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四章【何処かで】
4-11 まだ戻れない
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「貴様ら魔物はなぜ、我が父と母を殺した?」
シェイアードが魔物に剣を向けながら聞けば、魔物はしばらく沈黙する。そして下卑た笑みを浮かべ、
「女王に頼まれたからだ。この、ルイナ・ファインライズにな」
「!!」
それを聞いたシェイアードは、気を失っているルイナを見ながら目を見開かせた。
「そっ、そんな嘘を‥‥!」
ルイナの真実を知っているリオは魔物をきつく睨み付ける。
「嘘?嘘だと?ふふふ‥‥それはどうであろうな?」
魔物は意味深に笑い、その言葉にリオは目を細めた。
「それは、本当か?」
元より、ルイナにあまり良い印象を持っていないせいか、シェイアードは魔物の言葉を信じようとする。
「ああ、‘本当’だ」
そう、魔物は強調した。
「ーーっ!!シェイアードさん、まさか、信じてないよね!?」
リオは慌ててシェイアードを見たが、彼は魔物を凝視したまま、何も答えない。
「くくっ、憎いのだな、私が。憎いのだな、その女王が」
魔物はシェイアードに言い、
「私と共に来ればお前が求めている力が手に入るぞ」
「何を言ってるんだよ!」
何も言わないシェイアードに代わり、リオが魔物を睨みつける。すると、
「シェイアード・フライシルーー!!」
誰かの怒鳴るような声がして、
「ナガ!!」
リオはその姿を確認すると、そう名前を呼んだ。あの、赤髪の少年だった。
だが、なぜかシェイアードがナガを見て目を見開かせている。
「てめぇ、何してんだよ!さっさとルイナを助けろよ!?その魔物が‥‥父さんと母さんの仇だろ!?」
ナガのその言葉に、リオは不思議そうに彼を見た。
「成程。貴様はドイル・フライシルか。あの日、行方知れずで何年も姿を現さず、死んだとされていたが‥‥」
魔物は彼をそう呼ぶ。
「うるせえよ!!てめえは父さんと母さんと、ルイナの家族の仇だ!!」
ナガは剣を抜き、魔物に斬りかかる。しかし、ブォンッーー‥‥と、鈍い音がして、次の瞬間にはドゴッーー!!と。
ナガは魔物に斬りかかったが、魔物の体の周りは透明なバリアに包まれており、それに触れたナガは弾き飛ばされてしまう。
「大丈夫!?」
リオは弾き飛ばされたナガに近づき、体を支えてやる。
彼は壁にぶつけた頭をおさえながら、痛みを堪えるように起き上がった。
「君が、シェイアードさんの弟なの?」
「‥‥ああ。奴も、誰もかれも、俺が死んだと思ってたようだがな」
それを聞き終えたリオは、シェイアードと魔物の方に振り返るが、そこにはシェイアードも魔物の姿もなかった。
「くそっ!!逃げられたか!!」
ナガは悔しそうに言い、
「えっ‥‥シェイアードさんは!?」
リオは不安気に聞く。
「知るか!だが、魔物に勧誘されてたな。奴らと行ったんじゃねぇのか?奴らの力を求めてるのならな‥‥くそがっ!!」
「そっ、そんなのわかんないでしょ!?シェイアードさんがそんな‥‥」
リオは本当に彼がいないのか、辺りを見回した。
「それよりルイナは‥‥」
ナガは気を失っているルイナを見る。それに、現状を見ていたリオが、
「怪我とかはしてないようだし、しばらくしたら起きると思う」
「そっか‥‥」
しばらくの沈黙が走った。
「大会どころじゃなくなったね‥‥」
リオは自分達以外、誰もいなくなったコロシアムを見て呟くように言う。静かになったこの場所に、
「ルイナ様ぁああぁあ!」
