去ったので‥‥」
リオは目を伏せ、
「あの魔物が、ルイナ様のご両親を殺した奴なのですね?」
リオは確認した。
「はい‥‥ですからきっと、生きていた私とシェイアード様を殺す気なのです‥‥あっ‥‥シェイアード様は?シェイアード様はご無事ですか?」
ルイナにそう聞かれ、リオは言葉を詰まらせてしまう。
「奴はその魔物と共に行ったぜ」
誰かが扉の外でそう言い、ルイナは目を見開かせた。
「ナガ!!まだそうと決まったわけじゃない!」
リオが扉を開けながら怒鳴ると、
「それしかねーだろ」
と、ナガは吐き捨てるように言う。
「シェイアード様が魔物と‥‥?それに、あなたはまさか、ドイル?」
ドイル。
ドイル・フライシル。
ナガの本名だ。
「ああ、久し振りだな、ルイナ」
ナガはベッドで横になるルイナに近づき、懐かしそうに言った。
「あなた‥‥どうして?」
「あの日、父や母達が魔物に襲われた日‥‥俺はたまたま隣町に出掛けてたんだ。しばらくして家に帰ったら‥‥」
ナガは苦い顔をする。
「でも、魔物はどうしてフライシル家とファインライズ家の者を殺そうとしたの?」
リオが尋ねると、
「それは‥‥」
ルイナは目を伏せ、
「恐らく、封印されし亜種の解放‥‥」
ナガが言った。
「封印されし、あしゅ?」
「ええ。遥か昔、我がファインライズ家とフライシル家は、古のドラゴンを封印したと言われています」
ルイナが言い、
「どらごんって‥‥」
初めて聞く言葉にリオは眉を潜めるが、確か、シェイアードの屋敷の書庫で読んだ本に出てきた気がする。
戦士達がドラゴンを倒しにいく話を。
「大きな翼を持ち、空を自由に駆け巡る種族です」
ルイナが簡単に説明した。
「ドラゴンは昔、魔物達のリーダー的存在だったんだ。世界に存在する生き物の中で、最も強く、最も誇り高い存在だったと聞く」
ナガの言葉にリオは首を傾げ、
「封印ってことは、ドラゴンと人間は敵対していたの?」
「ええ‥‥ドラゴンのあまりの脅威の力に恐れをなした人間は、ドラゴンを封印したと」
ルイナの言葉を聞いたリオは頷き、
「魔物達の狙いはドラゴンの復活‥‥その封印の解き方を二人は知ってるの?」
リオの問いに、ルイナとナガは困ったように顔を見合わせる。
「そうですね‥‥ファインライズ家とフライシル家の血が、封印の鍵なのです」
「血?」
「だから、俺達の両親は殺された。だが、まだ足りないんだろう、血が‥‥」
ルイナとナガの言葉にリオは目を見開かせ、
「二人と、シェイアードさんの‥‥血?」
そう言えば、
「ああ、それが必要なわけだ」
「じゃあ‥‥もし本当に、シェイアードさんが魔物達のところに行っていたら‥‥」
その言葉に、ルイナが目を伏せた。
「さて、話してても仕方ない。これからどうするかだが‥‥」
「ルイナ様ーー!!」
ナガの言葉を遮る者が一人。
「あら、イリスではありませんか」
ルイナは自国の騎士である彼の姿を見て首を傾げ、
「お前はちょっと引っ込んでろ」
と、ナガがイリスに言い、
「まっ、まあ、話を進めようよ」
リオは苦笑して言った。
「‥‥魔物の後を追いますか?」
ルイナが言い、
「まあ、それしかないな。今なら魔物の気配をまだ追えるはずだ」
ナガが答え、
「そっか。私も手伝うよ、シェイアードさんにはお世話になったから」
リオが言えば、
「ならば、私も行かせて頂きましょうか」
こんどはルイナが言った。それにナガは、
「はあ?ルイナ、お前は危険‥‥」
「行きたいのです。父や母の仇を倒したい。それに、シェイアード様にお会いしたい」