と、そんな男の叫び声がどこからか聞こえて、リオとナガは声の方に目を向けた。
誰かが走ってくるのが見える。敵ではなさそうだが‥‥
走って来る男はこちらの姿を確認し、
「ルイナ様!!ご無事ですか!?」
そう言い、気を失ったルイナに近づこうとしたが‥‥
「おい待て!近づくな!」
ナガがルイナに近付こうとした男を軽く蹴った。
「痛ッ!?なっ、何すんだよ!?」
走って来た男は、灰色に近い黒髪をし、青や赤が目立った軽装に、青いマントを羽織っている騎士みたいな姿で、好奇心旺盛な大きな青い目をした少年である。
「君は?」
リオが聞くと、
「オレかい?オレはイリス・アルシータ!」
少年はにかっと笑い、
「それよりルイナ様は大丈夫なのか!?」
イリスは再びルイナに視線を戻すと、
「うん。気を失ってるだけだから大丈夫だと思う」
そう、リオが答えた。その返答に、イリスは安心するように笑う。
「イリス・アルシータ。確かお前も大会参加者だったか?その格好、この国の騎士だよな‥‥」
ナガが訝しげに彼を見据え、
「ああ!だけどな、次はオレの初戦だったって言うのにさぁ‥‥」
イリスはがくりと肩を落とした。
「そっ、そうなんだ。じゃあ君はまだ一戦もしてないんだね」
リオは彼の落ち込みように苦笑する。
「そうなんだよー。カッコ良く優勝するところをルイナ様に見て頂きたかったのに」
イリスは涙混じりに言った。
「あ‥‥?なんだそれ。ってか、なんで騎士が参加してんだよ」
ナガが不機嫌そうに聞けば、
「オレの夢はルイナ様と結婚することだからな!今は騎士として守れるよう頑張ってるけど‥‥くそぉ!!!こんなことに‥‥っ」
イリスのカミングアウトを聞き、
(んん?確か、シェイアードさん言ってたな。ルイナ様のことが好きなのは弟の方だって。と言うことはー‥‥?)
リオはチラリとナガを見る。
「‥‥いい度胸だな、騎士風情が。ちょっとツラ貸せよ」
ナガがイリスに言い、
「なっ、なんでだよ!?お前誰だよ!?」
当然イリスは困惑していた。
「ねっ‥‥ねえ!そんなことより早くここから出ない!?ルイナ様をいつまでもこんなとこに置いとくわけにもいかないでしょ?」
とりあえずリオは二人を止めながらさりげなく言った。
ーー‥‥しばらくして、ルイナはナガに背負われ、城の医務室に運ばれた。
医師が言うには、やはりただ気絶しているだけで、特に外傷などはないようである。
次に、ルイナを彼女の部屋に運び、ベッドに寝かせた。
女性の看病をイリスとナガに任せるわけにはいかず、仕方なくリオがルイナの部屋に残ることになる。
リオを男と思っている二人にはぶーぶー言われたが、二人に自分は女だと説明し、問答無用で部屋から追い出してやった。
眠るルイナを見つめ、リオは俯く。
大会に参加したのは、フォード国に帰る為の通貨を手に入れる為だったのに‥‥
それに‥‥
(シェイアードさん‥‥どこ行っちゃったんだよ)
リオは部屋の椅子に座り込み、額に手をあてた。すると、
「ーー‥‥じ‥‥ぶ‥‥じ」
雑音混じりに、頭の中に誰かの声がして‥‥
「え‥‥不死鳥‥‥不死鳥なの!?」
リオは久しぶりに聞く声に、思わず笑顔になった。
「無事だったか、主よ‥‥」
今度ははっきりと、不死鳥の安心するような声が聞こえる。
「うん!無事だよ、不死鳥!」
「そうか‥‥主に説明することがあるのだが‥‥道を開く者から聞いてくれるか?」
不死鳥がそう言うので、リオは目を丸くした。
「え?サジャエルから?」
「リオーー聞こえますね?」
頭の中に、今度はサジャエルの声が響く。
「今からあなたに説明することがあります」
「‥‥?」
リオはサジャエルの真剣な声に耳を傾けた。
「あなたは今、元いた世界とは別の世界にいます。あなたは別の世界ーー別の次元にいるのです」
それを聞いたリオは驚くが、自分の中でもその可能性を何度も持っていた。
ーー魔術が当たり前に存在する世界。
ーーフォード国の存在を知らない者達。
「でも、別の世界って‥‥なんで‥‥」
「あなたは本当は、あの時に死ぬはずでした」
ーーあの時‥‥
それは、レイラと共に激流にのまれた時だ。
リオは自分の口を手で押さえる。
「ですが、あなたの死は否定されました。あの少女の祈りがあなたを救ったのかどうかは分かりませんが、あなたは生きている」
「やっぱり‥‥夢じゃなかったんだ。レイラが‥‥約束の石に願ってくれたから‥‥?」
リオは輝きを失ったレイラの約束の石をポケットから取り出し、静かに見つめた。
「あなたの運命が変わり、その時に次元が歪んだ‥‥とでも言えばいいでしょうか。あの場所は、神に近しい場所でしたから」
「そっ‥‥そんな馬鹿な話‥‥」
リオは半信半疑である。
「けれども、ここは紛れもなくあなたの知らない世界。あなたを知る者も、あなたが知る者もいない世界です」
シュイアも、ハトネも、皆‥‥いない世界。
「さあリオ。帰りましょう、私が元の世界への道を開きます。ようやく声が届いた今なら‥‥」
「サジャエル、あれから皆は?皆は無事なの?」
リオは一番気掛かりだったことを聞いた。
「ええ、無事ですよ。あなたの仲間は皆。世界も無事です」
その言葉にリオは安心し、
「それを聞いて安心した。それなら‥‥私はまだ、戻れないよ。このまま、眠った女王様を置き去りにできないし‥‥それに‥‥」
リオは俯き、
「彼が‥‥」
シェイアードが‥‥。
「ーーリオ。あなたがそのような想いを抱いても、最後に悲しくなるだけですよ」
どこまで見通しているのか、サジャエルは冷たく言い放ち、
「あなたはこの世界の住人ではないのですから、無駄なだけですよ」
‥‥と。
「ーーわかってるよ!!そんなの‥‥けどっ」
リオは力一杯叫び、申し訳なさそうにルイナを見て、
(やっとわかったよ。誰かを好きになるってこと‥‥私は、シェイアードさんのことが、好きだ)
それは、初めて味わう想いだった。
無意味なる、想いだった。
シェイアードが魔物に剣を向けながら聞けば、魔物はしばらく沈黙する。そして下卑た笑みを浮かべ、
「女王に頼まれたからだ。この、ルイナ・ファインライズにな」
「!!」
それを聞いたシェイアードは、気を失っているルイナを見ながら目を見開かせた。
「そっ、そんな嘘を‥‥!」
ルイナの真実を知っているリオは魔物をきつく睨み付ける。
「嘘?嘘だと?ふふふ‥‥それはどうであろうな?」
魔物は意味深に笑い、その言葉にリオは目を細めた。
「それは、本当か?」
元より、ルイナにあまり良い印象を持っていないせいか、シェイアードは魔物の言葉を信じようとする。
「ああ、‘本当’だ」
そう、魔物は強調した。
「ーーっ!!シェイアードさん、まさか、信じてないよね!?」
リオは慌ててシェイアードを見たが、彼は魔物を凝視したまま、何も答えない。
「くくっ、憎いのだな、私が。憎いのだな、その女王が」
魔物はシェイアードに言い、
「私と共に来ればお前が求めている力が手に入るぞ」
「何を言ってるんだよ!」
何も言わないシェイアードに代わり、リオが魔物を睨みつける。すると、
「シェイアード・フライシルーー!!」
誰かの怒鳴るような声がして、
「ナガ!!」
リオはその姿を確認すると、そう名前を呼んだ。あの、赤髪の少年だった。
だが、なぜかシェイアードがナガを見て目を見開かせている。
「てめぇ、何してんだよ!さっさとルイナを助けろよ!?その魔物が‥‥父さんと母さんの仇だろ!?」