「駄目に決まってんだろ!お前を危険な目に合わせるわけには‥‥」
「いいじゃない」
ナガの言葉を、リオが遮る。
「なっ、何を言ってるんだお前!!」
当然、リオの軽率な発言にナガは怒ったようにーーガッ‥‥と、リオの襟元を掴み上げた。
「ルイナに何かあったらどうすんだ!?」
そう怒鳴ってくるナガの目を真っ直ぐ見つめ、
「君もいるし、イリスもいる。それに、私も!三人で女王を護ればいいじゃない!それとも‥‥腕に自身がないのかな?」
リオは、にこっと笑った。
そんな挑発に、当然ナガは‥‥乗ってしまった。
ーーこうして、数少ない者しか知らない、裏の歴史が始まった。
かつて、リオとシュイアが共に訪れた場所。
ハトネは一人、そこを歩いていた。
(はあ‥‥リオ君、どこかなぁ)
リオとレイラの件から数週間。
ハトネはまた、リオを捜す旅をしていた。
再び、たった一人で。リオは生きていると信じて。
(フィレアさんやラズ君も、リオ君を心配してるんだよー)
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ラズは母の病が心配で、フィレアは歳であるアイムを心配して村に残ることとなったのだ。
それぞれ、家族の為に。
(時の流れって悲しいなぁ‥‥私は歳をとらないから‥‥)
ハトネは目を伏せる。
(リオ君、やっぱり私‥‥一人は寂しいよ。とっても、寒いよ)
悲しみが募り、孤独感が募った。
「‘あの時’みたいに来てくれないかなぁ‥‥」
「おい」
「!!」
誰かに声をかけられ、
「リオ君ーー!?」
と、思わず叫んでしまう。
「お前、その小僧の居場所はわかるか?」
ハトネは沈黙する。沈黙し、しばらくして‥‥
「きっ‥‥きゃあぁあぁぁああぁあぁあ!?」
と、奇声を上げた。
声をかけた男は眉を潜める。
「カシルさん!!!?」
ハトネは男の姿を確認して、その名前を呼んだ。
「あれから小僧はどうした」
カシルに尋ねられ、
「どうって‥‥」
ハトネは俯く。
「生死不明ってところか」
ハトネの様子を見て、カシルはため息を吐いた。
「もっ、元はと言えば、あなたがレイラ王女をたぶらかしたのが悪いんじゃないですか!あなたがいなければ、リオ君とレイラ王女は‥‥きっと、ずっと、友達だったのに‥‥」
ハトネは怒るように言う。
「それはどうだかな。それに、たぶらかした覚えはない。ただ、俺は本気でレイラに世界を見せてやろうとした」
「えっ?」
そのカシルの言葉に、ハトネは疑問の色を顔に浮かべた。
「それに、レイラは似ていた」
「似ていたって?」
「昔の、俺たちに」
「俺‥‥たち?」
カシルが何を言っているのか理解できず、ハトネは首を傾げる。
◆◆◆◆◆
「おはようございます、ルイナ女王」
目覚めた彼女に、リオが軽く微笑んで言った。
「‥‥私‥‥そうだわ、魔物に‥‥」
ルイナは先程のことを思い出す。
「ええ。ですがもう、魔物は去ったので‥‥」
リオは目を伏せ、
「あの魔物が、ルイナ様のご両親を殺した奴なのですね?」
リオは確認した。
「はい‥‥ですからきっと、生きていた私とシェイアード様を殺す気なのです‥‥あっ‥‥シェイアード様は?シェイアード様はご無事ですか?」
ルイナにそう聞かれ、リオは言葉を詰まらせてしまう。
「奴はその魔物と共に行ったぜ」
誰かが扉の外でそう言い、ルイナは目を見開かせた。
「ナガ!!まだそうと決まったわけじゃない!」
リオが扉を開けながら怒鳴ると、
「それしかねーだろ」
と、ナガは吐き捨てるように言う。
「シェイアード様が魔物と‥‥?それに、あなたはまさか、ドイル?」