ナガのその言葉に、リオは不思議そうに彼を見た。
「成程。貴様はドイル・フライシルか。あの日、行方知れずで何年も姿を現さず、死んだとされていたが‥‥」
魔物は彼をそう呼ぶ。
「うるせえよ!!てめえは父さんと母さんと、ルイナの家族の仇だ!!」
ナガは剣を抜き、魔物に斬りかかる。しかし、ブォンッーー‥‥と、鈍い音がして、次の瞬間にはドゴッーー!!と。
ナガは魔物に斬りかかったが、魔物の体の周りは透明なバリアに包まれており、それに触れたナガは弾き飛ばされてしまう。
「大丈夫!?」
リオは弾き飛ばされたナガに近づき、体を支えてやる。
彼は壁にぶつけた頭をおさえながら、痛みを堪えるように起き上がった。
「君が、シェイアードさんの弟なの?」
「‥‥ああ。奴も、誰もかれも、俺が死んだと思ってたようだがな」
それを聞き終えたリオは、シェイアードと魔物の方に振り返るが、そこにはシェイアードも魔物の姿もなかった。
「くそっ!!逃げられたか!!」
ナガは悔しそうに言い、
「えっ‥‥シェイアードさんは!?」
リオは不安気に聞く。
「知るか!だが、魔物に勧誘されてたな。奴らと行ったんじゃねぇのか?奴らの力を求めてるのならな‥‥くそがっ!!」
「そっ、そんなのわかんないでしょ!?シェイアードさんがそんな‥‥」
リオは本当に彼がいないのか、辺りを見回した。
「それよりルイナは‥‥」
ナガは気を失っているルイナを見る。それに、現状を見ていたリオが、
「怪我とかはしてないようだし、しばらくしたら起きると思う」
「そっか‥‥」
しばらくの沈黙が走った。
「大会どころじゃなくなったね‥‥」
リオは自分達以外、誰もいなくなったコロシアムを見て呟くように言う。静かになったこの場所に、
「ルイナ様ぁああぁあ!」
と、そんな男の叫び声がどこからか聞こえて、リオとナガは声の方に目を向けた。
誰かが走ってくるのが見える。敵ではなさそうだが‥‥
走って来る男はこちらの姿を確認し、
「ルイナ様!!ご無事ですか!?」
そう言い、気を失ったルイナに近づこうとしたが‥‥
「おい待て!近づくな!」
ナガがルイナに近付こうとした男を軽く蹴った。
「痛ッ!?なっ、何すんだよ!?」
走って来た男は、灰色に近い黒髪をし、青や赤が目立った軽装に、青いマントを羽織っている騎士みたいな姿で、好奇心旺盛な大きな青い目をした少年である。
「君は?」
リオが聞くと、
「オレかい?オレはイリス・アルシータ!」
少年はにかっと笑い、
「それよりルイナ様は大丈夫なのか!?」
イリスは再びルイナに視線を戻すと、
「うん。気を失ってるだけだから大丈夫だと思う」
そう、リオが答えた。その返答に、イリスは安心するように笑う。
「イリス・アルシータ。確かお前も大会参加者だったか?その格好、この国の騎士だよな‥‥」
ナガが訝しげに彼を見据え、
「ああ!だけどな、次はオレの初戦だったって言うのにさぁ‥‥」
イリスはがくりと肩を落とした。
「そっ、そうなんだ。じゃあ君はまだ一戦もしてないんだね」
リオは彼の落ち込みように苦笑する。
「そうなんだよー。カッコ良く優勝するところをルイナ様に見て頂きたかったのに」
イリスは涙混じりに言った。
「あ‥‥?なんだそれ。ってか、なんで騎士が参加してんだよ」
ナガが不機嫌そうに聞けば、
「オレの夢はルイナ様と結婚することだからな!今は騎士として守れるよう頑張ってるけど‥‥くそぉ!!!こんなことに‥‥っ」
イリスのカミングアウトを聞き、
(んん?確か、シェイアードさん言ってたな。ルイナ様のことが好きなのは弟の方だって。と言うことはー‥‥?)