ドイル。
ドイル・フライシル。
ナガの本名だ。
「ああ、久し振りだな、ルイナ」
ナガはベッドで横になるルイナに近づき、懐かしそうに言った。
「あなた‥‥どうして?」
「あの日、父や母達が魔物に襲われた日‥‥俺はたまたま隣町に出掛けてたんだ。しばらくして家に帰ったら‥‥」
ナガは苦い顔をする。
「でも、魔物はどうしてフライシル家とファインライズ家の者を殺そうとしたの?」
リオが尋ねると、
「それは‥‥」
ルイナは目を伏せ、
「恐らく、封印されし亜種の解放‥‥」
ナガが言った。
「封印されし、あしゅ?」
「ええ。遥か昔、我がファインライズ家とフライシル家は、古のドラゴンを封印したと言われています」
ルイナが言い、
「どらごんって‥‥」
初めて聞く言葉にリオは眉を潜めるが、確か、シェイアードの屋敷の書庫で読んだ本に出てきた気がする。
戦士達がドラゴンを倒しにいく話を。
「大きな翼を持ち、空を自由に駆け巡る種族です」
ルイナが簡単に説明した。
「ドラゴンは昔、魔物達のリーダー的存在だったんだ。世界に存在する生き物の中で、最も強く、最も誇り高い存在だったと聞く」
ナガの言葉にリオは首を傾げ、
「封印ってことは、ドラゴンと人間は敵対していたの?」
「ええ‥‥ドラゴンのあまりの脅威の力に恐れをなした人間は、ドラゴンを封印したと」
ルイナの言葉を聞いたリオは頷き、
「魔物達の狙いはドラゴンの復活‥‥その封印の解き方を二人は知ってるの?」
リオの問いに、ルイナとナガは困ったように顔を見合わせる。
「そうですね‥‥ファインライズ家とフライシル家の血が、封印の鍵なのです」
「血?」
「だから、俺達の両親は殺された。だが、まだ足りないんだろう、血が‥‥」
ルイナとナガの言葉にリオは目を見開かせ、
「二人と、シェイアードさんの‥‥血?」
そう言えば、
「ああ、それが必要なわけだ」
「じゃあ‥‥もし本当に、シェイアードさんが魔物達のところに行っていたら‥‥」
その言葉に、ルイナが目を伏せた。
「さて、話してても仕方ない。これからどうするかだが‥‥」
「ルイナ様ーー!!」
ナガの言葉を遮る者が一人。
「あら、イリスではありませんか」
ルイナは自国の騎士である彼の姿を見て首を傾げ、
「お前はちょっと引っ込んでろ」
と、ナガがイリスに言い、
「まっ、まあ、話を進めようよ」
リオは苦笑して言った。
「‥‥魔物の後を追いますか?」
ルイナが言い、
「まあ、それしかないな。今なら魔物の気配をまだ追えるはずだ」
ナガが答え、
「そっか。私も手伝うよ、シェイアードさんにはお世話になったから」
リオが言えば、
「ならば、私も行かせて頂きましょうか」
こんどはルイナが言った。それにナガは、
「はあ?ルイナ、お前は危険‥‥」
「行きたいのです。父や母の仇を倒したい。それに、シェイアード様にお会いしたい」
「駄目に決まってんだろ!お前を危険な目に合わせるわけには‥‥」
「いいじゃない」
ナガの言葉を、リオが遮る。
「なっ、何を言ってるんだお前!!」
当然、リオの軽率な発言にナガは怒ったようにーーガッ‥‥と、リオの襟元を掴み上げた。
「ルイナに何かあったらどうすんだ!?」
そう怒鳴ってくるナガの目を真っ直ぐ見つめ、
「君もいるし、イリスもいる。それに、私も!三人で女王を護ればいいじゃない!それとも‥‥腕に自身がないのかな?」
リオは、にこっと笑った。
そんな挑発に、当然ナガは‥‥乗ってしまった。
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