リオはチラリとナガを見る。
「‥‥いい度胸だな、騎士風情が。ちょっとツラ貸せよ」
ナガがイリスに言い、
「なっ、なんでだよ!?お前誰だよ!?」
当然イリスは困惑していた。
「ねっ‥‥ねえ!そんなことより早くここから出ない!?ルイナ様をいつまでもこんなとこに置いとくわけにもいかないでしょ?」
とりあえずリオは二人を止めながらさりげなく言った。
ーー‥‥しばらくして、ルイナはナガに背負われ、城の医務室に運ばれた。
医師が言うには、やはりただ気絶しているだけで、特に外傷などはないようである。
次に、ルイナを彼女の部屋に運び、ベッドに寝かせた。
女性の看病をイリスとナガに任せるわけにはいかず、仕方なくリオがルイナの部屋に残ることになる。
リオを男と思っている二人にはぶーぶー言われたが、二人に自分は女だと説明し、問答無用で部屋から追い出してやった。
眠るルイナを見つめ、リオは俯く。
大会に参加したのは、フォード国に帰る為の通貨を手に入れる為だったのに‥‥
それに‥‥
(シェイアードさん‥‥どこ行っちゃったんだよ)
リオは部屋の椅子に座り込み、額に手をあてた。すると、
「ーー‥‥じ‥‥ぶ‥‥じ」
雑音混じりに、頭の中に誰かの声がして‥‥
「え‥‥不死鳥‥‥不死鳥なの!?」
リオは久しぶりに聞く声に、思わず笑顔になった。
「無事だったか、主よ‥‥」
今度ははっきりと、不死鳥の安心するような声が聞こえる。
「うん!無事だよ、不死鳥!」
「そうか‥‥主に説明することがあるのだが‥‥道を開く者から聞いてくれるか?」
不死鳥がそう言うので、リオは目を丸くした。
「え?サジャエルから?」
「リオーー聞こえますね?」
頭の中に、今度はサジャエルの声が響く。
「今からあなたに説明することがあります」
「‥‥?」
リオはサジャエルの真剣な声に耳を傾けた。
「あなたは今、元いた世界とは別の世界にいます。あなたは別の世界ーー別の次元にいるのです」
それを聞いたリオは驚くが、自分の中でもその可能性を何度も持っていた。
ーー魔術が当たり前に存在する世界。
ーーフォード国の存在を知らない者達。
「でも、別の世界って‥‥なんで‥‥」
「あなたは本当は、あの時に死ぬはずでした」
ーーあの時‥‥
それは、レイラと共に激流にのまれた時だ。
リオは自分の口を手で押さえる。
「ですが、あなたの死は否定されました。あの少女の祈りがあなたを救ったのかどうかは分かりませんが、あなたは生きている」
「やっぱり‥‥夢じゃなかったんだ。レイラが‥‥約束の石に願ってくれたから‥‥?」
リオは輝きを失ったレイラの約束の石をポケットから取り出し、静かに見つめた。
「あなたの運命が変わり、その時に次元が歪んだ‥‥とでも言えばいいでしょうか。あの場所は、神に近しい場所でしたから」
「そっ‥‥そんな馬鹿な話‥‥」
リオは半信半疑である。
「けれども、ここは紛れもなくあなたの知らない世界。あなたを知る者も、あなたが知る者もいない世界です」
シュイアも、ハトネも、皆‥‥いない世界。
「さあリオ。帰りましょう、私が元の世界への道を開きます。ようやく声が届いた今なら‥‥」
「サジャエル、あれから皆は?皆は無事なの?」
リオは一番気掛かりだったことを聞いた。
「ええ、無事ですよ。あなたの仲間は皆。世界も無事です」
その言葉にリオは安心し、
「それを聞いて安心した。それなら‥‥私はまだ、戻れないよ。このまま、眠った女王様を置き去りにできないし‥‥それに‥‥」
リオは俯き、
「彼が‥‥」
シェイアードが‥‥。
「ーーリオ。あなたがそのような想いを抱いても、最後に悲しくなるだけですよ」
どこまで見通しているのか、サジャエルは冷たく言い放ち、
「あなたはこの世界の住人ではないのですから、無駄なだけですよ」
‥‥と。
「ーーわかってるよ!!そんなの‥‥けどっ」
リオは力一杯叫び、申し訳なさそうにルイナを見て、
(やっとわかったよ。誰かを好きになるってこと‥‥私は、シェイアードさんのことが、好きだ)
それは、初めて味わう想いだった。
無意味なる、想いだった。
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